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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第二部 第六巻 神(エリ)杯(クシール) (12話+2) 闇の章

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第02話 仮説

 錬金術学校に入学した私は、大勢の人たちが長い時間を掛けて調べた様々な知識を容易に得られるようになった。

 それらを統合した結果、竜核とは『世界の力を引き寄せる力』と『放つ力』を併せ持つ因子ではないかと考えた。

 そして竜核は、転生竜を生み出すだけの力を蓄えられなくなることでエネルギー結晶体となって人の手に渡るという仮説を立ててみた。


 6格(上位竜の上) 停滞165年(-15歳)

 5格(上位竜の下) 停滞135年(-12歳)

 4格(中位竜の上) 停滞108年(-9歳)

           停滞 84年(-6歳)

 3格(中位竜の下) 停滞 63年(-3歳)

           停滞 45年(±0歳)

 2格(下位竜の上) 停滞 30年(±0歳)

           停滞 18年(±0歳)

 1格(下位竜の下) 停滞  9年(±0歳)

           停滞  3年(±0歳)


 例えば、上位竜の上を生み出すには200のエネルギーが必要だと仮定する。

 しかし何度も倒されてカルマ内包量の限界に至った竜核は、やがて200のエネルギーを貯める力を喪失し、転生竜として顕現する事が出来なくなる。

 すると165のエネルギーを溜め込んだままのエネルギー体が出来る。

 それを誰かが身に付けることで顕現するエネルギーが装着者に流れ、165年分の時間を永らえる事ができる。


 装着者が変わると力が落ちるのは、竜が倒されて再び復活する再顕現となり、残っている力が一段階落ちるからだと仮定する。

 2種類の指輪を装着出来ないのは、装着者の身体の消費を1匹の竜の身体で補っている状態で、それに2匹目の竜の身体を混ぜられないからだと仮定する。


 ただし、それでは吸収力の部分について説明できない。

 計算方法を『エネルギー残量-消費量+吸収量=保てる年数』に直し、消費と吸収の値も竜核の強さで変わると仮定してみる。


(上の上)残量825-年消費60+年吸収55=165年(-15歳)増減差5

(上の下)残量810-年消費51+年吸収45=135年(-12歳)差6

(中の上)残量756-年消費43+年吸収36=108年(- 9歳)差7

(中の上)残量672-年消費36+年吸収28= 84年(- 6歳)差8

(中の下)残量567-年消費30+年吸収21= 63年(- 3歳)差9

(中の下)残量450-年消費25+年吸収15= 45年(± 0歳)差10

(下の上)残量330-年消費21+年吸収10= 30年(± 0歳)差11

(下の上)残量216-年消費18+年吸収 6= 18年(± 0歳)差12

(下の下)残量117-年消費16+年吸収 3=  9年(± 0歳)差13

(下の下)残量 42-年消費15+年吸収 1=  3年(± 0歳)差14


 竜核で検証したわけではないので残量や消費量の値は異なると思うけれど、これなら本来あるはずの『吸収』の性質や、竜核の強さの差を説明できる。

 すると、『竜核が強くなるほど、消費量と吸収量の差が縮まり長い年月身体を保てる』と言う可能性が生まれた。

 ……最上位は、どうなっているのだろう。

 もし仮に最上位竜の指輪にも10段階があれば、下から消費差4、消費差3、消費差2、消費差1と差が無くなっていき、±0歳の一番上である6番目以上の指輪は『永遠の命を得られる』という計算になる。それ以上になれば、その余力で年齢も若返る。

 もっともそんな指輪を人類が手に入れられるはずはないので考えても仕方がないのだけれど。


 竜核そのものに対する理解は、錬金術学校に入ってから大幅に進んだ。

 竜核には『吸収』と『放出』の2つの性質がある。

 『吸収』は倒された転生竜が復活するために力を集める現象で、『放出』は倒された転生竜が具現化するために起こす現象だ。



 そういえば、宝珠都市も同じような現象を起こしている。

 都市にも格があって、力の放出でやがて宝珠の格が落ちる。

 大祝福2以上の治癒師がアルテナの宝珠格を消費量以上に回復させて、一度落ちた格を戻した例が過去にはある。それでも、元々の格以上になった例は無い。

 アルテナの神宝珠に成らなかった竜核にも同様の限界があると思われるため、竜核そのものを格上げする事は出来ないと仮定する。


 疑問。

 アクス領の神宝珠は、第一宝珠格であった物が第五宝珠格になった。これはあり得ない。


 推測。

 アクス領には、元々あった第一宝珠格に加えてさらに第五宝珠格がある?


 おそらくそうなのだと思う。

 二つの宝珠を合わせて30万人規模なのに人口を25万人に制限すれば、宝珠の消費を抑えてより長い年月都市を保つ事が出来る。あるいは5万人規模の第一宝珠格を一切使わずに回復させつつ温存する事も出来る。

 第五宝珠核のアルテナの神宝珠の元になった大英雄クリスト・アクスが、己の子孫繁栄を願うのはあり得ない話では無いと思った。

 研究の副産物として、私にとってはどうでも良い秘密を知った。


 ……いいえ、いいえ、いいえ、いいえ。『2つの力を合わせる』と言うのは良いかもしれない。

 2つの指輪の同時装着には誤差が生じてしまうけれど、最初から2つの指輪を一つにまとめてしてしまえばどうなるのだろう。

 装着と言う形態にこだわらず、1つの竜核の強化にもこだわらず、複数の竜核を『直接体内に同時に取り込む』のならば可能かもしれない。

 すると何が起こるのかを考える。

 ①外部へのエネルギー放出という消費が体内での循環に変わり、転生竜のようにダメージを受けて肉体を復活させるようなエネルギー消費を行わない限り殆ど消費しない。

 ②吸収量自体が竜核を重ねた分だけ増えて、わずかな消費量を上回る。


 寿命だけではなく、肉体的な問題までも同時に解決してしまった。

 私は永遠の寿命を持ち、傷ついた身体を体内の竜核の力によってすぐに復元させられる存在になれる。

 これは従来の転姿停滞の指輪を装着している人間よりも遥かに優れた存在だ。


 後の問題は何だろう?

 同時に取り込む方法については考えがあった。輝石を専攻すれば、輝石のエネルギーを取り出す方法を学ぶ事が出来る。それを応用する。

 問題は、素材に用いる竜核の入手。

 1格程度ならば、手に入れるのにそこまで苦労は無かったはず。

 もっと容易なのは、使い終わった転姿停滞の指輪だ。こちらは使い道が無い為に子供のオモチャ扱いだけど、そこにも残滓や吸収力は残っていると思う。冒険者に依頼すれば集まるかもしれない。

 なるべく沢山の数が欲しいけど、そのためにはお金が必要だった。






 Ep06-02






「レナエル捕獲ですっ!」

「わきゃっ!?」


 そんな掛け声と共に、レナエルの背後から両手が伸びて来て手前で交差した。それと同時に小柄なツインテールが軽く体当たりをしてくる。

 要するに何かが背後からレナエルに抱き付いて来た。


「アニー、背後からの攻撃は禁止ですよ」

「背後からでなければ、奇襲にならないのですー」

「そうじゃなくて、そもそも奇襲をしなくて良いと思います」

「そうはいきません」


 レナエルを解放したアニトラ・ベルンハルトは、笑顔でレナエルの提言を却下した。

 そしてレナエルの隣に座って机の上に教科書をポンポン並べると、授業が待ちきれないかのように足をバタバタさせはじめた.

 レナエルを挟んで反対側に座っていたタニアが、そんなアニーに声を掛ける。


「アニー、貴女はこの選択授業を一昨日も受けていなかったかしら」

「はい、受けていますよ」

「どうして同じ内容の授業を2回受けるのかしら」


 錬金術学校の講義は必修の他に、好きに受けて良い自由選択の教科もある。行われるのはすべて午後で、必修教科の受講に影響の出ない時間だ。

 数学や物理学のような錬金術に関係する教科もあるが、魔法学や神学など研究室への所属にはあまり無関係の教科も多い。そして生徒が様々な組み合わせを出来るように、週に2度は同じ内容の講義を行っている。

 だが教師側はともかく、生徒が同じ内容を2度も受ける意味はタニアには分からなかった。


「精緻化リハーサルです」

「それは何?」

「ええと、例えばですね。今からあたしが、野菜と果物の種類を沢山言います。すると大抵の人は、あたしが言った野菜と果物の種類を5つから9つまでしか覚えられません。これはマジカルナンバーと言います」

「うんうん、それで?」

「ですが、あたしが言った野菜と果物を頭の中で色別に分類すると、9つ以上覚える事が出来ます。赤、緑、黄色でいきましょう」

「赤、緑、黄色?」

「はい、いきますよ。赤色『リンゴ、にんじん、トマト、いちご』。緑色『ピーマン、かぼちゃ、メロン、キャベツ』。黄色『バナナ、オレンジ、レモン、みかん』。はい、おしまい。今あたしが言った野菜と果物を10種類以上言える人は、かなりいます」

「へぇ、面白いね」

「はい。あたしは1回目で先生の話を記憶して、2回目で精緻化リハーサルします。根菜類と果菜類に分けたり、季節で分けたり。すると覚えた事を忘れません。タニアもどうですか?」

「そうね、あたしは予習復習で使わせてもらうわ。アニーはどうしてそうしないの?」

「………………あれ?」


 アニトラ・ベルンハルトのドジっ子ぶりは有名だ。

 錬金術師の娘で錬金術の装飾品を身に付け、おまけに入学試験でも93点という好成績を出した秀才にもかかわらず、入学申込書を違う錬金術学校に持って行った。


「天然」

「あうう」


 アニーは頭が良いのにとても危なっかしい。おまけに小柄で、髪形も肩くらいまでのツインテール。

 アニーは15歳でレナエルよりも1歳年上だが、アニーと接しているとまるで妹と接しているかのような気分になってしまう。

 同い年のはずのタニアからすれば、3~4歳年の離れた妹扱いだ。


「私はアニーと一緒に勉強出来て嬉しいです。クラスも志望進路も違うので、選択授業でしか同じ教室になりませんし」


 レナエルの助け船に、アニーはちゃっかりと乗り込んだ。


「あたしも一緒で嬉しいですよ。進路も同じだと良かったんですけどね」

「レナエルの場合は、お父さんが調合の教師だから。アニーはどうして輝石を選んだの?」

「炎の輝石で爆発……じゃなくて、輝石本来の力を引き出す研究が興味深いからです。第二希望は調合なので、第一希望に落ちたら拾って下さい」

「アニーは落ちないわよ」「アニーは落ちないと思います」


 前期試験はまだ行われていないが、アニーはドジさえしなければ最優秀生徒も狙える位置に居た。

 中等校の教育で一切行われていない『属性鉱石Ⅰ』『輝石総論』『特殊繊維Ⅰ』『マナ総論』の4教科の総合成績については、母親が錬金術師で他の生徒より遥かに先んじて学べたアニーがダントツ1位だ。なにせ講義で説明していない範囲まで広く理解している。

 他の必修5教科も総じて高水準で、アニーは『ドジさえしなければ』落ちる事など無い。


「でも心配だなぁ」

「心配ね」

「ううっ」






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 冒険者ロラン・エグバードの活動範囲は、主に都市アクスの周辺だ。

 そもそも都市アクスだけでも都市建設に伴う人と物の往来で仕事に困らず、同時に広大な加護範囲と周辺の多くの魔物とで資源獲得や祝福上げに不自由しない。

 そんな都市アクスから出るのは、半依頼主であるジョスラン・ベルネット氏の商業活動が王都ベレオンから都市アクスまでの8都市であるからだ。

 ロランは都市アクス、都市ルクトラガ、都市ファルクの3都市間での輸送の仕事を時々引き受けている。都市内の仕事ならいくらでも専門職がいるが、彼らには祝福を受けた冒険者の変わりは出来ない。

 都市アクスから都市ファルクまでは片道6日。2週間に1度レナエルに会うとしても支障はない。ジョスラン氏もその辺を分かって依頼を出す。

 ロランは7割方ジョスラン氏の依頼を受け、3割程は都市アクスで知り合った冒険者と経験値稼ぎや別口の依頼を果たすスタイルでわりと自由に活動していた。

 2月に都市アクスへ辿り着いてから既に3ヵ月、ロランは新天地での生活にもだいぶ慣れた。

 そして今日は休日。錬金術学校が休みで、リア充が爆発する日である。


「と言うような事がありました」

「もしかして、アニトラ・ベルンハルト?」

「ロランさん、アニーの事を知っているんですか?」

「ああ、ジョスランさんの輸送便に乗ってギリギリに辿り着いた錬金術学校の生徒だろ。割れるはずの無い木製の皿を割ったドジっ子だって有名だぞ」

「……それは不名誉な伝説ですね」


 都市アクスの新建設地の大通りは、日の出から日没まで西に東にと人通りが絶える事は無い。

 そんな人々を眺められる大通り沿いの喫茶店内で、ロランとレナエルは紅茶とケーキを前にお互いの何気ない日常を談笑していた。

 デートの支払いは全てロラン持ちだ。

 そもそも二人とも金銭的な問題は全く無い。

 レナエルとその父グラートは、先般の『高純度の加護を込めた竜核の粉』の件で王国から膨大な開発料と口止め料を約束されており、一般人が自宅に持てる全額ではなくベイル王国にまだ銀行制度がない為、大部分が未払い扱いでアクス侯爵家預かりとなっている。

 そしてロランも隠ぺいの加担と口止め料として、全装備を新調しても余裕がある大金を手に入れている。ロランは冒険者カードを更新し、旧騎士の装備もすべて冒険者協会に返した。

 だが金を稼ぐのは男の仕事だ。妻に稼ぎを依存するようでは、重婚などとても出来ない。


「でもアニーは、最優秀生徒の候補ですよ」

「へっ、レナエルじゃないの?」

「はい。『属性鉱石の製錬』と『特殊繊維の精練』の2教科は、私と父は専門外です。逆にアニーは、指南書さえあれば教師になれるレベルです。『輝石の精錬』は私とアニーが同じくらい。『調合・マナ抽出』は私の方が専門ですけれど、合わせて1勝2敗1分けです。残りの一般5教科でも、90点と93点の差でアニーの方が少し上です」

「へぇ、世の中って広いんだな」

「それに一般教科が全て満点の人もいますし、うかうかしていると錬金術の専門分野でも負けてしまいそうです」


 ふむふむと頷き、ロランはティーカップを口に運んだ。

 美しいオレンジ色の紅茶が喉を湿らせるが、ロランは自分が今何を飲んでいるのかを理解していない。「こう言う店の注文は、分からなければ『彼女と同じ物を』と言っておけばいいのだ」とは、ロランの処世術である。


「すると前期試験、全教科の総合点だと希望進路に行けなかったりして」

「あ、それは実は大丈夫なんです」

「ん、そうなの?」

「はい……王国が私に対して、研究継続を依頼してきました。錬金術師推薦枠の5名は、『そう言った生徒』や『錬金術を普及したい貴族の子弟』が研究室に落ちないようにするための枠だそうです」

「……研究成果、もう出ているよね。しかもリスクがあるから黙っていて欲しいとまで言ったのに、王国はレナエルに何を求めているの?」

「改良の余地は無数にありますよ。発展の余地もいくらでも浮かびます。極端な例を挙げるなら、研究を続ければステージ2の蘇生薬を作れるかもしれません」

「…………危ないな」

「大丈夫です。今は瘴気を消すお薬としか言いません。王国に言っていない事がいくつもあります。竜核にも神由来と魔由来の性質差がある事。純化した高濃度の加護の液体を作るには欠かせない手順と素材がある事。濃縮した加護を移す作業には竜核の『吸収』という性質を用いる事。もちろん他にも沢山あります。私が発見出来たのは偶然ですね。もう一度はじめからやり直せと言われても不可能です」

「…………それも危ない」

「心配してくれますか」

「もちろんだろ」

「それは嬉しいです。でも、大丈夫ですよ。『偽物の竜核の粉』を用意しました。効果は一見同じように見えます。単に加護内包量の多い粉ですけれど」

「それは俺とレナエルだけの秘密だな」

「はい。そうしておきましょう。あ、もしロランさんが二人目の妻を作っても、絶対に言ってはいけませんよ?」

「もちろん。あと、重婚OK?」

「当然駄目です」

「ふっふっふ」

「ふふふ」


 談笑し合う二人の笑いが、政治交渉における相手へ余裕を見せる牽制の笑いへと変わった。


「イルクナー宰相代理は冒険者で、4人と結婚して大活躍!」

「アクス侯爵やハーヴェ侯爵も大活躍していますけれど、両侯爵とも1人の女性としか結婚していませんよ」

「むむっ」

「そう、それとロランさん。ご存知ですか」

「ん、何を?」

「緊急救命3割と言う慣習ですけれど、ロランさんが例に出したイルクナー宰相代理によって、ベイル王国法で4月に廃止されたそうです」

「…………………………エッ?」

「これからは、冒険者協会が適正価格を定めるそうです。宰相代理は慣習を廃止するのを躊躇わない人なんですね」

「………………ごめんなさい」

「ええと、ちょっと聞こえませんでした。主に重婚をするかしないかの部分がです」

「………………」


 ちなみに、法の遡及適応は行われない。

 つまり過去に遡ってロランとレナエルの契約を破棄する事は無いと言う事で、二人にはあまり関係の無い出来事だったりする。

 だが、レナエルはそんな事をわざわざ説明しなかった。

 しれっと笑顔でロランに問いかける。


「それで、どうしましょうか。重婚」

「…………」

「ルールを決めましょうか。二人目以降は、私が許可した人としか重婚出来ないと言うのはどうでしょう」


 妥協したように見えて、実は全く妥協していない上にレナエルが一方的に有利になる案だった。

 男性は女性に口で勝てると思ってはいけない。

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