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誰かこの状況を説明してください~フィサリス公爵家のあれこれ~

キス泥棒

作者: 徒然花

あけましておめでとうございます♪


フルール王国の新年。

 フルール王国の新年の日は建国記念日だ。

 初代国王様の誕生日でもあり、一年が始まる最初の日であり、とにかくフルール王国にとっては実にめでたい日。

 この日のためにご馳走を作ったり飾りつけなどをするので、年末は貴賎を問わず何かと忙しい。

 そんな世間と同様、我がフィサリス公爵家も新年を迎える準備に余念がない。

 普段は領地に隠居している両親も王都の屋敷にやってくるということで、その準備も重なって使用人達は忙しなく走り回っている。

 使用人が走り回るのはわかるのだが。


「ビスカムの枝はこれだけ? じゃあ持っていくわね〜。あ、サーシス様、今お暇ですか?」

「ヴィーも忙しそうだね……」

「そうですよ! ビスカムの木を飾りつけなくちゃです。サーシス様も手伝ってください!」


 妻のヴィオラ——公爵夫人のはずなのに、なぜか使用人と一緒になって忙しそうに働いている。今も、ビスカムの枝を両手に抱えて運んでいるから、僕がそれを取り上げたのだった。

「ビスカムの木は邪気を払ってくれますからね、今年もいっぱい飾りましょうね! あ、そこにお願いします」

「ここ?」

「そうです」

 ヴィオラに言われるままに僕も飾りつけを手伝った。エントランスの壁、指示されるところに枝を飾りつけていく。

 そこに両手に何か書類を抱えたロータスが通りかかったのだが、僕が枝を飾りつけているのを見て立ち止まる。

「以前の旦那様から考えられないこの光景……」

 そっと涙を拭うなロータスよ! 心の声がだだ漏れだぞ。っていうか、隠す気ないだろお前。

 ヴィオラが喜ぶんだから、やっておかしくはなかろう!

「ここはもう少しあったほうが豪華だな」

「そうですね!」

「ロータス、枝を庭から調達してきてくれ」

「かしこまりました」

 じっと見られているのも恥ずかしいので、僕はロータスに命じて枝を調達させた。


 体良くロータスを追い払ったところで、

「ヴィー、ちょっと」

「? なんですか?」

 ちょっと離れたところから飾りつけのバランスを見ていたヴィオラを側に呼んだ。


 コテンと首を傾げながら寄ってきたヴィオラを捕まえて、僕はぎゅっと抱きしめた。


 ちょっと休憩。


 急に抱きしめられて驚いたヴィオラ。

「ちょ、ちょっとサーシス様〜!」

 わたわたと腕の中で慌てる姿も可愛いな!

 頬を染めて僕を睨んだって全然怖くないし。むしろ逆効果だよ?


 そんなヴィオラが可愛くて、しまりなくにやけてしまった顔を隠すように、その甘く柔らかな唇にキスを落とした。


 さらに真っ赤になるヴィオラ。目まで潤んで可愛いったらありゃしない。

「もう〜!」

「だってここはビスカムの木の下だよ?」

「それは新年のお話ですよ!」

「あはははは!」

 僕が悪びれもせずに頭上のビスカムの木を指差せば、ごもっともな言い分が返ってきた。

 ビスカムの木は邪気を払うと言われているのだが、もう一つ、新年にその下でキスをすればその一年が幸せになるという言い伝えもある。

 だから毎年欠かせない『行事』なのだけど、ヴィオラは毎回慌てふためく。まあいつも僕が不意打ちでキスするからだけど。だって慌てるヴィオラが可愛いんだから仕方ない。


 家の飾りつけも終え、両親も迎え、滞りなく新年の準備を終えた。

 明日は王宮に行って、国王陛下の一般謁見に参加する。陛下の謁見は建国記念の祝いと、今年一年の幸せを祈念して。だけど陛下、無駄に話長いからなぁ。かなり退屈なのだが仕事の一環として諦めている。



 

 そして迎えたフルールの月の一日。フルール王国の新年。

 王宮に着き、フィサリス家の席と割り当てられているところに案内されると、


「ヴィオラ〜!」


 という元気な声とともに王太子殿下——ディアンツ王子がこちらに向かって走ってきた。

 齢七歳のこの王子ちびっこはヴィオラのことをいたくお気に入りで、何かにつけてヴィオラを側にはべらせ、僕をライバル視する要注意人物。

 ヴィオラはこの王子の猫かぶりに気付いていないようで、なぜか可愛がっている。

 王子は勢い良くヴィオラに飛びつくと、

「会いたかったよ〜!」

 とか言って抱きついている。本気で「ゴロニャン」とか言いそうな勢い。

「そんなに勢い良く飛びついては、ヴィオラがひっくり返ってしまいます。危ないですから気をつけて下さい」

 こらガキンチョ、自重しろ。……とはさすがに言えないが。

 現に少しふらついたので、僕が支えたんだからな! 王子からヴィオラを剥がしながら、僕は笑顔でそう言った。

「公爵が睨む〜。怖いよ、ヴィオラ〜」

「僕のどこが睨んでるんですか、笑顔じゃないですか笑顔」

「それのどこが笑顔だ!」

 そうか、ガキンチョには笑顔に見えないのかそうか。

 僕をじとんと見ながら王子はヴィオラにしがみつく。おま、ヴィオラからその顔が見えないからって!!

「公爵様は怖くないですよ? ほらディアンツ様、お母様たちがお呼びですわ、一緒に行きましょう。謁見のお式が終わったら、また後でお話しましょうね」

「うん!」

 ヴィオラは優しく笑うと、王子の手を引き玉座の方に連れて行った。弟妹がいるからだろう、ヴィオラは王子ちびっこの扱いが上手い。付き人たちが促しても反抗するばかりの王子を、いともあっさりと定位置(ロイヤルファミリー席)に連れて行くんだから。




 国王陛下の長〜い話も終わり、一般謁見の行事も無事終わったところで、毎年恒例の王宮内神殿にお参りに行く。

 ここには許された身分の者しかお参りすることができないのだけど、僕はあんまりありがたい気がしてない。むしろ、この後ヴィオラと二人で行く、町の教会の方が好きだ。

 ひっそりと厳粛な雰囲気の神殿は、冷たい感じがするから。

 ユーフォルビア家——ヴィオラの実家近くの教会は、ヴィオラがうちに嫁いでくるまで毎年お参りしていたところで、新年を祝う庶民で賑わっている。振る舞い酒を飲み、陽気に歌い踊る人々は、見ていて楽しくなってくる。

「さっさとお参りを済ませて、いつもの教会に行こう」

「そうですね!」

 ヴィオラの手を取り神殿に向かっていると、


「ヴィーオラー!」


 またでやがった。……じゃなくて。


 またしてもディアンツ王子がこっちに向かって突進……げふげふ、走ってくる。こいつ、ヴィオラレーダーでもつけてるのか!?

 また飛びつこうとするのを僕が先に捕まえた。

「飛びつくなと言ったはずでしょう」

「聞こえないな〜」

 しれっと視線を逸らす王子がきんちょ。こいつのどこが可愛いんだ!?

 僕の手から逃げた王子は素早くヴィオラのところに行き、

「お参りした?」

「これからですよ」

「僕もこれからだから、一緒に行こう!」

「はい!」

 ヴィオラの手を取り、さっさと神殿に引っ張って行ってしまった。ったく、油断も隙もないガキだ!

 僕も慌てて二人の後を追った。


 神殿にもビスカムの木が飾られてあり、新年モードになっている。

 祭壇へ向かう通路の両脇には神官が頭を下げて並んでいる。その前をヴィオラと王子、僕は奥へと進んでいく。

「父上たちももうすぐ来るよ」

「それはさっさとお参り済ませなきゃいけません!」

「なんで?」

「おそれ多すぎるからですわ!」

 全然気難しい人じゃないけど、ヴィオラは相変わらず陛下や王妃様が苦手なようだ。身分の高い者アレルギーと言ったところか。

 陛下たちが来る前にさっさとお参りを終えようと、ヴィオラが王子の手を引っ張っているのがおかしい。


 大神官から祝福をもらい、お参りは終了。

「さて、僕たちは帰りますか」

 ヴィオラたちの前を歩いていた僕が振り返ると、

「ヴィオラ、ヴィオラ」

 立ち止まった王子がヴィオラを手招きしていた。

「なんですか?」

「ちょっと耳を貸して」

「?」

 王子にせがまれたので膝をつき、王子の口元に耳を持って行ったヴィオラに、


 ちゅ。


 あろうことか王子はキスしやがった!! しかも唇!!!


「殿下っ!」

 僕がぐいっと王子がきんちょを剥がすと、

「だってここ、ビスカムの木の下だもん」

 ケロっとして言い放った王子。

 その無邪気な顔にヴィオラは騙されても僕は騙されないからな!!

「もうっ、ディアンツ様はキス泥棒ですね! でもこれで一年幸せに過ごせますね。できればお年頃のお嬢様にしたほうがよかったのに」

 そう言ってクスクス笑ってるヴィオラ。赤くもなってないし照れてもないから、王子は対象外ってことだな。

 そんなヴィオラの様子に僕はちょっとホッとする。

 でも泥棒は泥棒だっ! 今度の剣の稽古は覚悟してもらおう。


 そこに陛下たちがやってきたので、王子と別れることになった。




「あのちびっこ。油断も隙もない」

「かわいらしい子供のいたずらじゃないですか〜」


 町の教会に着いてもまだ僕がプリプリと怒っていると、横でおかしそうに笑っているヴィオラ。まあ、確かにヴィオラの言う通りだけどさ。

「あ、ほら! 振る舞い酒いただきましょう! 今日はプディングの振る舞いもあるみたいですよ〜」

「へえ」

 ヴィオラがもらってきた振る舞い酒を受け取る。

 今年の振る舞い酒はホットワイン。毎年趣向が違うので、今年はなんだろうかと二人の楽しみになっている。

 一口飲むとふんわりしたワインの香りと温かさが広がって美味しい。

 さっきまでのムカツキも緩んでいくようだな、と思った時。


「サーシス様」

「なに?」


 名前を呼ばれてヴィオラを見ると、さっと僕の唇を掠めた柔らかさとワインの香り。


「…………」

「ほ、ほらっ! ビスカムの木の下だから!」


 何が起こったのかすぐに理解できずにぼーっとする僕に、真っ赤になりながら頭上を指差すヴィオラ。ああ、ビスカムの木だ。


 さっきの、王子の時とは明らかに違うヴィオラの様子に、僕の気分が上がった。やっぱうちの奥さん超可愛い。


「今年はものすごく幸せな一年になる気がするな〜」

「それは大袈裟ですよ!」


 二人で手をつないで家路につく。


 気分がよくなったから、あのキス泥棒へのお仕置きも軽くしてやら……ねえっつーの! 覚えてろ!!

ありがとうございました(*^ー^*)


みなさんに幸せがたくさん訪れる一年になりますように!

今年も一年よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとも幸せな気分になりますねぇ。 [一言] こんな感じなら、プチちゃん出来てそうにも思えるのは、私だけ? 新年のプレゼントをありがとうございました。
[一言] あけましておめでとうございます! 栗きんとんよりも甘い話ですね(//∇//) キス泥棒が微笑ましいです。 本編でもいつかこんな甘々~になるんですかね? 旦那様頑張って(笑)
[良い点] 明けましておめでとうございます! 甘~いお話を、ありがとうございます♡ 満喫しました(^w^) 大胆なヴィーちゃんも新鮮ですね(*^_^*) 今年も楽しみにしてます!
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