第11話 賢者の真の手★
バダンテール歴1259年7月1日。
ディボー王国・王都ディボラスの城下町では、大隊長2名の首を掲げて北から入都してくるベイル王国の大軍を民衆が大歓声と共に迎えていた。
健在な冒険者の数は500名以上。
死者と戦闘不能者はそれぞれ100名を越えるが、2個大隊を撃滅しての被害としては明らかに少ない。本来なら祝福差で、2個大隊の定数240名を1.5倍した被害が出ているはずである。これは2倍の戦力で戦った事が大きく影響した。
獣人軍は2個大隊が減って、残り3個大隊360名以下である。
対してディボー側には5個騎士団があり、ベイル王国の増援があった。
ディボー王国において、獣人と人類の戦力差が逆転し、人々は王都の安全を確信した。いかに無敗のグウィードが強大であろうと、揮下の被害は無視できない。この戦力差で攻めてくる獣人軍は居ない。
ルイーサ新女王が、ベイル王国のアンジェリカ次期女王と懇意であった事が人々をさらに安堵させた。ルイーサ女王は民衆から大いに讃えられた。
ベイル王国軍はディボラスの王城へ入城し歓待された。負傷者はアルテナ神殿の治癒院に送られて一時休養し、死者は遺品だけ回収されて埋葬された。
そして宴の席が盛り上がった頃、無敗のグウィードを撃破する作戦が発表された。
初日の宴が終わり、明日いよいよ進軍するという段階に至って、オルランド宰相はルイーサ女王に呼び出された。
その場には、ルイーサの妹であるフランセットが既に控えていた。
「宰相……前王は、ダーリング小国家群に逃げたかもしれませんね」
「可能性はありますな。ベイル王国は騎士団と兵士で国境を封鎖しておりますし、大量の護衛を付けたまま侵入できたとは思えません。加えて、都市オトシアにまで手を回す余裕はありませんでした」
「では、イルクナー宰相代理の秘書官には、約束通り前王妃の身柄を引き渡して下さい」
「御意」
「2個大隊撃破の報酬6億Gは渡しましたか?」
「恙無く」
「それと……錬金術師オルランド。グウィード撃破後には、約束した範囲の正しい錬金術指南書の支払いを欠かしてはなりません」
「仰せのままに」
オルランドの報告を聞いた女王は暫く無言のまま宰相を見つめ、やがて諦めの言葉を口にした。
「……力が足りなかったですね」
「申し訳ございません」
「貴方が無理だったのなら、ベイル王国のイルクナー宰相代理でも無理だったでしょう。気にする必要はありません」
「痛み入ります」
「……フランセット」
「はい、お姉様……いえ、女王陛下」
「貴女と、ベイル王国のアンジェリカには数歳の年齢差があります。ですがアンジェリカは、貴女よりさらに幼い時には次期女王としての責任と自覚を持ち、決断を続け、その結果を受け止めてきました。今の貴女は橋の一つも落とせないでしょう。もしくは、それが何を意味するのかを理解し切れないでしょう」
「はい」
「それは仕方の無い事です。しかし、今後はそれでは済みません。獣人帝国は人類全体の問題であり、ベイル王国には相応の報酬を払うので気に病む必要はありません。人工魔族製造という国の負債は私が払います。貴女は負債無く女王に就任し、手の届かない部分はオルランドに任せ、アンジェリカには懇意にしてもらい、復興の礎となりなさい。これは私たちアルテナと約束した王族の責務です」
「……お姉様」
「私にも打算がありました。ジョセフィーヌお姉様との派閥抗争を避け、将来の布石としてアンジェリカと懇意にし、違った立場から王家を支えようと図りました。アンジェリカには手紙を渡してあります。あの子が女王の間は大丈夫でしょう」
「……他に方法は無いのですか?」
「思い付かないわ。でも考えるのを止めてはダメよ?私には時間が無いけれど、貴女にはこれからがあるのだから」
翌日、ルイーサ女王率いる親征軍がベイル王国軍と共に南部へと進軍した。
Ep03-11
アイボスカ近郊での2個大隊の撃破後、王都ディボラスで戦力の入れ替えがあった。
ベイル王国は戦闘可能な騎士195名と傭兵70名、そして宴の席でさらなる追加報酬を示されてそれに応じた傭兵58人が加わって323名の集団を形成した。
そこに、ディボー王国の王都駐留5個騎士団のうち4個騎士団372名と傭兵35名が加わって、合わせて730名の冒険者集団が形成された。
王都に残るのはディボー軍の1個騎士団と、追加報酬よりも安全を優先した185名である。
彼ら185名の傭兵は、宰相オルランドの指示による1週間の宴会のもてなしがあり、自然と王都ディボラスに駐留する事になった。北部の支配域も、彼らを足止めするためにわざと回復させていない。オルランドは彼らを、首都防衛の予備戦力と見做しているのだ。
★地図
6月27日
グウィード軍の到着した都市セズライは、ほぼ壊滅した。
都市ザサーム・都市アイボスカ間の大街道にて獣人北軍とベイル軍が接敵し、ベイル王国側が勝利した。
7月1日
グウィード軍の到着した都市フェルナンテは、ほぼ壊滅した。
ベイル王国軍は王都ディボラスに入った。
7月4日
グウィード軍は本隊300名を都市アルトアガに到着させ、負傷者を都市ガライに移動させた。
ディボー・ベイル連合軍730名は、都市トラーシアに到着した。
7月6日
都市オストアムに入ったグウィード軍の輸送隊が、都市ライエアから国境を破って進撃して来たベイル王国の情報を監視隊から得る。同時に、都市トラーシアに大部隊の侵攻があった情報も得る。
ディボー・ベイル連合軍が都市クアンヌに到着した。
7月8日
情報がアルトアガに駐留するグウィードの元に届く
ディボー・ベイル連合軍が都市オストアムに到着した。
7月11日
都市ガライ北域にて、獣人軍と人類軍が接敵した。
戦力は
グウィード軍 冒険者 300名
一般兵 2000名
ディボー軍 冒険者 407名
ベイル軍 冒険者 323名
冒険者だけで言うなら人類側は2.4倍の戦力である。
だが、敵には大祝福3祝福3の無敗のグウィードがいる。
無敗のグウィードの二つ名がどういった経緯で付けられたのか、その由来は知られていない。そもそも獣人たちの中で二つ名が付けられ、それが人類に伝わってくるのだ。
ベイル王国に侵攻していた第四軍団長のガスパールは金狼という希少種であったことから、由来は誰に聞かずとも明白だ。リーランドを攻めている皆殺しのグレゴールも、あるいは首狩りのイルヴァも、異名通り人類に恐怖を与えている。
だが、『無敗』のグウィードとは何だ?
人類と獣人帝国とは20年以上に渡って各地で激戦を繰り広げているが、軍団長は戦略上であろうと、あるいは戦術上であろうと、まともに敗北した記録が殆ど無い。人類に負けたことが無い軍団長はグウィードだけでは無いのだ。
なぜグウィードが無敗という異名なのか。水牛だから力が強いとかそういう理由でもあるまい。
状況への慢心に、血液色の警戒色を放つには十二分だった。
いずれにしても会戦は既に始まっている。
陣形はレッドスコーピオンの陣。
2本のハサミに、ディボー王国軍2個騎士団とベイル王国軍2個騎士団。
胴体にディボー王国軍2個騎士団。
尾の毒針は、ハインツ達の軍団長打倒2個パーティだ。
編成は、大祝福2が3人ずつに、祝福40以上の治癒師2人ずつ、そして魔導師1人ずつだ。
それら全身を、傭兵達が硬く強化している。
「特別攻撃隊、突入」
部隊が突破口を押し広げるまででもなく、勝手に最前線に出て来て胴体のディボー軍を薙ぎ払い始めた。
ハインツは攻撃の合図とばかりに、無言でダガーを振り下ろした。それが合図とばかりに、オリビアもスキルを発動させた。
『暗殺』
『アストラルウォール』
ハインツが振り下ろしたダガーは途中で手から離され、グウィードに向かって真っ直ぐに飛んでいく。通常の物理法則がスキル発動によるスキル法則に置き換えられ、当たれば致命傷の首を目掛けて剣が突き進む。
一方オリビアの青白い光の壁は、グウィードの側面にスキルの発動現象を発生させたものの、発動までに僅かな時間を要した。
グウィードは、まず飛来する必殺のダガーを自らのウォーハンマーで叩き飛ばした。そしてオリビアの霊属性魔法は難無く避ける。
「オリビア、ディボー騎士と共に敵の増援を防いでくれ!」
「手癖がぁ悪いなぁああっ!」
初手の連携は失敗した。
発動後は強力なスキルも、当たらなければ意味が無い。もっと軽めで早いスキルを使うべきだったが、そもそもオリビアはまともなスキルをファイヤーくらいしか持っていない。
だが、グウィードを目掛けて突き進むのはハインツのダガーとオリビアの光だけではなかった。
メルネスのロングソードが、紅塵のバスラーのブロードソードが、戦士フランセスクのバスタードソードが、探索者ロランドのハルバードが、そしてハインツのフォルシオンが、5つの大祝福2の力を秘めてグウィードに襲いかかった。
それだけではない。ロランドはグウィードの背後を取ろうと左から動き、ハインツも右から同じ動きをした。オリビアは、先端に輝石の埋め込まれたロッドを構えてスキルを発動させる隙を窺う。
それに対してグウィードは、太い両足で身体を少し沈ませて後ろに飛びながら、足元の土を力強い蹄で一気に蹴り上げた。
まるで土魔法の嵐のような土飛礫が5人に迫る。
「うあああっ」「おおおおっ」
5人に物理無効化ステージ1のスキル膜が展開され、そのまま一気に消失した。事前に掛けておいた保険が呆気なく消されてしまう。
だが5人は戦闘経験豊富な高位冒険者だ。スキルの恩恵で敵の攻撃を防いだと見るや、再び突撃を開始した。
跳んで下がったグウィードを追いかける全員の顔面に目掛けて、だが土飛礫がさらに半円を描くように飛来する。
「「うぉおああああっ」」
「そこまで甘くは無いか。はぁっ!」
スキルの恩恵は既に消えている。
ハインツたちは正面から迫る土に顔を背け、あるいは手で覆い、顔面をとっさに庇いながらもグウィード目掛けて突き進んだ。
その刹那にグウィードは、土を蹴り上げた次の動作で地面を蹴って、ハインツに向かって迫っていた。
『物理無効化ステージ1』
透明なスキルの膜が再びハインツを覆う。
リーゼが守ってくれる。ハインツはスキルを用いた相手が誰かも確認せず、勝手にそう決めつけた。
「はああっ!」
「むおおおおっ!」
『暗殺』
ハインツは右手を大きく伸ばし、さらに上半身を捻って最大に伸ばしたフォルシオンの刀身を、無敗のグウィードの顔めがけてスキルの加速で一気に振り下ろした。
グウィードは頭部を下げて突撃を加速させ、フォルシオンは目標を逸らしてグウィードの左肩口を切り裂いた。
一方グウィードのウォーハンマーの激烈な攻撃は、ハインツに掛かったスキルを再び打ち消した。それだけではおさまらず、そのまま体当たりでハインツを弾き飛ばそうと図る。ハインツは後ろに飛んで威力を殺し、転倒を防いだ。
この両者は、実は同じ大祝福3の位である。
威力はともかく、グウィードに見えている加速世界はハインツにもしっかりと見えている。最遅の戦士系であるグウィードに、元探索者戦闘系でもあったハインツが速度で負けるわけは無い。
ハインツはぶつかって来たグウィードからなんとか距離を取ろうと図り、全力で地面を蹴ると同時に、腰に下げた革袋の中身を解き放った。
グウィードは構わずハインツを追いかける。
『ウインド・ウォール』
「ぐっ、なんだっ!?」
魔導師の風を受けて広がるそれは、ハインツを追いかけていたグウィードに見事に絡まった。
「うぉおおおっ、一体なんだ、これはあっ!?」
足掻けば足掻くほど、それはグウィードの全身に絡み付いていった。
手で外そうとすれば手に、足で外そうとすれば足に。そうやって動きを遅くしたグウィードに向かって、前衛の4人が一斉に同じものを投げつけた。
『ウインド・ウォール』
「ぐううっ……ぬぁあ」
グウィードは避けようと動いたが、四方からさらに迫るそれらをすべて避け切ることは出来なかった。風を受けた2つが新たに絡みつく。
それは、フランセスクとロランドがベイル王国から依頼されて収集した、大祝福2の強さを持つ巨大アラクネの麻痺糸の液体だった。
アラクネの麻痺液は、空気に触れると液体から粘着性の糸に変化するという特性を持つ。
液体が固体に変わり切れば粘着性もなくなるため、これまではアラクネ自身が狩りで用いる以外に使い道が無いと目されていた。
それをハインツは、空気を通さない革袋に麻痺液を入れて液体のまま保管し戦闘で用いたのだ。
そんな戦い方はこれまで一度も用いられて来なかった。だが、使ってはいけないと言うルールは無い。
そして、ハインツが用いたのはそれだけではない。ハインツは先ほどグウィードをフォルシオンで斬った。斬った剣には、興奮作用を引き起こす透明な毒が塗り込まれている。目的は正常な判断力を奪い、不利になっても逃げないようにすることだ。
むろん、毒が塗られていることをわざわざ説明したりはしない。毒の最適な使い方は、相手に悟らせないことだ。麻痺糸のみが原因の異常だと誤認させたほうが良い。
まともに戦うと言う発想は戦士だけで良い。暗殺者には、暗殺者のやり方がある。
「うぉおおおおおおおおおおっ!!!!」
グウィードが右手に掴んだ大きなウォーハンマーが、力一杯に振り回される。だが、そんな大振りの攻撃は簡単に避けることができる。
ハインツはそれを避け、隙を逃さず突撃した。
手に持っているのは棟が反ったフォルシオン。フォルシオンは振り下ろして敵の鎧を叩き斬るための斬撃用武器だ。突きや鍔迫り合いには全く向かないが、グウィードの首を落とすのには都合が良い。
『暗殺』
フォルシオンの上段から斜め様に振り下ろされる事によって生じる攻撃が、スキルという加速を得てグウィードの首を刎ね飛ばさんと迫った。
それを見たグウィードが、スキルを発動させた。
『硬化』
ハインツの振りおろしたフォルシオンが、グウィードの首に当たって折れ飛んだ。
ハインツは驚愕と共にフォルシオンの柄を前面に構え、グウィードから逃れようと大きく身を捻らせる。だがそこを、グウィードのウォーハンマーに殴り飛ばされた。
防御スキルは……掛かっていない。
「ぐぁぁああああああああああっ……がはっ……ぶあっはっ……」
ハインツは自ら後ろに飛んで威力を軽減したにもかかわらず、見事に弾き飛ばされて地面を大きく転がった。
「ハインツっ!」
「肌の色が、赤黒くなった」
「これが、無敗のグウィードの由来かっ」
「ゼェ……ヒュー……おそ……れるなっ、革袋を」
「革袋だっ!」
『単体治癒ステージ2』
ハインツは自らの涙で滲む世界の中、たじろぐ傭兵達を鼓舞した。
討伐パーティは慌てて予備の革袋を投げ出す。残り4つ。1つはハインツが持っているので3つが投げつけられる。
『ウインド・ウォール』
「リーゼ、もう一度単体治癒を」「はい」
広がる巨大アラクネの麻痺糸を、既に3つの糸に絡めとられ、加えて防御が上がった代償として素早さを落としたグウィードは避けられなかった。
新たに3つの糸がグウィードの身体を絡め取り、合わせて6つの束縛がグウィードの動きを封じた。
『単体治癒ステージ2』『単体治癒ステージ4』
『2連撃』
バスラーは、鋭いブロードソードの斬撃でグウィードのスキルで硬化された身体にかすり傷を付けた。
グウィードに絡まるアラクネの麻痺糸を解かないように薙ぐが、硬いスキルに阻まれて殆ど効果が出ない。
それらの合間を塗り、ハインツは左手を自らの身体に押し付けてリーゼの治癒魔法を隠れ蓑に折れた複数の肋骨を治した。
「次は物理無効化を」
『物理無効化ステージ1』
『破砕』
フランセスクはグウィードの正面から前進し、バスタードソードを上段から真っ直ぐに振り下ろした。さらにスキルの加速を得て、グウィードの右肩を浅く叩き斬る。
グウィードはフランセスクを迎撃しようと図るが、そのウォーハンマーをロランドのハルバードに引っかけられて奪われた。
「ミリー、金狼の娘イリーナのエストックを貸してくれ」
「ぜったいに死なないでよっ」
『真空波』
メルネスのロングソードが風刃を生み出し、グウィードに向かって突き進んだ。その加速する風の刃にグウィードが気を取られている間に、ハインツ自身もグウィードに向かって駆け出した。
走って、走って、グウィードの目前まで来て革袋の液体をグウィードの顔にぶちまけた。アラクネの麻痺糸の原液が、糊のようにベッタリとグウィードの顔面に張り付く。それは目や鼻や口を塞ぐ。
「ぐおおぉおおっ!」
グウィードが慌てて、両手で麻痺糸の原液を顔から剥がそうとする。それは最大のチャンスだった。
『暗殺』
金狼のガスパールが娘に贈ったエストックは、高密度の輝石の力を秘めた強力無比な一振りだった。
それは祝福30台の探索者であるミリーが、祝福50台の戦士攻撃系であるグラシスよりも早くスキュラを倒せるほどに能力向上効果があった。
ハインツはそのエストックの尖端を、グウィードの眼球を貫いて脳にまで届かせた。
「ブォオオオオッ……」
断末魔がグウィードの口から漏れた。
ハインツは構わず、硬化しようのない眼球から脳をグチャグチャと掻きまわした。
相手は非常識な化け物である。そしてハインツも命が掛かっている。やり過ぎ位で丁度良いのだ。
やがてグウィードの死を確信し、ハインツはようやくエストックを引き抜いた。さらに、もう一つの物をグウィードから引き抜く。
『剥ぎ取り』
『鑑定』
転姿停止の指輪(効果・年齢∞、-3歳)
それは英雄たちから教わった、最高位の転生竜の竜核を元に造られた指輪だった。
最初に装備した品しか効果を発動しない。
装備者が変われば格が1段階落ちる。
金狼は-9歳の指輪を装備していて、ハインツがそれを奪って-6歳の指輪を手に入れた。今は既に装備していて、20代半ばの姿で時を止めている。
だが、1人で時を止めても仕方が無い。最低でも、もう一つが欲しかった。
そして今、ハインツの手元にはそれがある。無敗のグウィードは金狼のガスパールよりも1段階低い-6歳の指輪を装備していたのだ。
グウィードとガスパールの力関係が良く分からない。グウィードが装備した後にガスパールが新たな物を手に入れたのか、第四軍団以上の軍団長は上下関係が無いのか。
そんな事を思いつつ、ハインツは指輪をコッソリと懐に仕舞い込んだ。
「無敗のグウィードが倒されたぞおっ!!」
「「「「うおおおおおおぉおぉおおっ!!!!!」」」」
「青色信号弾を撃てっ!全軍突撃!」
『ブルーライトスコール』 『ブルーライトスコール』
「全軍突入開始!殲滅せよ!」
第一宝珠都市ガライ北域の青い空に、青い輝きが流れ落ちていく。
大海を抱える南部のディボー王国において、あとわずかに1歩を進むだけで、人類の生存圏100万人以上の奪還が叶う。
ディボー王国騎士団は、1歩を歩くのではなく走り出した。10歩にも100歩にもしようと全力で駆け出した。
大歓声と雄叫びが怒涛の雪崩のように獣人軍を押し潰していく。
ハインツは2個パーティ12人に告げた。
「軍団長撃破の特別報酬。2個パーティ12人には追加で1人2000万Gずつ払う」
「うはあああっ!おいフランセスク、転姿停滞の指輪の上から4番目が買えるんじゃないか!?84年の停滞と-6歳だぜ!うっひょおお」
「うるさい。黙れ。落ち着け。それは非売品だと教えたはずだ」
「これで南部が安定したか。人獣の戦略図が大きく変わるな……ディボー王国の領土奪還戦で稼げるか?」
「ねぇハインツ、うちの騎士団に無駄な損失が出るからそろそろ参戦しようよ」
「金色の神様を倒した獣人が、こんな簡単に……」
「うはっ、後ろで風魔法を数回使っただけで2000万Gゲット!!」
「おい目立つな。減額されないように静かにしているんだ!」
皆が思い思いの事を口にしていく。
ハインツはその中で、とりあえずメルネスの言葉を優先しようと思った。
「では、これより最後の仕上げをする。敵には大祝福2以上の獣人が残っていない。俺達にとっては雑魚ばかりだ。一掃してディボラスに凱旋しよう!」
「おうっ、俺は王城で可愛いメイドさんの歓待を受けるっ!」
「ロランド黙れ」
「紅塵の団員が戦っている。往くぞハインツ・イルクナー宰相代理」
「レッドスコーピオン陣形の尾を獣人軍の胴体へ。毒は全身へ。だね」
サソリの強力な尾が、トドメとばかりに獣人軍に向いた。
『フレア・スコール』
その刹那、横合いから銀色の光が瞬いてサソリの胴体が赤く爆ぜた……
『フレア・ストーム』
『フレア・バースト』
『フレア・ウォール』
『フレア・レイン』
人には持ち得ない膨大なマナが、強烈な業火となって次々とディボー王国軍を焼き払い始めた。
伸びたサソリの尾からは、その後背にある本陣の様子が容易く見てとれた。
「ディボー本陣がっ、壊滅していく!」
「馬鹿な……ルイーサ女王が死んだ……」
その時、真っ赤に染まるディボー本陣に金色の強い光が輝きだした。
























