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日本異世界生存記  作者: 末期戦
第一章 異世界との接触
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第三話 未知との遭遇(南方大陸編)③


 帝國暦一九三四年九月四日。帝都アインリア。鉄道で三日かけてたどり着いた外交使節団はまず全員が帝國皇帝に拝謁しその後に帝國宰相と使節団団長との会談が行われた。


「帝國宰相のゼアン・グルシェンコです。今日は実りのあるものにしたいものですな」

「外交使節団団長の斎藤輝樹です。今日はよろしくお願い致します。全くその通りですね」


 笑顔の二人の第一声はこういうものであった。会談自体は一時間程度の短いものであったが、お互いにこの会談が終わった後に行われる交渉は建設的なものにしていきたいと認識で一致した。

 『謁見と会談は特に何ごとなく穏便に終了した。皇帝陛下は二ホン人に興味津々であった』と帝國の公式文書に記録されることになる。

 日本側と帝国側にとって本命だったのは、外交、経済、軍事など多岐に渡る交渉会議であった。会議のために使われることになった宰相府の大会議室には、日本側帝國側の外交官、軍人(自衛官)が五〇人以上ひしめきあっていた。

 室内に漂う雰囲気はまことに剣呑なものであった。互いに国家の命運を背負っているせいなのか? 日本国帝國もこの世界では決していい立場ではない。互いに有利な立場を得たいと頭の中で考えていた。

 そんな会議の司会という貧乏くじを引かされた帝國官僚の一人が会議の開催を宣言する。


「それでは国交樹立に関する交渉会議を行います。最初に本格的な話を始める前に二ホン側に我が帝國の紹介を始めたいと思います。よろしいですか?」


 事前の一件で日本からみあげとして持ち込まれたものによって帝國は日本国についての概要は一部を除きほぼ掴んでいた。あまりにも衝撃的な内容であったため、その情報は帝国皇帝、政府閣僚、この会議に参加する人物以外には開示されることはなかった。後は通信の傍受なので日本の実情はある程度まで掴んでいた。

 それに対して日本は、帝國についてあまり掴んでいないと帝國側は考えていた。それは言語の壁あるからだ。直接の会話では特に支障はなく意思の疎通ができたが、電話や蓄音機などの機器を通じてだと意味不明な発音になり疎通が不可能になるという報告が届けられていた。帝國は日本語に類似している皇国語を知っているものたちによって傍受した通信を解読することはできたが、帝國語を全く知らない日本はもし大陸からの通信を傍受しても解読することは不可能だと帝國側は踏んでいた。


「……」


 それを踏まえて発言に日本側はどうぞと同意した。ただそれだけで特にこういった反応を示さない。安堵する様子はなく様子を観察していた。

 不利な状況にも関わらず動揺した姿を見せない。そんな日本側の隙を見せない姿に、帝國側はハードな交渉になることを強く実感させた。


「……では帝國の説明を行います」


 名前から専制君主制だと見られるが議会が存在する立憲君主制であること。人口が藩国を含めると約二億五〇〇〇万人を擁していること。軍事は陸軍、海軍、空軍で構成される帝國軍が国防を担っていること。首都は一五〇〇年以上の歴史を誇るアインリアでありこの都市の人口は約一二〇万であること。主要産業は農業、製鉄業、造船業、鉱業、化学工業であること……特に問題はないことが語られていった。

 説明が終わると日本側から質問が来る。


「周辺諸国についてお聞きしたい。どのような国が存在するのだ?」

「我が国の北東部には『ヨゴ草海国』、南側には我々は南側と呼ぶ『共和民主連合』、西側には『皇国』、『ルーレステン王国』、『ラニア王国』、『エルトギア王国』、『ユートピスア連邦共和国』が存在しています。それ以上にも、我が国に所属している藩国、南側に加盟している国々どの陣営にも属していない中立国などを含めると数は一〇〇以上も越えています」

「貴国の外交関係はどうなっているのですか?

「皇国とは長年の友好国、ヨゴ草海国と南側とは長年の対立関係にあります」

「対立の理由は?」

「思想の違い、経済格差、領有権や国境線や資源やエネルギーをめぐる対立などです」


 質問が雨のように降り注ぐ。質問をする側は鋭い視線を相手側に送る。答える側は涼しい顔をして淡々とした口調で答える。答えを聞くと日本側は真剣にメモを取って聞き漏らさないようにしている。

 しばらくすると取りあえずは満足いや納得したのか日本側は静かとなった。斎藤団長が立ちあがって口を開く。


「こちらからの質問は以上です。こうやって親睦を深めたことですしそろそろ本題に入りましょう。先ほどの会談では建設的なものにしたいとの認識で一致しましたが、我が日本国にとって建設的な会談は貴国とできるだけ早く何らかの関係を持つことです」

「……そうですな」

 

 日本では外務大臣に相当する帝國外務卿は簡潔に答える。斎藤団長のきっぱりとした発言を日本は早期の国交樹立を求めていると受け取った。

 日本と国交樹立するのは帝國自身も特に反対はない。まともな友好国が先の大戦で領土が大幅に縮小させられるなど一番打撃を受けた皇国一国という孤立した状態のなかで敵を増やすのは得策ではない。むしろ味方に引き込みたい位である。味方に引き込むことのデメリットはあまりなくメリットの方が大きい。

得た情報からして、憲法の事情から軍事的な支援を得るのは困難だと思われるが経済的な支援と優れた技術の提供が交渉次第で得る可能性が高いと帝國側は考えていた。できれば軍事支援も得たかった。出迎え艦隊からの報告ではオオウミヘビの幼体とは言えそれを粉砕する威力を持つ驚異的な兵器を保有するようだ。そのチカラを帝國に役立てて欲しかった。

 周辺諸国からは、黄昏の国と暗喩される皇国のように瀕死の病人と見られている帝國を復活させる機会を見逃すつもりはない。


「では、日本国が国交を樹立する上で帝國に求める条件はこれです」


 日本側から、派遣された官僚や通訳と協力して列車のなかで作成された書類が帝國側に提出される。羅列された文字を追い内容をすぐ理解する。文章の内容は以下のものであった。


・日本と帝國、両国は互いの主権を承認し対等な関係であること。

・帝国国内で産出される鉱物資源と食料の輸出。

・相互不可侵条約の締結。

・為替レートの早急の整理。


また文章には日本側が求めている資源と食料の輸出が書かれてあった。帝國側は皆渋い顔を浮かべて話し合いを始めた。その様子を日本側は黙って見守っていた。少し時間を経て皆を代表して外務卿が発言する。


「求める資源に関しては大まかな結論から言うと輸出は不可能ではありません。ですが現段階では輸出できるのは小麦と大麦は五割、鉄鉱石と銅鉱石は四割、石炭三割、残りはすぐに輸出はできません。それと石油の輸出は完全に無理だと思って下さい。我が国には石油を輸出する余裕はありませんので……」


 日本は資源を求めることを派遣された官僚から報告されていたがまさかここまでの量とは思わなかった。


「構いません。不足しているなかでこれだけの量を輸出できるのはありがたいものです」

「他にも問題はあります。どう輸送するかです。我が国の輸送船は危険な外洋を航行することは滅多にないので経験が全くありません。我が国の海運会社も貴国に輸送したがらないでしょう」

「それはこちらが準備いたします」


 帝國側の疑問に、斎藤団長は淀みない口調で答える。


「条件を呑むことに対して得る帝國の対価は?」

「情報の提供、インフラと技術の援助、貴国の外交的孤立を和らげることです。あとは南側の妨害によって制限されている皇国との貿易の仲介となりますね」

「多少はお見通しという訳か……」


 外務卿はため息をつく。言語の意味が分かる皇国の通信から帝國の情報ある程度までを引き出したようだ。


「それに現段階の口ぶりからしてまだ伸びしろがあるように見受けられます。増産と輸送体制の整備に我が国が可能な限りの援助を行う用意があります。それに状況によっては“戦闘”以外での軍事的援助を行うことを厭わないつもりです」


 帝國側に条件を呑んでもいい空気が生じた。


「最後に一つ。いささか大盤振る舞いではないでしょうか? 貴国はそんな支援する余力(・・)はあるのでしょうか?」

「……」


 今まで沈黙していたゼアン宰相の試すような問い掛けに斎藤団長は絶句する。二、三秒の間を置いた後に斎藤団長は口を力強い口調で答えた。


「……問題ありません。幾度の危機を克服してきた国をそして国民を軽く見ないで欲しい。必ずや貴国の期待と信用を裏切るつもりはありません」

「うむ……よろしい。前向きに検討することにしよう」


 ゼアン宰相は頷いた。取りあえずは納得してくれたようだ。


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