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日本異世界生存記  作者: 末期戦
第一章 異世界との接触
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第六話 未知との遭遇(北方大陸編)②


 蓬莱国の領域と日本国の領域が入り混じっている海域では蓬莱国の商船が侵入したアスェビトのフリゲート艦に襲撃を受けていた。何とかして商船は魔の手から逃れようとするが速度に負けていたために接舷を許し鉤付きの綱が投げ込まれて拘束されてしまう。


「蹂躙せよ!! もたついていると水軍が来てしまう。素早く乗組員を殺すか海に叩き込んでなかにある物を奪い取れ」


 フリゲート艦『白いオオウミヘビ号』のロノロ・ラス艦長の檄により、革製の鎧と兜を装着し、魔力石が付いた槍と剣と弓矢と魔術具を持ちながら商船に殴り込む。移乗攻撃である。

 ただちに、商船の甲板上はアスェビトの水兵と護衛のために雇われた傭兵と武器を手にした乗組員との白兵戦が行われる。商船側は激しく抵抗するものの、所詮は正規兵ではない腕に覚えがあるだけの寄せ集めの集団でありしかも多勢に無勢であって、それなりの実戦経験を積んでいるアスェビトの兵士の猛攻によって次々と倒されていく。

 たった五分で傭兵の全てが殺害されるか無力化された。乗組員も同様だ。それに対しアスェビト側の損害は皆無だった。


「いいぞ!! なかにある物資と人を船に運び込め。運び込むのを終えるか水軍の姿が見え次第引き上げるぞ」


 乗組員も動員されて商船内にあったものが根こそぎ運び込まれる。食料が多かった。調理された肉料理が瓶詰めにされていた。それらにはアスェビトでは貴重なコショウと塩が味付けとして掛けられている。貴重品だ。貴族に売れば相当な金額になるだろう。奴隷の分も含めて出来上がった金貨の山を想像したロノロ艦長の頬が緩んでしまう。


「艦長、接近してくる船を確認しました」

「何だと!! もう来たというのか? 本当なのか? モンスターと見間違えたじゃないのか」


 想像していた時間よりも早く来たことにロノロは怪訝そうな表情を浮かべた。報告に来た部下の一人の指を指した方角に単眼鏡を向けると――船がいた。反射的に声帯を震わせた。


「全員船に戻るぞ。とっととこの場から引き上げるぞ」


 やむをえず鉤付きの綱を切り落として自由を得た『白いオオウミヘビ号』は非常にゆっくりだが動き始めた。


「何だぁあの船は……帆が全くねぇな。それに艦体は木ではないようだ。何でできているんだ」

 偶然現場の近くにいて駆けつけただけなのだろう。帆がないとなると速度はあまり出せられないだろう。それに加え甲板上にはへんてこな形状をしたものがあるが武装している様子はない。逃げられると微かな希望を抱く。


海から吹き付ける風と魔術、神術によって作られた風を受け取った帆によって速度は段々と上昇していく。三分経つと、この艦で出せられる最大の速度までに達したが……。微かな希望はすぐにうち砕かれることになった。


「遅い。これ以上速度は出せられないのか」

「これで精一杯です」

「不味いな。このままだと追いつかれるぞ」


 みるみるうちに謎の船が大きくなっていった。追いつかれるのは確実であった。

ロノロ艦長は信じられないものを見た気分だ。あまりにも早すぎる。こんなに早い船は今までに見たことはなかった。ルアシミニアの地にはいないだろう。伝説に聞く本気になったドラゴンの全速のような速さだと思ってしまう。


『そこの不審船、今すぐに停船せよ!! そこの不審船、今すぐ停船せよ!! 貴船は領海を侵害している。今すぐに停船せよ!!』


 警告が聞こえてきた。拡声する魔術を使ったのか分からないが大きな声が『白いオオウミヘビ号』に届く。面妖な姿をしているが、蓬莱人の言葉と魔術を使用したのだからあの船は間違いなく蓬莱国水軍ものだ。ロノロ艦長はそう判断する。

 いつの間に驚異の性能を秘めた船を開発したのだとか海賊や我がアスェビトの船を警告なしに沈めてきた水軍がなぜ今となって警告を送ってきたのかという疑問らが脳裏を過るものの、目の前の脅威に対処しなければならなかった。


「くそぉ!! かくなる上は攻撃を加えるぞ。野郎ども殴り込みの準備をしろ。あと最後の手段を使うぞ!!」


 ロノロ艦長の指示に対し水兵たちは武器を構えた。数ある戦士階級の一族のなかで誇り高き名門に属しているラス家の次男坊には“降伏”の二文字など彼の頭の中には存在していなかった。



 巡視船『くにさき』の船橋は大混乱となっていた。逃走を目論んでいた不審船がいきなり進路を変え本船に向かってきたからだ。


「不審船が警告を無視し接近しようとしています」

「警告射撃を行え!!」


 『くきさき』船長:麻生二等海上保安監は内心では面喰いながらも冷静に指示を出す。それを受け主兵装の二〇ミリ多銃身が火を噴き始めた。不審船に命中しないよう配慮して撃つ。


「駄目です、効果がありません。停船せずに本船に接近してきます」


 命令口調で荒い声となっている警告も警告射撃も何も降下は見えなかった。

 船橋から見える不審船が急速に大きくなっていく。逃走していたときと違ってかなりの速度を出していた。数値で表すと二八ノット程、帆船が出していい値ではなかった。

 麻生船長は舌打ちをする。急速に悪化する状況に彼の頭はついていくのに精一杯だ。やけくそになったものの常識外れ斜め上な行動の恐ろしさを味わっていた。


「回避しろ!!」


 不審船を避けるため『くきさき』は回避行動を取る。しかし――。


「衝突は避けられそうですが接触コースです」

「何てことだ……全員、衝撃に備えろ」


 ぶつかったのか強い揺れが船橋に襲いかかる。皆バランスが取れず崩れてしまう。麻生艦長は床に転倒してしまう。とっさに受け身を取ったので無傷で済んだが……もう何が何だが訳が分からない気分となっていた。


「船長、大丈夫ですか?」

「俺は問題ない。不審船いや敵の様子は?」


 気を落ち着かせ頭を急速冷却して麻生艦長は問いかける。


「今現在、本船から南西三海里離れた位置にいます。接近された際に約一〇以上が本船に侵入し甲板上に待機していた特警隊が交戦しております」


 音が聞こえてきた。初めて聞く音だ。

 外を確認すると、兜や甲冑、槍や剣や弓矢を持った古めかしい集団が特警隊に攻撃を加えていた。本来ならば銃器を持っていないこんな連中など、朝鮮半島由来の密漁船や不審船の取り締まりのときに修羅場を幾度も経験した特警隊にとってたわいもない相手なのだが、見る限り意外な苦戦を強いられていた。

 輝きを持つ球がまるで銃弾のように特機隊に襲いかかっていた。銃器とは異なる我々が知らない手段を使って攻撃している奴らがいた。それが苦戦の要因のようだ。他に敵は殺しに掛かってきている。動きも立派な武器を持っているだけのただのカカシではない。特警隊もどう対処すればいいのか迷っているように見えた。今のところは大丈夫そうだが、現場の指揮を任されている麻生艦長が早く指示を下さなければ死者が出てしまいそうに見えた。

その一人と目が合った。そいつは手に持っていた棒を振り下げた。

本能的に危険を感じて反射的に伏せた瞬間に頭上から何かが当たる衝撃音が聞こえてきた。おそるおそる見上げると防弾ガラスの窓の三ケ所が艦橋側にへこんでいた。


「不審船からボートが複数下ろされています。全員武器を持っています」

「何を考えている。先に乗り込んだ連中の増援か?」

「おそらくそうなのでは? ボートは接近していますので……」

「『くにさき』は確かに船だが巡視船、無許可乗船はお断りだ。お引き取り願おう。水をぶっかけて連中の頭を冷やして追い返せ!!」

「見る限り危険な連中だ。特警隊に状況に応じて銃器の使用を認めると伝えろ」


 保安本部に指示を乞う暇などなかった。麻生艦長は全ての責任を背負う覚悟であった。


「了解!!」

「それと、保安本部に『事態は本船の手に余るまでに発展しており増援を求める』と連絡」


 後に、放水銃による強烈な放水と主兵装の二〇ミリ多銃身機銃の水平射撃、銃器使用の許可が降りた海上保安庁特別警備隊――略称:特警隊の全力の反撃により侵入した敵は射殺されるか無力され逮捕された。

 『くにさき』側は一名の死者と五名の重軽症者の損害を出し、“戦闘”により殉職者を出したことは海上保安庁に留まらず世間に強い衝撃を与えることになる。

 これが、ファンタジーな存在との初めての交戦であった。



 交戦が開始されてから一時間半後――。

 『白いオオウミヘビ号』船内にある隠し部屋にロノロ艦長は息を荒く吐いた。

 手元にある通信球は既に断末魔か蓬莱人の言葉を使う不思議な連中の声しか聞こえなくなっていた。


『た、たっ、助けてくれ――』


 部下の助けを求める声、乾いた雷鳴が轟いたような鋭い音が数回鳴り渡る。

 どうしてこうなったのだろう? 単に商船を襲撃して人とものをかっぱらう単純で簡単な任務だった筈だ。今ではネズミのように怯えながら息を潜めている。あまりの情けない姿に憤死しそうだ。

 突如現れて『白いオオウミヘビ号』翻弄した謎の船を、魔力石を膨大に消費する最後の手段である強化と加速の魔法を船にかけて最大まで強化して返り討ちにしようとしたが制圧に失敗し乗り込んだ、乗り込もうとした水兵たちは反撃を始めた敵により全員生きて帰ってこなかった。

 茫然とする間もなく、空から何かがきた。蓬莱国のワイバーンや大鳥ではなかった。大きな羽を回転させて飛んでいる生き物ではない未知の存在だ。

 そこから変な服装をした連中が降りてきた。排除しようとしたが一方的にやられていった。

 なぜやられたのかロノロ艦長は覚えていた。気がついたらここにいたのだ。敵に敗北したこと無我夢中で逃げたこと、強烈な屈辱感などは辛うじて覚えている。

作動させた通信球から船内は次々と制圧されている。ここに来るのも時間の問題だ。


「……コイツらは一体何なんだ?」


 姿からして蓬莱人ではない。恐るべき力を持っている連中。己の正直が通用しない存在。これは夢だと思いたかった。

 夢ではないと主張するように隠し部屋の壁を叩く音が聞こえてくる。巧妙に隠されている出入り口が蹴破られた。

 できた穴から何かが投げ込まれる。小さな物体だ。

 ロノロ艦長はとっさに神術が発動させる。


「こ、殺されてたまるか!!」


 目が眩むほどの閃光、鼓膜を貫くほどの爆発音が襲いかかるが、己に危害加えるものを防げと強く念じたことでロノロ艦長の体には異常はなかった。

 逆に室内に殺到した表情を窺うことができない謎の集団に、攻撃魔術の一つである光球を複数発射。そのなかの一人の頭を貫く。

 一矢報いたとロノロ艦長は優越感を得た。彼の周囲には微かな輝きを放つ壁が形成されていた。

 これは神術の一つである『防壁(バリアー)』だ。貴族と上級士族の血統を持つものでしか扱うことができない神術の一つである。使用者の周りに魔力石ではない人体(・・)から発せられた魔力の膜が形成され使用者が防ぎたいもの拒絶したものを念じればその対象を弾く威力を持っていた。

 戦場では使用すれば己の身を守りながら敵を一方的に攻撃できる。魔装騎士が戦場の顔として席巻していた理由の一つとなっていた。

 しかし、反撃は一瞬だけであった。耳を貫く音が聞こえてきた。胸に熱いものを感じた。下と向くと胸の数か所に孔が空きそれらから血が大量にこぼれていた。

 嘔吐感を抱く。すぐに口元から血がこぼれた。

 何故と思った。上を見ると張っているバリアーに無数の小さな孔が空いていた。

 分からなかった。己がなぜ敗れたのかを。薄れゆく意識のなかで考える。

 片手が何かと接触した。ほぼ無意識に最後の力を振り絞って触ってみた。中心は空洞となっている特徴的な感触がする円柱状だ。

 感触が伝った瞬間、ロノロ艦長は負けた理由を理解した。

 才能には幅があるものの『この世の理を覆す神から人に授けられた神秘な力』を先天的に扱うことができるアスェビト王国の民から忌み嫌われる魔術師、神術師殺しの毒――金属。過去に金属の加工技術を持つ蓬莱国が戦場に初めて金属製の武器を投入しアスェビトを打ち破ったのは記録に新しい。

 バリアーを破れたのはそれのせいであったようだ。

 負ける筈だと思った。どうやら『白いオオウミヘビ』はとんでもない敵を相手にしたようだ。

 神が授けた力も万能ではないことを思い知りながらロノロ艦長の意識は暗黒に呑み込まれていった。


 後に日本側から『対馬沖事件』と呼称される事件は、船内に突入した海上保安庁特殊警備隊が不審船の船長と思われる人物を射殺したことで終わりを告げた。

 不審船の乗組員を射殺か逮捕する戦果を挙げて無事任務を完遂した特殊警備隊は死者一名と重軽症者七名を出すという創設して以来最大の損害を出すことになった。

 監禁されていた四六名を救助し、凶器と船内にあった物資を回収された。

 救助された者たちは事情聴取の後に蓬莱国に返還された。それをきっかけに日本国は蓬莱国と繋がりを持つことになり、両国は交渉を行うこととなった。


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