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02

 両足の手錠を兵士に外されて田中と名乗る男に連れられて行ったのは病院の診察室ような部屋だった。

 そこには…

「初めまして皆さん。ワタクシ皆さんの健康管理を任されております田中次郎と申します。お体に何かございましたら遠慮なくワタクシに申し付けください」

 田中がもう一人いた。頭から足の先、声までそっくりな男だった。区別がつけられるようにか、仮面の額部分には赤で2と書かれている。

「ここからは次郎が引き継ぐので皆さんは次郎の指示に従ってください」

 それまで大人しくしていた女性の内、ややつり目の気の強そうな女性がとうとう堪忍袋の緒が切れたらしく叫びだす。

「いい加減にしなさいよ!なんなのよここはっ!家に帰してよ!!」

 そう言って暴れようとしたが、兵士に取り押さえられ口にボールギャグを付けられた。

 はぁ?何でボールギャグ?

 疑問に思ったが何も言えない。てか、相手に生殺与奪を握られてるときに抵抗ってよくできるな。俺だったらションベンちびって何もできないね。現に今がそうだし。

「スミマセンが説明が終わるまではお静かにお願いします。ここで皆さんに行っていただきたいのは子作りです。これから皆さんは妊娠するまでひたすら交尾してもらいますので」

 そこでもう一人の女性、長い黒髪に眼鏡の良く似合うおとなしそうな女性が悲鳴を上げる。

「念動力者同士での交尾による子供は高確率で念動力者になるという学説の検証と念動力者の量産が目的ですので子供が産める間はここから出ることは許可できませんのでそのおつもりでいてください。まあ、男性にとっては働かずに食事に寝るところがあり、好きなだけ女性と交尾ができるのでそれほど悪い場所ではないと思いますよ。みなさん割と気に入ってもらえていますし」

 ふざけているにしてもほどがある。何なんだここは。いくら女と好きなだけヤれると言ったって閉じこめられて、こんなのただの家畜じゃねえか。

 そう思ったがこのときの俺は何も抵抗なんてできなかった。



§§§§§



 そして冒頭に戻る。

 閉じこめられた数人の男女。決められた時間になると差し出される食事。ほとんどの女は感情のない瞳でただ男に好きにされている。三日置きの健康調査で時折女が別の女に入れ替わる。七ヶ月程度経つとその女も戻って来る。膨らんだ腹にさらにやつれたような顔をして。ほとんどの男はもう開き直って楽しんでいる。監視カメラに向かって面白いプレイをして監視してるやつらに気に入ってもらえると酒や煙草を分けてもらえるのだそうだ。

 もう何年ここにいるのかわからない。女の中にはもういなくなった奴もいた。

 噂ではもう妊娠できなくなって処分されたというが怖くて誰も確かめることはできなかった。もちろん本当のことを教えてもらえるとは思わないが。

そんな時健康調査のため部屋から出た際に通路の向こうに見た。見てしまった。

 前回の健康調査からいなくなりてっきり妊娠したのだと思っていた女が。

死んでいた。

 全身に白濁としたナニカがかかり、首には絞めたような痣がある。それをめんどくさそうに運ぶ兵士。

 その女だったものは俺と同じ日に連れられてきたつり目の女だった。

 子供の産めなくなった女はどうなるのか。

 気が付けば股間が湿っていた。俺は数十年ぶりの粗相など気にする余裕がなかった。

 俺だってもはや他人ごとではない。女よりは先かもしれないが男だっていずれは子を作れなくなる。

 それを認識した途端恐怖が俺を襲った。ここに来てから俺は恐怖なんて感じたことはなかった。男である俺は大したこともされずただ精を放っていればよかったんだから当然だ。

 力を付けなくては。

 ここから出れるくらいに力を付けるのだ。そして絶対にここから逃げてやる。

 そうして俺は始めた。秘かに奴らにばれないように。力を蓄え始めた。

 俺が持っている力なんて念動力(これ)しかないのだから。

 まずはひたすら食べた。これじゃ足りないもっとよこせとわめき、少しでも多く食べるようにした。そしてヤるときも極力動かず女に動かさせた。

 周りのやつらにも何人か声を掛けた。

 男からは二人しかいい返事がもらえなかった。女はまだまともな意識の残っている女自体が一人しかいなかったがそいつも賛成した。

 こうして俺たち四人は蓄えた。力を。脂肪を。

 決意してから数週間後俺たちは皆、体重100kgを越えた。

 ここに来る前だったら絶対に忌避したであろうその体に俺たち満足そうな顔を浮かべる。

「山本、川原、西村、準備はいいか?今日の健康調査が終わったタイミングで逃げるぞ」

「ああ」

「わかってます」

「こんなところ絶対に脱出しましょう」

 俺の言葉に三人が応える。

 俺たちの中で最も脂肪(ちから)を蓄えた男、山本。眼鏡のつるが肉に食い込む川原。唯一の女性西村。皆その巨漢を揺らしながら俺についてきてくれる。頼もしいやつらだ。

「キ、キミたちはもう少し食事を減らして運動した方がいいね。これじゃあ交尾にも差し支えるよ」

 かなり引いたような顔で俺たちに助言する次郎。

 ふん。俺たちに指図ができるのも今日までだ。部屋に戻される直前、扉が開かれ中に入れられるその時、

「今だ!」

 俺の野太くなった声に合わせて振り返り、俺たちを入れようとしていた三人の兵士たちを念動力で持ち上げ壁に叩きつける。兵士たちが落としたアサルトライフルを念動力で拾い、兵士の頭を撃つ。

「逃げるぞ」

 真っ白な廊下を俺たちは念動力で体を支えながらその巨漢に似合わない速度で走り始めた。


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