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日本異世界生存記  作者: 末期戦
第一章 異世界との接触
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第一話 未知との遭遇(南方大陸編)①


 日本列島から南約一五〇〇キロメートル離れた位置にはユーラシア大陸に匹敵する大きさを持つ陸地があった。現地人からは『イロコイニア大陸』、後に日本からは『南方大陸』と呼ばれることになるこの地には大きさ故か沢山の国が存在していた。

 国々は北と南二つの陣営に分かれて長年に渡って対立していた。二十四年前に終結した大陸の大半の国々が敵味方と別れて激しく戦った大戦争によりそのなかの一つが没落し、勝者となりこの地を支配することになった南側は好き勝手に振る舞っていた。

 南側が最も警戒していたのはかつて自分たち散々苦しめた北側の復活であった。北側の主要国家であった『帝國』『皇国』に対し、軍事に厳しい制限を加えるなど積極的に様々な干渉して足を引っ張って完全に孤立させていた。

 そんな勝者の振る舞いに対し、弾圧される側である帝國と皇国は大きな不安を持つのは当然であった。南方大陸は表向きは平穏であったが裏では常に火種がくすぶっていた。



 帝國はイロコイニア大陸の北東にある国家だ。

 直に収めている直領、帝國に臣下を誓った国々が統治する藩国領などで構成されており北東の大半を勢力下に置いている。かつてはこの大陸の全てが影響下にあった。そのためこの大陸で唯一の国家と呼ばれていたが、時の流れと共に勢力圏を減衰させていき、かつての大戦に敗北したことによる政治的、軍事的影響力の低下により藩国は一部を除いて自立、独立してしまい、取るに足らない存在であった南側に制限を加えられて圧力を常に受け続けるというかつてとは見る影のない姿になって今に至る。


 四発のレシプロエンジンは調子よく唸り声を出してプロペラを回転させ翼に飛ぶ上で必要な揚力を宿らせるだけの速度を出す。長距離哨戒機トゥーザ―102一機は未踏の地である外洋の空を飛行していた。

 本来ならば飛行することはない区域だ。しかし三日前から本来ならば陸地が存在しない方角から飛んでくる無線を沢山傍受するようになり、国籍不明の航空機が幾度も領空侵犯を繰り返すなど今までなかったことが起きるようになり調査する必要が出てきた。

 外洋は凶暴な海棲生物が生息する危険地帯なため艦艇を初期段階で派遣するのは躊躇われ、調査の白羽の矢が立ったのは帝國空軍、帝国軍が保有する航空機のなかで長大な航続距離を持つこの機体と戦略爆撃機ルーガー114であった。発見されれば得た情報を基に艦艇を派遣する手はずであった。


「副機長、外の様子はどうだ?」


 機長である二コライ空軍准尉は隣にいる副機長に問いかけた。


「目を凝らして見れども見えるのは青い海ばかりです。海面の下には海獣どもがいるなんて信じられません」

「油断するなよ……機体が故障して不時着すれば泳いで帰らないと行けなくなる。まだ俺はオオウミヘビの餌にはなりたくないぞ」

「それについては同感です。まだ見ぬ地を発見してそれをカメラに収めて基地に持ち帰るまで死にたくありません」


 強い口調で言う副機長の首にぶら下げているカメラを見て二コラは、新陸地の姿を初めてカメラに捉えたい野望いや欲望を丸出しにしているなと苦笑した。


「いい根性だ。それであると思うか? 皇国の連中と同じ言葉を使う者たちが住む国が……」

「どうでしょうね?」


 副機長は困った顔をして答えた。存在して欲しいがもしかしたら存在してないかもしれないと半信半疑でいるようだ。そうなるのも当たり前かもしれない二時間以上も飛行しているが未だ発見に至っていない。

 燃料計を見る。


「もうあまり時間はないな……」


機内に積んである燃料の残りはあともう少しで半分になろうとしていた。このままずっと飛行し続ければ基地に帰れなくなってしまう。残されている時間は、経験値から想定するとあと一五分、ギリギリの帰還となってもいいのならばあと三〇分位だ。彼を含め五人の命を預かっている立場にある二コライは燃料計の針の先が半分の値を指したら夢より現実を優先して機首を基地がある方角に向ける指示を下すつもりであった。二コライはもっと出世したかったが殉職による二階級特進する気は毛頭にもない。


(一〇八七ヴォル(約一七五〇キロメートル)進んでも見えないとなるともっと先にあるというのか、新陸地は? だとすると保有している航空機では届かないことになるな。それは困る)


 本音では焦燥は募るばかりであった。こんな危険な任務を率先して参加する奴らは、二コラのように命を失うかもしれないというリスクは承知の上で出世したい名誉を得たい手当てが欲しいなどこの任務を成功させて求めるものを手に入れたい欲深なものばかりだ。

 ニコライはため息をついた。


「本当に傍受しているのか?」

「傍受しているので確かです。うちのおしゃべりな無線手の話では海で怪物が現れて漁船が四隻沈んだとラジオ放送と思われるものを傍受したようです。それに意味不明な単語が幾つかあって完全に翻訳できなくて困っていました」


 チラリと後ろを見る。聞き入っていた表情を浮かべている無線手の姿が目に入った。副機長との会話など機長が今見ていることを気づいている素振りなどまったく見えない。両耳に取り付けているヘットフォンから出る音を熱心に聞いているようだ。その夢中となっている姿にニコライは呆れる。

そう言えばあのおしゃべりは皇国語が堪能だったなとニコライは思う。皇国という言葉を聞いてある興味が湧いた。


「ふーん。皇国の連中はどんな反応をしているんだろうな?」

「皇国の友人は言うには、遠い先祖が暮らしていた“ダイニホンテイコク”が蘇ったと大きな騒ぎになっているらしいです」

「五百年前に滅んだ国が蘇る訳がないだろ」

「機長!!」


 今まで沈黙していた無線手が声を出す。しかも荒げた口調で。


「どうした?」

「同じ任務についていたルーガー114から緊急連絡。『我、所属不明機と遭遇す。逃走を図るが圧倒的な性能で逃走できず。今のところは撃墜されずに警告を受けている』です」

「ついに接触したか……どの位置だ?」


 緊急連絡の内容、それを発した位置を無線手の口から報告を受けていくうちにニコライの顔が歪んでいく。嫌な予感がビンビンとした。ここで長居したら碌なことにならないという。

 決断を述べる。


「これ以上進むのはこの空域に留まるのは危険なようだな。引き上げるぞ」

「了解」


 同意するように副機長は答えた。

 機体はUターンし機首は基地のある方角に向けられた。速度は全速に近いものとなりできるだけ早くこの場所から早く離脱したい想いが見え隠れしていた。


「……この判断少し遅かったようです」


 気になることを無線手がボソッと呟いた。こんなとき意味が分からないことを言ってと苛立ったニコライは上官らしからぬ口調で問いかけてしまった。


「何だ?」


 前から轟音が聞こえてきた。外を見ると高速な何かが機体の前を横切ったのを確認した。その何かの正体を動体視力が高いニコライの双眸は捉えていた。太陽の光を浴びて輝いているグレー色の航空機、その胴体には赤い丸が描かれていた。

 何だ、あれの航空機は? 早すぎて俺の目をもってしても完全に捉えることができなかったぞ。まさかわが軍で開発中のジェット機かロケット機か? それに報告にあった四発機とは違う機体だ。共通しているのは胴体に赤い丸の塗装がしていた。同じ所属なのか? 数多の疑問が脳裏によぎるが状況は思案している暇をニコライには与えなかった。

 

「警告を受けました。『国籍不明機に告ぐ。貴機は日本国の領空を侵犯している。こちらの指示に従え。さもなくは貴機を撃墜する』です……」


 日本国。それが新陸地を領土する国家か? 大日本帝国とはどんな関連性があるのだろうか? 二つの疑問がニコライの脳裏に浮かび上がる。

 何かが空を切る音が聞こえてきた。聞き覚えのある音だ。機銃が発砲する際に鳴り響く音であった。その音をたどって前を見ると推測が確かであることを証明した。複数の太い火箭が機体の頭上を通過した。

 警告射撃であった。ニコライには姿の見えない日本の機体からの最終警告だと思えた。逃げきれないことも悟った。もう迷っている時間は残されていなかった。


「警告に従おう。無線手、皇国語で伝えてくれ」

「……了解」


 やりきれない無線手の声がニコライには印象に残った。彼も同じ思いだ。奴らはおそらくこの機体をやつらの基地に着陸させるだろう。帝國空軍初の強制着陸された機体の機長として歴史に名を残すことになろうとは何とも言えない気分であった。

 しばらくして、指示に従う旨が無線を通じて警告を発した側に伝えられることになった。


 日本が転移してから七日目。帝國暦一九三四年八月二十一日。後に帝國の公式記録に“日本国”の名が初めて記されることになった日。

 調査に参加した航空機六機は全てが航空自衛隊の警告を受け、スクランブル発進したF-15J、F-2、F-35J空自自慢の戦闘機たちの圧倒的な性能を見せつけられ逃走を諦め航空基地に強制着陸させられてしまった。

 日本の地に足を踏みしめた帝國空軍将兵はただちに尋問を受けた。彼らの口からの情報は日本側にとって帝國の存在を知るきっかけとなった。彼らも日本の情報を得ることになり日本側から丁重に扱われた。

 尋問を終えると彼らは機体ごと帝國に返されることになり日本側から渡された沢山のみあげを持って祖国に帰還することになった。そのみあげのなかにはニコライ機の副機長が撮った日本の姿も含まれていた……。

 この出来事をきっかけに日本国と帝國は互いに会談を考えるようになった。それは日本側が帝國や皇国に外交使節団を派遣することに繋がっていく。


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