世界で一番優しい
私は優しい。
蟻を踏み潰さずに通行人を押し倒して進み、お金が足りないならみぞおちに一発、ご老人を呻かせて寝転がった隙にお金を貰って有効活用。
今日は横入りしてきたおばさんを蹴り倒して列の乱れをなくして平和を守った。
そんな帰り道、斜陽が坂を染め上げて影をつくるなか、私自身が纏った香水の香りが鼻にまで届き、いつも通りに過ごせている事を実感する。しかし、そんな風景に混じって影が佇んでいた。
「そうだ……」
最近は刺激も少なく、運動も全くと言っていいほどしていなかった私にとって、それは恍惚とした顔を隠せないほどの幸運。
私はその少女がこちらに気づいていないことをいいことに駆け出し、そのままアメフトの始めのキックのように少女の影を蹴り飛ばした。
すると思っていた感触はなく、反動の代わりというように硬い物が折れる音が鳴って、水が湧く音が隣で生まれた。
「ちょっと……まってよ……」
傷つけるつもりはなかったのにと戸惑う間にも血は噴き出し、少女の首はその勢いで落ちて転がり、私の足にコツンッ、と顔が当たってそこに顔が向く。
それは必然だったのか、私の顔を見るように転がっている幼い私の顔がそこにあり、付着した血を皮切りに溶けてしまった。