エピローグ オリビアの結論
両手にあるのは鎖ではなく、一度は奪われた武具や私物だった。
3ヵ月振りの太陽は眩しく、都市リエイツの封鎖を行っていたベーリオ騎士隊長はベイル王都ベレオンの王城通用口で思わず立ち尽くした。部隊の行いと自分を捕らえた相手を鑑みれば、これは望外の結果だ。
行いに後悔は無かった。
獣人帝国は人類国家を滅ぼす。ならば、エイドリアンとエイブラムの行いが外道であろうとも、結果として獣人を撃退し人類の生存圏を守れるのならば、それは大きな目で見て明らかに正義ではないか。
そう思っての証拠隠滅と街道封鎖であった。作戦に参加した他の騎士たちも、その程度のことは考えていたはずだ。
だが、真実を聞くと自らの正義に迷いが生じる。
王自身が魔族を造らせた。
魔族は制御を失い、獣人帝国軍と交戦中のディボー騎士連隊を、そしてディボラス城を襲った。
ディボー王国は民衆から、冒険者たちから、そして各国からの非難に晒された。
ルイーサ女王は、ガストーネ王の過ちを認めた。王国は方針を変え、人類同士で協力し合って獣人帝国を撃退した。そして今、ベーリオは解放されようとしている。
では正義とは何だ?
勝てば正義になるのならば、ルイーサ女王は正義で、ディボー王は悪となる。
今回はそうなのだろう。
ディボー王国とベイル王国が協力しただけで軍団長を倒せるとまでは誰も思っていなかったにも関わらず、結果が出てしまえばそれが正しい行いだったと誰もが言う。
では、正義を為すとは何だ?
正義とは結果が出てから評価される行為であって、それを為している間は正義ではないと言うことなのだろうか。
分からない。
いや、認めたくない。
悪を為して牢に囚われていたなど、騎士である自分にはとても受け入れ難い。
自分たち捕縛されていた4人の騎士隊長を迎えに来たドステア団長が、王城に向かって頭を下げるのが見える。
誰に対して?何に対して?捕虜への虐待が無かったからか?武具やアイテムをすべて返還されるからか?それとも……
そんなベーリオを、虐殺された難民の最後の一人が宰相代理の執務室から見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「17万人の恨みをオリビアが背負う必要は無い」
「逃げるために私の手で十万人以上を焼きましたよ?」
「十万匹以上のゾンビだろう?むしろ、魔族の祝福数を減らして被害を小さくした。それで数十万人が助かったんじゃないか?よくやった」
「私は自分の祝福を上げて、自分が助かろうとしただけですよ?」
「助かろうとするのは当然だろう?生存本能を否定する奴は誰だ?そんな障害は排除されて当然だ」
「……逃げる時、お姉ちゃんを縛った人たちも焼き殺しました」
「建前、一緒に逃げたらすぐに見つかって、祝福を上げる前に兵士たちに殺されていたかもしれない。本音、妻が同じ事をされたら俺も相手を嬲り殺しにする」
「……閣下は私を肯定して下さるのですね」
「するさ。それにディボー王国はもはや障害ではない。オリビアの命を脅かす奴はもう居ないぞ」
本来、個人が組織を敵に回して勝てるはずがない。
彼女は、その使命に自らの命を掛けていた。だが、個人の命を引き換えにしても、実はまったく無意味だ。なぜなら反乱を起こした個人に対処するのは、その反乱に巻き込まれなかった者たちだからだ。
むしろその時に無傷だったからこそ、次の被害を避けるためにテロ行為には絶対に応じない。
だが、オリビアは死ななかった。
彼女はどんな方法を用いてでも必ず復讐するという強い意思を以って、「個人 対 組織」の構図を、同等の力を持った「組織 対 組織」という構図に変えた。
元々ディボー王国に不信を持っていたベイル王国は、大義名分を周知して民衆や冒険者、各国を味方に付ける一方、ディボー王国の切り崩しにかかった。良識派を離脱させ、強硬派の信義を揺らし、内部分裂させようと図った。
ベイル王国に不信を持たせていた原因はディボー王国自身であり、こう言う事は自業自得と言う。
一方ディボー王国は、それらの流れに逆らわず逆に利用して、ディボー王の王権を剥奪した。
そして、グウィードの死という最良の結果を得るに至り、未だに逃亡を続けるディボー前々王の支持勢力は完全に潰えた。いまさら王都ディボラスに戻っても、前々王の復権はフランセット新政権が許さない。
ディボー王ガストーネは今や、国際手配される賞金首の筆頭だ。
フランセット新女王の名で、王に率いられて逃亡中の近衛騎士たちへの恭順も呼びかけられている。出頭すれば一切の罪に問わないと。前々王を捕縛するのに協力すれば取り立てると。
そう、ディボー王国に抵抗して、グウィードを打倒したパーティの一員を務め、さらには魔族にトドメも刺したオリビアの安全は、今やディボー王国自身によって保障されている。
仮にオリビアに危害が及べば、実行者が誰であろうとフランセット新体制が民衆から統制能力や正義を疑われる。今ディボー王国が最も恐れているのがそれだ。
ハインツが言ったように、ディボー王国はもはやオリビアの障害ではない。
「私はこれから何をして生きていけば良いのでしょう?」
オリビアは既に恨みを無くしていた。
コルネリア前々王妃の身柄は、あっさりとディボー王国に返還した。
ディボー王国のオルランド宰相は新政権の正統性を示す為、正当な手続きに則ってコルネリアを処断するだろう。
オリビアは、大きな恨みを晴らした後の喪失感を持て余していた。
「なんだ、愛人になってくれるんじゃなかったのか?」
「…………いいですよ」
「冗談だ。そんな事しないで俺と結婚してくれ」
「どうしてですか?」
「世界から取り残された同士の仲間意識かな。それに俺達は多分相性が良いぞ。決して愛人を持てる程の甲斐性が無いからとか、へたれだからとかではないっ」
「閣下は妻が3人居ますよね?」
「ああ」
「4人と結婚してしまうと、それ以降は未婚女性に手を出してもアルテナの罰を受けますよ?つまりハゲます」
「4人も妻が居るなら、浮気する暇なんて無いだろ」
「ハゲたら幻滅しますよ?」
「ハゲないさ。よし、気が変わらないうちにアルテナに誓おう。立ち合いは今後の事も考えて、リーゼとミリーとアンジェにしてもらおう」
「ハーレムも大変ですね、ご主人様」
あとがき
三巻をお読み頂きありがとうございました。
2巻で神族、3巻で魔族を書こうと思っていました。
よって3巻がどうやっても暗くなりました。申し訳ございません。
世界観説明が終わったので、4巻からはフリーです。
とは言っても5巻までは初投稿時点で構想を持っているので、
6巻以降が本当の自由かなぁと思っています。まだまだ先は長い。
4巻もよろしければお付き合い下さい。
























