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日本異世界生存記  作者: 末期戦
第一章 異世界との接触
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第四話 未知との遭遇(南方大陸編)④


 日本が転移してから十四日目。帝國に派遣された使節団が長い時間をかけた会議を終え一息を付いた頃。そうりゅう型潜水艦二番艦『うんりゅう』は四番艦『げんりゅう』と共に南方大陸付近の海域に潜んでいた。


「ここが合流地点(ランデブーポイント)だな。もうそろそろ時間だが相手は来ているのか?」


 『うんりゅう』艦長宮本二等海佐は一週間以上の多忙によって削る余裕がなかったため伸びてしまった髭を触りながら言う。


「はい。方位〇―三―〇から船舶と思われる推進音を複数確認。おそらくお出迎えの船です」

「よし、船と空の確認を行い問題ないならば“お客さん”を下ろすぞ。連中に降りる準備をしろと伝えろ」

「了解」


 さてどうなるかな? と少し先のことを考えると宮本艦長は少し不安になる。できれば航海の苦労が報われて欲しかった。『うんりゅう』と『げんりゅう』はお客さんを乗せて母港である呉からこの海域に到達するまでに、日本周辺の海域に生息しており転移してから民間の船を襲撃している巨大海棲生物の襲撃に幾度も遭い、そのなかの数回は交戦に発展してしまい魚雷で撃破していた。長い緊張のせいで乗組員たちは疲労困憊である。早く陸に足を付けて休憩したかった。


「潜望鏡準備できました」

「うむ……二隻いるな。一隻は駆逐艦もう一隻は輸送船いや輸送艦か?」


 潜望鏡を覗きこむ宮本艦長はそう呟く。

 外は夜になっていた。

 やってきた船……いやおそらく艦の集団の姿に宮本艦長は既視感を覚えてしまった。モノクロ写真で写された一昔前の艦艇にそっくりなのだ。元いた世界ではそんなタイプの艦艇はとうの昔に退役している。常識外れなサイズのウミヘビやイカやタコといい今といい、自分たちは異世界にいるのだと実感してしまう。

 しみじみと感傷に浸っていると、月が雲に隠れてしまい闇に覆われた夜空に青い閃光が輝く。それは自分たちが出迎えであることを示す信号弾による合図であった。


「打ち合わせ通りだな。あの艦どもは出迎えなのは間違えない。お客さんの様子はどうだ?」

「ようやく外の空気が吸えると思ったのか目にもとまらぬ速さで準備を終えて今は誰が一番先に外に出るかじゃんけんをしていますよ」


 いい大人が一番乗りは自分だと興奮した顔でじゃんけんしている姿が脳裏に浮かんでしまい。宮本艦長は頭痛する思いだ。本当にエリート官僚なのかと疑問を抱いてしまう。


「全く……よし浮上するぞ!! あと『げんりゅう』に指示、貴艦はもしもに備えて様子を見てから浮上せよ」


 宮本艦長は矢継ぎ早に指示を飛ばす。声が弾んでいることに全く気づいていなかった。

 浮上した『うんりゅう』と『げんりゅう』は、皇国海軍の出迎えである駆逐艦『春風』、特設潜水母艦『葦原丸』と合流した後、搭載していたお客さんごと皇国に派遣されることになった外交使節団を『葦原丸』に移乗させた。暗闇のなかでの移動であったものの何とか成功させて行きの役目を果たした。

 外交使節団を乗せた『葦原丸』は皇国の首都である皇都『新京』に向かうことになる。『うんりゅう』『げんりゅう』の方は海中に待機させる訳にはいかないので、『春風』の誘導のもとある海軍基地にて停泊することになった……。



「これが『日本』からやってきた潜水艦なのか?」

「はい。その通りです」


 目の前にある物体を見つめながらオオスギ海軍少佐の問いに対し彼の副官のアークラ大尉は答える。

 ここは皇国海軍潜水艦隊所属の艦艇が配備されている(すめらぎ)海軍基地。大陸戦争以前に岸壁をくり抜いて建造された隠しドックには皇国海軍の潜水艦が修理や補給のために停留していた。

 そのなかに異国の潜水艦もいた。『うんりゅう』、『げんりゅう』と呼ばれている艦だ。二隻とも何かに巻きつけられた痕があった。オオウミヘビにやられたのだろうと、オオスギ海軍少佐は結論付ける。傷だらけになりながらもここまで来たことに感心してしまう。


「ちょっと痛んでいるが、よくもまあ怪物だらけの海をたった二隻でしかも潜行して突破できたな。彼らの話だと襲撃してきた巨大海棲生物を撃退し一部を撃破したようだな。信じられるか?」

「私には到底信じられません。すばしっこく動き回るアイツらに魚雷を命中させるとは、それはとにかくとして『葦原丸』からの報告では浮上するまで全く発見することができなかったようです」

「水中聴音機は音を捉えることはできなかったのか? 『葦原丸』と『春風』に搭載されていた最新のものでもか?」


 新造艦の建造など戦力の増強が期待できないなかで、搭載する機具に関して少しでも有利に立とうと必死になって開発した最新型の水中聴音機が聞きとることができなかったことにオオスギ海軍少佐は衝撃を覚える。


「はい。そのようです。どうやら静粛性がとても優れているようで聴音手は全く聞こえなかったようです」

「音をあまり発せず、仕留める手段を持っているか……だから突破できる訳だ。あの艦に詰め込まれている技術があれば我々潜水艦隊は無敵になるのだがなあ。提供してくれないかな?」


 オオスギ海軍少佐は南側に掛けられた軍事制限と国内経済の低迷により周辺諸国の海軍と比べて劣っている皇国海軍の現状に危機感を覚えていた。強力な日本の兵器の輸出か優れた技術提供に淡い希望を抱いていた。


「流石に潜水艦関連の技術は無理でしょう」


 潜水艦は機密の塊である。公開してくれる程日本はお人よしではないだろう。オオスギ海軍少佐はため息をつく。


「だろうな。冗談だから本気にするな。だが俺たち皇国人は彼らとは少し違うが先祖は同じなのだからこんな潜水艦を作れる筈だ。これからの会談はそのための示唆を得たいものだ」

「全くその通りです」

 アークラ副官が頷く。

 これから『うんりゅう』、『げんりゅう』の艦長たちと会談する予定だ。実りのあるものにしたかった。



 皇国外務大臣ミカル・オトザキの日記。


『皇国暦五四七年九月〇七日。

 日本国の外交使節団との会議一日目を滞りなく終わらせることができた。互いの国についての情報交換、国交樹立を目的としていた。情報交換において衝撃だったのは彼らが我々の祖先である大日本帝国の日本人ではなく戦争により大日本帝国が崩壊し生まれ変わった日本国の日本人であったことだ。だから傍受した通信から意味不明な単語が複数存在していたのだ。祖先がこの転移した年から七〇年以上も時を経ているのだから言葉の意味も多少は変化しているのは当然だ。

 国交樹立の会談において分かったことだが彼らは食料とそれを生産する上で必要なものを求めているようだ。ジャガイモと大豆が輸出可能だと答えたら目を輝かせていた。また我が国が化学肥料の原料であるリン鉱山とカリ鉱山を保有し化学肥料の製造が主要産業の一つであることを伝えると輸出して欲しいと申し出できた。一世紀以上は枯渇しないと言われる程の含有量と肥料は増産できる体制であるので輸出するのは特に問題はないが、我が国の価値を知らしめ少しでも多く利益を得るために検討すると簡潔に答えるだけにした。輸出する条件としてインフラ整備などの支援、今現在で製造可能な製品の輸出が提示されている。もっと支援を出せられるかもしれない。たが、欲張り過ぎると悪印象を抱かせる可能性も高くさじ加減とても難しい。

 まあとにかく、明日私は我が国が日本の申し出を受け入れると言うつもりだ。皇王陛下と首相は承認している。取りあえず第一段階として老朽化しているダムと発電所の修繕と新規の発電所の建設と技術支援、ラジオや家電製品など南側の侵食が激しい製品の輸出になるだろう。

 経た時間との違いで祖は同じでありながら価値観と考え方はかなり異なっているだろうが、我が国と日本国の出会いを後世の歴史家から幸運が来たと評されることを今はただ祈るしかない。日本が敵対する意思はなく互いに認知し合い対等な関係を築こうとしているのが幸いであるが……』


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