お待たせしました
「――火炎爆発」
爆散した紅蓮の炎は、瞬時に絨毯から天井をまとめて灼き尽くした。その場に立っていた旅行者を当然含めて。
まさに火柱。
絶叫も、絶望を宿すことも許されず、瞬時に彼らを巻き込み消え去ったあとには、熱に揺らぐ空気と遺品ともいうべき道具袋や装備が周辺に残されていた。
聞き覚えのある声と、火と。
視界に映し出されている見知った名前に、ユーナは涙を零した。
三人分しかなかったPTのステータス表示、それは今、倍に増えていたのだ。
景気よく弓手と魔術師と神官をまとめて焼却処分した向こう側に、紅蓮の魔術師たちがいた。アシュアから意識が逸れた瞬間を狙い、シャンレンは斧で重戦士の矛槍を跳ね上げ、そのまま体当たりして、彼女から引きはがした。斧を足元に落とすとアシュアを抱き上げ、その前髪を掻き上げる。
「おっそーい……」
超絶不満げなアシュアの呟きと眼差しに、彼女の意識が確かなことを知ってシャンレンは安堵した。いろいろなことばが胸に浮かぶのに、彼は感謝をこめて、事実を確認するようなことしか言えなかった。
「呼んで下さっていたんですね」
「んー、間に合わなかったけどね」
どつかれた頭が響くのか、髪に手櫛を通しながら言うアシュアに、剣士は剣を抜き放ったまま突っ込んだ。
「え、思いっきり間に合ってるよな!?」
「何言ってんのよ。不死伯爵倒しちゃったし、私どつかれちゃってるじゃないのよー」
いや、それってかなりわざとだったんじゃ……と剣士が思いを巡らせている中、一本の矢が空間を切り裂き、長剣を構えて警戒していたはずの軽装の戦士を撃ち落とす。首筋を射られ、声を上げることもなくアイテムを残し、あっさりと砕け散っていった。
「ほほぅ、誰かな? そんなことしたの」
凄絶なまでに美しい笑顔で、弓手が問いかける。先ほどまで美形具合はいい感じに張り合っていても不死者だった不死伯爵はとことん無表情だったので、「生気が宿っている人の顔って、こんなふうに凄めるんだー」と何となく他人事に思いつつ、ユーナは問いに眼差しでもって応えた。アシュアもシャンレンも迷わず商人戦士を見る。
びくぅっ!とその戦士は身を竦ませた。
「ま、待って下さい! ちょっとした、そう、出来心だったんですよ! 本当に申し訳ありませんでした! 絶対に、もう、しないので……」
武器を捨て、言い募る商人戦士の体を、剣士がばっさり斬り捨てる。砕け散ったその後に、道具袋が丸ごと落ちた。
「黄色旅行者なら殺っちゃっていいよな?」
いや、もうあなた殺っちゃってますよね!?
一撃、一矢、一刀の下に息の根を止めていく手腕に、ユーナは声も出ない。
それは、重戦士も同じだった。ただ、彼がユーナと違ったのは、明らかに見逃してもらえないことを悟って、武器を構えていたことだ。
退路を断ち、剣士はちらりとシャンレンを見た。
その意味を理解して、アシュアはシャンレンから身を起こし、彼を見上げる。シャンレンは震える手で斧を拾い上げた。




