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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第一部 第二巻 北風と二つの太陽(11話+エピローグ) ベイル王国編

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エピローグ 二つの太陽

 もうすぐ冬が来るのに、最近はとても暖かい陽気が続いている。

 その温かい日差しの中を、膨大な数の箱馬車が南へ西へと向かって走っていた。馬車数は600台以上、1台につき十人と物資を同時に運んでいた。

 それが、何度も何度も往復し続ける。


 ガラガラガラ……  ガラガラガラ……


 大商人アドルフォ・ハーヴェが国内の48路ある普通定期便の台数を半分にし、予備の馬車まで使って運用している特別輸送便は、そのすべてが無料。

 行き先指定だが、護衛と食事まで付いている。そして箱馬車の中には、沢山の難民たちが乗っていた。

 だが彼ら彼女らは、難民であるにもかかわらずとても嬉しそうで、希望に満ち溢れた顔をしていた。

 そんな中、2人の子供が何度も父親に確認をしている。


「ねぇっ、本当に?本当にっ!?」

「ほんとうに?」


 まだ幼い兄弟だ。兄が初等校の低学年くらい、弟はまだ4~5歳くらいでしかない。


「本当に?ぼくも都市の中に住めるの?お家がもらえるの?本当にっ!?本当にっ?」

「おうちがもらえるの?」


 ガラガラガラ……  ガラガラガラ……


 父親は、嬉しそうに頷いた。


「ああ、そうだ。2人の新しい神様が、みんなのために凄く立派な都市を作って下さったんだ。第五宝珠都市ブレッヒ、そして新・第五宝珠都市アクス。どっちも25万人が暮らせるんだぞっ。逃げてきたみんなが戸籍をもらえて、ちゃんと都市の中で暮らせるんだ」

「パパ、25万人ってどれくらい?どれくらい凄いの?」

「どれくらいすごいの?」

「そうだな・・・普通の都市が5つ分だ!それが2つもある!」

「本当に!?本当にすごい!すごいね!」

「すごいすごい!」


 ガラガラガラ……  ガラガラガラ……


「でも、どうしてご飯がもらえるの?お家までもらえるの?パパはお金あるの?」

「ぐっ、いや、パパはお金無いけどな。新領主になられたハーヴェ侯爵さまが、沢山の家を建てる材料を下さるんだ。それでみんなで家を建てる。そしたらお金がもらえるし、建てた家にも住めるんだ」

「ねぇ、学校は?」

「ああ、家を建てたら、屋根のある学校も建てるぞ。与えて下さる加護がとても広いから、農地も放牧場も沢山作れる。綿花の栽培もして、縫製工場まで作るそうだ。女だって働ける。仕事は本当にいっぱいあるぞ。ご飯も毎日たくさん食べられる」

「本当に?雨が降っても学校はお休みにならない?もう野草を食べなくてもいいの?死んでもゾンビにならないの?」

「えぐっ、ゾンビこわいよっ……うえええええっ」

「わははっ、もうゾンビは出ないぞ。魔物も襲って来ない。あいつらは都市の中に来られないからな。あと、大きな湖があるんだ。ああ、懐かしい。パパはな、インサフ湖って言う湖がとても綺麗な都市に居たんだよ」

「湖って何?」

「ああ、大きな、とても沢山の水がある所だ。魚がいっぱい泳いでいて、都市の近くの湖は瘴気が無いから沢山食べても平気だ。あと湖は、太陽の光を浴びて、キラキラ輝くんだぞ」

「難しくて、よく分からないよ」

「ははは、すぐにわかるさ。ああ、まさかもう一度都市内で暮らせるなんてな。都市の近くの難民キャンプでわずかな食糧を支援されながら、ずっと小さな受け入れ枠を待っていたんだが……ベイル王国は本当に凄いな。獣人を倒して、こんなに大きな宝珠都市まで一度に得て、こんな国、他にはないぞ」

「ぼくもベイル王国民になるの?」

「ああ、みんなでこの国に暮らそう。パパは何になろうかな。しばらくは大工だが、漁師か、馬の放牧か……」

「ぼくは馬車の御者になりたい!」

「ぼくもぼくも!」

「そうか。だが馬車の御者は、たくさん勉強しないとなれないからな。しっかり勉強するんだぞ?」


 ガラガラガラ……  ガラガラガラ……


 やがて馬車は、たくさんの希望を乗せて第五宝珠都市ブレッヒに到着した。

 今やこの国には、二つの大きな太陽が輝いている。


 




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「旦那さま、いかがですか?」


 アンジェリカ王女がハインツを訪ねてきた。

 ハインツはそちらを振り返り、要点がまとめられた起案書を手渡した。


「あら、完成していたのですね?……ふむふむ……あら……すごい。……こんなに細かく。かなり改善できそう。これは面白いですね。ですけれど、前例がありません。ここまでの大改革ですと、有用性とリスクが予想しきれませんわ。かなり使えるとは思いますけれど」

「実績は嫌という程あるさ。何がリスクかも分かっている。各省ごとの注意点も後ろにある。専制政治だからこそ出来るんだけどな」


 ハインツが示したのは、ジャポーンや地球で当たり前の様に行われていた、公益性の高い事業に対する専門省の設立だ。

 大まかに文官と武官に分かれて行っていた政務を、国務・外務・内務・法務・財務・軍務・治安・建設・農耕・産業・教育・医務の12省に分けた案を示した。

 公務職の比率は軍を別として人口の4%とし、各省への人員配分の比率も定めた。そして国家予算に対する軍事費、人件費、政策費、式典や修繕、国庫や貴族への予算配分の比率も定めて、財政悪化時には自動的に予算規模を縮小でき赤字が出ないように図った。

 だが、特徴はそこではない。

 農耕省の『農耕物の育成把握と被害調査、対策検討』はまだ良い。しかし、外務省の『他国の情勢・情報収集(王都へ報告し情報統合)』は露骨だろう。どんな愚か者にでも分かる一行ごとの内向きの方針とは言え、建前と言う物がまるで見受けられない。

 騎士、治安騎士、兵士への人件費比率まで定めて大きな差を明記したのも酷いかもしれない。あるいは特化した専属兵士を増やして、民衆からの徴兵兵士を大幅に減らした事がどのように影響するのか、アンジェリカには予想がつかない。


「そう言うと思って、事前に難民を使った都市の急速復興をやって、実績を示したんだがな」

「確かにあれは凄い効果でした」


 難民たちは、自分たちの家や子供の学校、職場を作るのだ。

 大工に金を渡して丸投げするのと違って、どれだけやらせても絶対に手を抜かない。

 それに多少失敗しても、彼ら自身の責任になるため文句も言わないし場合によっては無償でやりなおす。また、自分たちで都市を作れば愛着が湧くものだ。犯罪発生件数も低下し、国への忠誠も上がるだろう。

 また、『家に住みたい』、『給与を稼ぎたい』と思って彼らが都市を早く作れば作る程、国からの支援を早期に打ち切れる。

 元々難民キャンプを守っていた治安騎士も、難民に合わせて都市に駐留させれば新たな部隊を出す必要が無い。

 そして……


「死霊の杖を提供した大商人アドルフォ・ハーヴェに爵位と領地を与えるという名目で、予算の無い国に代わって膨大な初期投資を行わせた手並みも見事でしたわ」

「そうだろう?アドルフォは投資が全て回収できると理解しているし、商会本部のコフランや馬の大生産地があるエマールの周辺だからな。馬車の部品を作らせたり、あいつが他でやっている仕事をいくらでも第五宝珠都市ブレッヒに集約できる。あの膨大な難民たちはそのまま全て労働人口になる。入ってくる税を楽しみにしておくと良い。凄い事になるぞ」

「あとは新第五宝珠都市アクスですけれど、あの西の森の都市は、元々マナ回復薬などの材料になる野草や鉱石などが採れていました。加護が膨大に膨れ上がって、マナを溜める野草や鉱石が凄い勢いで増えたので、もっと難民の受け入れ速度を上げても大丈夫だとメルネス新侯爵から報告が上がっていましたわ」

「それなら、リーランド方面から流れ込んでくる難民を全て回すかな。そちらも増えて来たらしいし。必要な天然資源が揃っているから、いっそ現地で加工まで出来るように工場設置費用を貸し出して支援すると良い。こちらは惜しまない方が良いな。品質が上がるぞ」

「それならば、難民支援に使っていたお金をそのまま用いましょう」


 アンジェリカはどんどん生み出される魔法の資料を読み込んでいった。


 (一体どこでこの沢山の発想が生まれたのかしら?近隣でこんな事をしている国なんてどこにも無いのに)


「これで、夫が妻に与える財産の要件は満たしたか?」

「ええ。それどころか、王国は建国以来かつてない程に発展するでしょう。ですけれど、せっかくの事業を民間に任せるのはなぜなのですか?アクス領の事業を国営化すれば、そこは独占できますよ?」

「競争原理が働かず、仕事の改善が図られないからだ。無能集団を作る温床になる。無駄に税金で運営するより、民間に任せてそこから税を回収する方が良い。資源は採り尽くさせないように、苗を植えさせたり、税をかけて生産量を調整するんだ。その為に財務省の徴税人員を増やすのだからな」

「そういう事でしたの?先程の起案書と連動させていたのですね。なるほど。具体的な数字が出れば、すぐにでも現王陛下を納得済みで引退させられますよ?未来の新王陛下」

「それは断ったはずだ、未来の女王陛下。妻として認めるし、夫としての義務も果たすが、アンジェの優先順位は3番目だ。リーゼ、ミリー、アンジェ。リーゼやミリーを側室扱いする気は無い。とにかく俺が心の自由を得るために、国の財政の立て直しに協力したのだからな」

「はぁ、それだけが旦那さまに対するわたくしの不満なのですよ?それさえなければ、わたくしはいくらでも従順な妻になれますのに。とりあえず宰相になりませんか?フォスター宰相については、爵位を上げて領地へ帰しますから」

「宰相とか勘弁してくれ。それにあの人は、話の分かる人だぞ」

「本当に、そう思われますか?」

「説明すれば分かる人だ。それに、宰相に必要なのは傑出した政策力ではなく、組織の調整力だ。あの人はそれが高い。そもそもエドアルド王陛下が選んだ時点で、無能のはずが無いだろう?まあ、俺が宰相になると言えば、あの人は喜んで子爵位を貰って引退するだろうけどな」


 (王国にとって、すごく良い拾い物でしたね。メルネスが言っていた真の祝福なら、アルテナの祝福は王家に間違いなく届きますし、スキルもいざという時には……駄目でした。そういう考えを持ってはいけませんね。影響が予想できません。獣人帝国にベイルを最優先で襲われる可能性もあります。それを省いても、政治力がわたしより上だったのは嬉しい誤算でした。わたしが、まさか普通の王女として振る舞っても許されるなんて)


「ふふっ……」


 第一王位継承権者アンジェリカ王女は、皇太子であった父が死んで以来、13年振りに普通に笑った。

 もう冬なのに、とても暖かく感じられた。

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