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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第三部 第十巻 独立戦争(12話+1) ~解放者の領域~

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第08話 北軍崩壊★

 バダンテール歴1266年6月。

 32個騎士団という未曾有の大戦力に3万2000名もの兵士を加えた北部連合軍は、マルタン王国の王都ルセタニアから南下して最前線の都市ルーファンへ進駐した。

 連合軍は、中核となるマルタン王国が12個騎士団。

 議事進行を行ったラスティア王国が8個騎士団。

 主戦派のモルターリ、ベルトラン、アドルノの3国からそれぞれ4個騎士団ずつ。

 慎重派のジュデオン、ドラーギ、アゴスト王国の3国は移動や補給に融通を利かせる支援に回った。

 慎重派を除いた5国は、自国の総騎士数の約5~7割を戦地へと動員している。

 そしてアスキス王国以東の滅びた国々の神宝珠の割り当ては、5国が等分する事で結論が出た。

 獣人との戦線を東に追いやって貰えるマルタン王国や、前回のリーランド帝国との戦争で領土の得をしているラスティア王国は、各々の事情に配慮した形だ。


 最前線都市に入った連合軍は北東へ向かい、獣人帝国が緩衝地と定めている都市ルアーニへ進軍した。

 ルアーニは無人都市であり、獣人帝国の監視隊が赤色信号弾と大型伝令鳥を放った後に撤退して戦闘は起こらなかった。

 連合軍はそのまま東へ進み、第三宝珠都市ザッセイムを陥落させる。

 ザッセイムは獣人帝国の入植地の一つだが、元々前線都市で入植民が少なく、事前に連絡を受けた彼らも連合軍侵攻前に避難して戦闘は起こらなかった。

 瞬く間に2つの都市を落としたモルターリ王国の王弟アスモ・モルターリは、これまでの足踏みを僅かに嘲笑した。


「四の五の言わずに攻め込めば良かったのだ。そうは思わないか、クレランド大騎士団長殿?」


 そんな上機嫌のアスモに対し、ベルトラン王国のレスター・クレランド大騎士団長は2点において彼の見解に同意しかねた。


 1点目。そもそも北部連合がこれほどの陣容を整えられるようになったのは、わずか半年前以降だ。

 それ以前は南の地に破壊者オズバルドと彼の10個大隊が居て、彼らの動きを警戒しなければならなかった。6年前にリーランド帝国に向き合っていた獣人帝国軍が北上してジュデオン王国を攻め、王都ジュデオンが1日で陥落したのは苦い記憶である。

 破壊者オズバルド以外にもリーランド帝国との睨み合いがあり、それ以前には西側の加盟国が今より少なく、さらに前はアスキス攻防戦での戦力疲弊があり、その前はインサフ帝国防衛戦で戦力を減らされていた。

 ようするに北部連合は、これほどの戦力を揃えられる状況はかつて一度も無かったのだ。

 リーランド帝国の脅威によって拡大した北部連合の戦力がいつまでも帝国と全面衝突せずに溜まり続け、その間にベイル王国がリーランド帝国とオズバルド軍団を叩き潰したからこそ動かせる大戦力である。


 2点目。ベイル王国を引き込む事は、決して無駄では無いと言う事だ。

 北部連合がベイル王国の力を借りる案に成功していたならば、獣人帝国に対する絶大な戦力になるのは無論、飛行艦という新技術も手に入っていたはずだ。

 それにどれほどの価値があるのか、政治的な権謀術数にしか目を向けない王弟アスモには理解できないらしい。


 と言っても相手は人口規模で上回る隣国の王弟である。

 クレランド大騎士団長は無礼にならない程度には言葉を取り繕った。


「リーランド帝国を下したベイル王国の力は侮れません。いずれ機会があれば、その軍勢を用いてみたいものです」

「卿はやはり軍人よ。我ならこの北部連合と、南のベイル王国とで、邪魔なリーランド帝国を潰して等分する事を考えるが」

「ほう……とても壮大な構想ですな」


 確かにリーランド帝国から旧属国までの宝珠都市を全て足せば780万人規模もあり、北部連合の955万人規模やベイル・ディボー同盟の835万人規模と比べても遜色ない広大な領土だ。これを分配できればさぞ美味しかろう。

 もしも2大勢力がリーランド帝国を等分し、北部連合側が加盟8国で割ったとしても、割り当ては1国につき50万人規模近くとなる。

 とりわけ人口75万人のモルターリ王国や、人口70万人のベルトラン王国のように国力の小さい王国にとっては劇的な増加となる。


 だが、口で言うだけなら誰でも出来る。

 最大の機会は、ベイル王国がリーランド皇帝アレクシスを殺した時であった。

 あの時にベイル王国がリーランド帝国の存続を許さずに広大な領土に食らい掛かっていたならば、リーランド帝国と戦争中であった北部連合8国もそれぞれ南下して、ベイル王国よりも広い範囲の都市を収穫していただろう。

 しかしその後は、大祝福3の魔導師がベイル王国にいると知らなかった北部連合が一歩も引かず、ベイル王国の怒りを買って痛い目を見ていた可能性が高い。

 ベイル王国を出し抜くのは、容易ではない。


「もし等分出来たとしても、ベイル王国の力は一層膨れ上がるのではありませんかな?」


 ベイル王国の人口規模は現在560万人。

 リーランド帝国の分割によってベイル・ディボー同盟も北部連合と同じ390万人規模の神宝珠を得たならば、あちらは2で割るので割り当ては1国に付き195万人規模だ。

 下手をすると今度はベイル王国が『第二のリーランド帝国』になってしまう。


「なに、ベイル王国には次の継承権者である王女と王子が1人ずついるだろう?」

「アリシア王女とフィリベルト王子ですな」

「例えば、アリシア王女と北部連合に属する王族の誰かが婚姻関係を結ぶ。その後フィリベルト王子が死ねば、さてどうなるかな?」


 暗殺を平然と口にしたアスモに対し、クレランド大騎士団長は白旗を揚げた。

 アスモの甥である王子たちが未だに健在なのは、どのような状況で死のうと真犯人が明らかだからだろう。あるいは解毒の腕が良い治癒師の何人かは、モルターリ宮廷付きで召し抱えられているに違いない。

 クレランドは毒気を紛らわそうと前方の旧王都アスキスを眺めた。

 太陽を背にした雷神が怒りの咆吼を轟かせたのは、ちょうどその時であった。






 Ep10-08






 蹂躙の鐘の音は、太陽を背に急降下したドメニカ大隊長が轟かせた。


『ライトニングスコール』『ライトニングスコール』


 彼女が両脇に生み出した黄色いマナの塊は、世界へ具現すると同時に二条の眩い光となり、直下の大街道へと投げ落とされた。

 その雷槍は瞬く間に数十の矢へ、数百の雨へと分裂し、周囲へ稲妻を溢れ出しながら北部連合軍の一画へ降り注いでいった。

 視界を焼き尽くす巨大な雷光と、鼓膜を掻き鳴らし続ける凄まじい轟音の嵐。

 大祝福2の大隊長が生み出したマナの洪水は、愚かにもひれ伏さなかった幾百の人馬を炭化しながら、瞬く間に世界を駆け抜けていく。


 その間に低空まで駆け下りたドメニカから放たれた新たなマナは、ひれ伏す人馬の真横で具現化した。


『ライトニングスコール』『ライトニングスコール』


 落雷ならば天から地へと降り注がれ、大地に伏せれば身を守る事が出来る。

 だが真横に生まれて水平に駆け抜ける雷から身を守るには、一体どうしたら良いのだろうか。

 再び出現した数百の雨が水平に吹き荒れ、絶叫と嘶きを薙ぎ払いながら周囲を焼き尽くしていく。


『ライトニングスコール』『ライトニングスコール』

『ライトニングスコール』『ライトニングスコール』


 ドメニカは軍勢の上空をヒッポグリフで駆け抜けながら、周囲に次々と雷雨を放っていった。

 そんな荒れ狂う雷嵐は、自らが薙ぎ払った道をやがて通り抜けていった。


 周囲で奇跡的に生き延びた僅かな騎士達が頭を上げようとした時、不意に空が陰り、新たに二陣の強風が吹き抜けた。

 周囲の騎士達は巻き上がる砂塵に慌てて瞼を閉じ、口元を袖で覆う。

 風が収まって目を開けた彼らの視線の先には、2人の獣人が大地に立っていた。


「物理無効化が消えてしまいました。多少強引だったでしょうか?」

「どうせすぐに消える」


 美丈夫の水馬から凛とした音色が紡がれると、獲物を見渡すブチハイエナから言外の催促が返された。


「それもそうですね。では始めましょうか」


 水馬が炭化した一人の騎士を足で引っかけるのと、周囲の兵士達が警告を発するのとでは、一体どちらが早かっただろうか。

 兵士達の警告は、イジャルガが騎士を前方に蹴り飛ばしながら駆け出し、蹴り飛ばした騎士を真下で追い抜いた瞬間から悲鳴に変わった。


「応戦しろおおっ!」


 水馬が駆ける大地に爆風が生まれた。

 その爆風は両手にヤタガンと言う曲刀を2本伸ばし、攻撃圏内の敵を次々と斬り裂きながら北部連合の本営へ向かって爆走を始めた。

 2本の曲刀に薙がれた者は、それが大祝福を得た騎士であろうと、祝福を得ていない兵士であろうと、分け隔て無く身体を斬り落とされていく。


 それは騎士を切り裂いて血を巻き上げる風刃であり、馬車をすり抜けて薙ぎ払う突風であった。

 イジャルガは軍勢という雑草の生い茂る草原を堂々と駆け抜けながら、やがてこの下らない単純作業に疑問を感じ始めた。


(分かりませんね。本当に分かりません)


 蒐集のイジャルガにとって、人間の生態でどうしても理解できない事が1つある。

 それは「強い者や強い血統ではなく、高貴という意味不明な理由で群れのリーダーを選ぶ事」だ。

 強い者をリーダーに選ぶのは単純明快で、フェンリルのような絶対種を選ぶのも理解できる。

 だが実力も才能も保証しない『高貴』のどこに、群れを率いさせるに値する価値があるというのだろうか。

 人間が自らのリーダーを選ぶ基準の根拠が分からない。

 嫡子を継承権一位とする根拠は何か。

 親とて次男を育てる方が多くの経験を積んでおり、長男よりも上手く育てられるのではないか。

 高貴とやらで無能者を立てる事により生じる害を、人間はどうして許容できるのだろうか。


 この話が理解できないのであれば、インサフ帝国の最後の皇帝ジェラルド・インサフがどうやって自国を滅ぼしたのか思い出してみると良い。

 愚かにもインサフ帝国の帝位継承権者同士で足を引っ張り合わせ、帝国防衛に用いるべき重要な権限と戦力を子供達に分散させ、帝都陥落の折には帝位の後継者も定めぬままに果てている。

 滅びるにしても、滅び方というものがあろう。

 ひたすら悪い方向へと突き進んでいったインサフ帝国は、考え得る限り最低の滅び方だ。


 そんなインサフ帝国最後の愚帝は、まさしく血筋で選ばれた。

 皇帝を血筋で選んだ末路が国家の滅亡と民衆の破滅であったのだから、血統による身分制自体が間違っている事は人類社会で実証されているだろう。

 それにも拘わらず、どうして人類は未だに愚かな指導者を高貴な血筋とやらで選ぶのか。


(今も選んでいますよね?)


 目の前の北部連合軍を指揮する愚か者は、飛行艦も大祝福3のオリビアも連れず、貴重な防衛戦力をイジャルガら軍団長の前に差し出した。

 イジャルガは愚かな指導者を殺したいのではなく、大祝福2を殺すために司令部を攻めている。

 指導者の所に行けば大騎士団長たちが彼らを守っていて、その大騎士団長たちを殲滅すれば、この戦場においてイジャルガやグレゴールを倒せる者が居なくなる。

 そうなれば膨大な数の騎士たちを狩り尽くし、北部連合に回復不可能な大損害を与える事が出来る。

 失われるのは、昨年ベイル王国軍が失った騎士の4倍。

 そして一都市の総人口にも匹敵するほどの兵士数万人。

 それをわざわざ為しやすい状況を作ってくれる人間という愚かな種族が、イジャルガにはどうしても理解できなかった。


(オリビアは居ないのか)


 グレゴールは駆け抜けるイジャルガの後を追いながら、人類側の大祝福3であるオリビアがこの集団に紛れ込んでいるという僅かな危険性に最大の警戒を行っていた。

 飛行艦が飛んで来なかったからと言って、ここにオリビアが居ない保証はどこにも無い。

 大祝福3のオリビアに魔法を掛けられれば、グレゴールやイジャルガら軍団長とて枷を掛けられ、そこで大騎士団長達と連携されれば昨年のオズバルド軍団長のように殺される可能性もある。

 だから両軍団長は魔法抵抗の緑輝石を最大数の3つずつ装備し、軍団長二人で同時に行動しているのだ。


(…………杞憂なのか)


 グレゴールが最大の警戒をしていたオリビアの魔法はどこからも飛んで来ず、両軍団長はそのまま北部連合の本営へと辿り着いた。


「我が軍の背後に飛行騎兵13、獣人の増援があちらにも!」

「それよりも目の前の軍団長です。治癒師たちは連携して大騎士団長へ無効化スキルを掛け続けなさい。魔導師は火力を集中して足止めを。大騎士団長は……」

『三連撃』


 グレゴールの右手から伸びたカスターネが物理無効化スキルを打ち破り、そのままマルタン王国のジョエル・ボドワン大騎士団長の胸部深くに突き刺さった。

 グレゴールは前のめりになるボドワンの髪を空いている左手で掴み、右手のカスターネを引き抜いて彼の首を斬り落とす。


 一方イジャルガはベルトラン王国のレスター・クレランド大騎士団長を追いかけ、まず彼の両腕を二本のヤタガンで斬り落とした。


「遅いですね」


 次いで絶望の表情を浮かべるクレランドの胸部を踏み付け、つま先で押しながら地面に縫い止める。


「弱いですね」


 クレランドの頭部は地面に接触する前にイジャルガに踏まれ、加速しながら叩き付けられた。

 イジャルガはそこで何度か足踏みをする。すると足の裏でクレランドの前歯、鼻骨、上顎骨、下顎骨が次々と折れていき、程なく前頭骨が踏み抜かれてイジャルガにズブリと脳を直接踏み付けた感触が伝わってきた。

 水馬は大騎士団長の脳をグリグリとつま先で擂り潰しながら、意外そうな声を上げる。


「あまりに無策で来られたので、てっきり脳が空っぽなのかと思いました。もっとも、今の貴方は脳が空っぽのようですが」


 イジャルガは頭の上半分を失ったクレランド大騎士団長への関心を失うと、2本の曲刀を振り抜きながら、たまたま目が合ったアスモ・モルターリに問い掛けた。


「大祝福2と大祝福3の違いが何か、そこの貴方には分かりますか?」

「…………さて、大祝福を一つ分だけ多く越えたか否かではないのか」


 アスモは血の気を失った白い顔のまま、水馬の問い掛けに答えた。

 水馬から逃げた末路は、既にクレランド大騎士団長がその身で示している。今のアスモが唯一取り得る手段は、時間稼ぎのみだ。

 果たして水馬は、すました表情のまま首を横に振ってアスモの答えを否定した。


「大祝福3は、魂の枷から解放されるのです」

「どういう意味だ?」

「あらゆる存在を突き崩す力。何者も通さない鉄壁の守り。何人も追いつけぬ速さ。ゴーレムの創造。魔獣の召喚。彼方への転移。これまで囚われていた世界の何と小さく、目の前に広がる可能性の何と大きな事か。大祝福3を得た我々は、大祝福2から隔絶した存在となりました」


 そう説明したイジャルガはアスモに対して実例を示すかのように、足下に転がる大祝福2だったクレランド大騎士団長の死体を軽く蹴り飛ばしてみせる。

 アスモは先程まで会話を交わしていた死体を無表情に眺めながら、水馬に反論した。


「隔絶した存在と言う割には、随分と軍団長が戦死しているようだが?」

「ガスパール軍団長やグウィード軍団長は、部下を捨て置けず自ら枷を嵌めました。その後は人類側にも大祝福3が居たようです。ところで貴方たちは、今回枷を嵌められず、大祝福3も連れて来ていないようですね?」

「………………」

「残念ですが、あなたには反省点を活かす機会がありません」


 そう締め括ったイジャルガは横薙ぎの一線を放ち、目前の愚者を斬り捨てた。

 アスモが時間稼ぎをしたからと言って結果が変わるはずも無い。

 大祝福2を十数人集めて治癒師に無効化スキルを掛けさせても、大祝福3の複数に連携されれば勝てない。

 それはジュデオン王国の王都で、皇女ベリンダと首狩りのイルヴァが証明済みだ。

 しかし北部連合は、この戦いにおいて何の策も持って来なかった。


「これまでに反省の機会があったはずです。ですから理解できません。なぜ人類はこのように無能なリーダーを甘受するのか。地上が豊かすぎるからでしょうか?」

「イジャルガ軍団長、少しは手を動かせ」

「オリビアが居ないかどうかを、念のため北部連合の指導者に問い質していたのですよ。どうやら本当に居なさそうですね」

「軍団が来る前に大騎士団長を倒し尽くす」

「ええ、そうしましょう」


 彼らが駐留している都市アスキスからは、優秀なリーダーたちの成功を確認した10個大隊が続々と穴倉から飛び出していた。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 人類側のアスキス侵攻は、獣人帝国にとって事前に予想されていた事だった。


 ベイル王国による飛行艦の実戦投入と、大祝福3の魔導師の力の併用は、恐るべき戦果を上げた。

 皇女ベリンダ率いる5個軍団の敗北。リーランド方面に展開していたオズバルド軍団長の戦死と彼の10個大隊の壊滅。そして獣人帝国全軍を支えていた深謀のイグナシオの戦死。これらが立て続いた昨年は獣人帝国側が対処不能に陥り、多くの都市が奪還された。

 ……これで済んだとは思っていない。

 人類側が攻めを選ぶならば、北部連合への侵略拠点である都市アスキス。

 守りを選ぶならば、ベイル王国側への最前線となる都市アズラシア。

 いずれにせよどちらかが襲われるであろう事は分かっていた。


 だがそれが分かっていながらも、獣人側は対抗出来なかった。

 飛行艦で迫ってくる大祝福3の魔導師はMPが尽きるまで空から一方的に魔法を放つ事が出来るが、獣人側は武器も魔法も相手に届かない。

 だからアスキスとアズラシアに軍団長を置き、その他の領土は敵の侵攻に合わせて後退するという戦線縮小の方針を採っていた。

 その間に皇女ベリンダが地下に使いを出して、悪魔ゲロルトの協力を得る。それが駄目でも一時的に守りに入って軍団長を増やせばいずれ逆転できる。地上本土側ではそのように考えた。

 そして地下本国から飛竜と鷲馬が到着し、不利な状況にようやく終止符が打たれたと思ったところで北部連合の愚行である。


 今や獣人帝国軍は、人類のあらゆる都市へ自在に軍団長と大隊長を送り込める。

 例えばベイル王国の王都ベレオンへ全軍団長と全大隊長を同時に送り込む事も可能だ。

 そうすれば例えオリビアが居ても、王都ベレオンを壊滅させて帝国に舞い戻る事が出来る。

 あるいは飛行艦の前線基地へ破壊活動に行っても良い。エルヴェ要塞も簡単に落とせる。逆に攻め込まれても飛行艦と空戦が出来る。


 今回は空の有利を活かして軍団長二人で敵の本営に急襲を行い、補佐と大隊長の計13人で連合軍の後背を襲い、2つの集団がそれぞれ大騎士団長達を倒しながらアスキスから出撃させた10個大隊と合流して最終的に敵を全滅させるという戦術を採った。

 侵攻軍を全滅させれば、押され気味であった戦線を立て直す事や、対ベイル王国戦で崩れた人獣の損害比を縮める事や、現状の継続困難な徴兵に一息付ける事が一気に叶う。

 そしてその先には、あらゆる手段を採る余地がある。


「…………グレゴール軍団長」


 水馬はロレンシオ・アスキスとか言う青年を踏み潰しながら、同僚のブチハイエナに呼びかけた。

 どうやら彼が名目上の最高司令官だったらしいが、それを守れそうな大騎士団長は周囲に一人も残っていない。

 皆殺しのグレゴールが、その名の通り大騎士団長を皆殺しにしてしまった。


「何だ?」


 一応イジャルガも3人だったか4人だったか殺したが、あまりに楽過ぎて大祝福1を斬っているのと判別が付かなくなった。

 イジャルガが右から迫れば、グレゴールが反対の左側から同時に迫った。

 大騎士団長一人を相手に、軍団長が二人で同時に襲い掛かるという作業を数回繰り返す。そう、これは戦いと呼ぶのもおこがましい作業だ。

 大祝福3と獣人補正を併せ持つ軍団長の速度に大騎士団長ごときが付いてこれるはずも無く、連携を乱した獲物から順に襲っていくのは実に容易かった。

 だからイジャルガはあまりに楽で、戦闘中に戦闘以外の事ばかり考えていた。


「提案があります。軍を失った北部連合の神宝珠を空から大量に回収して、我々の廃墟都市に置いて人類に祈らせてみるのはどうでしょう。人間の模倣ですが、倣うべき点は素直に倣っても良いかと」


  挿絵(By みてみん)


「ここにいる北部連合軍を全滅させたら話を聞いてやる」

「壊滅では無く全滅ですか。逃げていく者たちを追いかける必要がありますが、よく考えれば目的地への道順通りでしたね」

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