武器を手に
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
というわけでお待たせしました。
本編の更新です!
「では――汝ら力を示せ!」
衛兵隊長が腕を大きく右へ振るう。それに合わせて、今井ディレクターが「ファーラスに力の神の祝福あれ!」と唱和し、どこからともなく床を打ち鳴らす音が響いた。少し薄暗かった室内だったが、同時に照明の明るさを戻される。
合わせて、衛兵隊長と今井ディレクター、女性衛兵はスタッフ用の扉から退室した。スクリーンに「一:〇〇」が表示され、それが「〇:五九」とカウントダウンを始める。
単なるシンクエディアなら。
結名は目を凝らした。名次奏多の手元にある二振りは、彼女が扱う双剣と同じものだ。小柄な彼女が扱うにはやや大振りに見えた双剣だったが、奏多が手に持つとそれほどの大きさには見えない。シンクエディア自体はアルカロットでも出現する一般的な短剣である。その上、エスタトゥーアが強化したものかどうか、ユーナの鑑定能力ではわからなかった。
だが、彼には判った。
片眼鏡に映し出された事実に、拓海は息を呑む。その様子を見定めていた颯一郎は弓を手に持ったまま、名次奏多へと歩み寄った。
カウントダウンが進む。
あと五十秒。
おもむろに彼は身体を傾け、何か小さく耳打ちをしたように見えた。奏多は躊躇いなく頷き、視線を日和へと向ける。
「エスタ、それ貸してよ」
先ほどとは違う微笑みが広がり、彼の指先が、日和の身に纏う……鈴を示す。日和は驚きもせず、ただ溜息を吐いた。彼女の指先が、鈴の輪を取り外す。
それがふたりの答えだと、誰もが解った。
シャララン、と鈴の音が涼やかに鳴る。
彼が双剣を持ち、軽く素振りをすると、そのすべてが舞となった。響く音色はリズムを刻んでいて。
結名はあの朝を思い出した。
クラン一角獣結成の翌朝。
誰もが酔い潰れて、食堂の床に転がって。
彼女とふたりで、顔を洗いに外へ出たのだ。
「――ホント……いつでも身体が音楽奏でてる気がする、ね」
奏多は振り向いた。
舞姫は微笑む。すっかり男になった顔のまま、艶やかに。
「それ、すんごい誉め言葉だよね、ユーナ」
そして、その結名のとなりで、芽衣は――真尋の術衣に縋りつき、打ち震えていたのだった。
「何あれマジなのもーどうしたらいいんですかあたしねえ師匠!?」
「知らん」
声音に対し、その手は優しく彼女の背を撫でる。真尋の指先に、芽衣は慌てて身を起こした。まともに視線が正面で絡み合い、より一層頬が赤く染まる。だが、逆に真尋の視線は冷たかった。
「お前、ここに何しに来たんだ?」
術杖を肩に担ぐように持ち、いつものように彼は言い放つ。
「戦わないなら、帰れ」
そのことばに、芽衣は目を瞠り――自分の頬を両手で打った。パシン、という音に、皆の視線が集まる。
芽衣は舞姫を見た。やけに背が高く、イケメンすぎるが――あれはあくまで、ソルシエールの知る、明るく強かな舞姫だと内心で繰り返す。
睨まれた奏多もまた、困ったように笑った。
その表情が、ちゃんと舞姫の彼女と重なる。
芽衣は息を吸い――手首にぶらさがった投刃を握った。
途端、奏多の表情が変わる。戦いに挑む、舞姫の顔だ。
雷の魔女は一振りした。手首を翻すと、まっすぐにその刃は奏多へと飛ぶ。
彼はそれを双剣で軽く弾いて見せた。地に落ちた刃はそのまま消え去り、しかし、芽衣の手にはまたもや投刃が戻っている。芽衣の口元が歪んだ。
「……やるじゃない」
「術式込みだったら避けてたよ。痺れるじゃんか」
肩を竦める奏多に、芽衣はちゃんと笑い返した。
あと二十秒。
残された時間を、皆、武器やスキルの確認に費やしている。
柊子の指先が宙を舞う。普段とは違う神術の発動のタイムラグを抑えるために、ショートカット作成に余念がない。
皓星と奏多が互いに剣を振るう。その刃先がどの位置なら当たるのか、当たらないのかを確認するように動く。その光景を、黙って拓海は見つめていた。時折、戦斧を握った手首を返し、その大振りな動きを確かめている。
真尋と芽衣はそれぞれ、術式刻印を撫でていた。複雑な指先の動きが、術杖や投刃の背に光の軌跡を残す。術自体は発動させずに、口許でも何かを呟いているようだった。
日和の持つ弦楽器は、ただ指先を触れさせるだけで、旋律が溢れた。柔らかな音はいつもの彼女のそれと少し強さが異なり、しかし、曲は変わらない。
颯一郎は流れるように、背の矢筒から弓へと矢を番える動作を繰り返し練習している。
そして、結名は……マルドギールを握りしめたまま、水霊の指輪を見つめていた。
祈りは、心は、伝わらない。
ショートカットで選べる水の精霊術では物足りないものを感じながら、それしか選べないのは、結名も柊子と同じだった。
だが、現実に、皆を喚ぶのなら。
その力の全てを活かしたい。
結名は、水霊の指輪へと口づけを贈る。
その青の石が煌いた時、すべての数字は〇を示した。
鎖が巻き上がる音が響く。それに合わせてスクリーンが上昇し、その向こうの扉が開かれる。
広がる光景は屋内のはずだが、地面の砂が風に煽られ、闘技場のアリーナを映し出していた。その戦場で待つ人影に、目を凝らす。
それは、いつか見えた召喚術師、そのひとだった。
なお、初夢SS三点セットのラストを飾る「新年会」を本日番外編にて公開しました。
「初日の出」以外は短すぎるのでそのうち削除でいいかなと思っています。
「新年会」の中身が、
今日更新部分のあとでないとネタバレになるので早めに更新再開した、
というのが、今回の本編更新の主な理由です……(笑
楽しんでいただけるとうれしいです!




