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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第二章 災禍のクロスオーバー
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経過観察

 さすがに昨日の今日での登校はできず、朝から瞼を冷やしたり、病院に行って精密検査や治療を受けたり、心療内科医に話を聞かれたりした。手の痛みはすぐに消えていたし、腕のほうも全治三日という診断が出た。要するに、大したことはない。心療内科医も特段指摘する事項もなかったようで、念のため、しばらく学園のカウンセリングに通うようにとは言われた。たぶん、昨日泣きまくったのがよかったのだろう。だいぶ気持ちも落ち着いた。顔はもう大惨事だが。

 あちらこちらとたらいまわしにされたせいだろう。病院は午前中だけで済んだにも関わらず疲れてしまい、母と二人で食事を取ってから帰ることにした。


「大したことなくて、ほんとによかったわねー」


 病院の食堂で日替わりランチをセレクトし、思いっきりスパゲッティミートソースを頬張る結名を見て、母は心をこめて呟いた。その声音に、結名は一旦フォークを置く。


「心配かけて、ごめんね」

「結名が悪いわけじゃないんだから、気にすることないの。親っていうのはね、心配するものなんだから」


 百パーセント自分が悪いわけではないとは思っていない結名は、その言葉に複雑な笑みを返した。苦笑である。朝、皓星からも話を聞いていると言っていたので、知らないはずはないのだが、それでもなお、結名は悪くないと彼女は繰り返していた。いかなる事情があろうとも、人を傷つけていい理由にはならないというのが、両親の言である。ごもっとも。


「そうそう。さっき、結名が診察室入ってた時ね」


 携帯電話に学園から着信が入っていたため、母は折り返したそうである。

 内容は、土屋の処分についてだった。

 今のところ、転学のほうで話が進んでいるという。実は、今回の件を知った他の生徒から訴えがあり、芋づる式に他の暴力行為が露見したらしい。ただ、怪我がなかったりもう癒えていたりして、証拠もないために、そちらの件については処分できないそうだ。だが、結名の一件だけでも、当然処分しなければならない内容である。停学では同じ教室に復帰することになるので、彼女の身の安全と心の平穏を優先させるため、退学か転学をという二者択一を迫った結果という話だった。当初は指導自体が一回目なのでという意見も出たそうだが、警備員のほうは頭部を打つ重傷のようで、事の重大さに厳しい判断となった。それも、警備員との示談と引き換えにという、学園と土屋両親との交渉もあったらしい。学園側は単純に土屋を見捨てない姿勢を見せているようで、他県だが系列校への転学だそうだ。ただ、結名の件は、既に暴行罪として警察へ被害届が出されている。これは父母が譲らなかった。


「うーん……どこかに行ってくれるんなら、もういいかも」


 昨夜、結名の眠っているあいだに、土屋の両親が担任を通じて頼み込み、結名の父母と学園で待ち合わせて話し合いの場を持つに至ったそうだ。本人も結名を引っ張ったり叩いたこと等の暴行の事実は認めていたので、事情聴取が手早く済んだためか、既に警察から戻ってきており、その場に同席していた。ただ、言わされている感の強い反省と謝罪だったという。とりあえず父母も話を一応聞いたが、聞くだけにとどめたそうだ。何と言っても、しつこく結名に会いたいと繰り返していたらしい。断固拒否である。当然、父母はその意を汲んで、結名への接近禁止令を出してきたそうだ。

 結名にしてみると、行きたかった学校にようやく通えている今を大切にしたい気持ちが強い。これ以上煩わされたくないのが正直な意見である。よって、何もかもを両親に任せてしまうことにした。

 母は大きく頷いた。


「結名がそういう気持ちなら、お母さんもそれでいいわ。二度と会いたくないから、消えてくれるなら大変結構よね」


 未だに怒り狂っている様子がはっきりとわかり、結名は口元をひくひくさせて頷き返した。示談についても、両親に任せておけば問題ないだろう。


「それなら、明日から学校に行ってもいい?」


 結名の問いかけに、母のまなざしが強くなる。視線が泳ぎそうになるのを、がんばって見返す。ここで弱気になっていたら、絶対に許してもらえない。


「しばらくは、お休みしてもいいのよ?」

「だって、授業あるし」

「無理しなくていいのよ?」

「むしろ休むほうが無理っていうか……」


 ぶつぶつではあるが、しっかり反論すると、母はあっさりと折れてくれた。

 小さく溜息をつき、肩を落とす。


「まあ、今日はゆっくり休みなさい」

「うん!」

「でも、送り迎えはするからねっ」

「はぁい……」


 十分とかからない距離を自家用車で、という贅沢に眩暈がするが、仕方ない。結名は力なく返事をして、再びスパゲティを頬張るのだった。

 

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