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05

「避けろぉォッ!」

 俺の叫びと銃声が鳴り響いたのは同時だった。

 みんな一斉に横へ飛ぶ。念動力を使った全力だ。だが銃弾よりも早く動けるはずもなく、脚に激痛が走る。

「ゥガァァァッアアァァ!?」

 喉から自分のものとは思えないような絶叫がこぼれる。

「ひいぃイタイイタイ痛ェよぉぉォッ!」

 両目から止まることなく涙をあふれさせながらも念動力で無理やり通路の角に体を隠す。傷口を見ると弾は左足をかすめただけのようだ。かすっただけでこんなに痛いとか嘘だろ。ちぎれたかと思った。ていうか未だに左足の感覚がない。

「リーダー!」

 西村がコンバットナイフでズボンを裂き、脚を縛って止血する。奇蹟的に太い血管は傷つかなかったようでそれで血の出もある程度治まる。

 その間、川原がアサルトライフルで応戦しこちらへの進行を防いでいる。

 相手が子供でも手を抜く余裕なんてない。相手も人殺しの道具をこちらに向けているのだ。やらなきゃやられる。

 こんな考えしたくなかったが俺たちが生きて帰るためなんだ。諦めてくれ。お前だってやられる覚悟を持って襲ってきてるんだろう。

 全員がそんな風に自分に言い訳をしなければ目の前の現実を受け入れられなかった。大人を殺すのとはまるで違う覚悟が必要だった。それでもやるしかないのだ。

「うわっ」

 角から顔と銃だけ覗かせ乱射していた川原の悲鳴が聞こえる。

 まさかやられたのかとそちらを見るとアサルトライフルを撃たれたらしく、アサルトライフルを吹っ飛ばされる川原がいた。幸いにも怪我はないようだ。

「野郎っ」

 カッとなった俺は山本の手からグレネードを奪い取ると、ピンを抜き角の抜こうに向かって投げる。

「ま、待ッ」

 なぜか静止する川原の声が耳に入った時にはすでに投擲していた。

 ついでグレネードの炸裂する轟音。銃声は止み、どうやら何とかなったようだ。

 ただうめくようにして黙ってしまった川原が気になる。それでも先に敵がどうなったのかを確認しなければならない。

 俺たちは少女兵の方へ近づく。かなり悲惨なことになっていた。

 いやだ。見たくない。だが俺がやったことの結末を見届けなければならない。それが最低限の俺が俺でいられる(・・・・・・・・)ための境界だ。

 少女は片腕がなかった。ちぎれた右腕が少女の足元に転がっている。かぶっていたヘルメットも吹き飛び、腹に穴でも開いたのかピンク色のナニカ(・・・)が千切れかけの服の下からこぼれている。

 後ろでびちゃびちゃと吐く音がした。誰かが吐いたのだろう。俺も猛烈な吐き気にのど元まで胃液がせり上がり、にぶく焼けるような痛みが喉を焦がす。

 だが吐いている場合ではない。俺は成り行きでなったとはいえこいつらのリーダーだ。安全を確認するまで気を抜いてはいけない。

 無理やり喉まで来ていた胃液を飲み戻す。ピクリと一本だけ残っている腕の指が動いた気がした。

 ぞわりとした悪寒を感じ思わずアサルトライフルを少女に向ける。

こんな状態の少女が生きているとは信じられなかった。

 恐る恐る近づき、拳銃を蹴り飛ばす。これでこの少女はもう攻撃できないはず。

 動かない少女に、呼吸を確かめようと強化ヘルメットを横に置き耳を少女の口元に近づける。

「駄目です!」

 先程まで吐いていた川原が慌てて叫ぶ。

 えっ?とそちらを向こうとした瞬間頭を殴られたような痛みが走る。

 だが実際には何も俺に触れてはいなかった。わずかに少女の指先がこちらを指さしているだけだ。

 それも力尽きたのかパタリと地につき動かなくなってしまった。

 頭がフリーズする。口が酸素を求め無様にぱくぱくと開閉するがうまく酸素を取り込めない。今のは何だ。まるで見えない(・・・・・)で攻撃されたような…

 脳がゆっくりと活動を再開させる。


 俺は知っているはずだ。

 その力を。

 誰よりも身近に。

 少女が使ったのは。

 念動力、だった。


 気が付けば完全に息を止めていた。

 何故ヘルメットをかぶった子供を少女だと気が付いたのか。

 ヘルメットからこぼれる長い黒髪(・・)のためだ。

 その髪の色をした研究所の人間を俺たちは見ていない。

 だがよく知った髪の色だった。

 おそらく海外だと結論付けたこの場所に黒髪の人間がいる理由。

 震える両の腕がゆっくりと少女の長い黒髪に覆われた顔に向かう。

 そこにあらわになったのは。

 どこか見たような顔の面影がある、日本人らしい幼い顔立ちの少女だった。

 その顔の面影をどこで見たのか気が付いたとき、俺の中で何かが音を立てて壊れた。

「あああああっぁぁぁあぁあぁぁぁっあぁぁぁァアァァァアァァァァァァッァァ」

 先ほどの銃撃を受けた時を上回る叫び。

 自らの顔を掻きむしり、頭を抱え血と、赤黒い肉片と、白い砕けた骨の散乱する海に俺の体は沈んでいく。


 駄目だ。

 もうダメだ。

 イカレてる。

 こんなところに1秒だっていたくない。

 あれは。

 あれはもう完全に終わっている。

 ここで俺たちは何をさせられていた?

 奴らは俺たちを実験動物扱いし、俺たちの行為を何と呼んでいた?

 ここは何のための研究所だ?

 なるべくみんな考えないようにしていたソレ。

 女連中に比べれば男は見る事すらなく、そのことにどこか安堵していたソレ。

 今時小学生でも知っている。

 性交すれば何ができる?

 答えは簡単だ。



 こ  ど      も



 その顔は、鏡で見るソレにそっくりだった。

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