第06話 クーラン王国にて★
クーラン王国。
人口65万人規模で現在はリーランド帝国の属国であるが、この王国の歴史は複雑だ。
★地図(クーラン王国周辺図)
クーラン王国の前身は、人口70万人規模のバズライという王国だった。
バズライ王国は300余年前の人妖戦争時代に、第四宝珠格だった王都バズライが高濃度の瘴気を纏った妖精族の特攻を受け、加護の力を第二宝珠格にまで落とした。
同時期に、第一宝珠都市クレセッラと第一宝珠都市ロコニンも妖精族に攻め滅ぼされている。また、リーランド帝国に属する都市も2都市が滅ぼされた。
その際にバズライ王国に属していた第三宝珠都市クーランを治める貴族が、リーランド帝国の属国になる形で第一宝珠都市イスカールと共にバズライ王国から独立した。
支配下にあった有力都市に独立されたバズライ王国であったが、人妖戦争で戦力の過半を失っており、宝珠格が落ちた為に多くの難民を出しており、リーランド帝国を味方に付けたクーラン王国に対抗する術を持たなかった。
バズライ王国は限界を越える都市民を第二宝珠都市ネアーオムに押し込んだ結果、王国に属していた最後の都市ネアーオムまでも滅ぼしてしまった。
そんな折に人妖戦争で戦死した後に主神となった元騎士ジーオイが元都市ネアーオムに、元騎士フィウムが元都市ロコニンに新たな都市を創り出してくれたのだが、新たな神々の出身地はバズライ王国ではなくクーラン王国とリーランド帝国であった。
「領主権は都市を創り出した神々との由来がある者であるから都市を明け渡せ」と言われても、現在住んでいる国民を宝珠格が落ちて難民で溢れるバズライ王国で引き取る事は出来ない。
そんな事をすれば、第二宝珠都市バズライも早期に滅んでしまう。
決して引けない状況の中で開戦となり、元々滅びかけていた所をひと押しされたバズライ王国は王家ごと滅んでクーラン王国に属する一都市となった。
―――ここまでならば、まだ単純な部類だろう。
だがリーランド帝国は、クーラン王国の東にあって帝国に属さない独立都市群をクーラン王国と東側の属国であるブルーナ王国に侵略させ併呑した。
クーラン王国の国土は独立した2都市と、奪った2都市と、滅ぼした1都市と、侵略支配した4都市とで成り立っている。加えて純然たる独立国では無く、帝国にいくつもある属国の一つだ。
クーラン王国民のアイデンティティ、愛国心や帰属意識は一体どこへ向かえば良いのか。自国の正当性や正義は何処にあるのか。
リーランド帝国にとっては都合の良い資源と、資金と、人材の採取国でしかないクーラン王国で、一体どんな理想を追い求めれば良いのだろうか。
都市アクスを旅立ってから24日目。
都市バズライが見えて来たロラン達は、先行させていた囮隊とジョスランの本隊を合流させた。
ここで改めて指示が出る。14台の馬車の御者台には、御者と一緒になぜか冒険者が座る事となった。
馬車を操れる冒険者が居れば、御者を馬車内に下がらせて冒険者2人組とする。
箱馬車の窓側にも、幌馬車の後ろ側にも、冒険者の数を沢山見せつけるように配置した。ロランは首を傾げながらも、言われたとおりに馬車を操るリュカの隣の御者台に座った。
Ep07-06
都市バズライ周辺では、旧第四宝珠時代の石造りの建物が補修されて殆どそのままの姿で残っていた。
それら建物の窓に視線を向けると、窓際を移動する人影がいくつも見える。
ここが宝珠の加護範囲外であるにも関わらず、人の営みはそのまま続けられていた。
「これは一体、どういう事っすか?」
ロランの常識では、宝珠の加護範囲外で死ねば一般人なら数日でアンデッド化する。
数日以内に首を撥ね飛ばすなど処理をしなければ、瘴気を溜め込んだゾンビに変わって人に襲いかかると言う事だ。
数日の余裕があれば簡単だと思うかもしれない。
だが全ての死体を確認出来るだろうか。一人暮らしの人間が死んでいるケースもあるだろう。
それに加護範囲外には魔物が侵入できる。300余年前ならば、都市にはそれほど大きな防壁も作られていない。
リュークロコッタのような強力な魔物が出れば、容易に一家全滅が起こり得る。加護範囲外で暮らしている時点で、いつ死んでもおかしくない。
ロランは常識と乖離した現実を見て、隣の御者台に座るリュカにそう訊ねた。
「どうもこうも無い。第四宝珠都市バズライ、第二宝珠都市ネアオーム、第二宝珠都市アリシング、人妖戦争時代にはこの都市周辺で40万人が暮らしていた。突然第二宝珠都市バズライのみになったら人はどうすると思う?」
ロランの視界に映る光景は、リュカの問い掛けに対する答えだった。
「加護が残っている都市にみんなで逃げたんすか?」
「北のクーラン王国側に行った民も居たが、元々住んでいた者と逃げて来た者を併せて25万人ほどが都市バズライに集った。加護に限界がある以上、他国に行ったところで受け入れてくれるはずもないしな」
「……そうっすね」
「そして第二宝珠都市の加護範囲に合わせて作り直された防壁によって、都市バズライ内側の10万人と外側の15万人は、加護を得られる者と得られない者とに隔てられた」
加護を得られない外側の民衆によって、大規模な暴動が起こりそうな話であった。
むろんゴネても暴れても、難民が都市に入れてもらえる可能性は皆無だ。
いや、彼らの場合は難民では無くて加護範囲から外れてしまった王国民と言うべきだろうか。
各国の人口は宝珠都市の格と数とで算出するが、正規人口に含まれない難民や加護範囲から外れた者は、どこの国にも多かれ少なかれ存在する。
ロランは300余年も問題を解決できなかったという現実に衝撃を受けたが、近年までベイル王国も非正規人口が数十万人居た事を考えれば他人事とも思えなかった。
「それで、そのまま暮らしてるんすか?」
「もし仮に何も無い平原で15万人が突然暮らし始めれば単なる魔物の餌だが、元々第四宝珠都市だったこの地には既存の石造りの建物が沢山あった。すると魔物が来ても身を守る壁があり少しは保つ」
「なるほど」
「それに加護が無いとは言っても、実際は第二宝珠都市の周囲だから少しは得られる。加護が流れていれば魔物も近寄り難い。水中りも少ないし、作物も多少は育つ」
「理解できました。でも、みんな貧しそうっすね」
ガラガラガラと、ロラン達の乗った馬車の車輪が大街道の上を進んで行く。
ロラン達が彼らを値踏みするように、彼らもロラン達を値踏みしていた。
「稼ぎようが無い。金を持っていれば殺されて、盗まれる」
例外は祝福を得る事だ。と、リュカは呟いた。
「バズライの防壁外側で暮らす者が真っ当に生きるには、祝福を得るしかない。そして金を得るために王都クーランやリーランド帝国に出て行くか、生まれた国が嫌いならば北部連合やベイル王国側に行く」
むろん、真っ当に限らないのならば盗賊の手下になる手もある。
騎士の配下に兵士がいるように、盗賊の側にも当然下っ端がいる。合法的な手段で人並みの暮らしが出来ないのであれば、非合法の手段を取るのは自然の流れだ。
治安改善の手段として取り締まりを厳しくする行為は、発生した問題に対する目先の対処でしかなく根本的解決とはならない。
治安が悪化する要因自体を解決しなければ、新たな盗賊はいつまで経っても出現し続けるだろう。
クーラン王国の場合は、国から無視されている15万人の民を解決しなければならない。
もっともリュカは、この問題に対する解決方法を思い付かない。
祝福45であるリュカが仕官して騎士団長になった所で、何が変えられる訳でもない。
ベイル王国は抱えていた問題を殆ど自力で解決したが、それを成したイルクナー宰相代理に無関係なクーラン王国も何とかしてくれと言うのはおかしな話だ。
それに、クーラン王国はリーランド帝国の属国である。
クーラン王国が貧しい現状で最も利益があるのは、クーラン王国の使い捨てられる労働力を酷使出来て、資源を安く買い叩けて、非正規人口分だけ多い冒険者を招く事が出来るリーランド帝国自身である。帝国にとっては、クーラン王国が貧しい方が良いのだ。
クーラン王国が豊かになれば、帝国の力が削がれる。もし既得権益が脅かされるような事態になれば、帝国も座視する事は無いだろう。
であれば、なおさらどうしようもない。
「第二宝珠都市の防壁外側は、治安騎士の管轄外だから治安が最悪だ。自由行動の時も外側には絶対に出歩くなよ」
「ういっす」
「こんな都市に好んで近付きたい奴はいないから、この先の転生竜も狩られずに沢山いる」
二人がそう話している間に、都市の内側へ入る門が見えて来た。
門は半分閉ざされており、門を守る兵士たちの中には騎士の姿も複数混ざっている。防壁は厚そうで、防壁の上には巡回する兵士の姿がある。
「治安、本当に悪いっすね」
「これでも北のヤイア王国よりはマシだ」
「もっと酷い所もあるんですか」
「もちろんだ。ヤイア王国も帝国の属国だが、王国の特色を3つ挙げろと言われれば、殆どの人間は『マフィア』と『麻薬』と『賭博』を挙げる。一番ひどい都市ムルファン周辺の森は大量の麻薬畑。役人は汚職塗れで、都市自体が既にヤイア王国の管理下には無い」
リーランド帝国自体にも麻薬が入って来て被害が増えた為、一度はヤイア王国の都市であるという建前を無視したリーランド帝国が都市ムルファンに攻め込んだ事もある。
麻薬王カルダーラの補殺に成功したリーランド帝国は撤退し、それ以降マフィアたちは麻薬をヤイア王国外部へ輸出する事を取り止めた。
外部へ流出しなくなった麻薬はそれだけヤイア王国内部に深く広がる事になったのだが、帝国は今度こそヤイア王国が別の国であると言う建前の元に見て見ぬ振りをした。
「ヤイア王国には、噂では地下闘技場もあるぞ」
「闘技場って何すか?」
「賭博で借金を背負った馬鹿と飢えた獣を戦わせる所だ。観客は金を払って武器を買い、投げ込んでやる事も出来る。木の棒とかそういう物ばかりらしく、投げ込んだら盛り上がるらしいが」
「どうにかならないんすか?」
「どうにかなるのなら、ぜひその方法をご教示頂きたいものだ」
リュカは投げ槍にそう言い放つと、門に辿り着いた馬車を静かに停車させた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「責任者の方にお会いしたいのですが」
「お前は誰だ?」
「私どもはアルファーノ商会と申します。馬車の車輪に注す画期的な油を取り扱っておりまして」
「いらん。帰れ」
「責任者の方にお会いしたいのですがね」
「いらんと言った」
「なぜ、いらないので?」
「必要なら買い求めている。だが、買い求めていない。すなわち、いらんのは明らかだ。だから帰れ」
「責任者でもないのに偉そうですねぇ」
「いいから帰れ」
サロモンと押し売りとの睨み合いが続く。どうやら都市内部でも治安はよろしくないようだった。
相手はサロモンに手を出させたら勝ちだとでも思っているのだろう。
あの馬鹿な押し売りが、果たしてこの集団に対する訪問販売は時間の無駄であると理解する頭を持っているのか甚だ疑問である。
あの馬鹿だけではない。荷運びの人間を押し売りに来た馬鹿も居たし、行き先がどこか訊ねてくる馬鹿も居た。
荷物を持ち逃げでもしたいのか、倒して回収しなかった魔物の部位を集めたいのか、儲け話があれば乗っかろうとしているのか、盗賊に網を張らせて襲わせようとでもしているのか。
おかげでロランは外出する気をすっかり無くしてしまった。
1時間ほど外に出れば、襲われる可能性が100%に迫るだろう。スリや置き引きも居るだろうし、もし街中でカバンを開けたら周囲から手が5本くらい伸びてきそうだ。
14台の馬車には都市外と同じ数だけ冒険者の護衛が張り付き、宿内での部屋割りも安全の為になるべく固まる。
都市での安全な休息など出来たものではない。
そもそもこんな都市に来たのが間違いだったとロランは激しく後悔した。もちろん補給の必要があったから寄ったのだが、帰路は絶対にこの都市を素通りして進みたいと思う。
他国に来たのは初めてだったが、治安のレベルは最悪だった。そんな不慣れな旅人は、彼らにとっては絶好のカモなのだろう。
「くそっ、クーラン王国なんて獣人帝国に滅ぼされてしまえば良いのに」
ロランの言葉に、昼の護衛を担当していた冒険者達が苦笑した。
第一隊である昼の護衛19名は、宿に泊まるベルネット商会の職員4名と御者15名の護衛を交代で行っている。
第二隊である夜の護衛18名は、厩舎に停めてある馬車の護衛。
第三隊の7名は全員冒険者なので護衛する必要までは無いが、商会の職員や御者を護衛させるほど役にも立たないので休ませている。
「下働きを連れて来なかった理由が分かりましたよ。守るのも一苦労ですもんね」
「その通りだ。目的地の事情に合わせたパーティを作るのは基本中の基本だぞ。まあ祝福32の俺が、祝福46のお前に言うのもおかしな話だがな」
「いやいや。俺って、ベイル王国の外に出たの初めてなんすよ」
「そうか。祝福数上げに集中できた分、各地を旅した経験が足りないのか。冒険者支援制度の弊害だな」
そう言ったのは、リュークロコッタとの戦闘後に馬車を操っていたエイデンだ。
32と言う祝福数が年齢よりも1つだけ高い彼は、20代前半のスティーグは無論、20代後半のリュカよりも長い冒険者生活を経験している。経験値に結び付く魔物退治の割合がリュカやスティーグよりも少なかった分だけ、その他の経験は多く積んでいる。
「エイデンさんは、冒険者支援制度をどう思いますか?」
「そりゃお前、最高じゃねぇか!」
「否定したのにっ!?」
エイデンは面白そうに笑いながらロランに頷いた。
「だってお前、支援制度ってとんでもないだろ。しかも拡大されていて、今度また変わるそうじゃないか」
「ええと……」
バダンテール歴1259年に始まった冒険者支援制度は、当初こそイルクナー宰相代理が個人的に行う支援だったものの、大きな成果が出た後は正式な国の支援制度として確立された。
軍務省に冒険者局という新たな担当局が発足し、人口5万人に対して月に20万G以上もの直接支援予算が組まれている。残りは不足が無いようにする予備費と依頼料の補てんや冒険者協会自体への支援など、冒険者が活動し易いように調整する金だ。
人口5万人に対する冒険者の割合は250人。
冒険者が祝福を得てから寿命もしくは戦死するまでの平均余命を仮に25年のサイクルだとするならば、1年間に5万人の都市で誕生する新たな冒険者は250人÷25年で10人と言う計算になる。
年間240万Gを10人で割れば、1人の新人冒険者に対して24万Gもの支援だ。
支援は拡大し続けており、3ヵ月後のバダンテール歴1263年4月からは発足時と比べてこのように変わる予定だ。
・制度変更
『王都で受けられる』 ⇒ 『各自の登録都市で受けられる』
・支援内容
『王国騎士装備一式の貸与』 ⇒ 『職業別装備一式の供与(2万G相当)』
⇒ new『能力上昇の輝石3個(15万G相当)』
『冒険者用鞄と中身5000G相当』 ⇒ 『冒険者鞄と中身1万G相当』
『冒険者基礎知識・地理と地図・魔物図鑑・植物図鑑・応急手当。計5冊』
⇒ 『冒険者応用知識・風土と風習・魔物図鑑2・植物図鑑2。追加4冊』
『王国からの支援金5000G』 ⇒ 『王国からの支援金1万G』
『加盟宿屋の無料宿泊券90日分』 ⇒ 『180日分(5000G相当)』
『都市間の片道馬車乗車券20枚』 ⇒ ※廃止(護衛してみろとの意味)
『祝福6まで受けられる経験値上げ支援』 ⇒ 『祝福9まで受けられる』
『王国から各冒険者協会宛の新規冒険者支援依頼書』
合計19万5000G+書籍代+ベテラン冒険者の人件費などである。
特に最大3つまで身体に重ねて効果が得られる能力上昇の輝石効果は大きい。
例えば、分かり易く数値化すればこのように考える事が出来る。
祝福10の戦士の基礎攻撃力=110
持っている武器の追加攻撃力= 60
合計170
祝福20の戦士の基礎攻撃力=170
持っている武器の追加攻撃力= 60
合計230
戦士系の一般冒険者は、祝福が1上がるごとに攻撃力が6ほど上がる。
ここで彼らに5万G相当の輝石を3つ渡してみる。
祝福10の戦士の基礎攻撃力=110
持っている武器の追加攻撃力= 60
力が上がる赤色の輝石3個分= 60
合計230
祝福20の戦士の基礎攻撃力=170
持っている武器の追加攻撃力= 60
力が上がる赤色の輝石3個分= 60
合計290
輝石を装備する事により、本来に比べて祝福10ほど高い攻撃力を得られる訳だ。
祝福1の冒険者なら、輝石3つの装備でいきなり祝福11の攻撃力を持つ。祝福10の冒険者なら、輝石3つ装備でいきなり祝福20の攻撃力となる。
赤色の輝石で生命力や防御力、敏捷や魔法抵抗力が上がる訳では無いので過信は禁物だが、輝石3つが有るのと無いのでは祝福を上げる速度がまるで違う。
もちろん生命力や防御力などを上げる輝石もあるので、探索者ら他の職業もそれぞれが欲する輝石を自由に3個得る事が出来る。
それだけの輝石を一体どこから集めて来たのかと言うと、ベイル王国騎士団による国内の竜大量討伐だ。
輝石を集めるだけ集めて騎士団に配り、余った低性能品や騎士のお古が冒険者局に払い下げられて新人冒険者の元へと回って来た。
それらの輝石を払い下げて得られた軍の追加資金は、騎士たちのさらなる強化に費やされている。現在のベイル王国騎士の標準装備は、ロランの装備に全く劣らない。
だが新人冒険者たちに割り振られている予算20万G自体も、庶民が10年以上働いてようやく稼ぐ大金だ。
このような国は、史上類を見ない。
「こんな感じになるんでしたっけ?」
「ひでぇ、あまりにもひでぇ……」
エイデンの隣で聞いていたレナートが、次の冒険者支援制度を聞いて呆れて呟いた。
レナートは19歳で祝福24の戦士だ。リュークロコッタから馬を守って軽傷を負い、エイデンと交代してもらった。そんなレナートも冒険者支援制度を受ける事が出来て、祝福が一気に上がった若手冒険者の一人だ。
だが恩恵に浴した若手冒険者の目から見ても、4月からの新支援制度はいくらなんでもやり過ぎだと感じる。
なぜなら冒険者全体の3分の1以上を占める祝福10未満の冒険者が、新支援制度によってベイル王国には存在しなくなってしまう。
ベイル王国の冒険開始は、ゴブリン程度をアッサリと斬り伏せられる祝福数と高性能装備からとなる訳だ。
レナートの茫然とした呟きを聞いたエイデンが言い返した。
「俺も、お前らが支援制度を受けた時には『ひでぇ』と思ったぞ。特に経験値上げの支援だな。引退冒険者という埋もれた人材の有効活用だと思えば良いんだが」
「いや、やり過ぎだろう」
「おう、やり過ぎだ」
「どっちだよ」
「どっちもだ。大祝福2の冒険者を作るにはこれが一番手っ取り早い。ロランみたいな奴が何十人も居て、みんな揃って大祝福2になれば、獣人帝国も迂闊には攻め込めない。これは王国の政策として正しい。嫌なら代案を示す事だ。結果責任も取れよ」
「……そんな事は分かってるけどさ」
クーラン王国が無策だとすれば、ベイル王国は奇策と言うべきだろうか。常人ならそんな発想には至らない。
真っ当な政策は近年のディボー王国を参考にした方が良くて、悪辣な政策ならばリーランド帝国の右に出る者はいない。
「魔物も次々と払われて、街道の治安も向上して行く。だが、やり過ぎと言うのもまた事実だ。支援を受けられなかった冒険者は激しく嫉妬しているだろうな。若者を育てるのは歳を喰った奴を育てるよりも遥かに効果的だが、公平な分配からはかけ離れている」
「そうだろうとも」
「だが、俺はそれで良いと思っている。金を撒き上げて、面倒を押し付けて、若者の未来を潰し、その結果そいつは今後の社会に何を齎すのか。世代間の労が均一で無ければならないなど、国が向上していないのと同義だ。若者の労が増えれば、なお悪い。お前らは俺達を乗り越えていけ」
「エイデンさんも、まだ31歳でしょうに」
「ふはははっ。俺はあと10年くらいさ。40代になってくると体力が相当落ちるらしいぞ。いや、今回上手く行けば竜核が手に入るがな。なぁロラン」
「ういっす」
ロランはスティーグやサロモンたちベテラン冒険者を今回の依頼に勧誘した側なので契約内容を熟知している。
ジョスランが出した条件の一つとして、倒した竜の竜核、あるいは現地で拾った竜の竜核はその冒険者が報酬として貰う事が出来る。
今回のエイデンのメインの狙いはそれだった。分配順位は大祝福以上の冒険者たちの中では低いが、そもそも一人では絶対に手に入れられない。
「下位竜の1格が相手でも10等級の3年か、9等級の9年。2格なら8等級の18年か、7等級の30年」
「7等級の30年を手に入れて使い切って、1ランク落ちて8等級になったとしても、嵌め続ける事が出来れば次も18年保ちますしね」
「エネルギーを使い切ると、竜核が再びエネルギーを溜めて再構成する際の変容が激し過ぎて身体に合わない事もある。今市場に出ているのは、ランクが落ちた時に身体に合わなくなった奴らが優雅な余生を暮らす為に放出した金稼ぎのお古だ」
7等級なら、持ち主が最大で4人になる計算だ。
大祝福1を越える冒険者ならば、転姿停滞の指輪自体を手に入れる事自体はさほど難しく無い。だが冒険者たる者、どうせならばなるべく良いものを手に入れたい。
後は金になる。
最低の指輪でも新しい家一軒を建てて充分なおつりがくるだろう。
「俺も手に入れたいですね」
「最低でも大祝福になってからだ。最弱の転生竜でも大祝福1以上の強さだからな。身の丈に合った活動が長生きの秘訣だ」
死に易い冒険者生活で15年以上を生き延びたエイデンの有り難いお言葉に、レナートは渋い顔で頷いた。




























