第10話 異質者の提唱★
バダンテール歴1265年7月14日。
ベイル王国飛行艦隊による2度の空襲と大祝福3の広範囲魔法を受けた獣人帝国軍は、ジュデオン王国侵攻時を上回る大損害を被った。
直属軍団4000名中、死者124名(内冒険者7名)
第二軍団4000名中、死者3243名(内冒険者492名)
第四軍団4000名中、死者4000名(内冒険者600名)
第七軍団4000名中、死者52名(内冒険者3名)
第八軍団4000名中、死者72名(内冒険者5名)
飛行獣人84名中、死者63名(内冒険者63名)
輸送軍団21053名中、死者7054名(内冒険者83名)
今回の損害は『総死者数14608名。冒険者の死者1253名』であり、5年前の戦での『総死者数5141名、冒険者の死者850名』を既に大きく越えている。
上級指揮官の戦死者がアギレラ軍団長一人に留まった事にはまだ救いがあっただろうか。王都ジュデオン戦では軍団長2名と大祝福2台が8名も死んでいる。
だがアギレラは、探索者戦闘系でただ一人の大祝福3台である。
ようやく紅闇のラビの損害を乗り越えた矢先であった獣人帝国軍は、戦術の幅を再び大きく狭めてしまった。
それに対してベイル王国軍の死者は、強襲降陸艦ヘルミと補給基地セイクレンでの損害を合わせても祝福を得た者64名、兵士192名のみである。
これは祝福を得た者3173名と兵士2587名の死者を出した当時の戦いに比べて、わずか20分の1以下の損害であった。
Ep09-10
甚大な被害を受けた獣人帝国軍であったが、負傷者の救出などは一切行われなかった。
クロスアストラルウォールを受けた大祝福1以下の全員が死んだために、負傷者自体が居なかったからだ。
自ずと集った軍団長達を見渡した皇女ベリンダは、イルヴァ軍団長に指示を出した。
「意見が聞きたい。双子を呼べ」
「はっ」
ベリンダが言った双子とは、イルヴァの第八軍団に所属する2人の軍団長補佐の事である。
彼女らは『呪いのリーラ』と『死のレーラ』と呼ばれており、小柄かつ人形のように愛くるしい顔立ちであるが、青白い肌、黒いアイラインと口紅、黄色に近い金色の瞳、白銀の髪、そして常に喪服という一見してオカシイと分かる姿をしている。
ちなみに種族はマングースである。青白い肌に黒いアイラインと口紅、白銀毛で若干マングースっぽい特徴を持つ獣人を想像して欲しい。
呪いのリーラはボリュームのあるセミロング。死のレーラはショートボブ。双子なので髪の長さで見分けを付ける。
二人とも5年前のジュデオン王国侵攻時には魔導師特殊系の祝福72であったが、帝国が祝福上げに専念させた事によって今は80にまで上がっている。
やがてイルヴァに連れられてきた双子を交え、ベリンダと軍団長達の話が始まった。
「ベイル王国への対策を検討する。問題は飛行する船と、大祝福3の魔導師特殊系の2点である」
皇女が仕切り、軍団長は発言を許されるまで静かに待った。
事態は深刻だ。
交戦時、アギレラ軍団長を殺した探索者の男が転移で消え失せた。
常識的に考えれば一人の男が「探索者戦闘系の大祝福2台」と「魔導師特殊系の大祝福3」を併せ持っているなど有り得ない故に、飛行艦に乗っていた魔導師が全体系の転移を使えると考えるべきだろう。
フェンリルであるベリンダの肌には飛行する船から強大なマナが感じられたので、それはおそらく間違いない。
全体転移。
そのようなスキルは初めて見た。
獣人帝国では祝福92のイグナシオが魔導師特殊系の最高位であるので、一体どれほどまでに祝福を上げればそのスキルを行使できるようになるのか皆目見当もつかない。
なお獣人帝国で唯一イグナシオを超える魔導師の悪魔ゲロルトは祝福98の魔導師特殊系だが、特殊系の中でも自らが転移するのではなく呼び寄せる方の召喚と使役を行うサモナーであるので転移は使えない。特殊系にはそのような分岐があるらしい。
先ほどの戦いで行使されたクロスアストラルウォールの威力を見るに、敵の魔導師は大祝福3台の範疇で間違いなさそうだが、それが仮に祝福100だとしても到達するのは困難極まりない。
「私は敵が炎の油樽を落とした時、イグナシオに出立地を潰させた。だが、飛行する船に大祝福3の魔導師が乗って襲ってきた際の対処が容易に思いつかぬ」
祝福は80を超えると極端に上がり難くなる。
皇帝イェルハイドは天山洞窟内の瘴気の塊のようなアンデッド達を倒し続けて、ついに大祝福4へ達したと言う。だが長い年月の間に魂が壊れたアンデッドたちは皇帝に倒された後に蘇ることもなく、殆どが肉体を破壊された時に滅んでいる。
天山洞窟での祝福上げは、深部を探索して稼ぎ易いアンデッドに運良く行き当たるのでなければ、時間をかけて残滓のような雑魚を手当たり次第に蹴散らすしかない。
だがイグナシオは既に老齢だ。
『全体転移』があるからと言って祝福を上げさせようとしても、もはやイグナシオには祝福上げに費やす時間の方が無い。
ベリンダは支配した広大な地上世界において『転生竜』と言う資源を『直属軍団長補佐のみ』に独占させて祝福上げを行わせた。
これは弱い者1000人を平均的に引き上げるよりも、強い者1人を大祝福3に押し上げる方が遙かに効果的だという考え方からだ。支配地においては人類の祝福上げを治癒師祈祷系以外禁じているため、他の者も経験値の配分が不足しているわけでは無いが。
そのおかげで転生竜という資源と引き換えに、皆殺しのグレゴール、首狩りのイルヴァ、無双のヴァルター、蒐集のイジャルガ、無情のアギレラらの軍団長を誕生させる事が叶った。
だがこれらを放棄して一人に短期間で経験値を集中させていれば、イグナシオは全体転移を覚える事が叶っただろうか。
(ベイル王国は、大祝福3の魔導師一人に経験値を集中させたのか?)
しかし転移は『術者本人がその地へ直接行った事があり』、『その地を鮮明にイメージ出来る場所』でなければならない。
イグナシオが一度も行った事のないベイル王国の王城に転移できるわけではなく、かといって魔導師のイグナシオを本隊に先駆けて単独で先行させる訳にもいかない。
新たな軍団長たちの誕生と引き換えにしてまで転生竜をイグナシオ一人に倒させ続け、全体転移のスキルを覚えさせるメリットが果たしてあったのかと問われれば、それについてはベリンダも懐疑的である。
一方で人類は大祝福3台の戦士も探索者も持っておらず、全体転移が使えるからと言ってインサフ城に攻め込めるわけでもない。
ベリンダは、ベイル王国の採った方針が一長一短であると考えた。
であれば当面の問題は、大祝福3の魔導師と飛行する船との連携についてであろう。
「今後について、軍団長それぞれが各々の意見を述べよ。また双子らは魔導師特殊系の軍団長補佐である故、特に私が発言を許す」
軍団長らが頷いた。
最初に発言したのは、自身の第四軍団を潰された無双のヴァルターである。
「イグナシオ軍団長のマナが回復すれば、敵のスキルと相殺が出来ます。油樽の方はある程度の犠牲を許容し、その代わり早々に王都への進撃を果たすべきでしょう」
「うむ」
表情は怒り心頭という感じであったが、ベリンダはヴァルターの発言にも一理あると感じた。軍に多くの犠牲が出るが、攻め落とせば解決になる。
次に首狩りのイルヴァが発言した。
「一度足手まといの軍を下げ、高位冒険者の選抜パーティを作って攻め入れば良いのではないでしょうか。どうせ居所は知れておりますし、大祝福3の魔導師と飛行する船を破壊してから改めて軍を出して占領すべきかと」
「うむ」
高位冒険者だけで攻めれば余計な犠牲が生じず、であればベリンダも否定する理由は無い。油樽もクロスアストラルウォールも、大隊長以上の者には効かないのだ。
次に発言したのは、己の軍団の8割を壊滅させられた蒐集のイジャルガであった。
「いっそベイル王国の全神宝珠を奪ってしまっては如何でしょう。大祝福3の魔導師特殊系と飛行する船が今後王都から逃げたとしても、帰る地を全て無くされては長くは保ちますまい」
「……うむ」
イジャルガは、ヴァルターやイルヴァが考えていなかった敵逃亡時の対策を示してくれた。
獣人帝国が旧ベイル王国領を再利用できなくなるが、この度の戦については早々に片を付けられそうである。他国へ逃げて運用するとなれば思うようには行かないだろう。
相手を引きずり落とす案は、獲物を水底へ引きずり込んで食らう水馬アハ・イシュケらしい作戦であった。
その次に発言したのは皆殺しのグレゴールである。
「攻め入って敵を尋問し、飛行する船の集約都市を吐かせ、王都後にそこを攻めればよろしいかと。イグナシオ軍団長が飛行しながら魔法攻撃を行えば、イェルハイド帝国が全人類国家を支配できます」
「…………うむ」
王都を落とし、飛行艦を逃がさず手に入れ、獣人帝国で活用する。そんなグレゴールの提案は理想的であった。
戦争は徹底するのがグレゴールの性分である。彼は相手の手駒を取れるだけ取ってしまう主義だ。
そして深謀のイグナシオが発言した。
「やはり、軍は一度下げるべきでしょう。大祝福3のオリビアを殺すにしても、飛行する船の発進都市を落とすにしても、侵攻するごとにクロスアストラルウォールを撃たれて転移で逃げられては、全ては防ぎきれませぬ。有象無象の連中では一掃されて終わりです」
「……そうだな」
ベリンダは支配者であり、臣民を庇護するという責務を負っている。あらかじめ無駄な犠牲と分かっているのであれば、それは回避すべきである。
軍団長達の意見が出尽くした後、控えていた呪いのリーラがようやく発言した。
「皇女殿下。ワタクシがベイルのハインツであれば、軍を3つに分けまス。1つ、逃げる軍を追いかけさせて焼き払い続ける飛行部隊。2つ、選抜隊の進路上にある都市から神宝珠を回収する飛行部隊。3つ、選抜隊を追いかけさせて全体石化の呪いで石にしていく飛行部隊」
ベリンダは呪いのリーラの話を理解しきれずに一瞬固まった。
そして一瞥して軍団長達も自分と大差ないのを確認すると、異質者に話を続けさせた。
「………………続けよ」
「はイ。大祝福3台のアロイージオ軍団長を石化出来たオリビアは、大抵の敵を呪って石化できまス。石化された者はその場で荷物となり、選抜隊がそれを置き去りにすれば破壊し、運びながら移動すれば狙い撃ち、最後にスキルが効かない者だけが残れば王族を飛行する船に逃がしまス。ウフフフフ」
ベリンダや軍団長らが押し黙る中、呪いのリーラが彼女なりに自重しながら笑い続けた。その後を引き継いで、死のレーラが説明を続ける。
「皇女殿下。わたくしがベイルのハインツであれば、自国の神宝珠回収と同時に、選抜隊が揃って不在の地上本土側へ逆侵攻してそちらの神宝珠も全て奪います。自国の都市には奪い返されない空から月に一度加護を発し、敵国の都市へは空からクロスアストラルウォールで死の光を。うふふふふ」
「…………」
ベリンダは双子たちの発想が狂気に犯されていると感じたが、確かにその手を採られると対抗しようがない。
険しい表情で沈黙したベリンダを置き去りに、双子達は恍惚の表情で熱く語った。
「「ワタクシ(わたくし)たちも、早く大祝福3に上がりたいですワ(わ)」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
死闘から一夜明けた7月15日。
獣人帝国軍への空襲を再開すべくエルヴェ要塞を飛び立った飛行艦隊は、3時間後に都市ゴクライム上空で獣人帝国軍の撤退を確認した。
もぬけの殻と言うべきであろうか。獣人軍は一兵たりとも残っていなかった。念のために彼らの侵攻路を探したが、姿は確認できなかった。
(……不味いな)
軍勢が歓声に沸き立つ中、ハインツだけは現状を苦々しく思っていた。
そもそもハインツの目的とはベイル王国の安全である。
そして今回は『獣人帝国の神宝珠を減らしてベイル王国の神宝珠を増やし、国力が獣人側へ傾かないようにする事』と『ベイル王国に攻め込めば利益以上の損害が出る。と獣人帝国に教え込む事で、ベイル王国へ攻め込めなくさせる事』の2点を実行した。
であればそれを理解している騎士達は「神宝珠も得たし、敵も損害を受けて撤退したから、それで良いのでは無いですか?」と思うかも知れないが、中途半端な損害からの速やかな撤退は相手の戦意喪失には繋がらない。
(現状だと「大祝福3の魔導師がいる!」という脅威ばかりが目立つ)
飛行艦からの火炎樽投下は2回しか実施しないまま妨害されて中断してしまった。
今の10倍も落とせていれば相手もどれだけ嫌な攻撃なのかを理解していただろうが、現状では「大した被害では無い。阻止できる」と思われても仕方が無い。
だからと言って撤退する敵に火炎樽を投下し続けても、物資はともかく人的被害はそれほど出ないだろうし、であればなおさらオリビアを倒せばそれで良いと誤解させてしまいかねない。
そしてオリビアの魔法攻撃も、軍団長に阻止されて不完全なまま終わってしまった。
3個軍団全てが壊滅していれば流石に「もう懲り懲りだ」と思ってくれただろうが、今のままでは「軍団長が阻止出来た」という実績と併せて戦意喪失とはいかないだろう。
(俺が皇女ベリンダなら、この後は状態異常の耐性装備を身に付けさせた大祝福3のパーティだけでベイル王国に潜入して、一気に王都や飛行艦の母港がある都市ブレッヒを攻めるかな。オリビアやアンジェリカを殺すか、飛行艦を悉く破壊するか)
現状では不味いと考えたハインツは全軍に撤退命令を下し、一先ず飛行艦隊をエルヴェ要塞へ戻す事とした。
そして今後の方針を告げるべく、帰路の艦内会議室に乗り合わせている大祝福2以上の全員を集めた。
「方針を変えようと思う。空からの火炎樽投下は、馬車や食料などの物資を焼き払って軍勢の足を止め、敵軍を削る事が目的だった。だが現状に至っては、それは最善の行動では無い」
ハインツの第一声は、戦略方針の転換であった。
「説明してくれるかい?」
普段は事前にハインツから相談を受けるメルネスがそう問い質した。事前の説明が為されなかったと言う事は、これからの話は事前の計画には無かった事である。
メルネスに頷いたハインツは、現状について説明した。
「今一番恐ろしい事は、獣人側が仕切り直して『状態異常の耐性装備を揃えた少数の上位者だけ』でベイル王国へ侵入する事だ」
「確かにそれだと、食料を焼いても彼らの足は止まらないだろうし、抑え込むのは難しいかも知れないね」
「ああ。カウンターの対抗策はもちろんあるが、ベイル王国も相当の被害を受けるので可能なら避けたい。そこで、こちらから先に彼らを各個撃破してしまい、そのリスクを減らす策を考えた」
ハインツは地図の一枚を取り出し、線を引いていく。
★地図(各個撃破作戦図)
「破壊者オズバルドが、リーランド帝国圧迫の為に西側に居る。指揮しているのは第一軍団と直属軍団で合計10個大隊。上位者は大隊長9名と軍団長補佐2名だ。これを皇女に合流される前に各個撃破しておけば、ベイル王国の安全は一気に高まる。そういう考えだ」
「…………視野が広い。と、言っておこうかな」
なおベイル王国軍がエルヴェ要塞や王都への人員を除いて投入可能な戦力は、獣人18個大隊に相当する12個新騎士団、ハインツとオリビア、大祝福2が16名であり、圧倒的に有利な戦力数となる。
動員可能な治癒師と魔導師の数も、オズバルド軍団長を圧倒的に上回るだろう。
第一軍団長のオズバルドは、皇女が上位者パーティを作ろうと考えた場合の筆頭候補だ。
彼を倒す事によって、ベイル王国は上位者パーティに侵入されるリスクを減らせると同時に、王国の力がオリビアだけでは無い事を知らしめる事も出来る。
「大河の橋を落としながら捜索してこれを潰せば、ベイル王国の神宝珠回収、リーランド帝国の領土回復、北部連合との補給線確立、獣人帝国の押し戻しが全て適う。両陣営の勢力は人類側に大きく傾く」
大河の橋を落とすのは、馬車を奪って軍勢の移動速度を鈍化させるためだ。そうすれば彼らが大河を泳いで渡っても、飛行艦で簡単に追い付く事が出来る。
神宝珠の回収については、現在回収している神宝珠の数を増やしてベイル王国に加えるつもりだ。破壊者オズバルドとその揮下軍団を撃破する報酬を宝珠で得ようという訳である。
獣人帝国の支配地からベイル王国が単独で奪う形であるので返還義務は無い。協力してくれそうな第三宝珠格の神宝珠を数個狙っており、その他は全て返すつもりであるが。
リーランド帝国の領土回復とは、奪還都市のいくらかを返して難民対策を行わせるつもりだ。ハインツはその辺に関してはあまり細かく考えていない。かの帝国は大祝福2の大騎士団長を16名も戦死させ、1名には退職され、現在発言力が皆無に近い。
あるいは一部をリーランド帝国に返さず、元属国のデスデリー王国に与えて将来の危険を減らすと言う手もある。
いずれにしても分断されていたベイル王国と北の最前線の間に補給路を作り直す事が出来て、北側の戦線も盛り返すだろう。また経済が回れば復興も早いはずだ。
北部連合に関しては、飛行艦によるマルタン王国隣接都市の奪還と引き渡しを行って意見封殺を行うつもりだ。
同時にハゲの神殿長を彼らに先んじてベイル王国へ招けば一石二鳥である。いや、一隻一領一ハゲであろうか。
全体で見れば一石四鳥だ。
獣人軍団を倒し、神宝珠を得て、各国領土を回復し、補給路を繋げる事になる。大河の橋の再建には多少の時間が掛かるだろうが。
「機動性を活かした各個撃破か」
「火炎樽と良い、頼もしいのか悪辣なのか」
ハインツは呆れ返った大祝福2の者達を見渡し、粛々と説明を続けた。
「但し、出来ない事もある。先にオリビアのクロスアストラルウォールで大祝福1以下の獣人達だけを殲滅して逃げ去り、オリビアの魔力が回復してから再び襲撃しに行く方法だ」
「それは何故でしょうか?」
「大祝福2以上の獣人だけにして時間を与えれば、深く生い茂る瘴気の森など空から見つけられないところへ逃げられる可能性があるからだ。1万の一般兵を含む軍勢を追うのと、大祝福2以上の十数人の隊を追うのとでは、捜索の難易度がまるで違う」
大祝福1以下の戦士600人よりも、破壊者オズバルド1人の方が遙かに脅威である。
今回はそんな破壊者オズバルドと大祝福2以上の獣人11名を、皇女に合流させずに各個撃破することが目的である。
であれば、足手まといの軍を抱えている破壊者オズバルドを発見と同時に襲わなければならない。
「宰相閣下。破壊者オズバルドは接近戦で並ぶ者が居ないと聞きますが、どのような対策を講じられますか?」
「大祝福2の者全員に無効化スキルが使える治癒師祈祷系を2名ずつ付け、付与系の治癒師も一人付けて事前に全付与をさせる。また、一定効果が見込めるオリビアの鈍化スキルをオズバルドに掛ける」
「おお、なるほど」
専属治癒師はハインツが無敗のグウィードを倒した際に用いた策であり、ジュデオン王国が模倣して皇女ベリンダに対してもそれなりに有効であった。元々はジャポーンで学んだ基本的な戦術である。
治癒師が少ないので本来多用できないが、ハインツは祝福上げの対象から外した騎士たちを使って治癒師の一斉祝福上げを行い、さらにハゲの治癒師回収を行ってそれなりの数を運用できるようにもなっている。
「深謀のイグナシオが転移スキルでオズバルド側に居合わせた場合はどうするのかな?」
1日であまりに多くの事があったが、火炎樽の補給基地であったセイクレンを転移で襲撃されたのは昨日の事である。その反撃として、昨日の間にオリビアのスキルを使って獣人軍を襲い返したのだ。
「オリビアが同じスキルを展開して相殺する。イグナシオの想定MPは2590。転移分540を温存してMP2050。クロスアストラルウォール2回の1680を引くと残り370。1回の消費MP134のファイヤースコールを2回撃ってくるかな。だがオリビアのMPはイグナシオよりも上だ。相殺した上でオズバルドに鈍化を掛けられる」
「凄まじいな。ハインツ・イルクナー宰相」
そう呆れたのは、クラウス・バスラーである。
彼自身も祝福79でそろそろ軍団長補佐に並ぶが、それだけに大祝福3へと至る壁の高さが見えてきている。そして異常性にも理解を深めつつあった。
「その代わりオリビアは、地上に降りず飛行艦の上からスキルを使うぞ。大祝福3台の魔導師なんて真っ先に狙われるだろうからな」
「当然だな。そして宰相も危険だ。自覚がないようだが」
「……うぐっ」
ハインツが戦場に立つ事を危惧する声は、今までにいくらでもあった。
その筆頭はアンジェリカ女王で、ジュデオン王国で左腕を失ったハインツに対し、左腕が治って子供が生まれるまでは戦場に立たない事を約束させている。
大祝福2の冒険者の代わりは居るが、イルクナー宰相の代わりは居ない。
「分かった、分かった!俺はオリビアの護衛に専念する。出るのは騎士からメルネス以下6名。直属からバスラー以下6名、フェルトン卿、バハモンテ男爵、アクス令嬢で合わせて15名。ブランケンハイム大治癒師は戦闘中の治癒に専念。こんな所か」
一抹の不安は残るが、これは今のハインツにとって避けては通れない道だった。




























