棘
見上げた空に、星が瞬いている。神官の星明かりよりか細く遠く、今は街灯が結名たちの道行きを静かに照らしていた。お土産のケーキの箱を慎重に運びながら、衣服の中にまで入り込んでくるような寒さに、足が自然と早くなる。車道側を歩く皓星も、結名の歩みに合わせていた。
「短剣、片手剣、長剣、斧、槍、弓、魔術、神術……」
「体術ならナックルとか? 棒術もあったな。ブーメランも見たことがある」
「クロスボウもあるよね」
「薬師なら、薬品投げられないか?」
「投擲かぁ……当てるの難しそう」
改めて、扱える可能性のある武器を一通り相談中なのだが、他の通行人がいたら引きつりそうな話題である。本人たちは至極真面目に検討していた。その中で、旅行者は現実の影響を受けて武器を扱うこともできるという話になり、皓星はシャンレンの話を聞いて「今度見せてもらおう」と興味津々だった。
「その理屈だと、結構いろいろできそうだな」
「趣味でいろいろ体験してたもんね」
ゲームオタクが高じて、現実で体験できる殆どを、皓星は体験したことがある。剣道、柔道、空手、合気道、弓道、太極拳、居合、アーチェリー、フェンシング、馬術、射撃……そのバラエティさにはもう脱帽する。金持ちって。結名も少しは付き合ったが、それはごく一部だと思う。
「ユーナの逃げ足の早さは確かに現実の影響だな」
「うーん、そうかなあ」
中学時代、体育の授業中にタイムを計ってそこそこよかったらしく、体育教師に口説き落とされて、ごく一時期だったが陸上部に所属していた。朝に夕に土日に休業中までも練習があるので、受験勉強を言い訳に、ゲームをする時間が減るので辞めた覚えがある。体育会系無理。以降帰宅部なのは言うまでもない。
語り合うほどの時間もなく、自宅の前にたどりつく。既に明かりが灯っていた。両親が帰宅しているのだろう。結名の持つ鍵に反応し、門扉が解錠されて、門柱に光が灯る。
「ありがとね」
近いから大丈夫と言うのに、一人で出かけられるようになった小学生時代からこちら、暗くなってからの一人歩きを極力避けさせるべく、皓星は常に送ってくれている。両親も伯母も当然に考えているのが不思議だ。面倒だろうに。
一応礼を言うと、皓星は少し迷うようにことばを口にした。
「……最初の町に戻るとか言ってたな」
「うん」
「死に戻った連中が、その時にもまだいるかもしれない」
反応を返すより先に玄関扉が開く。
「おかえり、結名! いつも悪いわねー、皓君」
悪く思っているというより、感謝があふれているような母の声に振り向き、「ただいま」と応える。皓星はすぐに挨拶を口にし、身を翻した。
「いえ。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみー。気をつけて帰ってねー」
その背に掛ける母のことばに、結名の問い返しが心の奥にしまわれていく。早く入りなさいと促され、素直に家に入った。そして、両親のお土産もまたケーキであると知り、うれしい悲鳴を上げるのだった。
お風呂に入った。歯磨きもした。
宿題も完璧、一分スピーチの原稿も仕上げた。
ケーキはまた明日!
既に時計は十時前、結名は一日だけ、と心に決めて、幻界へ旅立つ。
脳裏に浮かぶのは、様々な武器とスキルの数々。
彼女は未だに、己が戦う術に迷っていた。




