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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第十二章 飛躍のクロスオーバー
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力比べ


 召喚術師サマナーヴィーゾフは杖を掲げた。

 召喚陣がアリーナへと描かれる。現れたのは、緑色の大蜥蜴だった。体長は地狼アルタクスよりも大きい。それがのたのたと六本の足で歩き出し……短い吐息と共に、十字の刃がその身体を断ち切った。砕け散るグラフィックを横目にくるりと刃を回してシンクエディアを構え直し、奏多は召喚術師へと言い放つ。


「悪いけど、こんなので時間潰しされるわけにはいかないんだよね」

「――召喚アンヴォカシオン三体の(トリィーブス・)草蜥蜴(ラチェルターエ)


 おしゃべりをする気がないのは好印象である。ヴィーゾフは術句マギア・ラティオを口にした。更に、召喚陣が三つ増える。

 まったく同じ大蜥蜴が三匹同時に沸き、奏多を取り囲んだ。口を開く動作を目にし、彼は軽く高みへと跳躍する。その表情が、驚きに彩られた。


「来たれ聖域の加護(サンクトゥアリウム)!」


 飛び出した舌が奏多を襲う。しかし、柊子アシュア聖句サンクトゥスが聖域を築き、その身体を守った。神術陣が円筒形に効果を発し、攻撃を無効化する。

 そして、黒の疾風が駆け抜けた。彼の正面にあった大蜥蜴はその牙に屠られ、風に消える。駆け込んだ皓星シリウスが、無造作に一匹の首を撥ねた。銀の外套を翻し、黒の魔剣が大蜥蜴を刺し貫く。黒い靄へと融け、大蜥蜴は不死伯爵の糧となる。


「――ここは幻界ヴェルト・ラーイじゃないぞ」

「あー……鍛えてたつもりなんだけどなー」


 体勢を整える剣士に指摘を受け、奏多はがっくりと頭を下げた。思ったよりも高さが出なかったのは、まさにそれが理由だった。日々のダンス系鍛錬では、幻界ヴェルト・ラーイのステータスを越えることはできなかった。


「なるほど、歴戦の勇士も夢の中では不慣れか」


 揶揄うような不死伯爵アークエルドのことばに、肩を竦める。その視線の先で、新たなる召喚陣が沸く。

 ふよん、とした透明な水分の塊が出現し、彼らの表情から笑みが消えた。


「避けろよ。――紅炎乱舞イグニス・バイラール!」


 紅蓮の魔術師の声に応え、射線から三人は退く。地狼はすでに主の傍に戻り、巨大な火球に合わせて動く表情を見つめていた。

 彼の中には最初から敵に対する情けも容赦も存在しないが、今回は回復薬ポーション丸薬ピルラも使えないという制限がある。一目でアンテステリオンのクエストボスと同種と判断した真尋ペルソナは、相応の火力を叩き込んだ。蒸気が視界を奪う。砕け散った光の破片が、次なる召喚を促した。


召喚アンヴォカシオンルフ!」


 宙に描かれる召喚陣から、かつて舞姫メーアの命を脅かした魔鳥が姿を現す。高い位置にまで昇る姿を見上げ、奏多は舌打ちした。勝てた気がしない相手である。

 しかし、魔鳥にとって最悪の相手がこの場にはいた。


「――光撃の矢(ペイル・グリッター)!」


 隠蔽セグレートによって完全なる死角から放たれた一矢が、魔鳥ルフの喉元を貫き、即座に消滅させる。

 光学迷彩から己を解き放った颯一郎セルヴァは、新たなる一矢を番えながら告げた。


「ファーラスの名が泣くよ?」


 しかし、その声に応える者はいなかった。

 ヴィーゾフが膝をつく。しかし、それでも術杖を構えて、彼は最後の力を振り絞り、叫んだ。


「――召喚アンヴォカシオンオルトロス!」


 最大の召喚陣が描かれる。双頭の魔獣が、上半身を顕した時点で大きく吠えた。その声は獣と、爬虫類のもの両方が混ざっていた。血走った赤い四つの目、うねる鬣と尾の一本一本が細い蛇であり、意思を持って蠢いている。


 その瞬間、彼は動いた。

 自身の頭部よりも大きな戦斧ウォーアクスを軽々と振るい、拓海シャンレンは駆け出す。全身鎧プレートメイルに身を包んだ交易商は、オルトロスの出現とほぼ同時にその頭部を一つ、落とした。まとわりつく蛇を巨躯ごと蹴り、地面に倒すことで引き剥がす。その感触の空虚さに、彼もまた顔を顰めた。

 じわり、とHPバーが削れる。状態異常に刻まれた文字は「毒」だった。


「下がれ、シャンレン!」

「――はい!」


 追撃を迷うことは許されなかった。

 軽く戦斧を振り、起き上がろうとするオルトロスの動きを牽制するのが精一杯だ。そうして下がる拓海シャンレンと入れ違いに、颯一郎セルヴァの矢が飛ぶ。その一矢は四つあった瞳の一つを貫いた。残るは一つ。

 前へ出ようとする皓星や奏多を追い越したのは、双子姫だった。方天画戟ガウェディガイスがもう一つの頭へと食らいつき、鎖鎌クラモアの鎖が蛇たちを打ち払う。不死鳥フェニーチェの幻炎がその牙を鈍らせる隙に、その刃が尾の蛇の頭を断った。

 そして、押さえ込んだ頭を、闇の剣が刈り取るべく刺し貫く。



「あくどいわね」


 瞬く間に減少していく数値に眉を顰め、神官アシュアは拓海の腕を取る。関節部分には駆動のため隙間が多い。そこを狙われたようだ。


「――血を巡る忌まわしき闇よ、わが手によっての者より払われ出でよ……清めの祈り(カリス・マリーツァ)


 祈りのことばは正しく発動した。毒表示が消え、数値の減少に歯止めをかける。だが、足りない。続けざまに彼女は聖句サンクトゥスを口にする。


「わが手に宿れ、癒しの奇跡(クラシオン・リート)!」


 黄色に染まっていたステータスバーを、一気に緑にまで戻す。体自体は何事も感じないにもかかわらず、ステータスが死に近づくさまを見て拓海は溜息を吐いた。


「これは、危ないですね」

「痛くないから、どこまでも動けちゃうものね」


 見た目は全身鎧だが、触れた感触はただの服だ。

 傷跡ひとつ残らない様子に安堵し、柊子はその腕を撫でてポンと叩いた。まるで「いってらっしゃい」と背中を押されるような感覚に、片眼鏡モノクル越しのまなざしが和らぐ。



 人のものではない絶叫が上がる。

 オルトロスへと、彼女の視線が向く。その漆黒の髪が舞った。


「――気をつけます」


 視界に降りた一筋に触れながら、そっと手放す。

 再び戦斧ウォーアクスを担ぎ、拓海は前方へと戻っていった。


 そして。

 魔獣オルトロスは砕け散る。






 一分。

 たったそれだけの時間で、連続して葬られていく召喚獣の姿に、会場が沸いた。


 側近の腕が上がる。


「そこまでだ! ――次!」


 召喚術師サマナーヴィーゾフの姿が消える。

 そして、新たなる術者の登場に……結名は目を瞠った。


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