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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第三章 生命のクロスオーバー
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討伐隊参加

「遅いっ!」


 開口一番、文句を言われた。

 そのことばの雄々しさに、目を瞠る。絶対、隠してないよね。

 フィニア・フィニスの周囲には、計算づくなのか、偶然なのか、ユーナたちの他には人がいなかった。皆、天幕のほうに意識が向いているようで、登録の列に並んでない旅行者プレイヤーも天幕の周囲に陣取っている。

 時間的には、約束の二の鐘の鳴る前、である。結構前から待っていたのかもしれない、と思い至って「待たせてごめんね」と詫びを入れると、「待ってない!」と返された。会話がおかしい。

 すぐさまPT要請が飛んできた。受諾すると、仔狼の名の下にフィニア・フィニスが入る。会話がPTチャットに切り替わった。


「もう登録は始まってるんだ。PTリーダーだけ手続きをすればいいらしい。って、アンタのレベル、ボクより上なんだな……」


 フィニア・フィニスも確認したようだ。ユーナのレベルが十七に対して、フィニア・フィニスは十五、アルタクスが八である。結構やりこんでいるように見えたので、ユーナは意外に思った。すると、PTリーダーの権限がフィニア・フィニスから委譲される。


「レベル、高いほうが聖騎士様に覚えめでたくしてもらえるかもしれないだろ。登録よろしく」


 丸投げである。

 列の最後尾はあっちと指をさされ、仕方なしに、列に並ぶ。

 仔狼はユーナの足元にぴたりと着いた。離れているのはよくないという判断らしい。


「えっ、それ何!?」


 前に並んでいた杖を持った黒の術衣の男性が、ユーナたちに振り向きざま叫ぶ。

 その視線の先には仔狼がおり、声の大きさに周囲の注目を集めてしまった。


従魔シムレースです。わたし、従魔使い(テイマー)なので」


 にっこりと微笑み、胸を張って答える。騒がれるのは覚悟していたので、何の問題もなさげに見える反応を返すのは容易かった。ここでおたおたしたり、言いよどむと逆によくない。


「シムレース?」

「従魔っていう意味らしいです。ちゃんと町中を歩く許可も得ていますよ。従魔の印章(シグヌム)、見えます?」


 田舎者、ということばを思い出すと、自然と頬が緩む。

 ユーナが指先を仔狼の頭上に向けると、彼もそちらを凝視したらしい。


「へぇ……これが従魔シムレースかあ。すごいね。初めて見た」


 感心して眺める。すぐに列が進み始め、彼も気づいて前に動く。あと数組で順番が来るようだ。

 ユーナのことばで、すぐに周囲も恐れや怯えから、珍しいものを見る目つきに変わった。オープンチャットが聞こえないということは、逆にPTチャットで情報が共有されていると考えるほうが適切だろう。

 従魔使い(テイマー)の代表のような立場にちょっと面映いが、傍に付き従う仔狼を見ると、照れている場合ではないと気が引き締まる。アルタクスの眼差しは話しかけてきた前の男性を警戒している類のものだった。耳がピンと立っている。

 少し前に進んでもなお、彼は振り返って話を続けた。


「槍に剣まで扱えるなんて、よっぽど高レベルなんだろうね。……あのさあ、よかったら、PTに入れてもらえないかなあ」


 ユーナの装備を見て、激しい誤解をしたまま、彼は加入を希望してきた。ユーナの笑顔がそのまま凍りつく。

 さすがにマズイと判断し、ユーナはメンバーに訊いてみる、と言ってフィニア・フィニスに問う。


「はぁ? 何でそんなことになるんだよ」

「わたしのこと、レベル高いって思ったみたい……」

「断れよ」

「了解」


 至極申し訳なさげな顔をして、ユーナは男性を見上げた。


「すみません、ちょっと難しいみたいです」

「そこを何とか……」


 粘ろうとした男性の、順番が回ってきた。

 名残惜しそうにユーナを見てから、受付の前に立つ。オープンチャットのため、内容が丸聞こえだった。どうやら、彼はソロでの参加のようだ。個人参加も可能のようだが、討伐隊に参加するPTへ割り振ることも可能という話を聞いて、後ろを振り向く。


「それなら、こちらのPTに割り振ってもらえませんか?」

「無理やり入ってくるかも」

「マジで!?」


 PTチャットでの呟きに、ありえねーと返される。今回ばかりはフィニア・フィニスのことばに、激しく同意する。断られてなお入りたがるって、獅子身中の虫ではないか。連携の取れないPTがどれだけ自殺行為なのか、これまでの経験上、ユーナもよくわかっているつもりだ。信頼がなければ、どの戦闘も乗り越えられなかった。そして、初対面からいろいろとひどくて中身はアレだが、フィニア・フィニスのどこかを、ユーナは信用しているつもりだった。現実的に言うと、それよりも遥かに、アルタクスを信頼している。罠にかけたフィニア・フィニスなのに、一緒に行こうと道を示してくれたのだ。間違いであるはずがない。

 迷惑そうなユーナの表情を読み取って、受付担当者もやんわりと「それはこちらで適正なPTに声をかけますので」と言及を避け、登録を済ませた彼を天幕の外へ誘導する。渋々と従い、男性は外へ出て行った。

 ユーナの順番である。


「こちらはアンファング~エネロ間の街道に出没する、黒い魔獣の討伐隊受付となっております。事前に登録を済ませて参加していただくと、討伐完了の際、報酬として、みなさまの所属ギルドに対して討伐隊での貢献に応じた感謝状を贈らせていただきます。

 聖騎士マリス様は、本日は出陣式から閉門まで、明日以降は開門から閉門まで討伐隊に参加し、魔獣探索とみなさまの支援に当たります。十日のあいだに討伐完了しなかった場合、討伐隊は自然解散となります。討伐完了時には、勝利宣言後小宴を催しますので、是非ご参加下さい。期間内の食事や休息等は各自の判断でお願いします。

 なお、参加条件はレベル十五以上であることのみです。如何なさいますか?」


 シンプルに「討伐隊受付」という名前の女性NPCである。

 評判の聖騎士様は、彼女の後ろで地図を広げている男性だろう。想像通りの白銀に輝く全身鎧に身を包み、兜はテーブルの上に置いている。茶色の髪は凡庸なイメージだが、その横顔は端正な作りをしている。セルヴァやどこかで見た伯爵には負けるが。そろそろ美形に慣れてきたユーナだった。

 聖騎士様の参加云々の下りで、ユーナは不思議に思った。探索と支援。攻撃とか突撃とか討伐ということばはなく……。


「如何なさいますか?」


 問いを繰り返され、慌ててユーナは頷く。


「はい、登録をお願いします」

「ありがとうございます。では、こちらに手を」


 テイマーズギルドで触れた、記録水晶を示される。手を置くと、同じように中が一瞬渦巻き、すぐに凪いだ。PT表示の上に、「討伐隊参加」の文字が現れる。


「登録完了しました。従魔シムレースもご一緒ですね。今回の条件は旅の方向けのものですので、従魔シムレースには適用されません。どうぞお連れ下さい。PT加入中の方も同様に、討伐隊への参加登録完了となります。PTメンバーの補充は問題ありませんが、他のPTへの参加する場合には、登録済みの旅の方のみが討伐隊参加扱いとなります。個人参加や少人数PTの場合、こちらでPTメンバーの補充や編成を行うこともできますが、ご希望でしょうか?」

「いえ、結構です」


 既に返事は予測していたのだろう。ひとつ頷いて、受付の女性は笑顔でことばを続けた。


「もうまもなく出陣式が行われます。その後、街道に向かいますので、今しばらく広場でお待ちください」


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