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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第三章 生命のクロスオーバー
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テイマーズギルド

「は、はい、ユーナです。どうぞよろしくお願いします」


 礼儀正しく頭を下げると、ひらひらと手を振ってアニマリートは先を歩き始めた。

 小門の中は、天井の高い広間になっていた。窓はないが、壁面には小さな石が嵌め込まれ、それがぼんやりと光っているため、室内は電球のような色合いの弱々しい光に満ちていた。左には更に小門がもう一つと、石造りの街壁が見える。右に通路があり、建物はそちらに続いていた。

 町の外と中でも、PTを組んだままでいられるようだ。小門に入った途端、地図マップの表示がアンファングを示している。外の様子が見えないせいか、PT表示に名前は残っているが、アルタクスの地図上のアイコンは消えた。

 遠吠えが響く。

 アニマリートは小門の向こうを見るように振り向き、うれしそうに笑った。


「あなたの従魔シムレース、ホントにかわいいね。ここで待ってるね、だなんて」

「そ、そうでしょうか」


 主であるはずの自分ユーナより、アニマリートのほうがよほどアルタクスを理解しているように見える。今の遠吠えは、ユーナにはどちらかというと、「とっとと出てこい」的に聞こえていて……正解がわからないので、何とも言えない。

 戸惑うユーナに向き直り、アニマリートは促した。


「もう、ギルドも閉める時間だったから、ちょうどよかった。看板下ろすから、表に行きましょう」


 開いたままの街壁側の小門を更にくぐる。そして、二人が通った後はこちらも閂を下ろした。


「ちょっとテイマーズギルド(うち)は特殊でね。さすがに町中で従魔シムレースの訓練とかはできないから、建物の一部を外に作ってるの。その分、小門の管理は厳重にしないといけないんだけどね。まあ、普段は閉めてるから……そのせいで気づくの遅れちゃったの。ごめんなさいね」


 街壁の小門の中は、壁の明かりは同じだったが、先ほどの広間の半分ほどしかない部屋になっていた。天井もそれほど高くない。そして、今度は大きな扉が一つ、正面にあった。精緻な獅子の紋様が彫り込まれている。テイマーズギルドの印だろうかと見つめていると、アニマリートはその扉を開き、ユーナに手招きした。


「お客様よ、イグニス」


 そこは、まるで食堂のような作りに見えた。

 石畳であるところがエネロの食堂とは異なるが、カウンターがあり、テーブルと椅子がセットでぽつぽつと置かれている。既に閉門の時間だからだろう。今はカウンターの内側に一人、男性が立っているだけだった。名を呼ばれてすぐ、軽く片手をカウンターに置き、飛び越えてこちらに来る。


「……従魔使い(テイマー)か?」


 イグニスの名を持つ、赤銅色の髪に褐色の肌の男性は、シリウスよりも身長が高かった。精悍な顔つきで彫りが深く、アニマリートより濃い赤い目で容赦なくユーナを見下ろしている。ユーナにしてみると首が痛くなるほど見上げねばならない相手だった。


「お外に従魔シムレースがお座りして待ってるくらいの、ね。

 ユーナ、うちの従業員のイグニスよ」


 アニマリートの紹介を受け、再度ユーナは頭を下げる。その頭に、大きな手が載せられた。くしゃくしゃと撫でられる。


「あら、気に入ったの? 珍しい」


 楽しそうなアニマリートの声に、どのタイミングで頭を上げていいのか迷う。

 そんなユーナに気付いたのか、満足したのか、あっさりとイグニスは手を引いた。


「あと……あ、グラース」


 表から看板を手に、色白の女性が現れた。アニマリートと同い年くらいに見える。その女性は、入り口の裏側に看板を下ろした。


「お客様ですか」

「そう。ユーナ、こっちが従業員のグラースね」


 アニマリートのように結い上げた髪は、青銀のように煌いていた。綺麗な顔立ちをしているが、どことなく冷たい印象を受ける。同じ青い目なのに、アシュアと大違いだ。

 彼女にも頭を下げたのだが、起こした時には少し、最初とは違う印象になっていた。何故か口元が綻んでいる。


「ふふ、旅の方で従魔使い(テイマー)とは、珍しい」

「でしょ。ここでごはんにしたいから、何か買ってきてよ」

「いつもの店ので?」

「うん、よろしくー」


 美人の笑顔は第一印象を上書きする、と心にメモをしながら、カウンターに近いテーブル席に案内され、ユーナは椅子に座った。

 グラースはアニマリートの依頼通り、ギルドを出ていく。その時、開け放たれたままだった入り口の両開きの扉を、鍵はかけていないものの、両方とも閉めていた。イグニスはカウンターの裏へと歩いて戻り、今度出てきた時には木製の盆に四つの飲み物を載せている。

 テーブルに並べられたコップには、何と薬草茶ハーブティーが入っていた。礼を言って口にすると、少し温まった気がする。

 目線をコップから上げると、アニマリートの紅玉とぶつかった。同じように温まっていた彼女も、ふんわりと笑う。そして、コップをテーブルに戻して、口を開いた。


「さて、何からお話しましょうか」


 改めて尋ねられると、訊きたいことが山積み過ぎて、ユーナは口ごもってしまった。どれからというにも、うまく考えがまとまらない。そして、視線をギルドホール内に彷徨わせていて、ふと気づく。


従魔シムレース……ここにはいないんですか?」

「あー……」


 露骨にアニマリートの視線も彷徨った。訊いてはいけないことだったのだろうか。門番とアニマリートの物言いから、躾の行き届いた従魔シムレースならば、町中に入れるような気がしたのだが。そもそも、彼女は従魔使い(テイマー)ではないのだろうかと思い至り、とても失礼な質問だったのかもと危惧する。

 質問をどう撤回しようかとユーナが考えている間に、アニマリートは否定した。


「私の従魔シムレースはちょっと特殊なのが多くってね。あと、召喚契約コントラクトの子もいるから、従魔シムレースとして傍に置いたりはしてないの。見たいなら、喚びましょうか?」


 あれ? ここテイマーズギルド、だよね?


 いろいろと気になる発言だったが、ユーナの答えも待たずにアニマリートは左腕に着けた金色の輪の模様を撫でる。すると、召喚陣がテーブルのすぐ傍、ギルドホールの一角に描かれた。まるで命が砕け散る様子を、逆回しされるような光の収束に息を呑む。

 姿を見せたのは、一羽の茶色い梟だった。

 ユーナはふと動物園で見た梟を思い出したが、アルタクスほどのサイズではなかったような気がする。

 つまり、かなり大きい。

 くるりと首を回し、アニマリートに向けてホゥーと鳴く。


「あ、ごめん。ごはんこれからだったんだね。どうぞ、戻って食べてきてー!」


 再びするりと腕輪を撫でると、また形の異なる召還陣が起動する。あっさりと大梟は消えていった。

 場に沈黙が流れる。


「……一応、声を掛けてからのほうがいいかもしれんな」

「うん、反省してる……」


 イグニスの指摘に、アニマリートは深く頷いていた。

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