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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第一部 第四巻 テュールの片腕(12話+エピローグ) ジュデオン王国編

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エピローグ 流転の始まり

 バダンテール歴1260年末。

 ここ数年で大きな被害を出した獣人帝国は、各国への侵攻を全て中止して支配済みの領土へと撤退した。

 地理的に守り難い一部の都市は完全に放棄されており、そのため人類側は戦わずにいくつもの都市を取り戻す事が出来た。

 だがそれと前後してジュデオン王国を含む北部6ヵ国連合は、ジュデオン王国へ獣人帝国を引き込んだリーランド帝国と戦争状態にあると宣言した。


 北部連合は人口600万人規模で、リーランドとその属国を合わせた人口700万人規模に匹敵する勢力だ。

 さらに北部連合は、アゴスト王国を味方に引き込み、これまで獣人帝国との戦争名目で非交戦各国に物資と金を要求し続けてきたリーランドの強要から一斉に逃れようと図った。

 かくして両勢力の国力差は入れ替わった。


 リーランド帝国はこれに反発。

 人類同士の争いは獣人を利する利敵行為だとして直ちに宣言を撤回するよう求め、ベイル王国に対しても秘密裏に協力を求めて来た。

 リーランド帝国の使者に相対したベイル王国のイルクナー宰相代理は、ジュデオン王国に獣人帝国を引き込んだリーランド帝国の行為を事実認定した上で、ジュデオン王国に賠償金を支払ってはどうかと妥協案を提示して暗に使者を追い返した。


 


 バダンテール歴1261年2月。

 ラスティア王国側とリーランド帝国内のリファール侯国領との間で両勢力による大規模な会戦があり、リファール侯国領のダヤン要塞都市が陥落した。

 冒険者の都と謡われるジュデオン王国への暴挙に対し、国家に未所属の冒険者達が反発した結果、北部連合は会戦で圧勝した。

 以降、その先にあるギーベル、ジョクス、オスマンといったリファール侯国に属する平地の各地方都市で攻防戦が繰り広げられる事になる。


 ちょうどその頃、ベイル王国ではアンジェリカ次期女王の懐妊が発表された。


 


 

 同年6月。

 リーランド帝国が北部連合に所属するモルターリ王国の都市トラファットを陥落させ、北部連合を中央で半分に分断した。

 北部連合はベルトラン王国とモルターリ王国の北にある4つの廃墟都市を経由した輸送路を使わざるを得なくなり、物資の流通が困難となった。


 


 

 同年10月

 ジュデオンでの争いからベイルに帰還し、1年が経った。

 アンジェリカが無事出産した。

 女の子で、アリシアと名付けられた。アリシアの由来は誠実な者という意味である。

 王国の全ての都市に酒が振る舞われ、過失犯の恩赦があり、同時にいくつかの減税が行われた。

 ハインツは名前の候補一覧を見た時に初めて知ったのだが、アンジェリカという名前には小さな天使という由来があったそうだ。

 ちなみにオリビアは優しい者、オリーブの木、平和などの意味があって、ディボー王国を最終的に許したオリビアは確かに優しかったのだろうかとハインツは首を傾げた。

 そんな根は優しい?オリビアによって、ハインツは久々にリーゼとミリーに会わせてもらえた。


 

「1年振りだな。リーゼ、ミリー、調子はどうだ?」

「はい、頑張っています」

「あたしも。オリビアに協力してもらってるけどね」

「そうか。寒くなるから無理するなよ」

「はい」

「うんっ。あ、それとアリシアちゃんに会ったよ」


 ミリーのおしゃべりがしばらく続いた。

 ハインツはそれを聞き、やがて買っておいたダウンコートを二人に渡した。そして、オリビアにスキルで眠らされた。


 


 


 バダンテール歴1262年10月。

 ジュデオンでの争いからベイルに帰還し、2年が経った。

 1年の間に、中立であったバレーヌ王国がリーランド帝国に侵略され支配された。バレーヌ国王はリーランド貴族として人質のようにリーランド本国に移され、代わってリーランドの貴族たちが何人か爵位を上げられて領地を旧バレーヌ王国へと移してきた。

 ハインツはまた1年振りにリーゼとミリーに会わせてもらえた。


「俺の故郷には、七夕というものがあるんだ」

「どんな話ですか?」

「今の俺達のような話」

「そんなの聞きたくないっ」

「分かった。それと、転姿停止の指輪の話はオリビアから聞いたか?」

「はい。聞きました」

「うん」

「俺は金狼のガスパールが持っていた指輪で∞-3歳の効果を得ている。27歳くらいか。リーゼとミリーには、無敗のグウィードと紅闇のラビの物を用意してある。どちらも∞-3歳の効果がある」

「オリビアはどうなるのですか?」

「オリビアは神速のアロイージオの指輪を装備した。あいつは祝福94になったから、もう上げる必要は無い。効果は∞±0歳。19歳でストップだ」

「すごいですね」

「ああ。それよりも二人とも、オリビアがパーティ転移のスキルを覚えたからそれを使ってくれ。第五宝珠都市ブレッヒを拠点にしてくれれば上がるのも早いだろう」

「あ、バレてる?」

「リーゼが言う事を聞かない。ミリーとオリビアが協力する。もちろんバレてる」

「そっかぁ。あたしは馬車も好きだったんだけどね」

「あの4頭は種馬だ。いずれ牧場に返そうと思っていたんだ。オリビアのスキルにしておけ。秘書官はしばらくお休み」

「はーい」


 


 


 バダンテール歴1263年10月。

 ジュデオンでの争いからベイルに帰還して3年が過ぎた。

 1年間の間にアンジェリカが再び懐妊し、その後に老齢だったベイル王エドアルドが崩御した。

 エドアルド王の崩御後、アンジェリカは女王となった。

 フォスター宰相は宰相職を辞任し、代わってハインツがベイル王国の宰相に就任した。フォスターは爵位を子爵に上げ、領地へと帰っていった。


 リーランド帝国と北部連合との戦争は続いている。

 バレーヌ王国の滅亡を見たアドルノ王国が、北部連合に加わった。

 またリーランド帝国に制圧されていたトラファットが北部連合に奪還され、リファール侯国領のボラン要塞都市も制圧された。

 ベイル王国にはリーランドから再び秘密裏に使者が来たが、ハインツが言質を与えずに返した。

 ハインツは1年振りに、リーゼ、ミリー、オリビアの3人と再会した。


「どうだ?」

「ふっふっふ」

「ん?もしかして大祝福2を越えたか?」

「うん。リーゼは1年で57から64になったよ。あたしは52から60ね」

「凄いな。騎士団が聞いたら卒倒するな」

「はい。オリビアのスキルで敵を麻痺してもらっています」

「わたしは祝福を上げる必要がありませんから」

「そうか」

「それより、なんで北部連合に協力しないの?今の強くなったベイル王国が加われば、リーランド帝国を倒せるんじゃない?」

「獣人帝国がいるから、みんな全面戦争はしたくないんだ。なるべく都合の良い条件で折り合いたい。だから全都市で争ったりはせず、要所だけを押さえているのさ。あれは戦争というより外交だ」

「そうなんですか?」「そうなのっ?」「……外交ですか?」

「ああ。どうやら形勢が定まったから、そろそろ戦争も終わるぞ」


 


 


 バダンテール歴1264年10月。

 ジュデオンでの争いからベイルに帰還して4年が過ぎた。

 ベイル王国に王子が誕生した。フィリベルト・ベイル。未来の国王となるであろう男児の誕生にベイル王国は大いに盛り上がった。振る舞い酒、恩赦、減税などは前回以上に派手に行われた。

 そしてリーランド帝国と北部連合との間でも停戦交渉が始まり、それに伴って両勢力の交戦が全て止んだ。


 


 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 


 


 リーゼはハインツの無くした左腕を、自らの左手で掴んでしっかりと支えた。

 そして右手の人差し指を掲げ、静かに祈った。


 『単体回復ステージ3』


 スキル発動と同時に、ハインツの左手があるはずの場所に白い癒しの光がゆっくりと満ちていった。

 満ちていくマナの速度はとても遅く、マナの変換効率はとても悪く、具現化のイメージはとても危なっかしい。


 もう良いのに……

 そこまでしてもらわなくても良いのに。

 なんでそこまでしてくれるのだろう。


 そんな愚かな考え方がハインツの脳裏をよぎった。

 祝福70の治癒師がどれほど大変な道なのか、実はハインツには想像が出来なかった。

 ハインツは祝福95の治癒師だ。

 だがそれは、どんな傷を負っても治癒してもらえ、どんな死に方をしても蘇生してもらえ、神々に見守られたジャポーンという世界だったからこそ上がった祝福だ。

 こちらの世界では、まともな治癒薬は殆ど無くて腕を失えばそのままだ。

 こちらの世界では、死んだらそれで終わりだ。

 こちらの世界では、神の加護を受けた装備は無くて魔物を倒すのは命がけだ。


 ハインツの瞳には、この世界に初めて来た6年3ヵ月前とは真逆の光景が映っていた。

 指を無くしたリーゼは、左手を無くしたハインツに変わっていた。

 それを癒すハインツは、それを癒すリーゼへと置き換わっていた。


 (これが治療すると言う尊さか)


 ハインツの左手がジンジンと痺れた。

 火傷をしたみたいに不自然に膨れ上がっていて、ハインツはその感覚を左手を動かす事で実感した。


 『単体回復ステージ4』


 ハインツが左の親指からスキルを発動させると、白い光がハインツの全身を覆って全ての傷を瞬く間に癒していった。

 ハインツは左手とスキルを取り戻した。


「わたしのスキルだと、全然勝てませんね」

「……ありがとう。リーゼ、ミリー、オリビア。とても感謝している」

「はい」


 リーゼがハインツに微笑んだ。

 ハインツは、これが天使の微笑みか。などと、他人が聞いたら鼻で笑うような事を本気で思った。白衣の天使はきっとこのような尊い存在なのだろうと。


「ミリーもありがとう。苦労を掛けたな」

「うんっ、大丈夫。だってあたし奥さんだし」

「オリビアもありがとう。スキルの連続使用で苦労を掛けたな」

「そんなの問題ないです。それよりも3人からお願いがあります」

「何だ?」

「あと2年ください。そうすればリーゼが単体蘇生ステージ2を覚えられると思います。それで、ご主人さまに何があっても大丈夫になります」

「……流石に言い返せないな」

「それと、リーゼとミリーが転姿停止の指輪∞-3歳を使って、私と同じ年齢に調整するそうです。2年でそうなるのでちょうど良いです」

「そうか。それならもう少し待っている。その後はずっと一緒に暮らそう」

「はい」

「じゃあ、どこにでも行けるようにあたしも沢山祝福上げないと」

「わたしは普通の主婦になりたいですよ」

「だーめ。オリビアも一緒に来るのっ」

「仕方がないですね。それじゃあご主人さま、行ってきますね」

「ああ、いってらっしゃい」


 ハインツの言葉に返事を返した3人は、オリビアの『アークトランスファレンス』で転移して行った。

 この世界に来てから6年と3ヵ月。

 リーゼ達が成長すると同時に、ハインツもジャポーンで行っていた『一方的に助ける行為』よりも貴い『助け合う行為』を学んで成長していた。

 既にジャポーンへの未練はなく、いつの間にかハインツもこちらの世界が我が家となっていた。


 


 

 【第一部 完】

あとがき







 4巻までお読み頂き、誠にありがとうございました。

 【第一部 完】と書いた事について、ご説明させて頂きたいと思います。



 第一部とは『ハインツがこの世界に来てから、元の世界への未練を断ち切るまで』です。



 と申しますのは、ハインツはリカラとの過去から『リカラさんとの思い出のジャポーンで初心者サポートをする事』が一番やりたい事でした。その為に神々の転生を拒否しました。知らない世界に飛ばされても、本当にやりたい事は変わりません。

 その未練を断ち切る為には、それ相応の納得できる理由付けが必要でした。


 そこで『サポートスキルが使える左腕を斬り落とされて夢を断たれたハインツを、リーゼがこの世界では殆ど不可能な治癒をして立ち直らせる』ことで、ハインツが『これまでのジャポーンでの一方的に助けていた行動よりも貴い助け合い』を学んで、自らの拘りが小さなものであったと悟って元の世界への未練を断ち切る。と言う事を考えました。

 

 そして、下記の意図を持って物語を書きました。


 第一巻 「指を無くすとスキルが使えなくなる」とリーゼで真逆に実演。

 (「治せるのはリーランドの大治癒師だけ」との常識をアドルフォで説明)

 (「ハインツの治癒スキルは全て(斬り落とされる予定の)左手」と説明)


 第二巻 治癒を行うリーゼに必要な祝福上げを行う。(01話のジデン湖)

 (リーゼの祝福上げの速度がいかに非常識かを、ミリーと対比して説明)

 (リーゼが冒険者経験を積んでいない事を、ロベルトとミリーの会話で説明)


 第三巻 治癒を行うリーゼに必要な経験を積ませる。(01話で傭兵と組ませる)

 (祝福40台のリーゼの程度を、一段上の祝福50台の一流冒険者を出し説明)


 第四巻 治癒を行うリーゼに必要な医学知識を身に付けさせる。(05話の回想)

 (リーゼの行為がいかに飛び抜けているかを、05話で人々を絶句させて説明)


 上記により、リーゼは本来不可能なハインツ治療の下地を全て満たしました。

 それともう一つ必要なのが『勝手に諦めたハインツの言う事を絶対に聞かず、自分で決めて治癒する性格』です。

 祝福の上がり難い治癒師が『再生治療の可能な祝福70に上がる』のはまず不可能です。そんな常識に囚われずに、そこへ向かって真っ直ぐ進む性格が必要でした。

 そのためにリーゼは「一定の条件でハインツの言う事を聞かない」ようにしました。

 後は、祝福3の未熟な少女がハインツを治癒できるようになるには時間が必要だろうと思い、登場時の設定年齢をかなり若くしました。

 そしてこのエピローグへと至りました。

 (ここまでを早く書きたかったのですが、私の力量不足から時間が掛かってしまいました。すみませんでした。でも書き切れました。応援ありがとうございました)



 第二部からのハインツは「どこか納得していないお客さん」から「この世界を大切に思う住人の1人」となり、この世界から去る可能性を考えた「身軽さ」には全く執着しなくなります。

 よって、この第四巻のエピローグを以って『物語はひと区切り』となります。

 

 以上、ご説明でした。

 ここまでお付き合い下さり、誠にありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 尊い。オリビエの話のときも勝手に涙が。 心がすさんでいるときに、読み返してます。
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