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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介
第一部 第一巻 フロイデンの一夜(11話+エピローグ) 物語導入編
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エピローグ 人獣戦争の始まり★

 部下たちは、些細な事を深刻に悩んでいる。

 バーンハードの死をどうするのか、つまりは大隊長格が死んだらどう扱うのかと。

 過去に沢山死んだだろうと思い、そういえば自分の軍団が大隊長格の死者を出したのは、ここ20年では今回が初めてだったと思い出した。

 気にしているのか?バーンハードの様に、自分たちが死んだらどうなるのかを。

 だから言った。


「バーンハードは戦場で堂々と戦って死んだ。イェルハイド帝国の勇者である。戦意高揚の糧にしろ」


 部下たちの些細な悩みは、それだけで大半が片付いた。

 エルヴェ要塞など、どうでも良い。そもそも現在の目的は何だ?アルテナの神宝珠で作られた都市を、アルテナに祈れる上級の治癒師ごと手に入れる事だ。

 加護の無い世界は過酷だ。

 死ぬとアンデットになって襲ってくる。だからと言って死体を焼き払うと、ゾンビではなくゴーストになる。ならば深く、這い出せない程深くに埋めるしかない。だがアルテナの神宝珠に守られた都市では、魂が安らかに死ねると言う。

 生活しているだけで子供や年寄りが死ぬ。なぜだ?加護の無い水や食べ物を摂取し続け、体に溜まった瘴気に当てられるからだ。だが、アルテナの神宝珠ならば大地に加護を与え、その瘴気を払うという。

 魔物が襲ってくる。自然の摂理だ。だがアルテナの神宝珠に守られた都市では、宝珠の格に応じて魔物が入ってくるのを防ぐ。最低の第一宝珠格ですら、大祝福1未満の強さの魔物なら入って来られない。


「なるほど、人間の人口が多いはずだ」


 獣人は1人1人が強いが、人口は総数で160万しかいない。


 (なぜアルテナは、人間にだけそのような加護を与える?圧倒的に弱いからか?いや、アルテナの神宝珠の核となる神々が、存在と引き換えにアルテナの力をかすめ取っているのか?確かに神は、神宝珠を創り出すと力を失って姿を消す)


 ずっと考えている。

 帝国の方針は明瞭だ。


 『加護を受けた人間の都市に住む。支配して』


 人は滅ぼせない。

 神宝珠は大祝福1以上の人間の神官がアルテナに祈らないと、輝きを戻せない。獣人が祈っても効果は無かった。だんだんと宝珠格が落ち、力が弱くなり、最後には消えて効果も失せる。治癒師は、その加護が強い程、より輝きを回復できる。


 (だから、共存すべきだ。支配して)


 人口が増えると、宝珠の消費が早くなる。人間は1宝珠格5万人とし、格に応じた人口の都市を形成している。第一宝珠格なら5万人、第二宝珠格なら10万人……

 こちらも合わせる。いや、もう少し減らし分散して住む。人間の治癒師が誕生すれば、それを祈れるくらいの強さに引き上げて祈らせる。

 もう、その程度なら充分に満たせる程の都市を手に入れた。


 (そろそろ、和平を結んでも良いのではないか?)


 だが、相手が反撃してくる。こちらも反撃されないように叩き潰しておく。人間は弱い。叩き潰す方が簡単だ。

 インサフ帝国だけ支配してそのまま暮していれば、いつか残る国の人々が連合を組んで襲ってくるだろう。だから叩き潰すのは良い。


 (最初に襲って来たのは人間だしな)


 不幸な出来事。

 初めて遭遇した時、人の冒険者は、獣人を魔物扱いしていきなり襲って来たのだ。話し合いなど発生しなかった。

 獣人帝国は地上にあったのではない。インサフ帝国の東、人が想像できない程に広大な天山洞窟の中で暮らしていたのだ。冒険者はそこに辿り着いた。

 あまりに不幸すぎた。冒険者たちは、平均祝福90台のパーティだったのだ。彼らは一人ひとりが獣人軍団長になれる。おまけにリーダーは祝福100を超えていた。

 被害は激烈を極めた。

 ブレーズ皇子が死んだ。金羊大公ヴィンフリートが死んだ。冥界のアギラルが死んだ。古のアドフィンが死んだ。死体を荒らされ、住処を荒らされた。冒険者として魔物を倒し、財貨を奪ったつもりだったのだろう。

 恐れた。人間を皆殺しにしてやると思った。

 彼らが通ってきた道から、地上と言う世界を知った。戦争が始まった。そしてアルテナの神宝珠の価値を知った。


 (そろそろ戦争を終わらせてもよい頃だ。こちらの被害に見合うだけのものは充分に手に入れた。そもそも最初に遭遇した人間どもは、この大陸の者ではないしな)


 だが現在のガスパールは、ベイル王国攻撃の総司令官でしか無い。

 軍団長の中でも発言権は大きい方だが、よりにもよってバーンハードが死んだタイミングで和平を口にしても笑われるだけだろう。笑いそうな奴に心当たりはある。南を攻めている無敗のグウィード。

 他の軍団の侵攻は、全体としては上手くいっている。

 インサフ帝国の森の戦場を縦横無尽に駆け巡ったのは自分だ。出だしから合わせると、功績の大きさでは他には負けていない。

 だが、大河が、山が、湖が、要塞が、洞窟の古い戦い方に馴染んでいたガスパールを苦しめる。


「とりあえず、北から攻めるか」


 リーランド帝国に攻め込んでいる2人の軍団長のうち1人は、かつての自分の教え子だ。首狩りのイルヴァ。元第4軍団長補佐で部下でもあった。今は新設された第8軍団の軍団長。

 なにもまともに攻める必要はないのだ。要塞を避けてリーランド側からベイル王国を攻めれば良い。目的は要塞ではない。自分には、そのくらいの融通は利く。





 ★人獣戦争勃発時の周辺国地図(数度クリックで拡大します)

挿絵(By みてみん)

<①は第一宝珠都市、②は第二宝珠都市、周辺には第七宝珠都市まで>

あとがき




1巻導入編をお読み頂き誠にありがとうございました。

1巻は大雑把な世界観をご説明する意図で書きました。

本編は2巻からになるのかなと思っております。

ぜひ2巻もお付き合い下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味唯一この戦争の終わらせ方を考えてた獣人と最初に闘うんだものなぁ...ベイル王国は不運やで。
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