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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第八章 薫風のクロスオーバー
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50万PV突破記念SS 従魔の宿命


 ユーナの身体はあたたかい。

 どうやら、ユーナにとっては自分のほうがあたたかいらしいので、暖を取るのにはお互いにちょうどよいようだ。座り込むユーナを、くるりと囲うように身体を沿わせるのが密かなお気に入りである。そうすると、気持ちよさげにもたれてくるのだ。寛ぐユーナは、野営の時などそのまま眠ってしまう。火の番でなければ、自分もついでに休む。なお、その前には必ず水霊術で清められるので、覚悟が必要だ。お風呂というもので炎の眷属に散々弄ばれた恨みは忘れない。従魔になる以前には水場に叩きこまれた覚えはなかった。そのような森狼は見たことがないので、恐らく従魔になった魔物の宿命なのだろう。

 もはや、群れに帰ることもない。……否、ユーナがいる場所が、群れになっているような気がする。


 視線を巡らせると、今は多くの仲間がいる。

 ふたりきりで夜明かしをしていたころを思えば、賑やかというよりも騒々しいほどだ。だが、人数が多いだけあって、野営では長時間警戒に当たらずに済む。


「ユーナちゃんはいいわよねー。野宿って感じじゃないし」

「どう見ても高級ソファだよな」


 長時間の戦闘が続き、勝利の余韻が誰の胸にも残っている。高揚感と、満腹になるほどの大量の食事、少しの酒が、PTの雰囲気を更に明るくしているようだった。

 青の神官のことばに、黒の剣士が頷く。ユーナは楽しそうに笑いながら、自分へと抱きついてきた。


「ふふ、今は抱き枕にもなってくれるんですよー♪ 前はこんなの、絶対させてくれませんでしたけど」

「……っ」


 柔らかい身体が両手を首にまきつけて、ぎゅーっと抱きしめてくる。もう今更である。幾日も従騎として乗せ続けていれば、慣れもする。

 交易商がそっと視線を逸らしていた。毛皮がないというのは不自由なことだ。


「夏なら暑そう。毛布とかいらなかったんじゃない? 今はちょっと冷えるけど」

「あー、夏でも夜は冷えること多いから、割と一緒に寝てたかなあ」


 白衣に緋袴の少女は、寒さに毛布をまきつけていた。あの服装にはまだ外套がないようだ。他の者は野営時にはたいてい、自身の外套を身に纏い、横になる。紅の魔術師が、焚き火に燃料を投下する。より一層、火が燃え上がった。


地狼アルド・ヴォルフの毛皮……」

「エスタ、剥いじゃダメだよ」


 うっとりとしたまなざしでこちらを見る錬金術師に、びくりと身を震わす。

 よくぞ止めてくれた、舞姫。

 赤い虹彩を細めて、人形遣いは二体の布人形を両手に持つ。


「この子たちの服にしたら、地霊術くらい使えるようになりそうでしょう?」

「少しならいいかな?」


 裏切者め。


「だ、ダメです! 触り心地が悪くなるじゃないですかー!」

「触り心地どころじゃないと思うけど」


 微妙にユーナのフォローがいろいろと気がかりだ。弓手の言う通りである。おれは寝具か。寝具か……。

 ふて寝しようと、頭を両腕の上に落とす。今夜の火の番はユーナからだが、もともと今夜は出番がない。後進に任せるつもりでいる。つい先日、従魔シムレース仲間とやらが来たのだ。見た目はちょっと偉そうな人間だが、れっきとした不死者(アンデッド)である。こいつには、心底同情している。何と言っても、主がユーナなのだ。その苦労は察するに余りある。むしろ、既に分かち合っている気がする。

 ホルドルディール戦でも、従魔使い(テイマー)のくせに手札の従魔シムレースを喚ばないという、とんでもない従魔使い(テイマー)である。加入して即レベル上げに走っていた不死伯爵(ノーライフ・カウント)の努力を何だと思っているのだろうか。思いっきり気付いていなかったことにも驚いた。ひょっとすると、かつて森狼の幼生だったころの自分の努力も、認められていないのかもしれない……。あれは、従魔になる直前に殺しかけたのが悪かったのだろうと思う。たぶん。


 あのころのことは、正直思い出したくもない。

 ホルドルディール戦のさなかに問われたが、答えられるはずもなかった。


 追いかけたのに、村に入られて振り切られた。

 気になって仕方がなかった。待っても出てこなかった。うろついて、どれくらいの時間が過ぎたのかもわからなくなった。知った匂いに殺意を抱いた。殺そうとした相手を殺そうとして、何が悪い。

 腕の一本をまず奪ってやった。命を奪おうとしたら、ようやく現れたのだ――。


 殺したいほど、会えてうれしかった。


 疲れが、睡魔を呼ぶ。

 うつらうつらしているうちに、PTMはそれぞれ、野営準備を終えたようだ。


「アルタクス、だいじょうぶ?」

【――寝たいかな】

「そっか。わかった」


 三人でもともと、火の番をするつもりでいたようだ。

 ユーナはアークエルドの分も、食事をもらっている。ホルドルディール戦ではいろいろあった。そのあと、殆ど何も話せないまま、日射しのきつさに影に戻った不死伯爵(アークエルド)には、きっと思うところがあるだろう。


「アークエルド」


 彼女の声が、不死伯爵ノーライフ・カウントを呼ぶ。

 焚き火の影が、揺らいだ。


 ほら、呼べば来るだろう?

 半分ほど意識が沈む中、地狼は不死伯爵に主を委ね、眠りについた。

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