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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第二部 第七巻 改革の導き手(11話+エピローグ) 結の章

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エピローグ 改革の導き手★★★

 間近に迫った死を感じながら、この上なく幸せな夢を見ていた。


 余の世話をする者達が、王国の発展を口々に語る。

 給金が増えた、教育の門戸が広がった、商品が増えた、生活が向上した、今はとても幸せだと。


 貴族たちが、瞬く間に発展していく自領を誇らしげに語る。

 治水が整いました、道が整備されました、街並みが綺麗になりました、盗賊が駆逐されましたと。


 ディボー王国の女王と宰相が来訪し、軍事同盟が成立した。

 あのオルランド宰相が、余が中興の祖と呼ばれるでしょうと言いおった。


 孫のアンジェリカが、ひ孫のアリシアを連れて見舞いに来てくれた。

 もう大丈夫です、ありがとうございましたと。


 宰相のフォスターが言い切った。

 私のする事は何も無くなりましたと。


 ……そうか、余は大義を果たせたか。




「今より陛下に、アンジェリカ次期女王陛下がお別れを申し上げる。見届け役のフォスター宰相を除く全ての者、下がれ」

「イルクナー閣下、なにゆえお別れなどと」


 宸襟しんきんが騒がしくなってきた。

 秩序と格式を重んじてきた我が王宮において、このような嵐はアンジェリカの夫であるイルクナーしか起こさぬ。


「既にチェーンストークス呼吸をしておられる。長くとも数日、おそらくはあと数時間。侍従という立場を弁えよ」


 王家に堂々と入り、瞬く間に国を変えた由縁の知れぬ男。

 よもや民草では無かろう。その博識は地方貴族とも思えぬ。

 少なくとも専属の教師が何人も付く上級貴族の子弟か、あるいはインサフ帝国の皇帝ジュラルドの庶子やも知れぬ。


「旦那さま、チェーンストークス呼吸と言うのは何ですか?」

「数十秒から長くて2分ほどの、呼吸停止を伴う深い呼吸と浅い呼吸の周期性呼吸。これが出ると助からない。『最期に会わせたい方をお呼び下さい』と、医者が家族に告げる状態だ。だが陛下の意識はある。アンジェの声は聞こえておられるはずだ」

「治癒魔法では?」

「リーランドの大治癒師でも無理だろう。アンジェ、陛下にお別れを。この日の覚悟はしてきたはずだ」

「……そうでした。陛下、アンジェリカです。わたくしの声は届いておりますか?」


 聞こえておる。


「…………ベイルを…………頼むぞ」


 息が…………はぁ…………辛い……………はぁ……………。


「陛下!」

「ご無理をさせるな。それにお前も妊娠中だ、無理をするな。エドアルド王陛下の最期のお言葉、確かに賜りました。アンジェ、あとはゆっくりお別れを申し上げると良い」

「陛下。未熟なわたくしのために、永くお手を煩わせた事をお詫び申し上げます。わたくしが男児であればここまでのご無理を強いる事も無かったのにと悔やんだ事もございました。せめて第一妃の子であればと、亡き父を恨んだ事もございました」


 …………知っておる。


「ですが、転じて最良となったようです。これはアルテナの意でしょうか。旦那様は宰相として程々に手伝って下さるとの事です。ふふふ、程々がどの程度であるのかは、陛下がお隠れになられた後にどうぞご覧下さいませ」


 良い。よきに計らえ。




 余は、幸せであったな。


 半ばに苦し、最期に幸あるは、満足を得るに最良かもしれぬ。


 苦労しただけ、幸せが重く感じられる。


 後は、よきに計らえ。余はもはや、何も出来ぬ。




 来世は、民でも良い。


 そなたの作る国なら、幸せなのだろう。


 ああ、そうであった。今度はフェルナンに、親孝行してもらおうか。


 アンジェリカ、お前はイルクナー殿と幸せに生きよ……。






 バダンテール歴1263年7月、ベイル王国のエドアルド王が崩御した。

 国王は老年にして病に伏してからも久しく、この日ある事を予見してきた人々に驚きは無かった。

 国政はアンジェリカ次期女王とイルクナー宰相代理とが担って5年近くも経っている。 政治的混乱は皆無で、粛々と行われた国葬の7日後には戴冠式が執り行われた。

 フォスター宰相は宰相位を返上して爵位を上げ、自らの領地へと戻った。代わってイルクナー宰相代理が宰相位を拝命し、同時に王配として女王を全面的に支える事となった。

 かくして王国の新時代がはじまりを告げた。






 エピローグ






 国に10の財や資源があったとする。

 二流以下の政治家たちは、10の財をいかに分配するかを考える。

 上手く分配して民の不満を最小限に留めるのが二流、財を上手く分配できずに民の不満を募らせるのが三流、財を私利私欲で分配するのは政治家ではなく政治屋である。

 では一流の政治家は何をするのかと問われれば、国家が保有する財や資源を増やしてそれを維持しようと図る。


 国家が保有する財を増やす方法はいくつかある。

 獣人帝国が採った方法は侵略と略奪だ。古来より全ての生物が行っている弱肉強食の理に則り、人類に対してそれを行っている。

 リーランド帝国もそれに近く、属国や周囲の国から搾取して本国を繁栄させて来た。

 ディボー王国はオルランド宰相が内務卿時代に国民教育や錬金術の発展を促したが、ガストーネ王はベイル王国からの搾取を行った。


 このような既存の資源を奪う方法ではなく、新たな財を生み出す方法もある。

 国の流通システムを整備し、法律や税制を改め、制度を維持する役人の管理体制を見直し、国民を有為な人材に教育し、経済力を発展させる事。

 新たな技術や産業を生み出して従来の不活用資源を有効活用する事や、風力や水力の様な再生可能エネルギーを用いる事。国の重要度に応じた資源の分配方式を採る事。全てハインツがやって来た事だ。


 (それだけでは足りないけどな)


 ベイル王国とディボー王国が同盟したとは言え、それだけで獣人帝国の脅威に対抗するには不十分だ。

 ディボー王国のオルランド宰相は不世出の政治家だが、もはや現状は彼の才覚を以ってしても覆せない所まで追い詰められている。


 獣人帝国の人口はこれまで160万で、地上に120万と地下に40万であった。

 だが事実上の停戦状態となり、安全かつ広大な領土を獲得した獣人帝国の地上人口が、これから爆発的に増加しない訳が無い。

 何しろ獣人達は宝珠都市が無くても生存して来た上に、今や1000万人規模の宝珠都市を支配下に収めているのだ。

 獣人の人口は120万からやがて180万に、240万に、360万にと世代を経るごとに増えて行くだろう。

 それを成さしめては、人類は滅ぶ。

 ハインツは「獣人帝国が戦線を下げたバダンテール歴1260年から10年間が勝負の時だ」と考えている。


 (これは、俺じゃなきゃ無理だろうな)


 ベイル王宮内に設けられた一室で、豪華な円卓を8人の男が囲んで座していた。

 先ごろ就任した新宰相と、7人しか居ない大臣たち全員である。


「黙祷を終わる」


 ハインツ・イルクナー宰相の言葉によって、7人が顔を上げた。


「では尚書会議を行う。ブラームス国務尚書、進行せよ」

「はい、宰相閣下。ではまずは予算から。エモニエ財務尚書、報告を」

「諸兄、手元の資料に目を通して頂きたい」


 ハインツに代わって進行を始めた国務尚書の指示を受け、まるでマフィアのボスのように微塵も隙のない40台ほどの男が、各尚書に資料へ目を通すように促した。

 それに応じた大臣たちを見て、財務尚書は話を続ける。



 ★ベイル王国新予算表

  挿絵(By みてみん)

 


「見ての通りだ。女王陛下の第二子ご懐妊に伴い、額を抑えた上ではあるが無期限減税となる。施行は1264年1月1日。王家の税の取り分を15%から10%に下げ、貴族家は20%に上げた。治安騎士の給与を下げ、後は上げた。財政は安定した故に、今後の決算報告は4半期あるいは年間でも良いかもしれん。あとは銀行制度の運用が主要都市で開始された。今後は王国中に広げる。財務省からは以上だ」


 エモニエ財務尚書は財務省を取り仕切っているが、彼の報告した予算の配分比率はハインツが直接指示している。

 エモニエだけではない。そもそも国家の重要事項は宰相であるハインツの内諾を得ており、この場は各省が何をやっているかを全大臣が共通理解する場だ。大臣たちは思考錯誤の結論が要約された報告に無言で頷いた。


「ではバウマン軍務尚書、お願いします」

「他言を禁ずる。資料の通り、我が国の現有戦力は既に獣人3個軍団に匹敵する。目標は全ての騎士を大祝福1以上に上げる事だ。採用時の祝福数は随時引き上げる。また40歳以上で大祝福未満の騎士たちは今後一切育成せず、それらを使って治癒師たちを早期育成する。では一旦忘れて頂こう」



 ★ベイル王国騎士の祝福比率表

  挿絵(By みてみん)



 毎回進捗状況を聞き、そして毎回忘れている尚書達に今更の驚きは無い。


「アルドワン法務尚書」

「はい。法務省ではアリシア王女殿下の恩名において『善きベイル人の法』を施行予定です」


 善きベイル人の法とは、ハインツの元の世界に在った『善きサマリア人の法』を基にしたベイル王国の新法だ。

 これは『善意に基づく救助・救命は、その結果を一切処罰しない。さらに救助者が被った不利益は、アリシア・ベイルの名において救済する』というさらに一歩踏み込んだ法律で、民の善意や善行を奨励して意思を無碍にしない為に整備した。

 これはジャポーンには無かった法律だ。


 ジャポーンの法制度には多くの不備があった。

 例えば『善きサマリア人の法』は無く、救命行為で逆に死に至らしめれば罪に問われる事もあった。医療裁判のリスクも高い。また、倒れている人間に手を貸した時点で刑法上の「保護責任者」になり、場合によっては遺棄罪等で罰せられる事もある。そのようなハイリスクな社会では善意の救命行為や道徳心は衰退していく。

 決闘法(メイージ22年12月30日法律第34号)のような1890年代の古い法律がそのまま使い続けられている点を鑑みても、いかに立法府が仕事をしない連中であるか知れようと言うものだ。


 (そんな部分まで真似る必要は無いだろうからな)


 ちなみにアリシア王女名義なのは、法の提案者に子供を使う事で民の善意を促す目的や、法の悪用を避ける意図、王女自らの規範を示して支持を高める狙いなどがある。

 ここでハインツがアルドワン法務尚書に念を押した。


「刑法は引き続き罪刑法定主義を浸透させろ。司法は徹底して行政から独立させろ。裁判は身分を一切問わず公平性を保て。爵位貴族家に関しては俺かアンジェリカ女王陛下が直接判断するが、それ以外の者に融通を利かせる必要は全く無い。王国相手の裁判でもだ」

「畏まりました」

 (信玄公旗掛松事件のように、王国に不利な判決を出せる裁判官が出れば司法の独立が保たれていると見れるだろうけど。ジャポーンは後年の司法試験で、国に有利な判決文を書いた人間だけを裁判官に誘って、不利な判決文を書いた人間は誘わず自動的に弁護士になっていた。地方裁から高裁に出世させる人間も国に有利な判決を出した人間ばかりだった。国民が知らない裏側では国が殆ど負けないシステムだったが……役人は次第に腐っていった。それは避けるべきだな)


「では、バザン経済尚書」

「宰相閣下からご指示のあった都市拡大を前提とした建設局の増強は行いました。都市内整備事業を主にさせておりますが……?」

「それで良い。詳しくは後で俺から説明する」

「畏まりました」


 経済省にはやってもらわなければならない事があり、その為には増強が必要だった。


「次に、アテンシオ技術尚書」

「宰相閣下が中規模の商人たちと縁を結ばれた結果、共通規格制度の浸透は順調です。許可した新技術も良く広がっています。人員も予算も充分。研究所の立ち上げも進んでおります。今のところは以上です」


 技術分野は今後発展の余地が大きい。

 ハインツはその後押しと方向性を示す事が出来るように技術省を格段に強化した。


「では次に、エイムズ教育尚書」

「教育省は、予算を大幅に増やして頂きました。授業料・教材費・文房具・給食費などの全てを女王陛下に依存しないで済みましょう。また、教養局と人道局も恙無く」

「そうか。問題があればお前の判断で随時教えてくれ。後は任せる」

「承知しました。微力を尽くします」


 ジャポーンでトップクラスの冒険者だったハインツは、国家や組織運用に必要な学問を概ね修めている。組織や大きな予算の組み方も、ジャポーンの大半の法律も、先人が選りすぐったジャポーン以外の法律も、実務的な経済学も、錬金術をはじめとした様々な技術も、最新の教育学や心理学も。

 それらの全てには先人の思考錯誤と失敗の過程があり、そして結論があった。

 例えば「ゆとり教育」の総合学習や豊かな心の教育は、2割の落ちこぼれや不良生徒を生み出した「詰め込み教育」からの方針転換で、その詰め込み教育がソレーンのロケット打ち上げ成功で宇宙からのミサイル攻撃の危機感を持ったお米国の理系教育強化方針から産まれた産物だ。

 そのように「何を行うと、どうなる」から「どうしなければならないのか」と言う事をハインツは学んできた。

 国の指導者としての改革のさじ加減は、それらを知っていればこそ行える。


「では最後に国務省から伝える。外務局を用いた国内調査にて暴いた不正役人の処罰件数は、前年度23%増しだ。国の健全化に比例して公権乱用や贈収賄が増えた。ハーヴェ商会に任せていない品目の談合もある。地位ある者ほど重い罪とする事にした。また、錬金術学校出身の役人や新規採用役人のうち都市間移住が可能な2~3割には登用時に組織内偵と密告を任せる事にした。宰相閣下、以上です」


 ベイル王国の内政はほぼ軌道に乗ったと言える。

 どんなに優れた運用システムでも構築だけでは足り得ない。運用する人間を教育し、指導し、監視し、賞し、罰し、正しく適切に導いて行かなければならない。定期的に手を入れてメンテナンスを施す必要があるのは何も樹木や機械に限らないのだ。

 また、それらのノウハウを蓄積して新たなシステムに組み込んでいかなければならない。

 ベイル王国では、その政治体制が概ね整いつつあった。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「よし、では本題に入る。全尚書は、これから告げる内容に関連する各作業を進めよ。これはベイル王国のみならず、周辺国の人類全体の命運を左右する」


 ハインツはとりわけ戦争が好きではない。支配するのもされるのも面倒だ。だが誰かに殺される気も、誰かの奴隷になる気も無い。

 そもそも、なぜ獣人の支配を受け入れられないのか。

 それは人類の視点では一度失った権利を回復するのは極めて困難だからで、ハインツ個人の視点では妻であるベイル女王アンジェリカや宰相である自身が獣人帝国に生かしておかれるとは限らないからだ。多くの不自由も生じるだろう。

 全ての武器を差し出し、犬のように自分の腹を見せて相手の善意に縋るなど、どうぞ自由にして下さいと言うのと同義だ。権利は主張しなければ無いのと変わらない。

 だからハインツは実力を以って権利を主張する。「ベイル王国は獣人に指図されずに自由に生きる」と。「俺と家族に手を出すな」と。


「過日、かねてより建造中であった硬式飛行船の試作1号機が完成した。乗員30名。飛行速度は1都市間を1時間半。輝石燃料の製造機と錬金術師1名を乗せれば、着陸地点での水の補給のみで1ヵ月は飛べる」


 ハインツが実用化した硬式飛行船は、ジャポーンの理論をベースに造り出された。


 船体の浮力を得るのは、赤色の輝石の力を抽出した液体を気化させて発生させた熱で温めた空気だ。

 よって基礎理論は熱気球と称すべきであろう。

 水素は爆発し易く戦場に用いるには不向きで、ヘリウムは手に入らない。ハインツには熱気球しか選択肢が無かった。

 だが赤色の輝石を原料とした液体は燃焼力が大きく、高出力が得られる。採算を度外視すれば、性能だけならばヘリウムよりも優れているのだ。


 これを加工した三重の加工竜革で受けて、熱を逃がさずに船体を浮かせる。

 まず船の形をした船体の直上に、非常に軽くてとても硬い竜骨で骨格を造る。そこに、竜革を万が一にも破れないよう三重に張れば、空気の層を意図的に作る事にもなって温めた空気の熱が外に逃げ難くなる。

 とは言っても逃げ難くなるだけで実際には逃げている。おかげで空気を熱し続けるために輝石の消費がとても早い。

 念の為に、船体の前方と後方にもやや小さめのサブ気嚢を作っている。

 これは万が一にもメイン気嚢が破れた時にサブ気嚢2つを用いて船体を浮かせ続けるためだ。逆にサブ気嚢二つが破れても、メイン気嚢が無事なら船体は浮く。

 最大の課題は積載量と航続距離が反比例する点だろうか。

 重ければ重いほど飛べる距離は短くなるが、だからと言って敵地に送り込む人数や物資を削れば解決する話でもない。



 推進力に関しては二式を用いた。


 一つ目は黄色の輝石を液体に溶かして電気を発生させ、それをモーターに流して動力として回転翼を回す方式だ。

 ジャポーンの小学校で教えるモーターの理論を大規模にしたもので、やはり出力と持続性は反比例する。


 二つ目は緑色の輝石の力を抽出した液体を気化させて発生させる風力で行う緊急加速だ。こちらは船体の後部に取り付けられ、いざという時には戦場から離脱する目的で推進剤として使う。



 だが理論は兎も角として、実際に造るとなるとこれがなかなか難しい。

 気球の優れた点は滑走路が不要な点で、電気式のモーターなので音も殆ど出ず、推進力を切れば無風状態なら滞空が可能な点だ。

 だが着陸は難しく、下手をすると船体が横倒しになる。

 気球のゴンドラが四角形のバスケットなのは、横転し難くするためと衝撃を逃がす事を考えているからだ。

 これを頑丈な竜骨を基礎とした船体で着陸するとしても、乗員が受ける衝撃は大きなものになる。

 モーターなどの基幹部分のみを特別に衝撃吸収構造にする事ならば緩衝材を挟むなどで容易に出来るが、船体全体にそこまでの計算をする事はハインツには出来ない。

 平地の上で浮いたまま錨を降ろすなど手間暇が必要で、着陸訓練も必要だ。

 その他に飛行訓練なども行わなければならない。




「諸君ら7名に詳細な計画を伝える。他に細部を知っている者はアンジェリカ女王、アクス最高司令、ハーヴェ侯爵の3名だけだ。では、この地図を見よ」



 ★地図(ハインツの作戦計画)

  挿絵(By みてみん)



「私の第一目標は、旧ハザノス・ラクマイア両国にある25神宝珠をベイル王国に招き、最大で45宝珠格増やして人口規模を345万人から570万人にまで引き上げ、同時に獣人帝国との間に距離の壁を作る事だ」


 硬式飛行船を用いれば、獣人帝国のあらゆる都市に空から自由に攻め入る事が出来るようになる。

 1隻30人のままでも、100隻造れば3,000人を送り込める。空からの一方的な魔法攻撃も可能だ。

 機体を奪われない限りは模倣される心配も無い。ハインツが用いている気球の技術の理論確立までに、周辺国では最低でも五百年以上が必要だ。

 強さとは、獣人帝国の物理的な力のみに在らず。獣人帝国では五百年かけても技術確立に至れないだろう。


 この作戦によって、ディボー王国も獣人帝国に奪われた国土を容易に回復させる事が出来る。

 またベイル王国とディボー王国で獣人帝国から54宝珠格を奪還する事で、獣人帝国の保有する都市の人口規模を一気に270万人規模も下げる事が出来る。

 獣人帝国軍の戦線を劇的に後退させる事が出来て、距離の壁にも守られるようになる。

 だがこれらは、はじまりに過ぎない。

 政権がハインツの手を離れてもベイル王国がうまく進んで行くように国を改革し、導いておかねばならない。自分と家族の幸福の為ならば、そのくらいの労は惜しまずにやっても良いだろう。


「将来は神宝珠が2つになる都市が増えるだろう。既存の第一宝珠都市に第二宝珠を置くなどして都市を発展させる余地もある。各尚書はそれを念頭に下準備を開始しろ」


 国家の総力を結集して生み出された賽が、時を経てついに世界へ投じられようとしていた。

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