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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第二部 第七巻 改革の導き手(11話+エピローグ) 結の章

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第03話 冒険者協会にて

 冒険者協会。

 設立目的は、冒険者への支援である。

 国家からは独立し、独立採算制にて運営されている。

 主な活動は『冒険者登録証の発行』『冒険者登録証の更新』『依頼の仲介』である。

 依頼の仲介は依頼者と冒険者の双方に大きなメリットがある。



 依頼者側のメリットは、冒険者協会が冒険者に代わって補償を行ってくれる点だ。

 具体的には『依頼を受けた冒険者が仕事を失敗』した場合に、冒険者を斡旋した冒険者協会は『もっと腕の良い冒険者を最初の依頼金額で手配』してくれる。むろん失敗した冒険者には、冒険者協会が肩代わりした失敗に関わる損失補填が求められる。

 冒険者に起因して発生した各種トラブルには迅速かつ丁寧に対応してくれるし、冒険者が依頼者の財物を持ち逃げしたような場合には手配書まで出る。


 冒険者側のメリットは、冒険者協会に先払いで依頼料が支払われる点だ。

 依頼者は依頼料を踏み倒す事が出来ない。また、依頼者が言いがかりを付けて値切っても冒険者協会が適切に対処してくれる。

 そしてトラブルを起こした依頼者とその関係者からの依頼を冒険者協会は二度と受けない。よって冒険者は、過去にトラブルを起こした事が無い依頼者からしか仕事を受けずに済む。

 依頼金の1割を手数料に取られるとしても、トラブルに対する保険だと思えば格安だ。



 すなわち、仕事を請け負う弱い立場の冒険者たちが作る労働組合のような組織が冒険者協会である。冒険者協会はあくまで冒険者の為の組織なのだ。

 冒険者は冒険者登録証を持っている時点で協会に入っている事と同義なので、加盟率は祝福を得たばかりで登録をしていない冒険者を除くと100%に近い。

 冒険者協会にはあらゆる分野の冒険者が揃っており、冒険者へ出したい依頼の大半は冒険者協会に持ち込まれる。






 Ep07-03






「おお、また依頼を貼り付ける板が増えてる」


 ロランが立ち寄った冒険者協会は、ロランが冒険者になって都市アクスへ到着してから程無くして広い建物へと移転した。

 そんな拡大したはずの1階の壁には様々な依頼が系統別に所狭しと張り巡らされており、それではとても足りないからと衝立まで立ててそこにも依頼内容を掲示している。

 貼り紙の右下には番号札があり、それを持って受付に行けば依頼を受けられると言うシステムだ。番号札は依頼を受けて欲しい人数分用意されており、もし番号札が無ければ誰かが依頼を受けている最中と言う事になる。

 内容に関しては、指定素材の採取、物資の調達、運搬、馬車や要人の護衛、施設の警備、魔物の討伐、捜索依頼や作業補助まで幅広い依頼が出ている。

 依頼主に関しては、ベイル王国、アクス侯爵家、ハーヴェ商会、他の貴族家、公的機関、大商人、商会や商店、建築現場、都市民など幅広い層から出ている。


 これらは全て冒険者協会が受理した依頼だ。

 事前に受理出来ないとして却下された依頼も沢山あり、不受理の要件は『依頼金額が一定額に満たない』、『依頼金が依頼内容に見合わない』、『依頼の期限が非現実的』、『依頼内容が非現実的』、『依頼が王国法違反』、『依頼が公序良俗に反する』、『依頼が協会の規則に反する』、『依頼主が先払いを拒否』、『依頼主の身元が不明瞭』、『依頼内容が不透明』、など様々な理由がある。

 だが逆に考えるならば、冒険者協会を通して受ける依頼ならば先に挙げた問題は全て回避できる事になる。


 依頼主たちの話を聞いて依頼を受理するかどうか判断するのは、協会に所属する職員の中でも元冒険者としてそれなりの種類の依頼を受け、相応の経験を積んできたベテランたちである。

 彼らは冒険者を引退して都市に定住し、糧を得る手段として冒険者協会で働く事を選択した者たちだ。

 一般冒険者が知っておくべき事の大半は当然知っているし、依頼者には2人1組で応対し、かつ不明点があれば受理せずに周囲の同僚や大祝福を得ている上司に確認する程度の能力を持っている。

 そして彼らが依頼を受理する基準は、基本的には『自分達が達成出来るであろう依頼』なのでこの辺でトラブルが起こる事はまず無い。


 一方、冒険者達が依頼の紙を剥がして受注する為のカウンターには非冒険者の一般職員が座っている。

 定められた事務手続きをするだけの場に冒険者を座らせる必要はないし、それは人的資源の浪費である。雇用費だって馬鹿にならない。

 どうせなら若くて人件費が安く済む子を座らせる方が良くて、寿退職で定期的に人員が入れ替わればさらに良い。

 その際には容姿も大事である。受付には美人というのは冒険者協会長の趣味などではなく、商売の常識なのだ。



「なになに、アミルラージ退治?」



 依頼主  ベイル王国 経済省 農耕局 アクス支部長

 依頼内容 都市アクス周辺のアミルラージ討伐

 期 限  バダンテール歴1263年3月末

 報 酬  2フィート以上の角 200G(成獣のオス)

     1フィート以上の角 100G(成獣のメス)

 それ以下の角     50G(生まれて1年未満の子供)

 その他  討伐対象は以下の通りとする。

 ・都市アクス周辺のアミルラージ

 討伐証明は以下の通りとする。

 ・アミルラージの角を経済省農耕局の窓口に引き渡す。

 報酬の受取は以下の通りとする。

 ・アミルラージの角と引き換えで現金払い。



 アミルラージとは、成獣で体長70cmほどの巨大兎である。

 他の生物に例えるならば超大型犬のセント・バーナードが65~90cmなので、アミルラージは大体それくらいの大きさがある。

 その最大の特徴として、額に1本の長い角が生えている。アミルラージは角で獲物を突き殺して喰らう事もある危険な動物である。

 彼らは魔物ではなく瘴気を纏っていないので、都市の加護範囲内にも平気で入り込む。

 アミルラージの天敵は様々な魔物だが、魔物たちは都市の加護範囲内に入れないので、人の手で駆除しなければアミルラージは増える一方だ。なにしろ早くて半年に1回、3~6羽ほどを出産してどんどん増える。

 成獣の大まかな強さはオスが祝福8で、メスが祝福5。十数羽ごとに群れを作って生活しており、数十匹で暮らすゴブリンの群れに比べれば少しマシ程度の厄介な連中だ。


 祝福が上がらないアミルラージを狩る利点は、食用として美味かつ毛皮が売れる点だろうか。

 肉質や毛皮によってオスは約100G、メスは約200Gの高値が付く。これを報酬と合わせれば1羽300Gにもなり、それだけで庶民の稼ぎ6日分のゲルテを得る事が出来る。

 もっとも、身体が大きい分だけ運ぶのが手間で2羽以上を同時に運ぶのは辛い。売る為に狩る冒険者は中々いないので、持ち運びの楽な角だけに限定して国や都市が依頼を出している次第である。

 ちなみになぜ角で金を出してもらえるかと言うと、アミルラージは角さえ切ってしまえば攻撃手段の大半を失い、同時に攻撃性も薄れて脅威ではなくなるからだ。


「アミルラージは、定期的に駆除しておかないといけないからな」


 冒険者の一人が、依頼書を眺めるロランに真横からそう話しかけて来た。 ドリー事件の際に追跡隊として組んだ多くの仲間達の一人だ。

 冒険者は人口200人に1人の割合なので、いくら都市アクスが人口25万人の大都市とは言っても活動している冒険者の数は1,000人を越える程度だ。同じ都市で3年も活動していれば、そのうち何割かの顔は覚えてしまう。

 話しかけて来た冒険者の名前はスティーグ。

 フルネームまでは流石に覚えていないが、祝福37の探索者戦闘系で未だに20代前半だ。短期間にそこまで駆け上がった有能な冒険者であり、祝福数を上げるペースは大祝福を越えて落ちるどころか、むしろ次第に上がっている。

 精悍な顔つきに鋭い目つきで、茶色がかった黒髪を伸ばして後ろで一つに束ね、依頼書の貼り紙をじろりと眺めていた。


「スティーグさん、ちーっす」

「おう」


 スティーグは挨拶を返すと、再び依頼書を眺め始めた。

 ロランが改めて討伐依頼のボードを見渡すと、新人向けの低級な依頼ばかりが並んでいる。スティーグの様に大祝福を得た上級者向けの依頼はもう少し離れた場所だ。


「スティーグさん、ウサギ狩りっすか?」

「いや、そこまで金に困ってはいないさ。それにアミルラージは魔物ではないから、どんなに倒しても祝福がまるで上がらないしな」

「んじゃ、何見てるんスか?」

「情報収集だ。冒険者に出される依頼書を見ておけば、どこにどんな魔物が出現しているのかが分かる。すると付近の生態系がどう変化するのか予測が立てられるし、流通にどんな影響が出るのか、値上がりする品は何なのか、次にどんな依頼が出てくるのかが分かる。冒険者協会は情報の宝庫だぞ」

「ほほぉ」


 そう言われてロランは納得した。

 スティーグの様なベテラン冒険者は、それぞれが冒険者活動のスタイルのようなものを確立させている。

 ロランが真似をしても未来に発生するであろう依頼まで予想するのは困難だが、何もしないよりは依頼を意識して見た方が為になりそうだ。


「他にも顔繋ぎや、都市で活動中の冒険者の情報も収集出来る。冒険者支援制度を受けた冒険者はあまり苦労しないから、こういう技術が中々身に付かない」

「耳が痛いっすね」

「お前は例外だ。ハゲの乱で都市中を駆け回って苦労していたのは知っている。そして解決した」

「どうも」


 スティーグはロランの事もよく観察していたようだった。


「これまで冒険者は10人中9人近くが大祝福に届かなかったが、支援制度を受けた連中は下手をするといずれ10人中4~5人が大祝福に届くかもしれない。ベイル王国のみで、獣人帝国に戦力で匹敵する可能性がある」

「じゃあ、結局は支援制度も悪くないって事っすか?」

「そうだな。祝福だけ高い奴が多くても、本当の技量が身に付いている奴がそいつらを指揮すれば大丈夫だろう。全体が底上げされても、その中で伸びていくのは結局技量のある奴だ。意外に何とかなるかもしれん。頑張れよ」

「俺っすか?」


 どうやらスティーグはロランに期待しているようだったが、期待される理由がまったく分からずに困惑したロランは彼にその理由を問い正した。


「ロラン、『私は一頭の羊に率いられたライオンの群れを恐れない。しかし一頭のライオンに率いられた羊の群れを恐れる』って言う話の続きを知っているか?」

「ええと、『であればライオンに率いられたライオンの群れは最強だ。軍指導者の役割は、ライオンの群れを作って優秀なライオンに指揮を委ねる事にある』でしたっけ」

「冒険者心得書はちゃんと読んでいたな。優秀なライオンに必要なのは、同期であるライオンの中で頭一つ飛び抜けた能力だ。いつの時代でも新人は酷いものだが、お前は今のところ間違いなく頭一つは飛び抜けているぞ。どうせなら2つばかり飛び抜けて、大祝福2を狙ってみろ」

「大祝福2っすか」

「17歳で祝福46なら、祝福を1年に2つずつ上げても24歳で行けるな」

「いや、都市アクス周辺にひしめいていた魔物の群れがついに駆逐されてしまったので、もう一気に上げるのは無理っす」

「のんびりしていると追い抜くぞ。ああ、もし良かったら大祝福2同士になった後、サロモンやリリヤとパーティを組んで中位転生竜狩りで各地を回るか。各地の大山脈には、手付かずの連中が一杯いるだろう」

「それも良いっすね」

「よし、楽しみにしている」


 スティーグはそう言ったが、そんな未来は来ないだろうとロランは考えている。

 現在祝福49のサロモンが祝福50に上がったら、二人は結婚してリリヤは冒険者を引退する。

 今後の二人の活動拠点は、サロモンの故郷である第二宝珠都市ベルセラになるらしい。おまけにサロモンは冒険者協会で働くらしいので、そうなれば今後パーティを組む機会は無くなるだろう。


 二人が結婚するのは時間の問題だったが、結婚の切っ掛けはスティーグが言った転生竜が落とした竜核だ。

 ベイル王国の中位竜討伐に付き合ってディアナ侯女らとパーティを組んでいた時に、大量に倒した下位竜から組んでいた2パーティ12名全員に配れるほどの竜核が手に入った。

 サロモン、リリヤ、ロランは質を優先して30年保てる竜核を1個ずつ貰った。

 ロランはレナエル用にあと1つは絶対に欲しいが、サロモンとリリヤの二人はお互いに手に入れた竜核を指輪にして交換して結婚を決めたのだ。


 (リリヤさんが祝福44で止まるのは惜しいけどなぁ)


 祝福45以上で騎士団長級、40以上なら副団長級だ。

 仮にリリヤが気まぐれで副収入を得ようと思って冒険者協会で働くとしても、祝福を1つ上げておくか否かは待遇や給与にかなり影響する。むろん働かなくても、元冒険者に対する世間の評価基準は分かり易い祝福数に大きく左右される。

 転姿停滞の指輪を嵌めれば祝福数が上がらなくなるので、ロランは惜しいと思った次第だ。

 いや、惜しいと考えるならサロモンもリリヤも大祝福2に成り得る人材だった。

 だが二人の幸せは、大祝福2を得る事には無かった。そんな二人は最後までロランに様々な考え方を教えてくれた。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「あのー、すみません」


 ロランとスティーグの雑談の後ろから、やや遠慮勝ちに声が掛けられた。


「はへ?」

「ん、どうした」


 二人が振り返った先には、旧騎士装備を身に纏った新人冒険者が立っていた。

 年齢は14~15歳くらいだろうか。まだ幼い顔つきに余裕の無い不慣れな表情が見てとれる。

 そしてアミルラージの依頼書とロランの身体とを交互に見ていた。


「あっ、俺が邪魔だったか。悪い悪い」


 ロランとスティーグがアミルラージ討伐依頼書の前から移動すると、その冒険者は依頼書の番号札を3つ手にとって素早く仲間の元に駆け寄っていった。


「おいルーカス、番号札はパーティに付き1枚で良いんじゃ無かったか?」

「えっ、どうだったかな。冒険者心得書に書いてあったっけ」

「うっ、アラディンは知っているか?」

「俺が知ってたら、とっくにお前らに言ってるさ」


 3人の新人たちは3枚の番号札を前に混乱しているようだった。

 それを見ていたスティーグが彼らに声を掛けた。


「お前ら、人数指定の無い依頼はパーティにつき1枚で良いぞ」

「あ、どうもです。ほらルーカス、俺の言った通りだろ」

「分かったって。2枚返してくるわ」


 ロランとスティーグの所に戻って来たルーカスと言う冒険者を眺めていたスティーグは、わざとらしくロランに大声で声をかけた。


「おいロラン、アミルラージは体当たりと連携攻撃が強力だったか」

「ういっす。『魔物図鑑』には、獲物を体当たりで転ばせて、転んだ獲物を仲間が角で刺すって書いてありました。十数匹で群れてるんで、騎士装備を身に付けていても祝福10以下なら6人のフルパーティが必要じゃないっすかね」


 ロランはスティーグの意図を汲み取り、丁寧に基礎を解説した。


「ほう。すると仮に3人くらいで行くと、どうなるんだ?」

「1~2人は、転ばされたところで騎士鎧に守られていない頭や喉に角が突き刺さって死ぬか、太腿に突き刺さって出血多量で死ぬかもしれないっすね」

「無謀だな。だが、どうしても戦わなければならない場合はどうする」

「仲間増やしたらどうっすかね。どうせ獲物は沢山いますし、パーティの人数が増えても分け前は減らないでしょう」

「大体正解だな」

「満点には何が足り無かったですかね」

「アミルラージの角を受けて折る専用の盾がある。不利になった時には、商人が使っているアミルラージを追い払う鳥臭の香水を撒く手もある。最近の新人は工夫が足りん……年寄りの愚痴っぽかったか?」


 スティーグはロランではなく、ルーカスと呼ばれた新人の方を見てそう訊ねた。


「いえ、参考になりました」

「おう。支援制度で生活には困って無いだろ。無茶するなよ」


 ルーカスが理解して礼を言うと、変化した未来が見えたスティーグは用が済んだとばかりに颯爽と立ち去った。

 お説教をした相手が長居をすると、された側は居たたまれない。彼はそれを配慮してすぐに去ったのだ。

 本来はスティーグのような者をベテラン冒険者と呼ぶ。

 スティーグに出遅れたロランは、肩をすくめてルーカス達から離れた。向かう先はスティーグが移動した場所だ。

 そもそも今日のロランは冒険者協会に依頼を受けに来たのではなく、冒険者協会に居るベテラン冒険者達に直接依頼を出しに来たのだ。

 もちろんロランにとっては、アミルラージなど半日で片付けて来れる雑魚だ。

 だがここでロランが彼らに手を貸してしまっては、彼らが自分たちで試行錯誤して成長する機会を奪ってしまう。

 彼らに先んじて先輩冒険者たちから教わったロランも、それが分かる程度には成長していた。

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