さみしさの匂い
黒い塊となった猫
黄色い眼で見上げている
折れた骨盤
瀕死から助かったいのち
剥き出しの傷口
膿はようやくましになった
小さな声で鳴く
わたしはここにいますよと
身体を撫でてやると
さみしがって
もっとさみしくなって
扉の向こう側には
お前のさみしさがある
決して埋まらないその隙間
花の香りに
吹いてくる風に
虫の羽音に
鳴きあう猫と猫の間に
どうしても
引き寄せられるさみしさがある
この猫は
生き死にも分からぬままに
去って行った猫たちの
影を見たのだろうか
それとも
同じように去ろうとして
去りきれなかったのだろうか
兎に角生きていてよかったと
安堵している間に、
傷が癒えれば
また月の下へと出て行くだろう
そしてまた、
目的の在るようで無い
短い旅を繰り返すのだろう
猫もまた そうやって、
それなりに必死に過ごしていくのだ
梨の転がるように
撓む木の枝を折り続けるように
不確かな明日を信じるわけでもなく
今日の足元にある
さみしさの匂いだけを追って
お読み頂いてありがとうございます。