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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第十章 聖女のクロスオーバー
226/375

戦況を読め

実は、昨日付で序章を改稿しております。

ざっくり削って移動して、としていますが、内容は変わっておりませんので、

既にここまでご覧になられている読者の皆さんはお気になさらず!


なお、本日更新予定のもう一作品「幻界のクロスオーバーβ」のほうは、

本日中更新予定ということでよろしくお願いします。(←。

がんばって書いておりますー!


 街壁近くに、赤茶けた集団が固まっている。ところどころに魔獣系も混ざっており、依頼を受けて駆けつけた旅行者プレイヤーや聖騎士隊は、どちらかというと魔獣系に飛びついていた。


 ――とんでもないのはその雑魚だと、何故わからない?


 徐々に増えていく地小鬼ボーデン・ゴブリンの数を、当初、東門近くの精鋭たちは感じていなかった。ひょっとしなくても、今も感じていないのかもしれない。新たに到着した、我らが一角獣アインホルンのクランマスターたちは、赤茶色の集団を選んで相対しているようだが、その数の減らし方も焼け石に水である。

 黄金の狩人(フィニア・フィニス)は新たなる赤茶色の群れへと、爆矢をまたひとつ撃ち込んだ。腰を落とし、十字弓アーバレストをしっかり押さえつけていてもなお、身体ごと吹き飛びそうになる。


「もうひっぱってないよな?」

眠る現実(ドルミーレス)も戻っているようなので、おそらくは」


 同じPTではないため、直接その姿を探さなくてはならない。ひとつ南側の灌木の傍にラスティンの鎧を見出し、盾士セルウスは同意を示した。その際、盾で一体、地小鬼ボーデン・ゴブリンを打ち倒す。それほど個体としては強くないため、盾による打撃であっても倒せてしまうのだ。問題は数だった。前衛として盾士セルウスがいても、後衛である黄金の狩人(フィニア・フィニス)の獲物は十字弓アーバレストである。火力は大きいが手数が少ないため、ラスティンは気を利かせて前衛を回してくれていた。シリウスとはまた異なる系統の片手剣と盾を使う戦士は、フィニア・フィニスの爆矢によってこちらをターゲットとみなし襲い掛かってくる地小鬼を、着実に一体ずつ仕留めている。

 正直、体躯の大きい地犀ボーデン・ノウスホルン地蜥蜴ボーデン・レザールよりも、よほどこちらのほうが手に余る。数の暴力とはまさにこのことだ。ラスティン率いる「眠る現実(ドルミーレス)」の一部が調子に乗って呼びすぎたことが主な原因なので、自分で蒔いた種であることは棚上げして、フィニア・フィニスは文句を言った。


「この辺のフィールドの敵、全部引っ張ってるんじゃないか!?」

「いくらなんでもまだおるやろ。ついでに全滅させとこか?」

「もういらないから!」


 戦士カイトは声を張り上げて笑う。その笑い声が波及して、少し離れた「眠る現実(ドルミーレス)」の連中も笑った。

 余裕、と言えば余裕である。

 目の前の敵を落とすことに問題はない。数を倒したことにより、フィニア・フィニスもセルウスもレベルが上がったほどのおいしさだ。

 だが、今もなお、地小鬼ボーデン・ゴブリンは増えている。魔物列車モンスター・トレインをやめても、未だに。

 体力の丸薬ピルラを惜しげもなく使うにしても、クールタイムがある。そして、ポーションとて無限にあるわけではない。午後過ぎから開始したこのお祭り騒動に、フィニア・フィニスやセルウスも大量のポーション丸薬ピルラを預かっていたが、もう半分以上使っていた。

 そしてもうひとつ。

 幻界ヴェルト・ラーイは、今、秋を迎えている。閉門の鐘よりも日暮れが早くなる今、もうすぐ陽が落ちる。

 夜になれば――光を目印に、闇に慣れた者が挑んでくるのだ。


 また一発、フィニア・フィニスは爆矢を撃ち込む。ひとつの群れがだいたい十から十五程度の個体数だ。そのうちの半数近くを爆風や爆矢の直撃で倒し、無傷で残る者はなく、すべて手傷を負う。青の神官(アシュア)が戻らなくなってから作り溜めた爆矢を、引きを辞めた時から使い込んでいる。まさに、今日は大盤振る舞いである。

 にもかかわらず、また新たなる群れがやってくるのだ。減らしているはずなのに増えている事実に、フィニア・フィニスは焦りを感じていた。





 舞い降りる不死鳥幼生アデライールに、そっと手を伸ばす。

 朱金の翼をもう一度軽く羽ばたかせて、それから彼女はユーナの腕に爪を掛けた。袖が長くてよかったと思いつつ、ユーナは意外な軽さに目を瞠る。


「キゥ」


 一声鳴いて、不死鳥幼生アデライールは、己の主へと頭を擦りつける。その愛らしさに、ユーナは悶絶しそうになり、アシュアとソルシエールははしゃいだ。


「くっ、かわいい……っ」

「やーもー、何コレ、ちょっと触っていい?」

「あたしもあたしも!」


 戦場のすぐそばである。

 手放しに可愛がられる不死鳥幼生アデライールへと、地狼が尋ねた。敢えて空気は読まない。


【戦えるのか?】

「キゥ!」

【それでもいいよ】


 従魔シムレース同士の会話にも関わらず、ユーナには話の中身がわからなかった。不死鳥幼生アデライールに対しては、共鳴が効いていないようだ。先ほどのPTチャットはきちんと聞こえたのに、と、いろいろ残念に思っていたら、腕から地狼アルタクスの背へと不死鳥幼生アデライールが飛び移った。そして、彼女の影が揺らめく。瞬く間にその姿は幼子へと変貌した。


「ほほ、なかなかの座り心地じゃの。

 さて、主よ。空から見たがの、さまざまな魔獣もまざっておるが、もっとも気がかりなのは地小鬼ボーデン・ゴブリンじゃ。東門へと押し寄せておる。

 このまま日が暮れれば、東門の前には聖騎士たちの遺骸が転がることとなろう」


 地狼に乗り、幼女アデライールは金のまなざしをユーナに向けた。

 その言に、剣士シリウスが問う。


小鬼ゴブリンって、仲間呼び(リンク)してるんじゃないのか!?」

「さよう」

「数が多いなら、一気に燃やすのか?」

「ほほ」


 術杖を片手に本気で言う紅蓮の魔術師へ、幼女は雅に笑ってみせた。口元を覆う指先は丸く、手はふくふくしている。


「混戦を極めておる戦場に、炎の絨毯でも敷くつもりか? 魔術師よ。

 『命の神の祝福を受けし者』にもいろいろおるのぅ」


 もちろん、朱殷のまなざしと交錯する金のまなざしは、少しも笑っていない。

 言い返すことはせず、紅蓮の魔術師は睨み返す。


「何やってんのよ、大人げない」

「なっ」


 今もなおおばあちゃん呼びのアシュアが、肩を竦める。あんまりな言われように、仮面の魔術師は口をぱくぱくさせた。


「早く合流して、少しでも数を減らしましょう。できるだけ後方のほうがいいかも」

「うむ。そちらの娘御の言う通りじゃが、後方に向かうのは我らだけでよい。そなたらは街壁を頼む。

 さあ、主よ。参ろうぞ」

「えっ?」


 先ほどユーナがしたように、小さな手が伸ばされる。


地狼アルド・ヴォルフに乗れ。よもや、落とすまいな?」

【アデライールは落としても、ユーナは落とさないよ】

「アデラも落としちゃダメだってば!」


 鼻を鳴らす地狼に叫ぶと、その首が伸びた。問答無用に咥えられ、背に放られる。「ぐぬぅ」という微妙な呻きが胸の下から聞こえた。慌てて両手を背につく。幼女がその隙間から頭を上げた。


「主よ。もっと食べなければ大きくならんぞ」

「う」


 振り向きざま、ぺたり、と胸に手を当てられ、みるみるうちにユーナの頬が紅潮していく。


「今はそうでもないんだけどなぁ」

「アンタどこ見てんのよ!?」


 今どころか幼少時より見ている剣士の中のひとである。アシュアに注意を受け、そっと彼は視線を逸らした。頬を指先で掻いている。


地小鬼ボーデン・ゴブリンについては我らに任せるがいい。あれは御しやすいのでな」


 くるりと地狼の頭のほうへ姿勢を戻し、凛々しく幼女は言い放つ。その足が地狼の背を打った。


【馬じゃないから】


 文句を言いながらも、地狼は駆け出す。

 幻界ヴェルト・ラーイでは結構食べてるんだけどなぁ、とユーナは心で涙しながら、幼女が落ちないように彼女の身体を支える形で手を添え、地狼の毛並みを握ったのだった。



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