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幻界のクロスオーバー  作者: KAYA
第一章 始まりのクロスオーバー
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 ガシャシャシャシャ……


 床に落ち、積み重なるカトラリー。その真ん中で起き上がったシャンレンは、瞳から力を失うことなく、再度斧を構えて二人の前に立つ。しかし、ぽつぽつと無数の穴が見える鎧には、最早聖なる光は灯っていなかった。

 ユーナの視界には、HPこそ緑だが、黄色に変化しかかっている彼の疲労度スタミナゲージが映っている。その上、陣の上に倒れこんだアシュアのMPは既に黄色に染まっていた。


戦利品ドロップとしてはかなり優秀ですから、できれば無傷がよかったんですけどね」


 残念そうにカトラリーを見やり、ぽつりと零す。


「結構人気があるんですよ、銀のカトラリー」

「ユーナちゃん持ってないはずだから、いいのあったら回してあげるのよ」

「そうですね。食器も残れば……」


 服の埃を払いながら立ち上がるアシュアの言葉に、希望的観測を返す。そんなのほほんとした会話が繰り広げられる中、カタカタと骸骨執事が嗤った。


「それは残念です。ご期待に沿えそうにありません」


 テーブルクロスを握りしめ、執事はその手首を返した。視界が真っ白に塗り替えられると同時に、無数の陶器が宙を舞う。

 アシュアの左手が閃いた。握りしめられた術石が、法杖に力を宿す。


聖なる光を帯びしものウルテノネェレ・ルゥツェンム


 その聖なる加護は、再びシャンレンの鎧に力を満たした。

 陣の前に立ち、斧を構えたシャンレンの視界の端、白と闇の境目でスケルトンがこちらに駆けてくる姿があった。呼吸を合わせた同時攻撃を悟り、あえて、シャンレンは一呼吸おいてから、戦斧を振るう。


戦斧旋舞キルクィトゥス・ベイル!」


 迫る陶器とスケルトンが、まとめて砕け散る。難なく処理され、執事はため息と共にその手から布を落とした。


「何故……いえ、それでも、私はあの方をお守りするだけです。あなたがたが望むものがあの方の討伐である限り」


 零れ落ちたことばは、衣擦れの音に紛れて闇に融ける。

 入れ替わるように、無数の金属音が広間に響いた。散らばったカトラリーが再度力を得て、僅かに宙に浮く。同時に、聖なる水飛沫が上がった。


「何度もさせるものですか……っ!」


 ユーナが水袋の口を絞るように抑え、残る手で水袋自体を握り、聖水を噴射したのだ。高く上がった聖水は細かくカトラリーへと降り注ぎ、呆気なくカトラリーは床へと再度積み重なる。


「それはこちらの台詞です」


 闇を飲んだ空洞の頭蓋が、ユーナへと向く。その虚ろに雷が奔った瞬間、星明かりに照らされていたはずのシャンデリアが光を増す。視線を上げると、新たなカトラリーが天井いっぱいに生じ、シャンデリアを増やしたかのように煌いていた。ユーナはヒュッと己の喉が鳴る音を聞いた。予測した通り、それは重力だけではない加速と共に、三人に向かう矢となり解き放たれる。


「来たれ聖域の加護サンクトゥアリウム!」


 アシュアの加護が空を駆け、銀色を弾き飛ばした。砕け散るカトラリーと、力を失い惰性で飛んでいくものと、その呼吸に合わせるかのように、シャンレンが斧を下に構えたまま走る。強い踏み込みが金属音を打ち鳴らし、骸骨執事が下がるよりも速く斧を振り上げた。その刃は執事服を纏った胴を裂き、そのまま一気に骸骨目がけて振り下ろされる。そして、そのままシャンレンはその場に膝をついた。


「――痛ぅ……っ」


 深く頭蓋に傷をつけながらも骸骨執事は砕け散ることなく、右手に生み出した銀盆をシャンレンに投げつけて下がっていた。頭上に浮かぶステータスバーは赤となり、致命傷だったことがわかる。一方、斧を片手に持ってはいるが構えられていないシャンレンのほうも、完全に疲労度がオレンジとなり、HPも銀盆の一撃で黄色に変貌していた。


癒しの奇跡クラシオン・リート!」


 アシュアの癒しで瞬時にHPは緑へと戻る。しかし、疲労度は変わらない。癒しを受けてもなお動けないシャンレンの様子を見て悟り、骸骨執事はユーナへと向き直る。既にアシュアのMPもオレンジである。これ以上の支援は、彼女の意識を刈る可能性が高い。


 ――来ないでっ……!


 ユーナは咄嗟に、手元にあった聖水の水袋をそのまま投げていた。

 口が緩んでいたそれは宙を舞い、聖水を撒き散らしながら落ちていく。骸骨執事には届かない。誰もがわかっていた悪あがきだった。だが、彼女は水袋を投げると同時に、腰の短剣クリスを引き抜いていた。無謀にも両手に短剣の柄を握り、全力で走り……水袋ごと、執事の胸に突き立てた。

 ほんの一瞬、水袋に意識を取られ、侮った骸骨執事の油断を突いて。

 

 砕け散っていく骸骨執事の音と共に、場にレベルアップ音が響き渡る。

 そして、彼の跡には鍵が残された。 

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