第02話 ミョニルの投擲
ロラン達の前方から馬で駆けて来たのは、8人の武装集団だった。
装備を見るにクーラン王国の騎士ではないが、大街道を行き来する冒険者の格好でもない。だからと言って、都市外を移動している彼らが一般人である筈も無い。端的に言えば所属不明の武装集団である。
そんな怪しい事この上ない彼らは、ロラン達の馬車の前面に立ち塞がって無理やり停車させた。
リュカ達が馬車内で臨戦態勢をとる中、彼らの一人が馬上から声を掛けてくる。
「おい、女を見なかったか?」
初対面にも関わらず、名乗りもせず一方的に問い質してくるなど無礼にも程がある。
「おう。これまでの人生で女を見た事があるかと言う問いならば、確かに見ている。誰だって生まれた時に母親くらいは見ているだろう。おっと、生まれたばかりの赤子は、確か目が見えなかったのだったかな?」
「あははははっ」
スティーグがまじめを装って相手を馬鹿にし、それに釣られてロランが噴き出した。
「馬車の中を改めさせてもらうぞ」
業を煮やした別の男が無茶な要求と共に近寄って来る。
「知らん。見せん。今すぐ道を空けてとっとと失せろ」
「なんだと貴様っ!」
問い質したのとは別の男が馬を寄せようとするが、スティーグは無言でコルセスカという両翼の伸びた三又の槍を構えた。
コルセスカは振り下ろし、突き刺し、敵の武器を受け止めるのに最適な長柄武器だ。特に馬車上から戦闘を行うのに向いている。
「抵抗するかっ!」
「おう、最初から従ういわれも無いな」
ロランも長剣を引き抜いた。
そこで最初にロラン達に声をかけた男が宥めにかかった。
「まあ待て、こちらは急いでいる。その女は罪人だ。捕縛に協力してくれれば謝礼を払おう」
「そう言って、いざ見つかれば俺たちの口封じに掛かるのではないかな」
「何…………貴様っ!」
「少しは殺気を抑える努力をしたらどうだ。身分を明かせない者の約束を誰が信じる。追っているのは誰で、謝礼金の出資元は一体どこだ。答えてみろよ」
盗賊の可能性を疑ったスティーグが相手の接近を拒否する間に、前方からさらに同じような格好をした十数騎が駆けて来た。
「……新手か」
スティーグは状況を冷静に観察していた。
先に接触して来た8人と同じような装備や格好をしている新手は、タイミングから考えても彼らの仲間だろう。今の八騎に十数騎を合流させては、いくらロランが大祝福2と言っても状況は著しく悪化する。
「お前らが進路を塞ぐなら仕方が無い。引き返してベイルへ向かうとしよう」
スティーグは馬首を翻して進路を南に向けようと図った。
これは撤退を実現させる為では無く、先に相手から手を出させて正当防衛の大義名分を得る為である。相手が合流する前に各個撃破を図るのだ。
この一言が、予想以上の効果を発揮した。
「待てと言っているっ!」
まんまと罠に掛かった相手が馬を寄せ、馬車に掴みかかった。
「武装集団が馬車を掴んで引き止めようとした!応戦だっ!」
「よっしゃあ!」
「止むを得ん。殺せ!」
相手の短絡的な行動には理由がある。
ロラン達は、金目の物を持っていないとアピールするためにクーラン王国に出回っているごく一般的な幌馬車に乗っている。
農民から小規模商人まで幅広く用いる幌馬車では、護衛がスティーグとロランの2人のみと誤認しても仕方が無い。おまけにロランは見た目20歳前後で、冒険者支援制度の無いクーラン王国では祝福が低いと見做されても仕方が無い。
ようするに、戦えば即座に勝てる相手だろうと見られた訳だ。
ロランが御者台から飛び降りると同時に、相手の側も武器を引き抜いた。スティーグの声でリュカ、レナート、ドロテオの3人も馬車から飛び降りる。
「まだ仲間が居たのか!?」
戦闘開始時の「止むを得ん」との一言で、スティーグは相手が自分たちを襲う盗賊ではなかった事を確認した。
一方的な要求を出してきた連中に従う意思は無い。
だが、これほどの集団を組織できる連中が一体何の目的で先程の女を追っているのか。そんな疑惑を感じながらも、スティーグは敵の一人に向かって行った。
Ep08-02
野戦において、騎兵は歩兵に勝る。
本来ならば、攻撃と回避を同時に行えばどちらの動作も中途半端になる。だが騎兵は馬上という高みから長槍の全力で斬り付け、並行して馬が駆け抜けてくれる。人馬一体の連携が、本来の手数を倍増させるのだ。
複数ならば高機動のまま敵の周囲を回り、四方から槍を伸ばして敵を串刺しにする事も出来る。敵は全方位に目を向けられず、どこかで必ず隙を見せる。
そんな騎兵を崩すには敵より長い射程の武器を持つか、犠牲を無視できるだけの数を揃えるか、応戦する者の実力が勝っていなければならない。
ロラン達に武器や数の持ち合せは無かったが、祝福数だけは圧倒的に勝っていた。
「早いっ!?」
水の中を突き進むかのように顔面にかかる風圧を掻き分けて、一瞬のうちに敵の懐にまで飛び込んだロランが馬に向かって剣を振るった。
悲鳴のごとき嘶きが響き渡る中、ロランは敵の合間を駆け抜けて次々と馬体を抉って回る。
4頭、5頭……敵もロランを槍で突き刺してくるが、ロランはそれらを素早く避け、あるいは剣や籠手で弾きながら馬上の敵を叩き落として行った。
「降馬。近接戦闘!」
騎兵は強力だが、相手が馬の機動力を上回ってしまえば行動を縛る足手纏いにしかならない。
謎の集団は落馬するまえに自ら馬を降り、素早く反撃に転じた。
淀みなく見事に流れる一連の動作に、ロランは敵が決して油断出来る相手ではないと感じた。
指示を出した男は、複雑な形状の剣を持っている。形状はクディタランチャグに近いだろうか。真っ直ぐ伸びた剣の何か所かに鋭い凹凸があり、剣撃を打ち合う際には不慣れな敵側が苦戦するだろう。
その剣がロランに向かって真っ直ぐに水平に伸びて来た。
(嫌な武器を使っているな)
剣の腹が空を滑るようにロランの喉元へと迫ってくる。
ロランは長剣を立てて攻撃を受け流し、そこから地面を踏み蹴って全力で敵に向かって跳ね跳んだ。
「何っ!?」
今までは大祝福1台の冒険者の速度から逸脱した動きはしていなかった。
相手は驚愕しながらも、バックステップで回避行動をとりながら剣を引き戻そうと図った。
だがロランの行動を見てから下がった相手よりも、最初から飛び込んだロランの方が初動で遥かに早い。ロランの右手は意思どおりに動いて、相手の喉へと長剣を伸ばしていく。
直後、右手に肉を削る僅かな抵抗の感触が伝わった。
(避けたか)
ロランは首の中心を狙ったが、相手は首をひねって直撃を回避した。
とは言っても首の三分の一ほどが削れ、頸動脈が断たれている。今この瞬間に治癒師が治癒を施さなければ助からない。
ロランに軍配が上がるのは当たり前だ。
何しろ相手は、ロランが大祝福2の冒険者だなどと認識していない。
もし敵が大祝福2台だと理解していれば、わずか8人程度で向かったりはしない。
(敵が立ち直るまでに、削りまくる)
ロランがざっと見渡すと、槍を振りまわす探索者系の男、黒鎧と黒盾の守りの堅そうな戦士、最低限の武装しかしていない男が間近に見えた。
ロランは迷うまでも無く、最低限の武装の男に向かって突き進む。
判断理由は「何となく」であるとしか言いようが無いが、ロランには相手が一般人では無いような気がした。
であれば魔導師か治癒師だろうが、そのいずれであっても後回しにしては厄介だ。
『サンダーレイン』
(やっぱり魔導師か)
男の手から迸った雷が幾重にも分かれ、ロランが横跳びに避けた空間を薙ぎ払う。その雷の一部はロランを追い、天空を舞う竜革で作ったブーツに命中して爆ぜた。
ロランは無傷だった。
転生竜退治で得た輝石の一部換金だけでも膨大な資金を得ており、引退した鍛冶屋ツェザール・ベルガウとも懇意にしている。素材自体も冒険者である自分自身が集められるので、装備は殆どがオーダーメイドだ。
脅威を回避したロランは、必殺の一撃が外れて回避行動に移る相手を逃がすまいと全速力で追いかけて長剣を敵の頭上から叩き落とした。
ゴガンっと鈍い音が響き、敵の頭蓋骨を割った際の堅い抵抗と、それを打ち砕いた感触が伝わって来た。
正面から突き刺さなかったのは、相手が近接戦闘用のまともな武器を有していなかったからだ。頭部を砕きに行っても、先手を打たれて斬られる心配は無い。決して剣の技量が高いとは言えないロランが確実に一撃で仕留めるには、やはり頭部を狙うのが最善だ。
何しろ相手は魔術師で、動けないダメージを与えても意識さえあれば指先からスキルを飛ばして魔法攻撃が出来る。
(次は……)
槍の男か、盾の男か。
迷いを見せたロランだったが、答えは向こうの方からやって来た。
当初魔導師を援護する目的で迫って来た槍男だったが、ロランが手ごわいと見るや否や
速度を落として盾男と連携しながら迫って来た。
盾男はメイスのような武器を構え、大盾を掲げて真っ直ぐ突進してくる。
槍男はその横合いから、前後いずれにでも跳べるように姿勢を低くして槍の先端をロランに向けている。
連携が上手い。これに魔導師や指揮官だった男が加わっていれば、さぞや強力な布陣だっただろう。
だがロランは援護を期待してはいけない。
敵は8人居たので、味方を1対1で戦わせるためにはロランが4人を受け持たなくてはならない。
逆に言えば将軍級のリュカや騎士団長級のスティーグ、それに副騎士団長級のレナートやドロテオならば1対1で相手に遅れをとる可能性は殆ど無い。なぜなら、全員が転生竜退治で最高級の装備を身に付けている。
『斬撃』
「ぐっ!」
ロランは盾男に向かって一気に駆け抜け、スキルで強化した一撃で構えられた盾を力尽くで弾いた。
弾かれまいと全力で耐える男の突進が止まり、態勢が大きく崩れる。
その攻防の刹那、両者の横合いから槍がロランに向かって伸びて来た。
『刺突』
迫りくる槍に対し、ロランは左手を上げた。
ガンッと衝撃音が響き、伸びて来た槍が上へと大きく跳ね上げられた。左手に装備した特注の籠手が攻撃を弾いたのだ。
連携は厄介だが、相手に倍するステータスと装備を持っていれば臆する事は無い。連携する敵の攻撃を正面から打ち砕く事が出来る。
ロランは攻撃を弾いた次の動作で踏み込み、相手の懐に飛び込んで剣を下から一気に振り上げて敵の脇腹を大きく抉った。
「うらああっ!」
ロランは気合と共に脇腹を抉った剣を下から押し上げ、敵の身体を宙に浮かせて放り投げた。
ついでに浮いた身体を蹴り飛ばしてやろうかと思ったロランだったが、まだ盾男が残っている事を思い出した。余裕があるとは言っても、無駄な行動を行う程のものではない。この間にもリュカやスティーグらの仲間が別の敵と交戦している。
ロランは身体を半回転させながら剣もそれに合わせて回転させ、1人になった敵をガンガンと攻め立てた。
「ぬあああっ!」
「ぐっ、ぬうっ、がっ!」
必死に身体を守る相手に、ロランは上下左右から剣を打ち込んでいく。
まるで大の大人が子供を攻撃しているかのような理不尽な状況だったが、ロランは攻撃の手を一切緩めなかった。なぜなら十数騎の敵の増援も迫って来ている。
「おりゃあっ!」
焦れたロランは相手の盾を蹴り飛ばし、相手を地面に転げさせてそのまま覆いかぶさるように剣を突き立てた。
「ぐあああっ!」
トドメとばかりに、貫いた剣を回転させて傷口を深く抉る。肉と筋を裂き、身体の組織を物理的に破壊して生命活動を強制終了させる。
襲う際には、相手の反撃を予想すべきである。
敵の能力を見誤って死ぬのは、冒険者としての経験不足だ。もっとも、50万人に1人しか居ない大祝福2の可能性を予見する方が困難であっただろうが。
「よし、次っ!」
犠牲を出さないためには、弱い所から援護すべきだ。
祝福41で21歳のレナートと、祝福40で25歳のドロテオのどちらを助けるべきか。
ロランは祝福41のレナートを助けるべきだと判断した。
(祝福数と技量は比例しないからなぁ……)
レナートは冒険者支援制度によって祝福の上がりが早かっただけで、全て実力によってと言う訳ではない。一方ドロテオは実力で上がり、さらに転生竜退治前まではレナートよりも祝福数が高かった。
この二人が戦えば、7割くらいの確率でドロテオに軍配が上がるだろう。
付け加えるなら、レナートとロランの祝福数が同じならレナートが勝つ可能性の方が若干高くなる。
「…………はあっ!」
雑念を気合いと共に振り払う。
万全の状態で正面から1対1で近接戦を行えば、大祝福2のロランが大祝福1に負ける事はあり得ない。おまけにロランとレナートの2人がかりだ。レナートも副騎士団長級で、敵がこれを圧倒する祝福数の筈は無い。
敵はロランの一閃で大剣を弾かれ、大剣を引き戻す前に素早く斬られて仰け反り、反射的に構えた左手の盾をアッサリと弾かれ、次いで肩口に剣を叩きつけられて呻きながら身体を沈み込ませた。
ロランは肩に振り下ろした剣を僅かに振り上げ、大祝福2の力で以って相手の頭上へと振り下ろした。
この間、わずか数秒の攻防だった。
「流石」
「まあね」
手の空いたロランとレナートが、今度はドロテオと相対している敵に向かおうとした。
「ターゲットは、居ないぞっ!」
「くそっ、騙された!」
ドロテオと接戦を演じていた敵は、戦闘の合間に馬車の幌を裂いて中を確認した。水樽など人が隠れられそうな物品を武器でいくつも破壊し、問い質していた女が乗っていない事を確認した。
「お前らが勝手に勘違いしただけだ。武器を持った奴に馬車の中身を見せろと言われて従う馬鹿がいるものかっ」
「くそっ、こいつら!」
ロランとレナートが、ドロテオと戦っていた男に向かって駆け出した。その接近を見て踵を返そうとした男は、牽制のために大振りで剣を振るう。
だが、それが逆に隙を見せる結果となった。剣が振られた直後にドロテオが敵に向かって飛び込み、敵は慌てて剣を返して打ち合う。
ロランはドロテオが敵の剣を受けている間に敵の左脇腹に剣を打ち込み、その横合いからレナートが敵の右腕を叩き折って勝敗を付けた。死んではいないが、右手を斬られてのまともな戦闘継続は不可能だ。
その時、スティーグと戦っていた男が駆け寄って来た後続の男たちに言い放った。
「こいつらは違う!ターゲットは逃げている!」
「追え!生死は問わん」
(……一体どう言う事なんだ?)
彼らが単なる盗賊の可能性は消えている。だが一人の女を20人以上で追いかけ、殺しても構わないとまで言っている。
そこまでなら、まだ判断に迷う。
ドリー事件の際には、ベイル王国も女1人を大軍で追いかけた。
だがあれはドリーにそれだけの行為と危険があったからで、追いかけたベイル王国には正当性があったとロランも思う。
だがこの武装集団は女を追うに際して身分を明らかにせず、無関係なロラン達までも殺そうとした。
(正体を隠すのは後ろ暗い事があるからか?それともドリーの時みたいに、悪用を恐れて公開できない理由があるからか?)
駆け付けた13騎はそのままロラン達を無視して南へとすり抜けて行く。リュカが受け持っていた敵を殺したが、彼らはそれにすらお構い無しだ。
「つぁあっ!」
スティーグが受け持っていた敵が煙幕を投げつけた。
噴き出す煙にロラン達がひるんだうちに敵はバックステップのスキルで逃げ、素早く馬を拾って仲間の動きに追従する。
情報不足の中で、状況がめまぐるしく変化して行く。
だがロランには、先程の女が殺されるのをこのまま見過ごす事は出来そうになかった。とにかく助けて事情を聞かなければならない。ついでに襲ってきた彼らにも、斬った幌や破壊した水樽・木箱を弁償させなければならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴァレリアの後方から追手が迫って来ていた。
女性で軽装備のヴァレリアは、馬へ与える負担も軽くて速度も出せる。
だが追手はリーランド騎士団に所属する正規騎士たちで、身分さえ明かせば替えの馬をいくらでも調達できる。
脱出時の発覚が遅れたことで、監視隊は各所へ追手を分散せざるを得なかった。
ヴァレリアがクーラン王国から東のブルーナ王国に進路を変えて逃げる可能性、脱出ルートから外れた都市に一時潜伏する可能性、逆進して北部連合側へと逃げる可能性。可能性を考えればキリが無い。
だがクーラン王国との国境にある第一宝珠都市イーリオで姿を消したのなら、そこから最短のベイル王国かディボー王国へ逃げ込む可能性が最も高い。
それなら最初にやるべき事は、ベイル王国との国境を抑える事だ。
多少数を減らせたとは言え、鬼ごっこの鬼は最初から全力疾走で追いかけてきている。そして各都市を経由する度に、後続の鬼たちの数はどんどん増えている。
(次の都市を抜ければ、ベイル王国の国境に辿り着けるのに……)
北部連合との停戦交渉が行われている現在、リーランド帝国の前線は獣人帝国方面の第一宝珠都市イードラしか無い。
だが皇女ベリンダの方針で1260年以降は侵攻が行われておらず、リーランド帝国軍は現在手が空いている。
いくら前線から離れた辺境とはいえ、追手の数はもっと沢山居るはずだった。
追手は大祝福1以上の騎士のみで構成しているのだろうが、大祝福2のヴァレリアを確実に確保するには心許無い数だ。
(ここで倒すべきね)
ヴァレリアはそう判断し、走らせ続けていた馬をようやく減速させる。
大街道の道中に馬を繋ぎ停める場所は無く、馬から降りて左手で手綱を握り、右手では杖を掲げた。
魔導師の中でも攻撃系のヴァレリアは、魔法発動時に特殊系のような複雑なイメージを必要としない。
目標を視認し、構えて、指先から変容させたマナを解き放つ。
『ウォーターブラスト』
真っ直ぐ迫って来た14名の騎士は、ヴァレリアの放ったスキルによって一様に水を浴びせられた。
「くっ、左右に分かれろっ!」
魔導師は連携する事で強力な魔法を使える。
例えば一人が水魔法を使って敵を濡らして導電率を高め、もう一人が雷魔法を撃つと高い効果が期待できる。その際に風魔法を併用して確実に相手に吹き掛け、同時に水質を変えるとなお良い。
ヴァレリアは一人なので万全の戦術は採れないが、水を掛けて雷を放つ2手なら出来る。
『サンダースコール』
左右に分かれたうち人数が多かった一方が、水魔法に続いて解き放たれた雷の雨に打たれて次々と落馬して行った。焼かれた皮膚の炭化、身体の麻痺、雷の攻撃を受けた7人が戦闘行動を継続するのは不可能だ。
だが反対側に逃れた残る7人は水を被っただけで未だに無傷だ。
数秒のうちに左右へ同数に分かれた彼らは、新たな指示を受けるまでもなくさらに左右へと分散した。同じ騎士団から大祝福1だけを引き抜いて編成したのか、連度が高くて連携もスムーズだ。
(即応できたとしたら、クーラン王国との国境に駐留していた騎士団かしら)
リーランド帝国軍は、属国の全ての都市を自由に通行する許可を持っている。
さすがに平時の軍事行動権までは持ち合わせていないので、身分を示す国旗や記章の入った装備は全て外しているようだった。
だがトラブルが発生しても、帝国の外交交渉によって何も無かった事にされるだろう。リーランド帝国にはそれだけの力がある。
「殺せ!大祝福2を捕らえようなどとは思うな!」
そう叫んだ騎士の声で、何人かが馬上から弓を引き絞る。
揺れる馬上からの命中精度がどのくらい高いのか定かではないが、全く当たらないと楽観できるほど低い練度でもなさそうだ。
ヴァレリアは左手で掴んでいた手綱を手繰り寄せ、馬体の陰に隠れながらスキルを放った。
『サンダースコール』
杖の先端から指向性を持った雷雨が迸り、左右の騎士のうち人数が多い4人に向かって伸びていく。
騎士たちは杖が向けられた時から身構え、スキルが発動した瞬間にそれぞれ馬を操り、あるいは飛び降りるなどの回避行動を取った。
雷は4人のうち2人を焼いたが、残る2人は直撃を回避した。そのうち軽症で済んだ1人が武器を引き抜き、ヴァレリアに向かって駆け始めた。
一方、最初から狙われていなかった反対側の騎士3人からは矢の応射があり、ヴァレリアが乗ってきた馬は射抜かれて大街道へ倒れた。矢には致死毒か麻痺毒を塗っていたのであろうか、馬は倒れて泡を吹いている。
(勝てる?)
1対4で接近戦になった。
1人の側が杖を持った魔導師で、4人の側が武器を持った戦士と探索者だ。さらに感電の恐れがあるため、この距離では雷撃を使えない。
殺害の意思を乗せた剣がヴァレリアに迫る中で、後方からさらに新手が駆けてくるのが見えた。
「ロラン、敵の矢に注意しろっ!」
「おりゃああっ!」
新手が敵の増援ではなく先ほどすれ違った冒険者達だと分かった時、ヴァレリアはわずかな可能性に賭けて時間稼ぎのスキルを発動した。




























