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 あれからまたしばらく階段を駆け上ると、それまでとは違ったフロアに着いた。

「ここが一階か…?」

 俺たちは頷き合うと慎重に通路を歩いて行く。あの子供以降敵からの襲撃はない。いつの間にか警報も鳴りやんでいた。地下にいた他の念動力者達は全員捕まってしまったのだろうか。

 だが、ここから先は襲撃なしとはいかないだろう。ここが正念場だ。建物から逃げてしまえば奴らも早々銃火器の類は使えないはず。

 病院の玄関フロアを彷彿させるそこはとても俺たちがやらされていたような陰鬱な実験が行われていたとは思えない。清潔感すら感じるが、それが逆にあの田中と同じのっぺりとした白を感じさせ薄気味悪い。まだ、それっぽい研究施設の方が頷けるだろう。

「走るぞ!」

 ここまでくれば隠密性など気にしても敵に丸わかりだろう。慎重に進むのではなく一気に駆け抜け、立ちふさがるものは叩き潰していく。

 そう決め、念動力を使っての全力で駆けだす。

 入り口が見えてきた。俺たちが並列に走っても十分に走り抜けられる大きな入口に向かって走る。俺はアサルトライフルを構え声を掛ける。

「絶対に奴らは襲ってくるはずだ。いつでも応戦できるように準備しろ!!」

 全力で走っているため返事はないが無言で各々の武器を構える。

 リーダーとして先頭を切って外に飛び出す。

 外は見たことの無い木々の生い茂るジャングルのようだった。

 そこには、十数人の子供たちが縛られており、その頭にやはり子供たちが銃を向けている。

「大人しく投稿してください。ワタクシも無闇にサンプルを殺したくないのです!」

 相変わらずの、ひょろ長いいかにも研究者といった背格好に真っ白な白衣、甲高い声、顔を覆うのは真っ白な顔にニヤニヤ笑いを浮かべた仮面の田中がいた。

 仮面を見る限り太郎の方のようだ。

「無視して全力で駆け抜けろ!!」

 それを見た俺は慌てて叫び、こちらに向けられた銃を意識して敵の方に向かってローリングしながら突っ込む、それに西村だけが追従してきた。

 すでに自分の子を殺してしまった俺と、俺たちの中で最も冷静な西村だけが即座に臨戦態勢に走ることができた。

 川原と山本はとっさの事態に思わず止まってしまったのだ。

 一斉に入口に向かってかまえていた兵士たちが引き金を引く。

「っぐぁぁぁっっ」

「ぎひぃぃっ」

 二人の叫び声が聞こえてくる。クソッ。事前に人質を取ってくる作戦も考えていたのにそれでも止まってしまった。俺のミスだ。みすみす二人を失ってしまった。それでも脚は止まることなく動いている。何て薄情なんだ俺は。

 そんな俺の苦悩に気付いたのだろう。西村は必死に走りながらしゃべるのもつらいだろうに俺に気遣わしげに声を掛けてくる。

「あなたの所為じゃないわ。事前に話してあっても対応できなかったのだからしょうがないじゃない」

「それでも俺はリーダーだ。あの二人がこうなることも考えて作戦を考えなければならなかったのに…」

 俺の悔しげな声を残し、少しでも研究所から離れるために俺たちは体力の続く限り走り続けた。後ろから聞こえてくる銃声と子供の叫び声を無視して。



§§§§§



 息も絶え絶えにジャングルの中を歩く。ここがどこだかわからないうえに、がむしゃらに走ったためどちらに行けばいいか分からない。

 辺りを見回しここがどこか考える。このじめじめとした暑さと、日本ではそうお目にかかることの無い40メートルを超える木々に熱帯雨林であると考えられる。これはおそらく間違いないだろう。

 そうすると真っ先に思いつくのは南米だが、おそらくそれはない。俺が拉致された時、確かに空腹を覚えていたがおそらく一日か二日ほど眠らされていただけだろう。飛行機で意識のない人間を拉致するのは難しいだろうからおそらく船を使ったはずだ。これらの条件に合致するのは東南アジアだと思われる。

 俺は地面にしゃがみ土を確かめる。赤土であった。下草も生えている。間違いなく東南アジアであろう。

「ここは東南アジアみたいだ。思ったより日本に近いな」

「どうしてわかるの?」

 西村が不思議そうに尋ねる。それに俺は先ほどの考察を伝える。

「リーダー勉強もできたんですね」

 西村が感心したように言う。

「まさかこんなところで役に立つとは思わなかったよ」

「それでこれからどうしましょう」

「近くの街に研究所のことを伝えに行きたいんだが、どっちにあるか分からない以上一方向に絞って歩いたほうがいいだろう」

「切り株の年輪で調べられるんですよね」

 そう言って辺りを見回すが切り株なんてどこにも見当たらない。これだけの太さでは切り倒すこともできない。

「ザックリとなら葉っぱがたくさん茂ってる方が南だ」

 西村がなるほどと頷く。昼間は南に太陽があるはずだ。日光を求めて木は南に多くの葉を茂らせる傾向がある。

「行こう」

「はい」

 俺たちは歩く。決して諦めるわけにはいかない。俺たちは多くの犠牲のもとここまで逃げ延び、多くの命を助けられるかもしれない立場にあるのだから。



§§§§§



 結論から言おう。俺たちは街に何とかたどり着くことができた。ここはマレーシアだったらしい。

 現地の警察に研究所のことを伝え、何とか信じてもらえた。数十人の警官が集まる大捕り物だった。研究所の奴らは捕まり、捕まっていた日本人たちは解放された。だが、子供たちとあの田中達はいなかったらしい。おそらく俺たちを逃がしたことでじきに捕まることを察知したのだろう。

 俺たちは失敗した。子供たちを助けることができなかった。

 そのことに後悔の念が絶えない。だが、それ以上に驚愕の事実を俺たちは知らされる。



「あの、俺たち日本に帰してもらえるんですよね?」

 助けられた男の一人が日本語の話せる通訳に尋ねる。それに通訳はこの街の責任者らしき人物に伝える。その男は難しい顔をして通訳に話しかける。

 そして伝えられる。

 その事実を。

「帰れるかは本国政府に問い合わせているが、日本という国はもうないぞ?」

 それは命からがら助かった俺たちの言葉を奪うのに十分な衝撃だった。


読んでいただきありがとうございました。

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