短編 新興貴族の座学その2★
バダンテール歴1266年7月。
北の大国マルタンは、アスキス王国奪還作戦の大失敗と獣人軍の逆侵攻によって、保有宝珠格を300万人から80万人規模にまで減じられた。
前年の天鎚戦争までは人口規模230万人だったため、発生した難民の数は150万人で済んだが、どのみち取り返しの付かない大失態である点に変わりは無い。
振り撒かれていた加護が尽きるまで残り数ヵ月。
時間と共に水や作物が瘴気に汚染され、魔物が都市へ入り込み、死体がアンデッド化し、生活環境が過酷化していく。
だが民を他都市へ逃がそうにも、人口が過密になれば避難都市まで加護不足となる。
獣人帝国の支配地域から流入した民は各国に溢れており、それでなくとも子供の数を2人までに制限している中で、新たに150万人もの難民を受け入れられる都市など存在するはずもない。
150万人もの難民を一体どうしたら良いのか、その答えはベイル王国のイルクナー宰相が持ってきた。
前年まで人口規模345万人だったベイル王国は、天鎚戦争とインサフ王国の独立戦争時に保有宝珠格を595万人まで引き上げており、250万人分の人々を受け入れる事が叶う。
もちろん難民を受け入れる政治体制が整っていなければ実現は不可能だが、相手は殆どゼロからインサフ王国の建国させたベイル王国である。
移民受け入れの用意があると提案されたルーファス王は、時間制限のある難題に解決の道筋が見えて内心で安堵した。
「但し、これは一時避難では無くベイル王国民としての編入だ。マルタン王国での身分や権限が一切通用しない事を理解し、ベイル王国の平民として国法を遵守すると言うのであれば受け入れる。否と言う者は、残らずマルタン王国に留まって頂く」
その条件を聞いたマルタン王国の首脳部は顔を強ばらせた。
彼らはインサフ王国独立を果たした女王ヴァレリア・インサフのように、ベイル王国の保護と支援を受けられる事を期待していたのだ。
だが現在の両国の力関係は、一方的な通告にも等しい状況にある。
「将来マルタン王国が領土を回復した際に、元マルタン王国民はどのように扱われるか?」
「ベイル王国は、新インサフ王国への帰参を希望した者を留意させた事は無い。それはマルタン王国に対しても同様だ」
「貴国に家族を移住させ、なおマルタン王国騎士や兵士たらんと欲す者は?」
「祝福を得た冒険者の国家間移動は自由だ。貴国へ出稼ぎに行きたいと申す者は好きにすれば良い。だが祝福を得ていない者の国家間移動には制約がある。貴国の兵士として戦いたければ、家族ごと貴国に留まるしかあるまい」
「もはや我が国には、家族ごと留め置く余裕が無いのです」
マルタン王国には未だ80万人分の宝珠格が残っているが、元々住んでいた民を追い出して兵士とその家族で人口枠を埋めるわけにも行かない。そんなことをすれば都市の経済や流通が成り立たなくなる。
宝珠格が減じられれば、それに見合う戦力しか維持できないのは道理である。
「ベイル王国は今回の北部連合の侵攻作戦に一切手を貸さないと伝えたはずだ。後始末も例外では無い」
ハインツがマルタン王国民を受け入れるのは、マルタン王国の技術や経験を丸ごとベイル王国へ取り込み、新たな労働力を獲得して国力を高められるからだ。
子供達の中からは祝福を得るものも出てくるし、引退冒険者たちの経験も馬鹿に出来ない。
だがその他の荷物を背負い込む理由は無い。
マルタン王国を壊滅状態に追いやった、何の役にも立たない特権階級の阿呆どもは一人もいらないし、金銭的な負担をしてやるつもりもない。
「移動する民に必要な馬車・食糧・警護の人員などは、全て貴国で用意あるいは負担して貰う。何しろベイル王国に着くまでは、貴国の民だからな。一応リーランド帝国やインサフ王国を通る際の通行料は減免して貰うようこちらで伝えて置く」
今回マルタン王国の神宝珠を奪った獣人達は、その他の財物に一切手を付けていない。
マルタン王国は永らく大国として栄えてきた歴史を持っており、その間に王都で蓄えられた財物はベイル王国を遙かに凌ぐ。また宝珠を失った都市には官民合わせて大量の馬車があり、財産や食糧もそのまま残っている。
ハインツの条件が実現できるか否かと問われれば、マルタン王国には確かに出来る。
だがそれらをベイル王国に移されるマルタン王国は、今後本当に80万人規模の力しか保てなくなってしまう。
その穴埋めは北部連合が少なからず担う事になるだろうが、それによって北部連合内におけるマルタン王国の主導権は完全に失われる。
「人類の英雄殿。貴国の行動原理は何なのですか。インサフ王国民の解放と独立を手伝い、北部連合を助けない理由は何でしょう」
「一方的に力を貸せ、技術を寄越せ、自国民に負担や犠牲を強いろ、成果は自分の物だという連中をどう思うかな、ルーファス王陛下。最初のボタンを掛け間違えたから話が合わないのだ」
「マルタン王国がそうだと?」
「ベイル王国の新騎士団を出せ、飛行艦を寄越せ、それらの維持費を負担しろ、アスキス王国解放の成果は当然アスキス王国のものだ。その後の成果は北部連合で割り振る。と要求してきた北部連合の加盟国一覧には、貴国の名も連ねられていたが?」
それは北部連合の代表者会議で結論が出ず、やむを得ず行われた交渉の一手段である。
北部連合の交渉者にとっては「最初に慈悲の人たるアンジェリカ女王に打診をして、そのまま受け入れられればこれ幸い。駄目でもそこから交渉をして良い条件を引き出す」と言う算段であった。
そんな事は当然イルクナー宰相も分かっていただろう。
だがイルクナー宰相は「交渉者の最初の話に立腹し、以後の交渉を一切受け付けず交渉者を北部連合に叩き返す」というリアクションを取った。
まさか人口規模で当時最大勢力であった北部連合を相手にそこまで思い切った行動に出るなど、交渉者は夢にも思っていなかっただろう。
「折り合いが付かない場合は?」
「マルタン王国は230万人の民を残存する神宝珠だけで支え切れず、残っていた80万人分の神宝珠も失って滅亡するだろう。我が国は出産制限を解除して空いている枠を埋める」
「マルタン王国が落ちれば、ベイル王国が支援している新インサフ王国も危ういのでは?」
「マルタン王国の滅亡後にまでお気遣い頂き痛み入る」
ルーファス王は渋ったが、最終的にはハインツの全ての提示を受け入れた。
それから3ヵ月の時が流れた。
Ep10-31
バルフォア子爵領は、マルタン王国の第一宝珠都市トラシエに住んでいた民衆5万人を丸ごと受け入れる事となった。
新興都市なので「第二宝珠格10万人規模の枠内にクーラン王国の非正規民5万人を受け入れて様子を見よう」と難易度を低く設定されていたところに、突然「マルタン王国民5万人も受け入れてくれ」と難易度を一気に引き上げられた形だ。
複数の国民を時間差で自国に組み込むのは難しい。
例えば1年遅れでやって来た元マルタン王国民が、先に良い土地を軒並み押えた元クーラン王国民を見てこう主張する。
「クーラン人ばかりが良い土地を押さえている。これでは我々マルタン人が商売や農耕をしようにもチャンスが殆ど無い。これではマルタン人ばかりがあまりに不利ではないか」
クーラン人としても、その言い分を放置するわけには行かない。
仮に領主がマルタン人の言い分を聞いて肩入れしてしまえば、クーラン人がそのまま不利益を被るからだ。
「そもそも廃墟都市を整えたのは我々クーラン人だ。後から来たマルタン人が権利ばかりを寄越せと言うが、それに見合う貢献を何もしていないだろう」
さて賢明な領主の貴方は、この問題をどう処理するだろうか。
貴方自身は両親共にベイル王国出身で、争いの当事者からは外れている。
さらに神宝珠を生み出したバルフォア大騎士団長の弟一家で、正当な領主である事は誰もが認めている。
また貴方の手には行政府を統括する権限・予算・軍事力が握られており、背後にはアクス侯爵やベイル王国まで控えている。
「と言う問題よ」
「……問題は分かったけど、あたしには難しすぎます」
家庭教師のサレアが出した問題に、ベアトリス・バルフォア子爵令嬢は頭を抱えた。
王宮女官で若いながらも係長。そんなサレアがベアトリスに出す問題は、中等校の生徒に出す問題のレベルを逸脱している事が多い。
「それなら、視点を変えてみましょうか。新しくやって来たマルタン人の気持ちになってみて。彼らは今どんな気持ちなのかしら?」
「うぅ」
ベアトリスは「なんであたしだけが、こんな目に……」と恨めしそうに壁際に控えている2人の裏切り者を眺めた。
元同級生だったフランチェスカとアデーレは、二人とも今年中に結婚して寿退職という勝ち組である。
「がんばれー」
「全然心がこもってないし!」
「頑張ってね!」
「元気は良いけど無責任だし!」
彼女達は、本当に勝ち組である。
そもそも爵位貴族家で働く若いメイドとは、貴族家で働けるほどの高い信用やコネを持つ家の娘という証明に他ならない。
貴族家の財物に手を付けるような手癖の悪さとは無縁と見なされるし、貴族家の内情が外部に漏れていない事もその娘の口が硬いという信用に繋がる。
都市を動かす人々の性格や判断基準、貴族家の交友関係や取引先、出入りする業者の情報を持ち、貴族で働く者達に強いコネまで持っている。そんな娘を自分の妻や義理の娘に出来れば、社会的信用や交友関係まで引き継げる。
役人なら自分の出世街道が石畳で舗装されるし、商人なら自分の商売が様々な局面で後押しされる。
そもそも各都市の管理者は爵位貴族家なので、どのような形で都市に関わろうとも最上段には貴族が座しており、おまけに司法権と最終判決権まで持っている。
そこに強いコネがあると言う事は、都市に住む上で最強の切り札を持っているに等しい。
フランチェスカとアデーレは、随分前に戦死した兵士長の娘と、他人の畑を耕して小銭を得る小作農の娘だ。
だが彼女達はバルフォア子爵家の側からお願いをして着いて来て貰った子爵令嬢の旧友たちであり、バルフォア家が爵位を得る前から利害関係を抜きに交流があって、その信頼は揺るぎなく子爵家当主や次期当主への覚えも目出度い。
新興都市の可能性は非常に大きく幅広いので、甲斐性のある男達が一斉に彼女達に殺到していった。
相手を選び放題で見事に勝ち馬に乗った彼女達は、頑張って走っているベアトリスを上から応援している。
そんな二人へのベアトリスの評価は……
「裏切り者―」
「ほらほら、よそ見しないの。チェスカは紅茶でも持ってきて。アデーレはお菓子ね」
「かしこまりました。サレア様」「お嬢様、頑張ってね!」
「ぶー」
二人が退出して私室が静かになると、ベアトリスは諦めた表情で課題を考え始めた。
バルフォア子爵領に辿り着いたマルタン人は、今何を思っているのだろうか。
「ええと、これまで暮らしていた宝珠都市を突然失った。家も無くなった。財産もあまり持って行けない。生きていくのが大変。家族が居る。良い暮らしをしたい。それなのにクーラン人が良い土地を押えている?」
「そうね。じゃあ、彼らの不安を無くすには?」
「住む場所がある。家族と一緒にちゃんと生きていける。これまでより良い暮らしになる。それを教えてあげる?」
「それだけだと、元クーラン王国民に対する嫉妬を解消するには足りないわね」
「それじゃあ、どうするんですか?」
「公平な裁判で、司法が両者に対して平等に機能していると示す事。領地内の税の比率を変えて、富の格差を減らす事。先に来たクーラン人が都市開発で苦労した事を流布して、理解を促す事。学校教育でどちらもベイル王国民であると教えて、相手が他国民であるという考えを捨てさせる事。等々」
「頭痛いです……」
丁度良いタイミングで紅茶が運ばれてきた所で、二人は休憩に入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「でも今回のマルタン王国問題を除けば、国内で変化したのはフェルトン伯爵家、バハモンテ子爵家、イルクナー侯爵家の3家だけだから、貴族関係としてはあまり変化していないわよ」
サレアは地図を示しながらベアトリスに解説する。
★ベイル王国爵位貴族家(1266年末改訂版)
フェルトン子爵は、ヴァルター軍団長を撃破した功績により伯爵へ陞爵した。
軍団長2人撃破は、殺戮のバルテルを倒したメルネス・アクス侯爵を越える大戦果だ。
これまで彼の領地では、第一宝珠キイーオンに王家が追加する形で第二宝珠オトリアを置いていた。つまり宝珠格は1+2=合計3であった。
それが今回の功績により、領地の神宝珠が第三宝珠オトーギアへ変えられ、王家が追加で置く神宝珠が第一宝珠キイーオンになった。よって宝珠格は3+1=合計4となった。
第三宝珠を領地に置いたフェルトン伯爵は、名実共に立派な伯爵閣下となった。
バハモンテ男爵は、名誉の戦死を3回遂げた事により男爵から子爵へ陞爵した。
貴族家から短期間に3名の戦死者が出る事は過去に例があるが、2年間で同一人物が3回も戦死した記録は無い。
これまでの彼女の領地であった第一宝珠ネマイアスに、王家所有の第二宝珠オトリアが追加で置かれるようになった。元々1であった所が、1+2=3となった。
加えて王都ベレオンの英雄の石碑に、バハモンテ子爵の区画が設けられた。もう充分に名誉の戦死を遂げたから、次の死因が何であってもそこに入って良いと言われているらしい。
「フェルトン伯爵閣下と、バハモンテ子爵閣下は分かります。でもイルクナー侯爵閣下がよく分からないんですけど」
「あら、それはどうしてかしら?」
「だって、イルクナー宰相はアンジェリカ女王陛下の夫ですよね。国王を名乗っていないけど、身分は王族。侯爵より王族の方が偉いのに、どうして侯爵位を兼ねるのか分からないです」
「そうね。確かにイルクナー宰相自身には不要な身分でしょうね。でもイルクナー宰相は侯爵位を兼ねた。では、誰のためかしら?」
「アリシア王女殿下のため……?」
現在ベイル王家には、アリシア王女とフィリベルト王子の二人が居る。
国主となれるのはどちらか一方のみで、もう一方はいずれ王の家名であるベイル姓を失って、父親であるイルクナー姓を名乗ることになる。
5歳の王女と2歳の王子のいずれが次の国主となるのかは未だ定められていないが、順当に考えれば嫡男のフィリベルト王子が皇太子として冊立されるだろう。そして姉のアリシア王女は降嫁してベイル王族から外れる事になるはずだ。
その際にアリシア王女が都市を治める爵位貴族家の継承者に第一夫人として嫁げば身分は爵位貴族となるが、それ以外の場合は下級貴族となる。
ベイル王国の身分は「王族」「爵位貴族(宝珠都市の領主・配偶者・継承者のみ)」「下級貴族(王侯貴族家に近しく連なる者。卿と呼ばれる)」「準貴族(騎士・司祭などで当代限り)」「平民」と明確に分けられている。
アリシア王女の夫がどの身分であろうとベイル王国内であれば山のような名誉職が用意され、卿と呼ばれて生涯路頭に迷う事など無いだろうが、それでも宝珠都市を有しない限り爵位は得られない。
なぜそんな事になるのかというと、お家騒動や跡目争いで神宝珠に見限られて加護を発せられなくなってしまう事態を避けるために、王家や貴族家を継承した当主家以外は神宝珠の継承権者から外してしまうからだ。
人々が生きていくために最も重要なのは神宝珠の加護を絶やさない事で、それは元王侯貴族のプライドよりも優先される。
よってフィリベルト王子が正式に皇太子として冊立されればアリシア王女は継承権者ではなくなり、王位が継承されれば身分的にも王族から下級貴族へ落ちる。
だがイルクナー侯爵家があれば、アリシア王女が誰に嫁いでも侯爵家の当主交代が起こらない限り身分は爵位貴族家のままだ。
「もしもアリシア王女殿下のためなら、新たに造った第四宝珠都市ラドイーアスを王家直轄領にして、王女殿下の夫に侯爵位を叙爵する方が確実じゃないかしら」
「そうなんですか?」
「イルクナー宰相には、第一夫人と第二夫人が居るでしょう。どちらかに子供が生まれたら、第三夫人の娘であるアリシア王女はどのみち下級貴族へ落ちるわよ」
アンジェリカ・ベイル女王は、イルクナー宰相の第三夫人である。
女王陛下が第三夫人という立場では、本来国家の沽券に関わる。
だがそれが金狼撃破の功績によるものだと言う事は国内外に知れ渡っており、その後もイルクナー宰相が戦果と功績を挙げ続けたので、人々はやがて話題に上げるのを止めた。
その時点で人々が知っていた第一夫人と第二夫人は、フロイデンで被害を受けた少女にして、無敗のグウィード退治に参加した治癒師と探索者というものだった。
しかし、女王親征で両夫人が姿を見せた時から状況が一変した。
第一夫人のリーゼロット・ルーベンスは、祝福77の治癒師に成長していた。
祝福77は人類最高峰と謳われたブランケンハイム大治癒師と同じ祝福数だが、純正の治癒師である彼女は加護や治癒の力が転職系よりも確実に高い。
インサフの各都市で神宝珠を発動させた彼女は、既に爆発的な名声を得ている。
第二夫人のエミリアンヌ・フアレスは、祝福76の探索者に成長していた。
人類で最も祝福数が高い前衛職はメルネス・アクス侯爵だが、現在の彼女の祝福数はそのアクス侯爵に次いで高い。獣人帝国の英雄・惨殺者アミルカーレの身体に剣を突き立てて勝利に貢献するという戦果も挙げている。
そんな二人であるが、祝福数がいくら高くても身分は平民のままであった。
夫ハインツ・イルクナーの身分が王族なのは第三夫人に女王がいるからで、女王と間接的な関係の第一夫人と第二夫人の身分が王族になる事はない。
しかしハインツ・イルクナー宰相が侯爵位を得た事によって、リーゼロットはイルクナー侯爵夫人として爵位貴族となり、エミリアンヌはイルクナー侯爵の第二夫人として下級貴族となった。
「もしかして、第一夫人と第二夫人のためだったの?」
「はい正解」
爵位貴族は、貴族を裁ける一部王族以外からは何をやっても裁かれない立場となる。また下級貴族のエミリアンヌも、法的には相当有利な立場となる。
むしろ侯爵領内であれば、二人は自分たちに詐欺や脅迫を仕掛けてきた相手をその場で捕らえて有罪判決を出す事まで出来る。
要するにイルクナー宰相が侯爵位を兼ねる事により、二人は侯爵夫人として様々な悪意から守られるわけだ。
「ややこしいーっ」
「貴女も子爵令嬢という身分に守られているのよ。そして身分を保ちたければ、爵位貴族家の次期当主を夫にしないといけないわ。はい、今日の講義はここまでね」
サレアさんの講義は、ティーカップをソーサーへ戻す音と共に終わりを告げた。