表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第四章 黎明のクロスオーバー
66/375

レア・ドロップ


「討伐隊はこれにて解散となる。門は既に開かれているが、各ギルドでの特殊依頼は予定の期間内継続される。また、討伐報酬は本日中に各所属ギルドに送付するので、一度は立ち寄り、確認願いたい。

 協力を感謝する。各々、広場での小宴を楽しんでもらいたい。以上だ」


 アンファングの空に響き渡った乾杯の声が、それぞれの酒杯を干すために止んだ瞬間、聖騎士は要件を全て言い終えた。そして、己の酒杯を干し、神殿へ入っていく。その後ろ姿を歓声が追いかけていた。

 要するに、広場内での飲食は無料タダである。金銭面での報酬が出ない分、目の色が変わってもおかしくない。

 早速道具袋(インベントリ)に串焼きを詰めている者が見えたが、あの中には戦利品ドロップが入っていないのだろうか。魔獣の爪とか、巨大ダンゴムシ(ハシャラ)の糞とか……。

 ユーナは頭を振った。考えると負けだ。


「これ、美味いな」

「でしょう? 味的には牛っぽいですよね」


 いつのまにか大きな葉を皿代わりに、いくつもの料理が地面に並んでいた。気が利く男、その名もセルウスは、打ちひしがれている暇なくフィニア・フィニスに尽くしていた。甲斐甲斐しく皿代わりの葉に、いろいろと取り分けている。

 石畳の上なので、露出した地面の上よりはマシである。串焼きだけではなく、ピタパンサンドのようなものや何かの唐揚げ、野菜の素揚げまであった。野菜と肉の串焼きは彩りに見覚えがある組み合わせだったが、中身は違うようだ。アンファングならではの組み合わせなのかもしれない。


「いっぱいもらってきたから、ユーナもどうぞ。そっちのは、何か食うのかな」


 機嫌よく食事をしているフィニア・フィニスの笑顔で心が潤ったようで、セルウスは森狼のほうにまで気を配った。人としての評価を一段階上げて、ユーナは礼を口にする。


「ありがと。たぶん食べると思う……けど、ここから取っちゃってへーき?」

「足りなかったらまたもらってくりゃいいだろ。そいつだって功労者だ」


 自分でもらってくる気はさらさらないフィニア・フィニスの物言いだったが、確かに間違ってはいない。森狼アルタクスも立派に攻撃に参加していたのだから、食事くらい恩恵があっても罰はあたらないだろう。

 遠慮なく、ユーナも座り込み、手近な葉の上にいろいろと料理を載せた。森狼の前に置くと、彼は貪るように食べ始める。ひょっとしなくても、ボス戦前の食事では足りなかったのかもしれない。

 一方、ユーナはあまり食欲がわかなかった。ピタパンサンドっぽいのを手に取ったのだが、一口で気分が悪くなったので、齧ったところを手でちぎり、何とか飲み込んで、残りをアルタクスに託したほどである。


「んー? ユーナ、そこの施療院行くほうがいいんじゃないか?」


 殆ど食べない様子に、フィニア・フィニスは顎で神殿を指す。

 神官による癒しはもう受けているのだから、必要なものは安静だろう。ユーナは首を横に振った。


「テイマーズギルドで休ませてもらうつもりだから」

「ボクたちに構わなくていいからさ、早く行けよ。ってアンタ、他に羽織るもんないの? それ、上からだといろいろとさぁ……」


 フィニア・フィニスが頬を染め、チラチラとユーナを見る。ユーナはその視線の先、自分の胸元を確認して、慌ててシリウスの袖を強めに締めた。座り込んだ拍子に、袖が浮いてしまっていて、下着が丸見えだった。いろいろ危ない。


「普通に、着たらいいんじゃないか?」

「ここではちょっと」


 セルウスの指摘通りに外套を取れば、術衣の穴が見えてしまう。一度外さないと着られないのだから、もっとすごいことに……。

 ユーナは全力で拒否した。


「無理」

「だよな。まあ、森狼そいついるのに狼になるバカな男もいないだろうし?」


 フィニア・フィニスは肩を竦めて、更に串焼きにかぶりつく。確かに、今なら送り狼など頭から丸かじり可能である。そもそも、町中で性的嫌がらせセクシャル・ハラスメントなど、間違いなく警告イエロー行為だ。


「ええっ、お前、剣出たの!? いいなあ」

「俺、魔術師だぞ!? どこがいいんだよ!」


 テントの外側でのやりとりが、ユーナたちのところにまで聞こえた。広場でも座り込んで宴を楽しんでいるのだろう。すぐそばにまで人が来ているのがわかった。

 

「そういえば、レアドロ、何が出た?」


 口をもぐもぐさせながら、フィニア・フィニスが問う。

 さておいていたのを思い出し、ユーナは道具袋インベントリの中身をウィンドウで確認する。視線でスクロールしていく中で、見覚えのないアイテム名があった。

 白銅のアルカロット。

 道具袋インベントリに手を入れ、それを取り出す。掌ほどの、白銅で装飾された小箱だ。


「白銅!?」


 セルウスが大声を上げ、あわてて自身の口元を押さえつける。そして、PTチャットになっていたことを思い出して、安堵の溜息をついた。


「銅とかはアンテステリオンのボス戦でも出るけど、白銅って……」

「そういうセルのは?」

「銅でした」


 セルウスが差し出したのは、同じ装飾だが色が異なるアルカロットだった。きらめきがない、マットな銅のアルカロットである。

 名前は異なるが、銅でも白銅でも、説明書きは同じだった。


 ――使用すると、ランダムでアイテムが入手できる。取引不可。


 ガチャみたいなものだろうか。

 ユーナがじっくりと自分の箱を眺めていると、セルウスは自身が取り出したアルカロットの紋様の一部、円になっている場所を押した。箱が開いて光が溢れ、別の何かに変貌していく。光が弾ける。

 セルウスの手には、武骨なカイトシールドがあった。


「あ、ラッキー♪」


 ライトカイトシールド――防御力八、耐久度百/百の新品である。

 耐久度が激減していた盾を早速片付け、セルウスは立ち上がって構えてみせた。サイズ的にも、以前より大きい上、形としても取り回しがよさそうだ。うれしそうにセルウスは盾を振る。


「これ、表が金属で、裏側が木だから、ひょっとしたら彫れるかも」

「彫る?」

「術式だよ。杖がないと威力は落ちるけど、まあ、今は攻撃より防御とか支援メインだからね」


 ペルソナのように、細工師のスキルを持っているという。今夜にでも術式を彫ると意気込んでいる。


「希望のアイテムが出るの?」

「いえ、あくまでランダムなので……僕は運が良かっただけですね」


 フィニア・フィニスの問いかけに、かぶりを振る。

 早速、ユーナも使ってみることにした。

 丸い紋様を押すと、箱が開き、光が膨らみ、弾ける。

 現われたのは、短衣だった。白を基調にした、銀糸の縁取りのあるボートネックの袖なしで、とても可愛い。腕を覆う手袋グローブや胴回りのみを囲うコルセットのような皮鎧までついている。まさに今の季節にぴったりの一着である。

 ユーナが喜びに頬を緩めていると、フィニア・フィニスが弾んだ声で提案した。


「うわ、いいじゃん! 着てみろよ!」


 大きく頷き、早速ウィンドウで装備欄を表示する。


「ぐるぅ?」


 冷静なアルタクスのツッコミが入った。ユーナにはこう聞こえた。


「マジで?」


 危うく、装備変更をタップするところだった。

 ユーナはにこにことこちらを見ているふたりを睨みつけ、木箱を指さす。


「回れ、右ー!」

『はいっ』


 しっかりと森狼の巨体で外からも身を隠し、男性陣が後ろを向いているのも確認してから「装備変更」をタップする。

 着替えは、ほんの一瞬の出来事だった。膝上十センチ近くありそうだが、制服とそんなに差がないと思えば許容範囲である。括りつけられたままの外套をほどき、改めて上から羽織り直す。マントのように長くなっているが、ステータスで見ると防御力はかなり上がった。ぶかぶかの袖口は折り込んでしまえばいいだろう。服装を整えて、許可の声をふたりに掛けた。


「うん、もういいよ」


 アルタクスの影から立ち、くるっと回ってポーズを決め、感想を待つ。

 が、なかなかことばはもらえなかった。

 とりあえず、ふたりとも、顔が緩んでいるのでよしとしておく。


「がぅ」

「ありがとね」


 森狼に褒められたので、きっとカワイイに違いない。

 そして、ユーナは今更気付いた。

 かなり、アルタクスの意思が伝わってきている。


 その青と黒のまなざしを見返し、ユーナは森狼の鼻先を撫でた。心地よさげに、森狼はその手に鼻先を更に、すり寄せるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ