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06

 ブラックアウトした意識が次第に浮上していく。俺のことを呼ぶ声もゆっくりとだが意味が認識できるようになってきた。

「リーダー、良かった気が付きましたか!?」

 川原が眼鏡の奥にある小さな瞳で俺のことを心配そうに見ていた。

 周りを伺うと西村と山本がそれぞれ拳銃とアサルトライフルを手に警戒していた。

「どのくらい意識を失っていた?」

「5分くらいです」

「くそっふざけてやがる!俺たちに産ませた子供を兵士として使ってきやがるとかアイツら頭のねじがぶっ飛んでんじゃねえのか!?」

 一度意識を失ったことで少しはまともに考えられるようになったが、冷静さは取り戻せない。今度は気持ち悪さが過ぎ去り、白熱した怒りが湧いてくる。思い出すと頭の血管が千切れるんじゃないかというぐらい沸騰する。

「あの子は?」

 ふと見まわすが少女の死体はなく血溜まりだけが残っている。

「そこの部屋に移したわ。あれを見てると私たちまで倒れそうだったから」

「なあ…あれって」

「ああ。おそらく俺の娘だ」

 吐き捨てるように言う。こんなことをしているうちにまた次の刺客が襲ってくるかもしれないというのは十分に解っていたが誰もそのことは指摘しなかった。それほどまでにこの事態は衝撃的だったのだ。

 少女の死体のある部屋に入ると静かに目を瞑った少女が横になっていた。顔や服装は西村辺りが整えてくれたのだろう。そっと黙祷を捧げる。まさか死体を持っていくわけにもいかず、こんなことしかできない自分に歯噛みする。

「その子全身酷い痣だらけだったわ。ここの奴ら相当ひどいことをしたようね」

 西村が涙をこぼしながら告げる。

「どうする?」

 俺は必死に荒れ狂う感情を抑え込み、仲間を守るために次の行動に移る。

「どうするってのは?」

「まさか俺の子供だけがこんな目に遭っているわけじゃないだろう。この子達を放って行くのかどうかだ」

 それ以上その場に止まるのは()(たま)れず廊下に出て話し合う。

「助けたいです…でも」

「放っておけるわけねえじゃねえか…でも、俺たちだけで全員助けらんねえし…」

「それまで子供たちが無事か分からないけど、外に助けを求めるために私達だけで逃げるべきか、どれだけ兵士…子供も含めた相手が襲ってくるかもわからないまま、それでも子供たちを助けるために行動するべきか。やっぱりリーダーが決めてくれないかしら」

 西村だけはこの状況で冷静に今後のことを考えている。さすが唯一あの場所にいた女の中で最後まで理性が残っていただけはある。この中で唯一の女性である西村だが自分が腹を痛めて産んだ子供だ。助けたくないわけがない。それでも彼女は短絡的な行動ではなく、どれが正しい行動なのか考えようとしている。その上で俺に決めるように言うのは、リーダーであるからという以上に目の前で俺の娘らしき少女死んだからだろう。

「山本と川原もそれでいいのか?」

「ああ」

「お願いします」

 憔悴した顔で力なく肯定する。こいつらの方がよっぽど参っている。

 それに俺は考える。これまでの人生で経験したことがないほど真剣にそれぞれの場合に想定できることを計算していく。

 ここに来るまでは自分のことだけ考えていればよかった。ここから逃げるのにこいつらの命を預かった。今度は何人いると知れない子供たちの命だ。今俺が選択を間違えたら助けられるかもしれない命も助けられなくなってしまう。絶対に間違うわけにはいかない。


「逃げよう」


 俺は決断する。それが最良の選択だと信じて。

「いいの?」

 そう言って西村が扉を見つめる。これは俺の意見に不満があるとかそういうのじゃない。俺がきちんと考え、意志を持って決断したのかという最終確認だ。

「あの子の様子からして全員奴らの指示に従うように教育(・・)されているだろう。俺たちは銃で武装した相手を殺さないように無力化できるほど戦闘に慣れていない。次に会ってもまた殺し合いになってしまう。それなら一刻も早く外部の特殊部隊のような人たちに無力化してもらった方がより多くの子供たちを助けられるはずだ。もちろんその間に奴らが何をするか分からない以上、それで絶対に子供たちを助けられるとは限らないが…」

 俺の考えに三人ともゆっくりと咀嚼するように考え込む。彼らだって出来る事なら助けたいのだ。当然だろう。たとえ望まれて生まれてきた子供たちでなかったとしても、自分の血を分けた子供なのだ。

「もし逃げる途中でまた子供に襲われたら?」

 山本が不安そうに尋ねる。

「逃げる」

 俺は即答する。

「全力で逃げるしかないだろ。残り3つしかないがスタングレネードで攪乱して一気に駆け抜ける。もしそれでダメなら、できる限り腕や脚だけを狙って攻撃する」

 みっともなくても、情けなくても、こちらから積極的に攻撃できない以上それしかない。

 やがて三人は力強く頷く。たとえこの選択がどんな結果になったとしても自らその結末を受け入れるという強い意志を感じる。

「いいんだな」

 最後にもう一度確認するが誰も意見を変えたりしなかった。

 それならばもうここにいつまでも足踏みしているわけにはいかない。少しでも子供たちが助かる可能性を上げるため一刻も早くここを脱出しなければならない。

 俺は山本からアサルトライフルを受け取ると先頭に立って走り出した。

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