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03

 何メートルあるかもしれない廊下をひたすらに走りながら少しでも混乱が大きくなるように、俺たちがいたのと同じ部屋のカギをアサルトライフルで撃ち抜いて破壊していく。

 研究所内にサイレンが鳴り響く。

 もうばれたようだ。隠密性よりもスピードと混乱を狙っているので予定通りだ。

 ここに来てからは閉じこめられていた部屋と医務室の往復しかしていないから出口がどこにあるか分からない。がむしゃらにここに連れてこられた時のことを思い出しつつ走る。

 ようやく見えてきた角を曲がりそこにあった扉を蹴り開ける。

 そこには兵士たちが待ち構えていた。

「お前ら今すぐに投降しろ!」

 そう言ってアサルトライフルをこちらに向ける兵士たち、その数は20はいるようだ。こういう多人数を相手にする時のパターンも話してある。

 足を止めればその瞬間に撃たれる。念動力はできる限り移動のアシストのみに使い、最高速度でもって兵士たちの中に飛び込む。集団の中に入ってしまえば不用意に銃は撃てない。

 兵士たちはできるだけ実験動物を殺さずに捕まえたかったようで最初に投降を呼びかけようとしたのが仇になった形だ。数に慢心してくれた。さらに、俺たちの見た目からこれほど俊敏に動けるとは想像していなかったのだろう。

 体重100kgを越える肉弾4つにより兵士たち数人が吹っ飛ばされる。

 常人のスピードを大きく上回る速度に加えこの質量だ。ぶつかられた兵士は堪ったものではないだろう。中には腕や脚が変な方向に曲がっている者すらいた。

「うおおぉぉっ!」

 銃を持つ俺と川原が中から外に向かって弾丸を吐き出していく。扇状に吐き出される弾丸は多くの兵士たちをなぎ倒していく。

 防弾チョッキを装備しているだろうがこれだけの至近距離だ。貫通しなかったとしてもアバラが折れるのは必至だし、隠れていない肩や足を討たれた奴らの血が飛び散り鉄さびくさい血の匂いが部屋に充満する。

 山本と西村は念動力によって、倒れた兵士を鈍器として振り回す。重装備のはずの兵士の体だが、この日のために蓄えた脂肪(ちから)は伊達じゃない。自らの体重よりも軽いそれは簡単に持ち上げられる。

 むしろ重装備のせいで鈍器と化したそれはいともたやすく兵士たちの意識を奪っていく。頭に当たった兵士の頭蓋が陥没し首が折れる。腕の骨を砕く。

 兵士たちの悲鳴が銃声により掻き消され今際(いまわ)に言葉を残すことさえ許されない。

 あれだけいた兵士も残り四人となったところでようやく反撃をしてきた。

 兵士と言っても軍隊ではない彼らはこれだけの想定外の事態に反応が遅れたのだ。それでも彼らにも意地があるのだろう。圧倒的な状況にも逃げようとせずに果敢に銃弾を放つ。

 撃たれる直前に、持ち上げた兵士たちの死体を俺たちと兵士の射線上にかざし、銃撃を凌ぐ。防弾チョッキのおかげでほとんどこちらまで貫通してこない。

 俺と山本が二人で協力し三人の兵士を持ち上げ、西村も一人の兵士を持ち上げ時間を稼いでいる間に川原が隙間から銃を撃つ。

 西村は力を二つに分けることがいまだにできないでいるのだ。

 そうしてどうにかその場を殲滅することができた。

 まだ息のある兵士がいないか見まわし安全を確認する。

「ハアッハアッ」

 俺たちは必死に乱れた息を整える。

 いくら念動力によるアシストがあったといってもこの巨体を動かすには相応の体力が消耗される。

 息を整えながら兵士たちの装備を漁る。

 俺と川原はアサルトライフルのマガジンを交換し予備もいくつか持っていく。女性である西村は反動の少ない拳銃を持ったようだ。山本はグレネードとスタングレネードを持った。

 防弾チョッキも着たかったが、俺たちの体に合うサイズのものがなかったのだ。仕方なく強化ヘルメットだけ戴いていく。コンバットナイフは全員が念のために持った。これでようやく全員にまともな装備が行き渡った。

「人を殺したわりにあんま忌避感なかったな」

「これだけの期間、社会的な生活から切り離されてきたうえに命がかかってんだ。こんなもんだろ」

「そろそろ行きましょう。研究所(ここ)の兵士がこれだけとは思えないわ」

「そうだな」

 殆ど休めなかったがどうにか呼吸は整った。俺たちは再び走り出した。

 この走るときに足の裏に力点を作り、そこから力で押し出しアシストするというのは俺がここに連れてこられる原因となった「ジャンピングおじさん」の時に考えた使い方だ。

 あれを、力を少し弱めてやれば走るのにも使えたのだ。もちろんほかの三人はこんな力の使い方は知らなかった。ぶっつけ本番で試す気にはなれなかった俺たちは閉じこめられている間にずっと訓練していた。もちろん監視している奴らにばれないようにしないといけないからこっそりとだ。

 腰を振るとき尻を押し出したり、増えてきた体重を支え膝に負担を掛けないようにしたりするのに使い少しずつ慣らしたのだ。

 おかげで本番でも全員問題なく使えている。

 ここまでは計画通りこちらも怪我一つなくやってこれたがこの後もうまく行くか分からない。慎重に行った方がいいだろう。

「これだけ騒げばやつらも何か対策をしてくるだろう。慎重に行くぞ」

「了解」

 俺がこの作戦を持ちかけた所為(せい)か、いつの間にか俺がこいつらのリーダーのような立場になっていた。こいつらの命は俺にかかっている。信頼してくれているこいつらのためにも俺は絶対にここから脱出してみせる。


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