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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第三章 生命のクロスオーバー
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絆の形

 よほど、買い付けた店が近かったようで、もうグラースが帰ってきた。

 器用に扉を開けたのだろう。両手に籠を持ち、肘で閉めている。イグニスがすぐに片方を受け取り、二人揃ってテーブルに戻ってきた。手際よく料理を並べ始める。


「日替わりにしました」

「ありがとー。今日のはご馳走しちゃうから、どうぞ食べて」


 野菜や肉の串焼きや白パン、煎り豆等、素手で食べられるものばかりだった。店の者が持ち帰りということで、気を遣ってくれたとグラースが語る。頭数の倍以上の量があり、テーブルの上が一気ににぎやかになった。

 いただきますを済ませて、ありがたくユーナは串焼きを頬張る。何となく、豚っぽい味だ。口にして、思っていた以上におなかが空いていたと気づいた。空腹度がどんどん回復していく。自分のおなかが膨らんでくると、仔狼のことが気になった。


「あの……」

「はぁひ?」

従魔シムレースの食事って、どうすればいいんでしょうか」


 一串をまとめて口にしたアニマリートは、返事に詰まる。グラースがすかさずお茶を差し出し、一息に飲み込んだ。消化に悪そうだ。


「んくぅっ、ありがとう! えーっとね、離れてるあいだは、勝手に食べてるからほっといていいの。産まれたばかりの従魔シムレースでない限り、つきっきりになったりはしないわね。一緒にいる時は、自分と同じようにごはんを食べさせてあげるといいわ。量的にはそんなにいらないの。ほんの少し自分のを分けるくらいでもじゅうぶん、空腹度は満たされるから。そうねー、心の栄養っていうのかなぁ……」


 同じ釜の飯を食う、ということだろう。

 ユーナは理解して、一つ頷いた。そして、質問を重ねようとして、言葉選びに難航する。


「今、アルタクスがその……ああいう状態なんですけど……」

「テイムしたばかりの従魔シムレースなんでしょう? 仕方ないって。何ていうのかなぁ……気持ちが通じ合わないんだよね、最初って」


 わたしを無視するんです、とか、言うこときかないんです、とかはさすがに言えなかったが、アニマリートは察してくれたようだ。従魔シムレースの位置づけがよくわからないユーナに、アニマリートは従魔シムレースとの関わり方を教えようとしてくれているようだった。

 従魔シムレースというもの自体が、主に従って当たり前というふうには聞こえない。ペットに近い気もするが、違うような気もする曖昧さ。

 気持ちが通じ合わないと言われて、ユーナは首を傾げた。その様子に、アニマリートは、ぱん、と両手を打つ。


「ねえ、ユーナがアルタクスをテイムした時のこと、聞かせてくれる?」


 頭に過ぎったのは、罠に掛かった仔狼の姿だった。

 そもそも本当に同じ個体なのかはわからない、と前提をつけてから、ユーナは話し始める。時折、イグニスやグラースからも、わかりにくかったところの質問を受けたり、食事が冷めるから食べながらでと注意を投げかけられ、補足を付け加えたりもしながら、テイム時について語った。

 人心地がついたのか、食事をほぼ終えた様子のアニマリートは、煎り豆をつまみ、指先で転がしながら、ぽつりと呟いた。


「復讐、かぁ」


 テイムとかけ離れた単語に、大きく目を見開く。

 あわててアニマリートは口の中に豆を弾き入れ、ぽりぽりしながら首を振った。


「あ、ユーナのことじゃなくてね。まあ、その、怪我した子? 罠仕掛けた相手だって、アルタクスはわかったんじゃないかな。匂いに敏感なんだよね、魔獣系って」


 アニマリートのことばに、グラースは頷いた。そして、強い口調でユーナに尋ねる。


「テイムの選択肢が出たのであれば、その幼生はあなたを主にすると心に決めたのでしょう。あなたはそれに応えたにも関わらず、何故ここに一人でいるのですか?」

「いや、まあ、今のアンファングに黒い魔獣はちょっとマズイし……あと、私も今の話聞くまで、何かの弾みでテイムしちゃっただけなのかなーとか思ってたから、ちょっと入れにくかったんだよねぇ」


 非難めいた言い方に、ユーナは視線を落とす。アニマリートはグラースの言い分も理解できたが、初心者従魔使い(テイマー)なユーナについては理解不足だったことを指摘し、彼女の食事も殆ど済んだことを確認した。そして、いつの間にか取り分けてあった野菜と肉の串焼きから串のみを引き抜いて、その木皿をユーナに差し出す。


「ほら、幼生あのコのとこ、行こ。ちゃんと待ってるから、ね?」


 内緒ね、と念押しして、席を立つ。

 イグニスとグラースはテーブルについたまま、二人の従魔使い(テイマー)を見送った。



 建物のほうの小門の上にある、木戸を薄く開ける。

 光が漏れて、外を狭い範囲だが照らし出す。見える範囲には、仔狼の姿はない。少なからぬ寂しさがふと胸を過ぎる。


 ――ぉん!――


 視線を巡らせていると、鳴き声が聞こえた。何かモノが落ちる音も、合わせて。

 ユーナの隣に立っていたアニマリートは、閂を上げた。小門を開く。

 淡い光が照らす場所へ、その持ち主が現れる。

 口に何かいっぱい咥えているようだ。

 ユーナが見ている前で、それらを地面に吐き捨てる。


「……アルタクス……」


 戦利品ドロップだった。小さな魔石が殆どで、何故か革袋も混ざっている。

 PT表示に現れたアルタクスの名の隣、その数字は七となっていた。

 名を呼ばれ、アルタクスは顔を背けている。しかし、その場からは離れない。

 ユーナの背を、アニマリートはそっと押した。


「ほら、おなかすいてるかもよ? ごはんごはん」


 言われて、木皿に視線を落とす。近づけば離れないだろうかと心配しながら門から出て、ユーナは戦利品ドロップの傍に木皿を置いた。


「これ、食べる?」


 声をかけると、仔狼の耳が震える。

 少しそのまま待つと、ゆっくり仔狼はユーナを向いた。そして、木皿に鼻を近づける。匂いを嗅いでいるようだ。


 ユーナは慎重に待った。


 ひくひくと動いていた鼻が、少し上を向く。

 次いで、大きな口を開き、仔狼は肉にかぶりついた。一心不乱に食べている様子が、とても可愛く見えた。気のせいだろうか、野菜を避けている気がする。


「うん、いい子だね。ユーナ、アルタクスががんばったこと、褒めてあげましょう」


 背後からの声に頷いて、食事中の仔狼にことばを掛ける。


「――ありがとう。待たせてごめんね、アルタクス」


 フン、と仔狼は鼻を鳴らし、そのまま肉だけ平らげ、頭を上げる。

 ユーナが「全部食べなさい」と言い放つと、本当に渋々といったように、残りを飲み込んでいた。

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