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日本異世界生存記  作者: 末期戦
第一章 異世界との接触
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第七話 未知との遭遇(北方大陸編)③


 日本が転移してから七日目。

 護衛艦『ひゅうが』は蓬莱国の首都高千穂にいた。正確に言うと高千穂にある海神(わだつみ)港と呼ばれている港湾に今入港しようとしていた。その他には『ふゆづき』がいた。

 『ひゅうが』艦橋。艦長である渡瀬一等海佐は港から見える街並みを何とも言えない表情で眺めていた。変な気分だ。政府が日本は異世界に転移したと発表してから一週間経ったのだが、前の世界(・・)ではありえないことが相次ぎ、多種多様な奇奇怪怪なものを目にしたせいでもう頭はパンクしそうだ。


「レンガ造り、木造、和洋混在の街並み。実に奇妙な感じがしますだ。見た目的には明治当たりの文明レベル、実際はどれぐらいなのかな?」


 打ち合わせをするために艦橋に顔を出していた蓬莱国に使者として派遣された皆月外交官は好奇心丸出しの興奮した表情を浮かべて言う。

 大丈夫か、コイツ――そんな視線を送りながら渡瀬艦長は答えた。


「タイムスリップした気分です。タンカーを襲ったウミグモの出来損ないの群れを掃討し意気揚々と横須賀に帰還したときは、使節団を引き連れてまさかこんなところに向かえと言われるとは思わなかった……」


 海上自衛隊は転移以後大忙しだ。日本周辺の海の現れた海棲モンスターの駆除、身を守る術がない民間の船の護衛などやることが一杯であった。今現在保有している艦艇では足りな過ぎた。


「私からすれば、第3護衛隊全艦で向かえば心労が半分軽くなったと思うのですが」

「流石に無理だったんだろう。浅瀬は取りあえず安全地帯だが深い海は前とは違って怪物どもが潜む危険地帯だ。我々か海保の護衛がなければ商船と漁船は安心して航行できん。出港する前に聞いた話だが最初は『ひゅうが』単艦で向かう予定だったらしい」

「折半詰まっているとはいえ護衛なしで行けとか無茶苦茶ですね。南にある大陸にある国に向けて出発した使節団たちは無事に必要な資源を日本に輸出させるのを成功しますかな? 実に不安です」


 他人事のように言う皆月外交官マイペースな顔に、絶対不安に思っていないだろ、何とかなると根拠なく思っているだろと渡瀬艦長は内心で突っ込んでしまう。


「そこは外交官どもの実力次第だ。こういうときに活躍して欲しいものだ……」


 渡瀬艦長の皮肉交じりの言葉に、皆月外交官は苦笑しながら両手でやれやれというポーズを取るだけだ。そんな態度に無性に腹が立ちこの顔をぶん殴りたくなった。

 ため息をつき気を取り直そうと外を見つめると渡瀬艦長はあるものを見つけ目を見開いた。


「何だ、あれは……」


 渡瀬艦長は茫然とした。港の中心にある小さな島の近くに一隻の(ふね)が停泊していたのだ。旧日本軍の知識、特に帝國海軍の艦艇に関連したものは人並み以上ある彼はあれの正体をすぐに掴んでしまった。


「伊勢型戦艦だな。見た目から『伊勢』、『日向』のどちらかは判別できないが今はこんなことはどうでもいい……何でこんなところにあるのだ!!」

「艦長、落ち着いて下さい」


 我慢できなくなってしまい、渡瀬の口から周囲を気にせずヒステリックな声が出た。周囲にいた人たちは思わず彼を見た。後に大恥をかいたと述懐している。

 

 渡瀬の予想通りあの艦は伊勢型戦艦『日向』であった。今現在では失われてしまった神術である『固定』によってこの艦にあったものを含めた全てが永久に朽ちることがない不朽状態となっておりいつでも航行することが可能な当時の姿を留めていたのだ。残念なことに操艦技術は既に失われており動かすことができないようであった。



 大災厄により大日本帝国が崩壊を迎え住んでいた海に没してしまった。だが全ての日本人が死に絶えた訳ではなく。一握りの生き残りが存在していた。

 漂流者となった日本人たちは過酷な旅の果てにルアシミニアの地東南部に流れてついた。大災厄はこの地に逃れた生き残りたちに降りかかることはなかった。

 だが新天地は決して安住の地ではなかった。

未知の病、不安定な気候、獣の襲撃により大陸の移民はことごとく失敗し運び込むことができた物資の全てを消耗してしまった。人も次々と死んでいった。

 最終的には一〇〇名まで減少してしまった。その生き残りの全ては若者であった。彼らは海神港にある小さな島の洞窟をゆりかごとして、海からの恵みものによって命を繋ぎ、記録と知識を次の世代に伝えていった。

 そして不安定な気候が収まり、人が増えすぎ恵みものでは命を繋ぐことが困難となるとゆりかごが飛び出すことになった。

 転移暦〇年。漂流者の子孫、後の蓬莱人の母体の一つとなる集団は後に高千穂と呼ばれる地に上陸しそこに街を作った。そのときから一世紀以上を掛けて国の基礎を築き上げていった。

実力を付けていくにつれ、彼らと同じく別の世界から転移した部族生活を送っていた人間たち従わせて同化させ、ただ同化する訳ではなく彼らが持つ文化を取り入れ自らの文化と融合させていった。

その際に、漂着した当初から様々な理由で蓬莱人のはじまりの地に流れ着いたアスェビト王国の貴族や戦士たちによって神術・魔術が伝えられた。それらは知識として残された科学技術と融合し、蓬莱国の独自の技術『魔導』が形成されることになる。魔導という言葉自体は蓬莱人を見下すルアシミニア人に対する反感から『この技術は神術・魔術とは異なる蓬莱人が築き上げた技術』という意味を込めて作られたものであった。

この技術の存在によって、人口の八割が神術・魔術を扱うことができない人間で構成されている蓬莱国をアスェビト王国が一目を置く存在までとなる原動力となった。

 神術・魔術を扱えない人間を蛮人として扱うアスェビト王国と避けられない衝突が行われるようになったのは転移一九四年のことであった。

 余談であるが生き残りの一団が漂着したのはアシミニアの地だけではなくイロコイニア大陸にもいたのだがそれは別の話で語ることにしよう。


「――――というのが我が国の成り立ちです」


 馬車のなかにて皆月外交官は九條外務官から蓬莱国についての説明を受けていた。


「なるほどこういう経緯があったのですか……」


 ふむ、ふむと呟きながら説明の言葉を心の中で何度も反芻するように繰り返して脳に刻みこもうとしまたメモを取って記録する。何かしらの意図や嘘が籠っているのかもしれないが、この情報は彼を含め日本国にとって貴重なこの世界の情報だ。


「聞きたいことが一つ。いつ頃、西暦何年頃に転移したのですか?」

「残念ながら祖先が元々いた世界での歴史に関する記録はほぼ残されていません。そのため転移した年については全く分からないのです。分かることは先祖が日本人であったこと、その日本人たちが住んでいたのは大日本帝国という国であったこと、それは既に滅び国土は消え去ってしまったことです」


 渋い顔をして答える九條外務官は嘘を言っていないと見えた。

 詳細に調べてみないと分からないが、渡瀬艦長の言が確かなら『日向』の戦艦(・・)としての姿からして一九一八年から一九四三年の間のどれかで大日本帝国は転移したのだろうと皆月外交官は推測する。


(南にある大陸で日本語の通信が存在していたことに何かの関連性があるのかもしれない。今は断定できないが漂流者の末裔があそこにも住んでいるのかもしれないな)


 実に謎が多かった。

 日本はこの世界にきたばかりであったので仕方のないのかもしれない。さらに驚くかもしれないことも存在している可能性があった。それを知って落ち着いていられるだろうか? さっきの渡瀬艦長のようにヒステリーになってしまうのではという不安が皆月外交官の脳裏に過る。けれど少しずつ解き明かさなければならない必要性はあると感じている。臆せずに突き進むしかないと自分の役割の重大さを今やっと意識した。そんな自分に皆月外交官は苦笑するしかない。


(いつも不真面目に仕事をこなしてきた俺としては珍しく本気になっているのかな? これは俺にも公僕の一員としての意識があったということか……驚きだ)


 説明を終えると両者は沈黙してしまった。内部は恐ろしい程に静まり返った。馬車は市街地の郊外にある将軍御所、国政府など国の中枢が集まる場所に向かっている。

 皆月外交官は注意深く観察していた。

 街で行き交う人々は、日本人と似たアジア系の顔立ちをしているが、目の色と神の色と肌の色など細部が異なっていた。なかにはヨーロッパ系に似た姿をした者も少ないながらも存在している。

 蓬莱人は、その一部が日本人の末裔かその血を引いているだけであって自分のような日本人ではない。様々な血が入り混じっている人々だと結論付ける。

だが、江戸時代と近世ヨーロッパが入り混じったような街並みを見る限り日本文化は多少変化しながらも受け継いでいるように思えた。民族の見分け方の困難さを実感させた。そもそも人を民族のカテゴリーで分別すること自体おこがましいことではないのかと思えてきた。

 ため息をつく。すると馬車が止まった。街の姿は見えなくなり自然だけとなったところでだ。

 鋼色の胸当てを着けて剣を装着した銃で武装した兵士一人が馬車に駆け寄ってきた。


「どうした? 道を封鎖して何か起きたのか?」

「獣の群れが出ました。既に衛士によって確認された全ては駆除しましたが、生き残りがないように道の周囲の確認を行っています」


 そんな会話が行われるなか獣たちの死骸が横切った。それらは兵士たちが持つ枝に括りつけられた糸によってぶら下げられた。駆除された獣はゲームや漫画や小説などの物語の世界の存在であったゴブリンとオークという緑色の肌をした怪物(モンスター)であった。それらの姿を見てしまった皆月外交官は不快なものを見たと顔をしかめた。実際に見て見ると醜悪な姿で見る者の気分を悪くさせる。気のせいだが悪臭がしている気がした。


「こんなところにも出現するのですか?」

「残念ながら、時折どこからか入り込むのです。駆除は定期的に行っているのですが……完全駆除は今まで成し遂げたことはありません。それでも一昔前と比べるだいぶマシになったのですよ」

「そうなのですが……」


 ――――安住の地ではなかった。その言葉通りこの大陸は前いた世界以上に危険な地のようだ。皆月外交官は不安となった。そんな地を隣としてしまった日本は上手くやっていくことができるのだろうか? と。

 続いて兵士の集団が横切ってきた。駆除に赴いた部隊なのか、将兵たちの一部が負傷していた。体に包帯を付けておりそこは血で濡れていた。

 一人の兵士の姿が皆月外交官の目に入る。食いちぎられたのか右肩の肉が抉れて血が大量に零れ痛ましい姿となっていた。激痛なのか苦悶の表情を浮かべていた。思わず皆月外交官は目を背けようとしたが――そのとき不思議なことが起きた。

その兵士の隣にいた赤十字の腕章をつけた兵士の手が輝き出したのだ。淡い光は軽い閃光を発した後にまるで雨のようにかざしていた両手から傷口に降り注ぐ。


「!?」


 驚愕した。

 瞬く間に素人でも深刻だと分かる傷が塞がったのだ。思わず皆月外交官は立ちあがってしまう。


「いきなり立ちあがってどうしたのですか?」

「傷口が塞がったように見えるのだが。あれは魔術なのか?」

「ああ、いえこれは神術の一つで応急処置用の回復術です。あくまでも応急処置なので、後で本格的な回復術を掛けるか回復用のポーションを服用するか最悪手術をします」

「信じられない。どんな原理で塞がったのか。人体の回復力を増幅させたのかそれとも……」


 ぶつぶつと呟く皆月外交官に、九條外務官は若干引いた顔となっていた。

 後世にて皆月外交官は日本人で初めて“魔法”を見たと記録されることになる。


 しばらくして閉鎖は解除された。

 国政府にて蓬莱国の首脳陣と会談した後、蓬莱国は日本という国をより詳しく知るために日本国視察を行うことが決定した。

 日本が転移してから一四日目。転移暦二二五年五月二一日。

 護衛艦『ひゅうが』に搭乗した蓬莱国使節団は日本に向かうこととなった……。




 ご意見・ご感想があればどしどしと送って下さい。励みとなります。


 書き溜めがもう尽きてしまったので、更新速度が三日か四日に一度の頻度に落ちるかもしれません。

 第一章はあと二~三位で、第二章はドンパチ編になると思います。

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