従魔使い
テイム&従魔ゲットに必要な代金を修正しております。
ちょっと高すぎました!
「え、わたし、まだ従魔使いじゃないんですか?」
「厳密に言うと、従魔使いであるとも言えるし、従魔使いではないとも言えるということだな」
アニマリートのことばに質問を返すユーナに、イグニスは肩を竦めてみせた。
職業で言う従魔使いと、スキルを有しているのみの従魔使いには、大きな隔たりがあるという。
それは、スキルの有無が職業に直接結びつかない、幻界のシステムの話だった。アシュアが神官であり、ペルソナが魔術師であるように、当該スキルを持った上に職に就いた者は、義務を負う代わりに所属している機関から支援を受けることができる。その機関はもちろん、神官の場合は神殿であり、魔術師の場合は魔術師ギルドであり、従魔使いの場合はテイマーズギルドである。
アニマリートが望むのはもちろん、テイマーズギルド所属の従魔使いとなることだった。
「テイマーズギルドに所属する従魔使いの従魔は、無条件で従魔の印章が得られるの。どの町や村にも、従魔使いと一緒なら入れるようになるのよ。まあ、宿代は従魔分、余計に取られることもあるかも」
所属していない従魔使いが、自身の従魔に従魔の印章を得る場合には、一体につき大銀貨一枚が必要だという。
他の利点と言えば、従魔について相談しやすかったり、各地のテイマーズギルドで訓練を受けて熟練度を上げたり、銀五枚を支払うことで相性の良さそうな従魔候補と顔合わせをさせてくれることなどが挙げられるそうだ。ただ、従魔使いの数が少ないため、各地のテイマーズギルドで駐在する従魔使いも一人か二人程度なので、実際に訓練場所が無料で借りられる程度だったり、銀五枚も支払うのにあくまで顔合わせだけで、テイムできるかどうかは不明だったりする……との説明に、ユーナは判断に迷った。最初の従魔の印章だけでは、動機として弱すぎる気がしなくもない。
それにしても、フィニア・フィニスの言っていた話はどこにいったのだろう。当然小金貨二枚という大金が財布には入っていないユーナは、恐る恐る尋ねた。
「あの、小金貨二枚でっていうのは……?」
「それは、『テイム』スキルを持っていない子の場合ね。最初だけは従魔を得られるまで付き合うから、そのお値段なの」
アニマリートのあまりのひどい説明っぷりに、イグニスは片手で顔を覆い、声もなく嘆いていた。深い深い溜息をついたあと、ようやく口を開く。
「アニマ……その話だと、従魔は外で待たせておけばいいし、他のギルドでも訓練場程度貸すだろうし、これ以上従魔がほしくない場合にはもうメリットがないぞ……」
「あ」
何となく、テイマーズギルド所属の従魔使いが少ない理由がわかった。
ユーナは指摘しないように、そっと視線を泳がせる。アルタクスが冷たくこちらを見ていたが、そこは視線を合わせないのが大事である。
「だって、誘魔香とか幻魔香とかあんまり売りたくないし……あ、野宿でのごはんづくりならグラースが教えられるかも! アルタクスと一緒に食べたら仲良くなれるんじゃない?」
ごはんづくりも気になるが、「アラマートって?」と首を傾げるユーナに、イグニスが丁寧に教えてくれる。
手懐けしたい魔物を引き寄せるための薬香が誘魔香で、幻魔香は魔物の本性を失わせることで無理やり従魔にする確率を高める薬香である。誘魔香のほうは複数の魔物をおびき寄せてしまう危険性があり、幻魔香を用いて賢い魔物を手懐けしてしまった場合、切らすと従魔が主に牙を剥くことがあるという。確かに、聞くからに欲しくない代物である。その他にも、魔除けの薬香などは格安で譲ることができるそうだが、商店でも普通に買えると付け加えていた。正直なひとたちである。
「えーっと、デメリットって、どういうものがあるんですか?」
メリットについて言及するのはこれ以上避けておいて、二人が明らかにデメリットであると言うものが何なのかをユーナは問うた。
「どこの所属でも同じなんだけど、加入する際、銀一枚が必要ね。あと、所属先からの緊急依頼とか、長からの指名依頼を断り続けたり、加入後、所属先の依頼を一定数こなさないでいると除名になるのも同じ。テイマーズギルドの場合、もう一つ義務があって……従魔の生態記録を、従魔使いの能力記録ごと報告しなくちゃいけないの」
報告自体は記録水晶という宝珠に手を翳すだけだが、テイマーズギルドのある町村に立ち寄る度に行う必要がある。情報はテイマーズギルド間で共有される。悪用しないという契約にはなっているが、記録を取られることに忌避がある人には向かない。
「あと、従魔使いが行方不明になったはぐれ従魔や、不要と判断された従魔はテイマーズギルドの預りとなる。主が引き取りに来れば、手数料として銀一枚と引き換えに従魔は戻される。身内に後継者がいる場合、そのまま引き継がれることも多いが、新たな主を探したり、従魔の研究機関が引き取ることもある」
「私がいる間はぜーったい研究機関には渡さない!」
「期待しよう。さて、大まかな説明ではあるが、以上だ。何か質問は?」
イグニスに問い返され、ユーナは首を振った。
アニマリートは身を乗り出して言い募る。
「私がギルドマスターを引き受けているのは、従魔使いが従魔とより良い関係を築ける、お手伝いがしたいっていうのが一つと……従魔使いや従魔が不遇な扱いを受けないで済むように、緩衝材になりたいって思っているの。
ユーナみたいに、自分でテイムを身につける従魔使いは、本当に希少で……従魔使いとしての適性としては素晴らしいと思う。これから、多くの従魔があなたと行動を共にしたいと願うでしょう。その力を、貸してもらえないかな?」
正直、ギルドに所属することの重さがよくわからなかった。
従魔に対する愛情も、アニマリートを見ていると、自分にはまだまだ欠けていると思う。
ただ、間違いなくはっきりしていることもあった。
見下ろせば、漆黒の仔狼はユーナの足元で寝そべっている。
今はまだ、その毛並みは足に触れてはいなくて、微妙な距離を保っていた。
アルタクスと、良い関係を築いていきたい。
その道しるべを示してくれた、アニマリートの求めに応えたい。
ユーナは頷いた。
「はい、よろしくお願いします」




