エピローグ 支配者の領域★
イグナシオの後ろ首に突き立てられたダガーに塗られていたのは、大祝福2台の魔物の猛毒だった。
イグナシオが生きている限り、彼の体内にある大祝福3台の魔導師の加護が大祝福2台の猛毒を防ぎ続ける。加護は毒に対する耐性力に近く、毒を上回る耐性力がある限り毒では死なない。
だが生物は、死ねば加護が失われてしまう。
後ろ首に突き立てられたダガーによって普通に死ねば、死んだ瞬間から身体の加護が徐々に失われ、同時に毒に対する耐性力も失われてしまう。
すると猛毒によって身体を壊され、やがて蘇生不可能な状態へと至る。
ハインツが使った毒は、用途から鑑みれば『蘇生不能毒』に分類できるかもしれない。地位が高くてすぐに蘇生されてしまう相手を暗殺するには、最適な毒だった。
咄嗟に大理石の白き居城へと転移したイグナシオは、ゆっくりと迫ってくる自室の床を視界に収めた。
(この床に触れれば……死は避けられぬ……)
それを悟ったイグナシオは、瞬時に助かるための算段を立ててみた。
倒れる前に残ったマナでファイヤースコールを撃ち、自室のドアを破壊して城内の者を呼び集め、死体となった自身に治癒と解毒と蘇生を施させる。
そして大型伝令鳥で2日を掛けて前線の皇女ベリンダへ伝令を飛ばし、治癒師祈祷系で祝福72の冒涜のリベリオを早馬で呼び寄せる。
その間に自分の死体は東エルフの森を通って西のダーキンスへ運ばせ、死から4日後にはリベリオに蘇生を掛けさせる。
死体は氷で凍らせておく。そちらには大祝福2の魔導師攻撃系が必要であるが、強い青の輝石を砕いて溶かせば代用する事も出来る。
(無駄か……)
イグナシオの指示無しにそこまで判断できる者は、現在インサフ城に居ない。
銀狐のエリーカが在職であればどうとでもなった。あの女狐は本当にイグナシオの後任になり得る逸材であったのだ。
だがその銀狐は、南部地域の管理を任されて帝都を去っている。
(指輪…………)
イグナシオとオズバルドが所持していた転姿停止の指輪は、懐と左指に合わせて2つある。
ここがインサフ城である以上、間違いなく皇女の手元に返るだろう。
イグナシオは、インサフ湖を初めて見た時の衝撃と感動を忘れはしない。
水平線と空の境界が重なり合い、天空に浮かび上がる白い雲と、その雲の合間から差し込む太陽の光の柱。その光に照らされて輝く美しきインサフ湖。
死ぬ時はインサフでと決めていた。
どうして咄嗟に皇女が居る可能性が高いアズラシアではなくインサフへ飛んだのか、イグナシオは自らの行動の理由が不意に知れた。
音を立てて床に崩れ落ちたイグナシオは、最期の意識を手放す前に彼が真に仕える皇帝の事を思い浮かべた。
気高くも美しき大祝福4のフェンリル。そしてその傍らに控えるのは、地上軍団長の誰よりも強い惨殺者アミルカーレと悪魔ゲロルトの二人。
地上の全てよりも地下の方が強い。だから後顧の憂いなど無い。
イグナシオとオズバルドの指輪とて、いつの日か次の軍団長に下賜されるだろう。であればイグナシオ程度など、代替の効く雑用係でしか無い。
(皇帝陛下が……在られる……限り…………)
イグナシオは満足そうに自らの死を迎え入れた。
ep09-13
そもそもハインツがオズバルド軍団長らを襲ったのは、獣人帝国軍が上位パーティを作ってベイル王国に攻めてくると困るからだ。
よって破壊者オズバルド個人を殺したいと言う訳ではなかったので、各個撃破の対象が深謀のイグナシオに代わっても一向に構わなかった。
むしろ獣人帝国からイグナシオを奪えるのであれば、その効果は計り知れない。
なぜなら深謀のイグナシオは、帝国においては知能で『政治政策の根幹』を支え、軍においては転移で『高速通信と、柔軟な命令変更』を実現させ、同時にクロスアストラルウォールという『最終兵器』も所持していた。
ベイル王国で例えれば、ハインツとオリビアを同時に奪うようなものである。
(…………結果としては大成功だったな)
イグナシオが普段組まない同格者であるオズバルドの軍団に突然加わっても、イグナシオ自身の軍団ほどに上手く連携出来るはずが無い。
イグナシオ自身は容易に連携出来るかも知れないが、オズバルドの部下である大祝福1以下の者達にすれば護衛をするにしてもどこまで踏み込んで良いのか分からず遠慮が生じるし、イグナシオがファイヤースコールなどで加勢を行う際には指揮系統も混乱する。かといって大隊長以上の優秀な者は、最前線でメルネスらと相対している。
ハインツはその僅かな連携の隙間を見逃さなかった。
クロスアストラルウォールを2回撃った後のイグナシオは、中途半端な色気など出さずにオズバルドを見捨てて戦場からさっさと逃げ出すべきであったのだ。
ハインツは一か八かの賭けに勝った。
『但し、犠牲は大きかったね』
『それは深謀のイグナシオを殺すために、指揮官であった彼と、まだ転移分のMPを残していたオリビアが同時に戦場を離れざるを得なくなった事で生じた犠牲かしら』
「…………うぐっ」
ハインツの言葉を切っ掛けに、セレスティアとエリザ・バリエが議論を始めた。
『そうだよ。オリビアが石化で大隊長を3人くらい先に固めて、残ったMPでファイヤーを10個くらい獣人軍団に撃って、ハインツも艦隊の指揮をしていたら……』
『大祝福2の数名と、騎士100名と、飛行艦の数隻は助かったでしょうね。でも、その程度の犠牲でイグナシオを倒せたのだから、わたしは差し引きで大きなプラスだと思うけれど?』
『大祝福2の数名って大きいよ。もしかすると将来大祝福3に成れたかもしれないのに』
『セレス。あなた、戦場で置き去りにされて寂しかったとか言わないわよね?』
『…………なんでっ!?』
『だってあな『わーっ、わあーっ!』
ハインツは頭痛が痛いと思った。
そう、これは「頭が痛い」のでは無くて「頭痛が痛い」と言うべきだろう。何しろ神宝珠たちが二重音を奏でているのだから。
あるいは目眩が眩むとか、耳鳴りが鳴るとか言っても良いかも知れない。
しかも彼女たちにとって、これは口論では無く単なるコミュニケーションの一環である。
ハインツは『祈りを介した神々の神聖な意思疎通』とやらを意識の外へ追いやり、大きく外れていった本題は一体何であったのかを思い浮かべた。
「はぁ…………イグナシオを殺した所からか」
イグナシオを殺す必然性については今更である。
それを為したハインツはオリビアと共にエルヴェ要塞へ転移して、都市ブレッヒも経由しながら大規模な飛行輸送艦隊と地上部隊を編成して都市ラカイトスへと向かった。ハインツが転移した時点で艦隊の1/3が地上へ落とされており、それらの修理や回収が必要だと考えての事だ。
ちなみにオリビアはラカイトスに一度も足を踏み入れていないので転移は出来ない。
そして現地へ戻ると、ハインツの想像を遙かに超える被害が出ていた。
「確かに犠牲は大きかった」
『蘇生出来たのはケルナーとバハモンテの2人だけだから、結局大祝福2は死亡10人かな』
『大治癒師が生きていたら、生存者は何人か増えたかもしれないわね』
取り留めの無い話をバッサリと切り捨てた二人が、ハインツに話題を合わせてきた。
大祝福2の犠牲は10人だ。
祝福の高い順にクラウス・バスラー団長、ブランケンハイム大治癒師、フランセスク・エイヴァン、ロランド・ハクンディ、ロータス・ボレル。ここまでの5人は祝福70以上で、将来は大祝福3も目指せていた。
そして紅塵のグラシス・バルリング、同じくカサリン・アーネット、バルフォア大騎士団長、カーライル大騎士団長、エクトル大騎士団長。祝福60台の5人を失ったことも大きな痛手だ。魔導師特殊系で祝福64だったアーネットはオリビアに次ぐ魔導師であったし、バルフォア中将は全軍の副将にと考えていた逸材であった。
もしも彼らが生き延びて将来大祝福3になれていたならば、ハインツの治癒スキルと併せて大祝福4だという獣人皇帝イェルハイドと正面から戦うことすら出来たかも知れない。
ハインツの計画は大きすぎた犠牲によって様々に狂った。
ただし悪いことだけが起きたわけではない。いや、ハインツが彼らを蘇生するという退路を断たれたという意味では悪いのだろうか。
ハインツが今回最も想定していなかったのは、セレスティアに発生した出来事である。
『でも、あれはわたしも予想外だったかな』
『不作為って怖いわね』
大会戦で数百名の大祝福1を越える騎士たちが戦死したのだが、実はそれによって多くの従神・神獣が誕生した。
それは、これまでのハインツの方針が原因だ。
ベイル王国新騎士団には、かねてより祝福上げと飛行艦の材料集めのために転生竜退治を組織的に行わせてきた。
またリーランド帝国を撃退させて人類間戦争を終わらせ、次いで人類を救う作戦に従事させたために個々のカルマも相当高まっていた。
まるでお膳立てをしたかのように、彼らには転生条件の『大祝福1以上』と『転生竜退治』と『カルマ』の全てが揃っていた。
「人類同士の戦争なら、侵略した側の騎士が従魔になって、従神となった防衛側の騎士たちと潰し合いをするから、神魔発生のバランスが取れるんだったか?」
『そうだよ』
リーランド帝国が攻めてきた都市アーリラの会戦では、戦後にアーリラ周辺で複数の従魔が発生した。その一方で戦死者の少なかったベイル王国側からは従神の発生が少なく、神魔の発生はかなりアンバランスな結果になっていた。
付け加えるなら従神・従魔にまでは至らない神獣・魔獣も発生していたが、そちらは力のある野生の獣と変わらないので、戦争で魔物が増えたと言う認識程度である。
だが魔族が偏って増えるのは例外的な出来事らしい。
従来の戦いではベイル王国側にも多くの犠牲が出ていたはずで、セレスティアの言うようにバランスが取れていたはずだそうだ。
『でも人獣戦争では戦死した獣人は魔族化しないから、都市ラカイトス周辺に従神だけが溢れてしまうのも道理ね』
「……むう」
本来従神たちは、近くに魔族や魔獣が居なければ転生竜へと至るか、あるいは最も近い都市ラカイトスの神宝珠に魂を重ねるはずであった。
獣人帝国が支配した地域で神宝珠が思った以上に保てていたり、支配地の人類冒険者が転生竜を倒していないのに転生竜がそこそこ居るのはそれが原因だったりもする。
そして今回は、ブランケンハイム大治癒師を筆頭に、大祝福2のエクトル大騎士団長、グラシス・バルリング、カサリン・アーネット、数十人の騎士たちが一斉に従神となった。
その結果として第一宝珠格ラカイトスは、溜め込める金のマナの限界値を即座に飽和してしまった。
そのため主神に魂を委ねる事を選択した従神たちの大多数は、ハインツが戦場へ置き去りにしていった最も近い神宝珠セレスティアの方へと一斉に力を注ぎ込み始めたのだ。
その結果として……。
『第七宝珠格に回復しちゃったよ』
以前セレスティアを第六宝珠から第七宝珠に戻すには、ハインツが数十年間祈らなければならないと聞いた気がする。
セレスティアは「数十年なんてすぐ」だと主張していたが、ハインツは娘のアリシアや息子のフィルが中年になる姿を想像できずにフリーズした。
これがどれほど異常な事であるのか、ハインツにはよく分からない。
但し千瞳のドリス曰く、第六宝珠と第七宝珠とのカルマ差は、冒険者で言うところの祝福80台と90台の経験値差くらいにあるらしい。
ようするに2倍。セレスティアが保っていたエネルギーの総量が2倍に増えたと考えるべきか、だが第七宝珠になると発せられる加護が増えて人口規模だって増える。周辺国では、唯一旧インサフ帝国の帝都だけが第七宝珠だ。
『素直に羨ましいわ。ハインツ、次は私にお願いね』
「…………」
ハインツは、エリザの人類とは異なるアーシア人らしい伝え方を聞き流した。もちろん彼女には悪意など無い。
なおエリザ・バリエは、彼女が持つ理由のためにハインツがセレスティアへ提案した力の回復に乗った。
そんなブランケンハイムらの従神化だけでは無く、主神化もあった。
主神となったのはフォレス・バルフォア大騎士団長とキース・カーライル大騎士団長。紅塵のクラウス・バスラー団長とロータス・ボレル副団長。それにフランセスク・エイヴァンとロランド・ハクンディの合計6名である。
大騎士団長の2人には、従神を大量発生させるような活動をしてきたベイル王国軍を改革期から背負わせて来た。残る4人には、ディボー王国の人工魔族創造に対抗する時以降ずっと頼ってきた。主神が生まれるに足る条件は充分に揃っていたのだろう。
ハインツが魂から蘇生出来ると言っても、神に転生されてしまえば死者ではなくなるので蘇生しようがない。
結局ハインツは、都市を創ろうという意思を示した元大騎士団長の2神とボレル副団長には都市を創ってくれると有り難い土地を伝えて、彼らの家族は爵位貴族に叙すことを約束した。
残るバスラー、エイヴァン、ハクンディの3神については、そのまま大神セレスティアへ引き合わせた。それは無論魔族アルミラを考えての事だが、ハインツはその後の神々の判断までには関与していない。
結果がどうなったのかは、まさに神のみぞ知る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
都市ラカイトスからの転移後に生じた事態を全て確認し終えたハインツは、大まかな指示を出して事後処理をメルネス・アクス、ブルックス中将、ケルナー中将らに託すと、直ぐに次の行動を起こした。
飛行艦隊とペリュトンを用い当初予定していた神宝珠奪還作戦を再開したのだ。
『わたしを一人置き去りにして……』
「従神から力を貰ったり、主神化したバスラーたちを説得したりしていてセレスは動けなかっただろう」
『そうだけど、彼ら3神はハインツの知り合いだからせめて説得に立ち会ってくれても……』
クラウス・バスラー団長は問題の根幹を突く男で、ハインツの妻リーゼもバシッと指導されたことがある。
フランセスク・エイヴァンはオズバルド戦の直前、ハインツに対して宰相としての自覚を持って易々と最前線にでるなと言った容赦の無い男だ。
ロランド・ハクンディは戦闘で無敗のグウィードから武器を絡め取り、対価や報酬など万事に対して抜け目がない凄腕探索者だ。
『わたしたち、協力関係だよね?』
「…………こちらもやることがあったんだ」
ハインツの言っている事も嘘ではない。
ハインツが周辺国の地図を俯瞰すると、獣人帝国から人類を守り切るためには割り振りを見直さなければならない都市が数多見受けられた。
破壊者オズバルドがメルネスに言った通り『実力に見合わない縄張りを持っていれば、強者に奪われるのもまた自然の摂理だ』という訳である。
そして戦後や将来の事を考えると、破壊者オズバルドが倒されたことを他国が知る前に急いで作戦を完遂させる必要があったのだ。
獣人帝国とジュデオン王国との間にあって一度滅ぼされ掛けたロマーノ王国に領土を返しても彼らは防衛ができないし、ベイル王国側から北部連合に戦線を維持する物資を陸路で送る際には国を立て直すための大きな通行税も掛けられてしまう。
それでは人獣戦争において人類側に急所が出来てしまうとハインツは考えた。
「アルミラ対策と獣人対策を同時進行するのが最効率だろう?」
『ハインツはセレスよりもわたしとの相性が良いかも知れないわね』
『そんなことないよっ』
『そうかしら?』
ハインツは獣人帝国対策以外のことも計算していた。
ベイル王国と大国であるリーランド帝国との領土を直接繋げてしまうと、将来の禍根となりかねない。元属国であるデスデリー王国は多くの難民も抱えており、かの国に一部の都市を渡すと共に緩衝国としての役割も期待したかった。
但し獣人帝国と領土が接する都市キイーオンだけはデスデリー王国に任せず、ベイル王国自身が新領土として獲得して防衛を担う。ベイル王国にとっては単なる負担となるが、こちらに関してはやむを得ないと判断した。
これら全てのためには、ベイル王国が一旦全ての都市を手に入れて騎士を置き「ベイル王国が単独で獣人帝国から解放した領土」としてしまう事が必要だった。
そして計算外の国が先に来れば「ベイル王国の領土への侵略だ」と主張して叩き出し、「ベイル王国の領土」を与えたい国に割譲する形で戦後の割り振りを思うままに行う。
ハインツは直ぐにそこまでをやっておきたかった。
『かなり無理をしたよね』
『でも効果的だったわ』
やることは山積していた。
ハインツは各都市の奪還後、マルタン王国周辺の獣人帝国緩衝地を次々と襲撃。
マルタン王国側では神宝珠の回収を一切行わず、ハゲの治癒師だけを得ながら各地で獣人軍を押し返していった。
そして北部連合に獣人を追い返した都市を次々と報告して連合軍を各地へ進駐させ、彼らの関心をそちらに向けながらオズバルドから奪い返した都市を早々に割り振ってしまった。
全てが机上の計画通りに動いたわけでは無い。
北部連合は勝手に安全を確保していない獣人の支配地にまで進撃を続け、その一方でどうやらイグナシオの指示を得られなくなったらしき獣人達の各地での抵抗も激しくなり、予想外の都市に人類が居たり、獣人側の逆侵攻があったりと様々なイレギュラーが発生した。
ハインツは筋書き通りに行かないそれらを現地でその都度修正し、あるいはなし崩しの戦争になる事を避ける為に彼らの一部を見捨てる判断も行った。
「………………」
外交のみならず内政においても、やるべき事は多岐に渡り、しかもそれが同時多発的に発生し続けた。
騎士団や飛行艦隊の再建と再編、戦死者家族への生活保証、論功行賞、協力してくれる神宝珠としてくれない神宝珠の確認、新たな神宝珠の配置に伴う政治・内政的な調整、新規移民たちへの生活保障と従来の都市民との利害調整。
旧3属国やリーランド側からの移民受け入れ、引き替えの政策支援、リーランド帝国を予定通りに進駐させる事によって生じる北部連合やロマーノ王国との政治交渉、新交易路を軌道に乗せるための政治・経済的支援と一定程度のベイル王国の利権獲得。
さらに最大の問題である獣人帝国に対する飛行艦での早期警戒と牽制、勝利に沸き立つ主戦論者たちの押さえ込み。
列挙した全てと挙げられていない様々な動きの大半にハインツは関与し、対策組織を立ち上げ、担当者を割り振り、改法や行政改革・旧制度の解釈変更を行い、それで対処が出来ないケースは自らがあらゆる手札を使って直接処理した。
ハインツは、今この瞬間こそが人類存亡の正念場である事を理解していた。
そして人類のために命を費やした数多の犠牲に報いるには、こうするしかないのだと言うことも。
ハインツは自らに課した役割を黙々と果たし続けた。
そして年が暮れようとしている今、ようやくハインツの仕事に目処が付いた。
★周辺国地図
バダンテール歴1265年。
この年にベイル王国が飛行艦隊を用いて行った広域での大攻勢は、後世『天鎚戦争』と呼ばれる事になる。
まるで天から鎚を振るうが如く正確無比に展開されていった軍事作戦は、獣人帝国の根幹を強かに打ち据え、彼らを遠く東の地へと叩き飛ばした。
これによって30年続いた人獣の一方的な力関係は、ついに均衡の時を迎えた。




























