エピローグ
まだ日は浅く、学園へと登校するには早い時間帯。一人の男子生徒が、女子寮の下で懸命に何かを確認しようとしていた。
客観的に見ると、なんらかの犯罪を企んでいるのではないかと、誤解してしまうかもしれない。
そんなあやしい男に、気配を感じさせない卓越した足さばきで近寄る人影があった。
「朝っぱらから、こんなところで何をしているのだ」
「うっ…………」
男は振り返る。そして、一安心した。
「なんだ、茉莉か」
「そういう君は、瑠璃じゃないか」
お互いがお互いを見て、ここで何をしているのか、という疑惑に満ちてゆく。
「僕はこの女子寮に住んでるいるのだから、ここにいても何ら不思議はないぞ」
「……そうですよねー」
「しかし、こんな朝早くに何をしているのか、と、問われれば君と同じなのだろうな」
視線を上へと向ける。向けた先には樋口鴎が住む部屋があるのだが、当然、下から見えるほどにやわな作りにはなっていない。
「周防あやめは向かったのだろう?」
「あぁ」
「なら、心配は無用だろう。万事、君の思惑通りに事が運んだのだからな」
「……そうだと、いいけどな。それよりも、初めてレメシスと向き合った感想はどうだ?」
千草茉莉は、今回が仕事に参加したのが初めてだった。
「別に、これといったものはない。兄上たちには何も言われなかったのでな。して当然、といったところなのだろう」
参加した理由は、彼女の持つレメシスが、日本刀の形をしている、という理由だった。他の兄弟が所有しているレメシスと違って、死への恐怖を具体的に感じ取れるから、より効果的に心理的なダメージを与えられるだろう、ということだ。
「そうなのか? おれからすれば大したもんだと思ったけどな。あの気迫は、正直言っておれも刺されるんじゃないかと思った」
「そういう……」
茉莉にとっては、仕事の具体的な評価は関係無かった。彼女は、メルに言われたことを着実に実行しろ、と兄に言われ、実際にそうした。
それは彼女の兄弟にとっては当然のことであり、褒められることではない。堅実に任務を遂行することは義務だからだ。
「いや、ありがとう。その気持ちは素直に受け取っておこう」
「……まぁ、褒めたというよりは呆れてるだけだからな? あんまり勘違いするなよ」
瑠璃は似合わないことをしたと猛省し、振り返った。とりあえず、彼の受講している授業は午後からであるため、惰眠を貪ろうと考えていた。
「どこに行くのだ?」
「帰る。司書室で寝る」
「どうせなら今日は、僕と一緒に授業でもでないか?」
「人の話を聞け。おれは帰るって言ったんだぞ。誰も必要のない授業に出るなんて……」
「古典は良いぞ~。日本の古き良き文化を学べる、絶好の機会なのだからな。じゃ、少しここで待つのだぞ」
茉莉は人の話を聞かず、自分の要望だけを無理やりこぎつけた。
「……はぁ」
瑠璃はため息を吐きつつも、仕方なく、茉莉に付き合ってやることにしたのだった。
結局二人は、仲良く二人で登校する周防あやめと樋口鴎の姿を見届けることはなかった。
『ちょっとしたあとがき』
螺旋図書館42階司書室にて、第二作品をご覧になっていただき誠にありがとうございます。このような駄文に目を通して感無量です。
さて一つ謝ることがございます。もしかしたら、前回乗せていた第二部を見た方がいらっしゃるかもしれませんが、あれは、その……夢です。こちらが正式な続きとなっております、ご了承ください。
次回については、一応案がありますが、とりあえず未定ということで。まったりと、超不定期で更新していきます。更新するときは、今回同様、話がひと段落するところまで進めるのでご容赦していただけると幸いです。
では、またの機会がございましたら、読んでていただけると幸いです。
追記
続きは、螺旋図書館42階司書室にて(連載中)で、書いております。