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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第三章 生命のクロスオーバー
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露店

 本来なら、これから連携の超特訓なのよ、と言いながら、アニマリートはふたりを送り出した。看板を上げつつ、イグニスも視線だけで見送ってくれる。グラースは交替なので、休むと言っていた。

 既に町は目覚め、朝の清々しい空気が、刻一刻と熱を帯びてくる時間帯になっている。

 歩きやすい石畳を町の中央のほうへと進む。最初に訪れた時には、この北東の地区には全く足を向けなかったため、とても新鮮だった。既に人も行き交い、看板が下がっている店も多く、神殿前の広場に続く道なので、ところどころに露店も出ている。

 町中では、仔狼のほうがユーナの後ろに付き従うように歩いていた。その様子を見て、通りすがりが指を指して話題にしているのも、耳に入る。

 「犬がついてってるぜ。エサでもやったのかな」って、犬じゃないから!

 よく考えたら、まだ犬サイズの仔狼である。魔獣と口にするのはNPCだけかもしれない。石を投げられなければ何でもいいかと、ユーナは前向きに考えるようにした。仔狼も気にせず歩いているようだし。

 背後を気にしながら、足早に進む。

 神殿に近づくにつれて、露店の数が増えていく。敷物の上には、必ず一枚の羊皮紙が置いてある。あれが露店許可証だろうか。並べられているものは様々で、戦利品ドロップが多い。たまに、武器が一つ二つあるくらいだ。

 その店先をちらりと見やって、思い出した。


 そういえば、武器スキルを選ぶつもりでアンファングに来たんだっけ。


 腰に佩いた短剣たちは既に馴染みすぎていて、もう重さも感じない。双剣を操りたい、なんて思ったこともあったが、「テイム」スキルの次が気になる。よって、スキルポイントを他に割り振ることなどできない。そのスキルが、仔狼のためになるものだと良いなと思う。

 スキルポイントがなくても、自分に使えて、仔狼の邪魔にならない武器。

 考えてもなかなか答えは出なさそうだ。短剣は相当近づかなければならないので、ヒッドアンドアウェイが基本となる。スキルも体術もなしに、ボス戦で使うのは自殺行為だろう。襲われた時の自衛用と考えておく。リーチがあるものを勧められたので、そちらに思考が進む。弓矢はスキルなしだと仔狼に当たりそうだ。他には……。

 露店にある武器は、どれも耐久度がある程度減っている代物に見えた。どことなく歪んでいたり、刃が鈍っているものまである。よく手入れされていたセルヴァの短剣クリスと比較することもできない。セルヴァの短剣クリスは攻撃力が十三、耐久度は九十/百だった。初心者用短剣が六であるのを考えると、かなりいい装備を譲ってもらえたのだとわかる。露店の品は、おそらく旅行者プレイヤーの武器の買い替えで、不要になったものを二束三文で売っているようだった。長剣が多い。


「よー、そこのおねーちゃん! 安くしとくよ、どうだい!?」


 威勢よく声掛けまでしている旅行者プレイヤーまでいる。

 声音とは対照的に、どこかの事務所系アイドルのような面立ちの旅行者プレイヤーだった。その店先にも武器が二本と、戦利品ドロップ系が並んでいた。ふと足を止めて、武器を凝視する。鑑定スキルはなくとも、名前だけではなく、攻撃力と耐久度程度の情報は読み取れる。

 一本はショートスピア、攻撃力が十五、耐久度は七十/百だった。長さ的には一メートル強といったところで、柄が長い短剣のような代物だった。もう一本はショートソードで、攻撃力が十四、耐久度は五十/百である。肉厚で、刀身はユーナの肘から手先ほどのものだった。どちらも大銅貨二枚の値がついている。


 安い。


 エネロの商店で見かけた武器は、いずれも小銀貨一枚以上するものばかりだった。当然、そちらは新品で、耐久度は百のものしかなかったが、これほど差が出る理由がわからない。

 ユーナが凝視したまま動かないので、露店の旅行者プレイヤーは更に値を下げた。


「おねーちゃん、かわいいから大銅貨一枚でいいよ」

「えっ……って、安すぎませんか?」

「まあ、大銅貨一枚は安いわな。けど、大銅貨二枚なら、周りにもいっぱいあるからなあ……」


 その視線が周囲に向く。ここは通行人よりも、露店商のほうが多い。隣の店先をちらりと見やると、確かに違う武器だが同じ値段がついていた。


「アンテステリオンで買ったんだけど、今、割とリーズナブルな中古品が出回ってるから、そっちに乗り換えたんだ。マイウスで、NPCとの市街戦があったらしくてさ。その戦利品ドロップが、結構いいんだよ。あ、大事に使ってたから曲がったりはしてないし、ちゃんと拭いてあるよ?」


 今ならショートソードは鞘もサービス!と付け加える。


 使ったことのない武器だから、使用感がわからないのだ。

 なら、使ってみればいいんじゃない?


 ユーナは大銅貨二枚を差し出した。

 露店商は目を瞠る。


「え、おねーちゃん、両方のスキル持ってんの?」

「あははは……」

「あ、ゴメン。スキル振りなんてむやみにバラせないよな。こっちも助かるからいいや! まいどありーっ!」


 何もないです、とは言えず、笑って誤魔化そうとすると、違うほうに誤解してくれた。ありがたく武器を二本調達する。とりあえず、初心者用短剣は道具袋に片付け、短剣クリスは反対側に佩く。そしてショートソードを左側に吊り、ショートスピアは手に持つことにした。


「おねーちゃんも、討伐隊に参加するんだろ? 俺はちょっと手持ちが心もとないから、ちょっとだけ商売して、午後から参加のつもりなんだ。一緒になったらよろしくな!」


 笑顔で頷き、その場を後にする。

 ショートソードは腰に重量がかかっているので、それほど気にはならなかった。ショートスピアは傘よりも当然重い上、穂先に鞘がないため、持ち方が難しい。穂先を下に向けると仔狼に当たりそうで怖い。上に持つと、誤って目を突きそうだ。ユーナは手近な露店で革紐を見つけ、例の別荘産布で穂先を包んだ。戦闘時は引き抜けば良い。

 レベルが上がっているからだろう。歩く程度ならば疲労度の消耗は僅かで、問題なさそうだった。


 神殿の正面に、天幕が一つ立っていた。討伐隊受付とわかるように、幻界文字ウェンズ・ラーイの垂れ幕がかざられている。露店禁止区域となっているようで、少し離れたあたりから露店が林立していた。多くの旅行者プレイヤーが参加すると思っていたが、集まっている数は十数人ほどに見えた。思ったよりも少ない。

 あ、フィニア・フィニスに連絡しないと、と思った時には、もう相手からメールが届いていた。


『神殿前の受付近く、街灯下で待ってる』


 用件のみだったが、それでフィニア・フィニスが退院を許されたのだと知ることができた。さすがに抜け出してまで討伐隊参加は危険すぎる。

 ユーナは受付の垂れ幕から、街灯へと目を向けた。一番近くの街灯の下に、確かに金色の髪が煌いている。相手も周囲を見回していたので、ショートスピアを振ってみた。気付いたようで、そっぽを向く。何故。

 振り返り、仔狼を確認する。思ったよりも足元に近いところにいた。


「行こう、アルタクス」


 声を掛けると、フン、と鼻を鳴らす。

 黒い毛並みが微かに緑を帯びて、陽の光に照らされていた。

明日の更新は遅れても行う予定でしたが、土日は休むことにしました。

次の更新は月曜になります。ご了承くださいませ。

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