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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第一部 第二巻 北風と二つの太陽(11話+エピローグ) ベイル王国編

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第07話 希望へと至る道

「ベックマン、あのグレイブ。金狼がバーンハードのだって言ったわよね?」

「そう言っていたかもしれませんぜ」

「言っていたわよ。おそらくだけど、金狼に遭遇する前にすれ違っていたわ。フロイデン大橋でバーンハード大隊長を倒した冒険者と」

「そうだったんですかい?」

「ええ……ねぇベックマン。安過ぎたのかしらね?」

「何がですかい?」

「報酬よ。対価を支払えない相手との次の取引なんて、普通は無いでしょ」

「だとしても、この国には対価の持ち合わせがありませんぜ」

「……あるわよ。金狼討伐に見合う対価が1つだけね」

「姫、何を考えているんですかい?」

「反対しそうなのはフォスターとバウマンかしら?」


 わたしは、ベックマンと共に王都へと帰還した。アリアーガに多くの兵を残して。近衛騎士団や緑玉騎士団の大半も残して。

 結果がどうなったのかは、続報を聞かなくても想像できる。左腕を切り落とされてそのまま金狼の前に立ちはだかった近衛騎士団長が、今頃生きているはずもない。

 緑玉騎士団長のベックマンは、わたしを連れて避難してきた。残る騎士に目ぼしい指揮官はいなかった。そして北門を破られて総力戦になった時点で対抗し得る戦力も無かった。

 唯一可能性があると思うバーンハード大隊長を倒したという冒険者も、そもそも最初から逃げていた。彼も単独では金狼に勝てないと分かっていたのだろう。

 コフランで調べられた彼の能力は大祝福2。金狼は大祝福3祝福5だったはず。それでも大祝福2のパーティで大祝福3祝福2の獣人軍団長を倒した前例もあった。

 王都決戦に備え、各地の戦力が結集している。エルヴェ要塞の2個騎士団を主力に、フォルシウス要塞からも1個騎士団が来た。各都市の騎士隊も集まって来ている。

 打倒は不可能ではないはずなのだ。彼は金狼を投擲で止める事が出来た。そんな冒険者たちが全員で協力すれば。わたしが正当な対価をきちんと支払うなら。それにどうせ、あの時に死んでいたはずの身でもある。


「おおアンジェリカや、よく無事で戻ったのぉ」

「はい。この度の敗戦、申し訳ございません」

「構わぬ。相手は軍団長だったのだろう?そなたが金狼の首を片手に帰ってきたら、余はそなたに姫でも用意せねばならぬところだ」

「あら、陛下もそう思われますか?なんだ、心配して損をしました」

「んむ?…………ふむ」

「陛下、アンジェを信じて下さいますか?」

「そなたが二度も同じ事を聞くとは珍しいのぉ。許そう。だが子細は良く詰めよ。粗暴者に国は任せられぬぞ?」

「はい。とりあえず女王の配偶者に留めるのが最善でしょう。詐欺のようですが、嘘は言っておりません。可能な限りなんとかしてみます」

「本当に大きくなったのぉ。……フォスター宰相」

「はっ、陛下」

「次期女王アンジェリカ・ベイルが今から申す提案に従うように。勅命である」

「……畏まりました」

「バウマン軍務大臣、重ねて申すぞ?」

「はっ」

「次期女王アンジェリカ・ベイルが今から申す提案に従うように」

「……はっ!」

「うむ。さあアンジェや、話してみなさい」

「はい」


 わたしは慎重に言葉を紡いだ。


 『第一王位継承権者アンジェリカ・ベイルは、ベイル王国に侵攻してきた獣人軍団長・金狼のガスパールを、その手段を問わず1年以内に討伐した男性を我が夫とすることを、アルテナの加護の下に誓約いたします』


 『ベイル国王として承認する』


「おっ、王女殿下!次期王が国王に対して結婚相手を誓約して承認されると、それは何があっても取り消せませんぞ!」

「くっ、俺自身が祝福を持っている。もはや立ち会いが成立した」

「それなら諦めて国中に布告なさい。もし金狼を倒した者が宣言を知らず来なかったら、わたくしは一生独身なのですよ?」


 




 Ep02-07






 ハインツが現在の状況を整理した結果、かなり厄介なことが判明した。

 ミリー蘇生までのタイムリミットだという1ヵ月は、あまりに短過ぎると言う事だ。

 最北の都市アンケロが襲撃されたのが9月10日の事である。つまりタイムリミットは10月10日だ。

 アリアーガから6日かけて王都まで戻ってきた。既に9月25日になっている。ここまでは全て高速馬車だ。

 高速馬車は、ハーヴェ商会がその都市にあればこそ乗り捨てて次の馬車を使う事が出来るのだと知った。都市で交換せずにそのまま使うなら、馬を休ませる必要がある。都市間を1日ではなく2日必要なのだ。王都まで逃げるのに3都市を3日ではなく6日かかったことで良く分かった。

 もちろんアンケロまで馬より早く走り続けられる自身は全く無い。

 もしミリーを助けに行くのなら、高速馬車でも4都市を8日かけて移動しないといけない。今から向かって到着はいつになる?10月3日だ。だが、進路には獣人軍団が待っている。

 獣人軍は都市間を4日かけ、確実に侵攻してきている。

 このままでは相手が来るのは10月1日。到着まで6日もある。即日倒して即日向かっても10月9日になってしまう。

 そんなギリギリのスケジュールでは、アクシデント1つであっさりと破たんしてしまう。


 (そもそもミリーが1ヵ月間保つ保証はあるのか?リーゼなら半分だと言っていたし)


「はぁ……」

「あなた」

「どうしたものかなぁ。俺はスキルを使わなければ、獣人大隊長1人程度の強さしか無いぞ。正面から1対1で戦っても命がけで五分五分だ。スキルを使っても確実に勝てる自信は無いなぁ」

「わたしが手伝ったらどうなりますか?」

「相手にも手伝いがいるだろうし、リーゼにそんな事はさせないさ」


 ちなみに国を大きく迂回もできない。

 北東と北西のどちらも、北を制圧した獣人軍の侵攻を防ぐために橋を落としてしまったと聞く。馬が通れなくては話にならない。

 だからミリーを救うには、真っ直ぐ獣人軍の所を突破して行かなくてはならない。獣人軍が来るまであと6日。


 (方法は1つだけあるけど…………)


「……リーゼ、行くぞ」

「あ、はい?」






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 ハインツが向かった先は、ハーヴェ商会の王都支部だった。

 ハーヴェ商会の本部はあくまでコフランである。しかも、王都の支部よりもコフランの本部の方が大きい。コフランは周囲に馬の産地を抱え、かつてはインサフ帝国やハザノス王国への輸出拠点で、今はエルヴェ要塞への輸送窓口でもある。それ以前に会長の拠点だ。

 王都の支部に到着すると、すぐに個室に通された。アドルフォは多忙だが、ハインツには会ってくれる。


「すまん。時間が無いから単刀直入に言う」

「おう、うちのティーナとそっちのリーゼを逃がす算段なら済んどるで。ハインツも行くか?」

「いや、リーゼだけ連れて行って欲しい。そうすれば俺は、心おきなく金狼を倒して、ミリーを助ける事が出来る」

「あなた?」 


 アドルフォがハインツをじっと見たが、それで答えが出るはずもない。ハインツはそのまま言葉を続けた。


「俺が大祝福3祝福5を受けた転職系治癒師だと言うのは知っているだろう?バーンハードはギリギリ倒せただけで、俺の本職は支援系だ。俺は治癒術でパーティが受けた傷を即座に治し、味方が死んでも即座に蘇生させられる。本来の戦い方はそちらだ」


 ジャポーンでは、ハインツはそうやって戦っていた。

 それがこの世界でどれほど理不尽な事は既に知っている。大祝福3自体がそもそも獣人軍団長級だ。だが、ハインツはもっとえげつない事を考えていた。


 (どこまで非常識にやって良い?まあ自己責任だわな)


「それで戦うんか?だがガスパールに最優先で狙われるで?みんなにもバレるで?」

「バレてしまう方は、伝説の杖をアドルフォから譲られたって事にでもして欲しい。そうだな、『命の恩人やから倉庫の中にある好きなもん持ってけ言うたら、冒険で手に入れたよく分からん杖を持って行かれたわ。わいは鑑定できんだけど、大祝福2の探索者は凄いわ。伝説の杖やった。効果は治癒とか蘇生や!でも戦いが終わってミリーって子を助けたら壊れてもたわ。こりゃ、使い切ったんやな。まあ命の恩人やしええわ』って事で頼む」

「……おぅ、まあええで。シラ切り通せばええんやな?」

「ああ。ティーナさんの件、もし気にしてたらそれで貸し借りチャラだ。騙すのも大変だろうしな。俺はアドルフォから貰った由来の分からない杖が凄かったと言う事にする。あと、ガスパールを倒した後にミリーを助けに行くための馬車を貸してほしい」

「それはええねんけど、勝てるんかい?あっちは戦闘系で、ハインツは治癒師やで?」

「ああ。強そうな奴で、話が合いそうな奴を納得してもらった上で蘇生させる。英雄の石碑とかから」

「…………マジかいっ!!」

「戦死者で未練がある奴なんて一杯いるだろ。誰だって自分が死ぬつもりでは戦っていない。蘇生させる前に先方の条件を確認するさ。あ、そいつらの装備とかも用意できるか?パーティを組むから5人分だな。全体治癒は同時に5人にまで使える」

「……ガスパール追い払ってくれたらわいも助かるし、もうええわ。とりあえず杖やな?うちの商会の王都の在庫から見繕うわ。あと馬車と服と、装備は王都にうちの商会が専門店を出しとるから最高の用意できるで。ティーナの件、これ全部でなんとか貸し借りチャラやな。少しスッキリしたわ。ようやく対等な友やで」

「おう。それじゃあリーゼ、ティーナさんを守って避難してくれ。ミリーは俺に任せておけ」

「はい、あなた。ミリーをお願いします」


 賽は投げられた。

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