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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第二章 災禍のクロスオーバー
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キャラクター、デリート

 病院近くのパティスリーに寄ってから帰宅すると、見知った靴が二足、玄関に並んでいた。伯母と皓星である。伯母がいるのは仕様のようなものだが、夕食時でもないのに皓星がいるのは珍しい。リビングの扉が開く音に顔を上げると、靴の主が姿を見せた。


「まあ、入れよ」


 奥に促される。


「うん……って、わたしの家だよ!」

「そうよー、おかえりなさい、結名ちゃん」


 この母ありて、この息子あり。

 ケーキのことは予測済みなのか、打ち合わせ済みなのか、扉から見えたキッチンでは、伯母がコーヒーを準備してくれているようだった。病院帰りなので全身着替えて手を洗い、結名はリビングに戻る。

 既にお茶の準備は済んでおり、母も着替えて戻ってきていた。キッチンでは何かが煮込まれているようで、鍋がくつくつ煮立っている。伯母が夕食を作ってくれたのだろう。


「ほら、座れよ」

「だから、わたしの家だよ!?」

「そうよー、ほら、結名ちゃんはカフェラテだからこっちね。どのケーキがいい?」


 コーヒーに少しの砂糖を溶かし、たっぷりの牛乳を入れたマグカップを渡されると、結名はケーキの箱へと目を走らせた。ちなみに、母は結名がフルーツのミルクレープを選んだ後、すぐにモンブランに決める。お互い末っ子気質である。

 全員にケーキと飲み物が行き渡り、一息つく。

 口火を切ったのは母だった。


「皓君から聞いたんだけど……今回のこと、きっかけはゲームかもしれないっていうお話ね」

「……うん」

「お母さんね、よくわからなかった」


 眉を寄せて、皺まで作って、母は難しい顔をして答えた。

 結名は皓星を見た。

 どんな話をしたの?という眼差しから逃れるように、皓星は視線を宙に泳がせる。さっと伯母が手を上げた。


「伯母さんもわからなかったわ!」


 皓星の話の時にも同席していたのかと今知った。この姉妹は本当に仲良しだから、まったくおかしくはないのだが。

 とりあえず、理解を求めてみようと試みる。


「えーっと、どの辺が?」

「たぶん、全部」


 説明を放棄したのであろう従兄が代弁した。

 昨夜、結名が寝入った後、伯母と二人で両親の帰宅を待っていたそうだ。両親は担任に呼び出され、夜中に学校で土屋とその両親に会っていた時のことである。両親が帰宅してから、皓星は結名が話した内容をできるだけわかりやすく話したらしい。本人曰く、そっくりそのまま。

 すると、女性陣はその時にも「わからない」と声を揃えたのだという。


「だって、おかしいじゃない。何で結名だってわかるの? 似てるの、名前だけなんでしょう?」

「しかも、皓星も一緒のゲームで遊んでて、最初結名ちゃんだって分からなかったって言ってたじゃない。たかが(・・・)クラスメイトに何で分かるの? あなた、クラスメイトに負けたの?」


 似たような顔が二つ、首を傾げる。

 何となくそんな気もしていたのだが、結局待ち合わせるまで分からなかった皓星は視線を逸らした。


「勝ち負けじゃないだろ……」


 何だか完全に敗北口調にしか聞こえない。

 更に姉妹は言い募る。


「どう考えてもおかしいじゃないの。いっぱいひとがいて、その中であなたが結名だってわかるだなんて、エスパーかストーカーよ。お母さん、絶対違うと思う」

「うんうん、絶対思い込んでるだけよ。そもそも、相手だって、敵だったかどうかわからないんでしょう?」

「単なる人違いかもしれないじゃない」

「とっても無関係かもね」


 揃って「ねえ」と仲良く大きく頷く。

 結名はぼんやりと思い出してみた。何で、土屋は自分ユーナを知っていると思ったのだろう……。

 考えていくと、やっぱり、あの目なのだ。


「睨まれたの。すっごく」


 確信していなくて、あれだけガン見するだろうか。

 間違っているかもしれないのに、あれだけ無神経に人を引っ張れるのだろうか。

 考えるだけわからなくなってくる。


「結名が気に入らなかったとかかもしれないだろ」

「それまでは口聞いたこともなかったのに?」

「うーん……いきなり?」

「うん。五限が発表プレゼンだったの。すぐに当たっちゃって、でも、皓くんのおかげで上手にできたんだよ。で、すぐの休み時間にはもう絡まれてた」


 本当は、もっと喜んで報告できることだったのに、そのあとの事件で台無しである。

 結名が思い起こしながら続けると、皓星は頭を抱えた。


「あー……じゃあ、それかも」

「それ?」

「プレゼン。浜脇先生、フルネームで呼んでないか? 名は体を表すとか言いながらさ」

「あ……」


 確かに、結名もフルネームで呼ばれて、そのあと発表だった。


「一分だぞ。他のこと何も考えずに、ユーナのことを思い出しながら、人ひとりをじっくり見てたら……気づくやつは気づくんじゃないか? アバターのほう、体形は同じにしてあるんだろう?」

「……うん……」


 髪や目の色はもちろん、髪の長さや顔立ちはちょっと美化して変えてある。

 しかし、ユーナは結名とまったく同じ身長で、体形だ。あの、ボス部屋の前でじっくり眺められていた時のことを、思い出されていたとしたら? 皓星の指摘した可能性は否定できなかった。


「好きでもない女の子のこと、そんなに覚えてるかしら?」

「やあね、結名ちゃんかわいいから、気になってたとかならあるんじゃないの?」

「お父さんが聞いたら、示談成立しない気がするわ」


 じっくり見られていたのはゲームの中のほうのユーナだが、母も伯母もそのあたりがあまり、区別できてなさそうだった。


「――なあ、結名」

「な、何?」


 改めて名を呼ばれ、結名は身を縮めて問う。

 頭を抱えたまま、視線を合わさずに、皓星は提案した。


「キャラクター、消去デリートしないか?」


 最悪の、提案を。

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