第07話 負の遺産
慣れた森の細道を馬で縫うように駆け抜け、グズな下っ端どもを使い捨てて時間を稼ぎながら、俺はずっと考えていた。
「当然だ」
俺が冒険者になったのは、今から20年前だった。
すでに人獣戦争勃発より4年が過ぎ、東の都市が次々と獣人帝国に飲み込まれていた。
その頃ベイル王国は、蹂躙される人々を支援する為に動員可能な戦力と物資とを東へと注ぎ込んでいた。
俺の冒険者人生は、出だしから先の全く見えない下り坂だった。しかもその坂道は、進むごとに勾配が深くなっていったのだ。
王国が騎士団の大半を失った代償は大きかった。
都市周辺のモンスター退治を騎士に比べて遥かに劣る治安騎士に代替した結果、犠牲者が跳ね上がった。
治安騎士が任務の兼任と殉職とで一気に減ると、都市内の治安は急激に悪化した。
物価自体は開戦後の露骨な便乗値上げで最初から上昇していたが、そこに治安悪化に伴う多額の護衛費というコストが上乗せされた。
そして東への支援と戦死者した遺族への一時金で悪化していた国家財政は、汚職を取り締まるべき治安騎士の激減、大量の難民流入に伴う支援、外交の失敗などによってついに破たんした。
増税、人心の荒廃、終末論。
俺は、そんな誰にも手の付けられなくなったベイル王国の滅亡への歩みをこれまで眺めてきた。
「不公平だ」
喉元まで込み上げて来た内心の思いを、溜息を吐露して少しだけ発散させた。
俺には、2つの強い思いがある。
1つは自己への肯定だ。
すなわち「盗賊を為すのは当然である」と。
冒険者が充分な収入が得られなければ、その力を以って盗賊を為すのは当然の事である。これを否定できる者があるとすれば、それは生きる事を諦めて死んだ者のみである。
生物が生きるのは自然な行為であろう。それともまさか、祝福を得た者に一介の農夫になれとでも言うのか。
冒険者が農夫になることを一体誰が望むのか。
鳥や魚に地上を歩いて生活をさせるのであれば、それはもはや鳥や魚ではない。
それと同義で、冒険者に農夫をさせれば、それはもはや冒険者ではないのだ。
大不況の中で、冒険者の身を殺さずに生きる術は盗賊しかなかった。騎士や治安騎士が激減していたので盗賊稼業はやり易かった。
もう1つは仮定だ。
すなわち「今冒険者に成っていたら、自分とて盗賊にはなっていなかった」と。
2年前、ベイル王国に突如として太陽たちが輝きだした。
太陽たちは王国へ攻め込んできた獣人軍団を壊滅させ、難民問題を根こそぎ解消し、治安を回復させ、経済を健全化し、汚職を罰し、大国の首都に匹敵するほどの都市を2つも同時に創り出し、数多の資源をもたらして今も王国全土を照らしている。
英雄譚の再来だった。
ベイル王国は歴史の転換期を迎え、すべての下り坂は上り坂へと形を変えた。
もしこの時代に乗れていたならば、もしこの時代が20年前に訪れていたならば、そんなことを考えているうちに、羨望が脳裏にしっかりと焼き付いてしまった。
失われた20余年を経て、犠牲になった世代を踏み台にした若者たちが今やわが世の春を謳歌している。
もし20年前に英雄たちの復活と大改革があったのならば、俺は貧しさと絶望から盗賊に身を堕す事も無く、おそらく冒険者としての本道を歩んだことだろう。
そしてサポートを受けて経験値を上げる事に集中できていれば、祝福数が今の大祝福1祝福27よりもずっと高かったであろう事は疑いない。おそらく大祝福2に届いたはずだ。
俺の隣で轡を並べている大祝福1祝福25の男も、おそらくはそう感じているはずだ。俺はそう思い、馬で並走する仲間の男に呼び掛けた。
「ヨハンネス。王国の現状が20年前に到来していたならば、今頃俺たちはどうしていたと思う?」
ヨハンネスは即答しなかった。
呼び掛けた俺の顔色を窺い、ややあってからおもむろに口を開いた。
「アウリス、なぜそんなことを聞く?」
「不公平だとは思わないか。同じ国に生まれたにも拘らず、俺たちと今の新人冒険者とではあまりに差が大きすぎる」
「別に否定はしないが……」
「そうだろう。事実だからな」
それに宰相代理も悪い。
宰相代理は、数年以内に冒険者に成った若者たちに対しては手厚い支援政策を施している。
だがその一方で俺たちのように若くもない冒険者たちに対しては、一切の支援を行っていない。
つまり若い奴らは伸び代があって、俺たちは今から支援しても効果が薄いとの判断で、冒険者へ分配可能な予算のすべてを若い奴に振り分けて俺たちには一切振り分けないというわけだ。
効果的、露骨、戦時中だから仕方がない、不公平な税の分配。俺の内心で、宰相代理に対するいくつもの肯定と否定とがぶつかり合う。肯定と同じ数だけ否定の言葉も出てくる。
宰相代理は慈善事業家ではない。
むしろ、妻であるアンジェリカ次期女王以外の誰が何を言っても容赦なく切り捨てる。冷酷な判断を下し、アンジェリカ次期女王が温情措置を求めた時だけしか救済策を出さない。
そして俺たち時代遅れの冒険者たちに対しては、救済策などなかった。
それでは、どうしようもないではないか。
盗賊を為す以外に財貨を抱えた生活などできなかったのだ。
もちろん騎士になるという話は論外だ。20年間の間に騎士がどれだけ死んだと思っている。20年前に騎士になった奴のうち、現役と戦死者との数を比べてみろ。少なくとも8割は戦死しているはずだ。全く話にならん。馬鹿にするな。
結局俺には盗賊しかなかったのだ。盗賊が悪という考え方はおかしい。
「アウリス」
ヨハンネスがそう呼びかけてきた。
俺とヨハンネスは同年代で同程度の祝福数という対等な仲間だ。
他にも盗賊は沢山いるが大半は無思考にして直情的で、金や女、あるいは暴力が目的で集っている動物のような連中だ。
あるいは自ら置かれた環境に馴染んで思考を放棄したか。
「なんだヨハンネス」
「2個小隊が追ってくる。このままでは終わりだ」
1個小隊なら大祝福1以上の冒険者は2人だ。
それならこちらも同数で祝福数も相手より高いので勝てる。装備は相手の方が良いが、祝福数の差は装備を上回る。
だが敵が2倍の4人なら、その人数差は多少の祝福差を上回る。
相手も弓と毒矢数本くらいは持っているだろう。接近されて射られれば馬が死ぬ。
それに追っ手のうち大祝福1以上の者が騎乗している馬の質も上がっている。常備している回復剤の質もだ。情報の伝達や即応体制も、自分が追い詰められるほどに上がっている。
「……もう盗賊稼業も廃業だろう。ヨハンネス、いっそ他国へ行くか?」
「あいつらから逃げ切れたらな。無理だろうが」
「そうだな。馬の疲労度にずいぶんと差がある。それに2人に対して、大祝福1以上の騎士が4人という戦力差も不可逆だ」
人生の終わりが近づいていた。
「なあヨハンネス、俺はかなりの冒険者を殺してきた」
「ああ、そうだな」
「一般人を殺すのと違って、冒険者を殺せばカルマのマイナス化は大きい。その冒険者が将来打ち払うはずだった瘴気を溜め込んだ魔物を生かし、その魔物が将来行う所業をカルマに上乗せすることができる」
「それは単なる俗説だ。単純にアルテナの祝福を受けた者を殺すからだと言う説もある。マイナスの度合いは殺した冒険者のカルマに応じるとも、祝福数に応じるとも言われるが」
「……どの説であっても、冒険者を殺せば大きなマイナスカルマとなる点は変わらぬだろう」
「それで、何が言いたい」
「俺は冒険者を沢山殺し、転生竜も殺して転生条件を満たしている。死後、俺は単なる魔獣程度への転生では済まない結果になると思っている」
「アウリス」
「出来れば己の意思を保てる主魔が良いが、虫が良すぎるとすれば従魔でも構わない。第五宝珠都市の加護範囲であっても、俺の消滅までしばらく保つはずだ。力を得て、この力を以って、俺の憤りを晴らしてやる」
「死後で自らの意志も保てないのならば、無意味ではないか。お前の憤りを教訓にこの国が改善へ向かったとしても、お前はその恩恵になんら浴する事ができないだろう」
「だとしてもだ。このまま何もしないで消えるならば、俺が俺である所以すら無くなる。ヨハンネス、お前は逃げると良い」
「……これが魔族の成り立ちと言うことか。社会の不公正や人類間戦争で増えるのだな」
「知らん。どうでも良い。いいから逃げろ」
「分かった。さらばだアウリス」
「ああ………………来世ではバランスを取って、大騎士団長にでもなろう」
環境要因次第では俺も騎士に成っていたはずだ。
今は良い時代だ。人獣戦争の大勝と傭兵の効果的な運用で、騎士の負担と死亡率は激減した。
さらに兵士の数を大胆に減らしてその金を騎士に注ぎ込んだ結果、騎士の給与や装備、待遇が一気に跳ね上がった。
今なら騎士になってやっても良いし、傭兵になっても良い。逆に盗賊の時代は終わった。盗賊に対しては、王国が総力を挙げて的確に殺しに来る。降伏しても拷問の挙句死罪だ。リスクに見合わない。
俺は馬の速度を落としてヨハンネスを見送ると、馬首を返して追っ手の騎士たちへと向き直った。
「付き合ってもらうぞ」
俺は怒りと共に、右手に持った剣で自らの首を貫いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
都市アクスには通常の都市には有り得ない大規模な部隊が配備されている。
それは通常の魔物対策の部隊の他に、西部方面の中核都市としての基幹部隊、そして大量の難民を王国民として組み込むための統制部隊が必要との観点からだ。
そのうち1個騎士団が任を帯び、揮下15個騎士隊を投入して盗賊達を追撃していた。
特にカッセル少佐とエルト少佐の2個騎士隊は、盗賊を追い回して戦力を分散させ、そこに味方の戦力を集中投入するという2段構えの戦法で部下の犠牲を避けながら、確実に盗賊を打ち倒していた。
そんな中、大祝福を越える盗賊達への追撃を行っていた騎士隊長と副隊長の計4名は、最後の獲物まであとわずかと言う所でそれを見た。
「前方に銀色の発光現象!」
強烈な銀の光が前方から溢れ出ているのは、報告を聞くまでもなく一目瞭然だった。
周囲に噴き上がった後、濃い霧であるかのようにゆっくりと地面を流れてゆく銀の光は、まるで大地を飲み込み覆い尽していくかのような不吉な印象を騎士たちに与えた。
「なんだと!?」
「おいおい、ここはアクス様の第五宝珠都市だぞ……」
4人の騎士たちはその現象に驚愕するしかなかった。
この森は第五宝珠都市アクスの加護範囲内だ。その加護範囲内では、加護の力が瘴気の力を削り続ける。並の魔物なら、身体の瘴気を削られる激痛に耐え切れず一目散に逃げ出すことだろう。
加護と瘴気は相滅するため、瘴気を削る分だけ宝珠の力も消費する。だが第五宝珠都市を消費し切る程の魔族など、地方の盗賊幹部ごときに居るはずもない。
現に濃い霧は、周囲を流れていた目に見えない加護とぶつかって金と銀の発光現象を起こしながら、ほんのわずかに消滅している。
この場の加護が薄れれば、それを埋めるために周囲から新たな加護が流れてくるだろう。加護と瘴気は打ち消し合うのだ。おそらく総量で劣る魔族は捨て置いてもいずれ消滅する。であればこそ魔族の意図が分からない。
だが現実として魔族は出現しており、都市からの金色のマナと魔族からの銀色のマナが加護と瘴気に形を変えて今も打ち消し合っている。
騎士たちが怪訝そうにその現象を眺めていた時、突然乗っていた馬たちが倒れ出した。
「うぉおあっ」
「なんだとっ!」
4頭の馬が次々と倒れ、騎士たちは地面へと投げ出された。
馬体の下敷きにされないように慌てて飛び降りて距離を取り、一体何事が起ったのかと馬を振り返った。
「……馬鹿なっ」
馬たちの脚は、銀色の霧に包まれて黒色壊死していた。
「霧から離れろ!」
カッセル隊長が声を上げると同時に、残る3人の騎士も地面を蹴り飛ばして銀の霧から離脱した。
「戦闘準備」
エルト隊長はそう言い放ち、自らは霧の中心部に向かって矢を撃ち込んだ。
その矢は弓から放ったのではない。エルトが両手で構えた特製のクロスボウと言う武器から放ったのだ。
周辺国で遠距離武器の代表と言えば弩だが、エルトのクロスボウは量産できず、使い手も選ぶ。
特性クロスボウに用いた素材は強固な生物で、それらを組み合わせたクロスボウの威力は、据え置き型のバリスタから放つ極太の矢の威力に迫る。
エルトはその特製クロスボウを自身の標準装備とし、高威力で敵や大型の魔物を遠距離から仕留めて来た。
エルトの矢が空気を裂き、霧を突き破って魔族へと迫った。そしてドンッという重音と、その直後に人体が地面に崩れ落ちる音が聞こえて来た。
「よしっ!」
「やったっ!」
カッセルとオーリク副隊長が歓声を上げた。
だがエルトは無言で次の矢を番え、濃い銀の霧の奥へと撃ち込んだ。
ドンッと地面に矢が突き刺さる音が聞こえる。
目標を外したと判断したエルトはさらに矢を番える。
「……」
そんなエルトの行為を、カッセルは慎重に過ぎると思った。
それは『いかに瘴気が濃くとも大祝福を受けた者ならばその桁違いの加護で耐え切る事が出来るはずであり、のんきに矢を撃ち込んでいないで素早くトドメを刺しに突入した方が良いのではないか』という考え方からであった。
その思いはカッセル隊の副隊長であるオーリクの方がさらに強く、焦れながら不満顔でエルトの方を眺めていた。
だがエルト隊の副隊長であるアルカンは、自分の隊長の性格をよく理解していて無言のまま近接戦闘用のショートソードを構えてエルトのすぐ脇に陣取っていた。
要するに狩り方の違いである。どちらが正解かと問われれば、今のベイル王国には明確な答えがある。
それは『結果が出れば正解』である。だが、結果は出なかった。
霧が風圧で吹き飛び、霧の中から銀髪の男が飛び出してきた。
銀髪の男は駆けながら4人の騎士を目視し、まず赤髪のオーリク副隊長に突撃した。
「ちっ!」
オーリク副隊長がナイトソードを正面に構え、その横合いからカッセルが2本のハンドアックスを前方に構えながら割って入った。
銀髪の男は薄紅色の瞳でカッセルを睨み、無言で太刀を振り下ろした。
『破断』
カッセルは両手のハンドアックスを交差させてその太刀を受けとめようとしたが、長い太刀が直上から振り下ろされる遠心力と、銀髪の男の力と、そしてスキルとが乗った攻撃を受け止めきれなかった。
太刀はカッセルのハンドアックスを力尽くで突破し、勢いをやや削がれながらもカッセルの前頭骨を割り、鼻骨から上顎骨、下顎骨を次々と破壊して地面へと抜けて行った。
崩れ落ちたカッセルの損傷した頭部から、大脳の一部が零れ出てくる。
「うおおおおおっ!」
銀髪の男が持つ武器は、一本の太刀だけだ。それが振るわれている瞬間こそ、相手が最も無防備になる瞬間である。
オーリクとて大祝福を受けた副隊長であり、戦闘経験では並の騎士を倍ほども凌ぐ。目前の隙を見逃すなどあり得なかった。
『刺突』
オーリクが突き出したナイトソードは、銀髪の男が差し出した左手に深々と突き刺さった。
「つぁっ!」
オーリクは気合いと共に突き刺したナイトソードを抜き、素早く振り被って銀髪の男の顔へと叩き込んだ。
だが、銀髪の男は負傷した左手を頭部に掲げ、振り下ろされたナイトソードの一撃を左手で受け止めた。
「アルカン!」
それを見たエルト隊長が、アルカン副隊長へ指示を出した。今まさに太刀でオーリク副隊長を切り捨てようとしていた銀髪の男は、敵の加勢を見て一旦距離を取ろうと下がった。
その身体に太い矢が突き刺さったのは、次の瞬間だった。
エルトがオーリクと銀髪の男の身体が離れた瞬間を狙って、3本目の矢を撃ち込んだのだ。
矢は狙いを違わず銀髪の男の腹部に突き刺さり、銀髪の男は反動で大きく仰け反った。
その再び攻撃の隙が生まれた瞬間、オーリクとアルカンはそれぞれナイトソードとショートソードを構えながら銀髪の男に襲いかかった。
『破断』
銀髪の男は仰け反りながらも太刀を振り上げ、直情的な性格であると判断したオーリクの方に太刀を振り下ろした。
太刀はオーリクの左肩から斜め様に入って鎖骨を折り、オーリクの身体へと食い込みながら大動脈弓を傷つけるまで達して致命傷を与えた。
一方オーリクのナイトソードは銀髪の男へと届かなかったが、アルカンのショートソードは銀髪の男の心臓を見事に突いた。
心臓を突かれた銀髪の男は、オーリクを蹴り飛ばして太刀を引き抜く。
「な……」
「アルカン、下がれ!」
4本目の矢を準備したエルトがアルカンに警告を発する。だが、心臓を突き刺したと思ったアルカンは、相手が平然と動けるという非常識を目にして咄嗟の対応が出来なかった。
オーリクを蹴り飛ばして自由になった太刀が、真横からアルカンを薙いだ。
「あがっ」
太刀はアルカンの左腕を断ち、胴体を守る鎧で弾き返された。
先程オーリクを斬り伏せた時と違い、勢いが足りずに鎧で防がれたのだ。だが、致命傷でなくとも戦闘不能の傷を負った事に違いは無い。
それを見たエルトは即座に4本目の矢を敵に撃ち込み、アルカンが飛び退いて逃げる瞬間を作った。
右足に矢を撃ち込まれた銀髪の男は、そのまま地面に腰を落とした。
「ぐああっ」
「回復剤を使え」
銀髪の男が倒れるのを横目で確認したエルトは、アルカンの右手に自分の所持していた回復剤の瓶の蓋を取って握らせ、続く動作で斬り落とされた左手をきつく縛って止血した。
充分な部隊編成、新式装備、高性能回復剤、それらが彼らを生き永らえさせていた。
だが後衛で敵を冷静に観察していたエルトは、それが単なる延命であると判断せざるを得なかった。
「アルカン、早く回復しろ」
「了解」
「魔族の肉体は、銀のマナで再構成されている。どんな傷を負っても身体が再構成され、銀のマナが尽きるまでは決して死なない。よって足を狙う。逃げながらダメージを与え続けて、少しでも敵を削る」
「いっそ、完全に逃げたらどうですか」
「馬が死んだ。祝福数はおそらく敵が上で、体力は銀のマナが尽きるまで無尽蔵だ。背を向けて逃げれば無駄死にだ」
無言で2本目の回復剤を飲むアルカンを見てエルトは笑った。
「さて、こう言う行為はなんと言うのだったかな」
やがて回復剤を飲み終えたアルカンが返事を返してきた。
「英雄ですよ。俺たちは王都にある英雄の石碑へ行けるでしょう」
「ああ、そうだったね。あと2年早ければ、イヴァン・ブレッヒ大騎士団長やクリスト・アクス大騎士団長と雑談出来たのに。少し残念だ」
既に銀の魔族は矢を抜き、起き上がっていた。
エルトは自分の脇からショートソードを抜き、武器を失っていたアルカンに手渡した。最期の時が迫って来た。
「英雄は沢山いるでしょう。2年前の戦争で再び眠りについたジュール将軍やフォンス将軍はどうですか」
「ああ、それは良いね。数百年前の体験談なんてワクワクする。じゃあ、我々が恥をかかないように英雄的な戦いで幕を閉じようか」
「死後には左腕も戻ると期待して、付き合いましょう」
矢が空気を裂き、ショートソードと太刀との衝突音が鳴り響き、その後しばらく戦闘音が続いた後に森へ静寂が戻った。
























