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はじまりは、図書室。  作者: 虹色
『運命のひと。』
46/95

3  7月24日(木) 計画進行中!


わたしの練った計画はとてもシンプルなもの。

そして、部活と恋の両方にプラスになるはず。


ボランティア部の文化祭の出し物として、おはなし会を承認させる。

その指導者として、雪見さんに協力してもらう。

それを通して雪見さんと仲良くなる。


完璧、だと思った。

ボラ部の活動なら、部長であるわたしが雪見さんとの連絡役になれる。

それに、図書委員の仕事がない夏休み中にも、用事を作って雪見さんに会うことができる!


こういうときに、普段の態度がものを言うのだ。

真面目でしっかり者のわたしに下心があるなんて、誰も思わないはず。


というわけで、まずは雪見さんに、ボラ部でもおはなし会をやれるかどうか、やるときは教えてもらえるかどうか訊いてみた。

ボラ部の意見がまとまっても、雪見さんに断られたら意味がないから。

雪見さんはいつもの笑顔で快くOKしてくれた。

そして次のボラ部の活動日には(月・木の週二回しかない)、文化祭の出し物として提案した。


ボラ部の文化祭は毎年地味で、写真による施設訪問の報告だけだった。

そういうものはどうしてもお客さんが集まらなくて、みんなあまり乗り気ではなかった。

だから、お客さんを集めて自分たちの練習の成果を発表する、というおはなし会に反対する部員はいなかった。


もちろん、それは予想通り。


意外だったのは、1年生が雪見さんを知っていたこと。

情報の授業で、全クラスが雪見さんの話を聞いたそうだ。


「あの大きくて優しそうな人ですよね?」


1年生の橋本さんが言った。


「うん、そうだよ。」


と答えながら、彼女の好意的な感想に警戒心を抱いてしまう。

自分がこんな嫉妬心(それとも独占欲?)を持っているなんて、今まで気付かなかった。

けれど、1年生たちの評価で、雪見さんを知らない2年生も安心し、教えてもらうことに同意してくれた。


文化祭の話はその日のうちに進み、各自が参考資料を読んでみることになった。

終了後、活動日誌を顧問の児玉先生に持って行くと、わたしたちの手際の良さに驚いていた。


こうして順調にわたしの計画は動き出した。

もちろん、誰もわたしの最終目標は知らない。




そして、今日。


夏休みに入り、部活の時間がたっぷりとれることになったので、雪見さんにおはなし会を実演してもらうことになっている。


このおはなし会は、べつにボラ部のために雪見さんが練習したわけではない。

3年生の2つのクラスで頼まれてやったものを、わたしたちにも見せてもらうことにしたのだ。

引退したボラ部の先輩の一人が片方のクラスにいて、会ったときに「面白かったんだよ〜。」と教えてくれたのはラッキーだった。

わたしがそれを見逃すはずはなく、早速、次の部活で「見たくない?」とみんなを焚き付けて、すぐに雪見さんに頼みに行った。


もちろん、ボラ部に必要だというのは本当のこと。

だって、部員それぞれに本を読んで研究はしているけれど、誰も実際におはなし会というものを見てはいないのだ。

だから、わたしたちの頼みには根拠があった。

それに校内ではほかに誰もできる人がいないのだから、雪見さんはOKするしかないということも分かっていた。


というわけで今日の11時に、ボラ部の活動場所である被服室に雪見さんが来てくれる。

30分程度の実演のあと、そのまま質問時間をとって、わたしたちの相談に乗ってくれる予定 ――― なんだけど。


ここがわたしの腕の見せ所。


うちの部は女子ばかり10人。

たった10人とは言え、女子高生の集団に若い男の人が入るとどうなるか。


その人がどういうタイプかによるけれど、相手にされないか、興味の(または、からかいの)対象になるか、だ。


雪見さんは後者だ、というのがわたしの勘。

すでに図書室でも何度かそういう場面を見ているし。

わたしはこれを利用して、雪見さんの個人的な情報を聞き出そうと思っている。

個人的な情報 ――― つまり、趣味とか、お誕生日とか、彼女がいるのかとか、まあいろいろ。


わたしが直接訊くわけじゃない。

部員たちが質問するのを、わたしは聞いているだけでいい。

1対1で質問されてもはぐらかしたり断ったりすることはできるだろうけど、女子高生の集団に囲まれたら簡単には逃げられない。

たぶん、雪見さんのようにふんわりした雰囲気の人はなおさら。


すでに何日か前から、部員の興味は煽ってある。

それに乗った部員から、雪見さんがダイエット中だという情報も入って来た。

保健室で毎日体重を計っているらしい。


「児玉先生と保健室の先生が話してるのを聞いた子がいてね。なんか、4キロくらい痩せたらしいよ。」


と、聡美が言っていた。

ダイエット中なら、 “協力する” という名目で何かできる可能性もあるな、と、心の中で聡美に感謝した。

そのあとの、


「まあ、あの体型だと4キロは誤差の範囲内だよねー、あははは!」


には少し腹が立ったけど。


どちらにしても、この話のときの部員の様子だと、雪見さんは快く迎えられるだろう。

そしてたぶん、みんなに遠慮なく質問攻めにされるだろう。


「サトリ。今日のこと、雪見さんに確認してきた方がいいんじゃないかな?」


朝、被服室に集まったとき、副部長の植田菜穂(なお)ちゃんが言った。


「サトリ」というのはわたしのニックネーム。

小学生のとき、「佐藤」という苗字がクラスに二人いて、日直や掲示物に名前を書かれるとき、わたしは「さとう(り)」もう一人は「さとう(か)」と書かれていた。

クラスメイトたちはそれを縮めて、それぞれ「サトリ」、「サトカ」と呼ぶようになった。

その後も佐藤姓はときどき被るので、比較的分かりやすいニックネームとして定着している。


「あ、そうだね。連休で忘れちゃってるかもしれないもんね。」


朝からラッキーだ♪

雪見さんに会う口実が自然にやって来るなんて。


「菜穂ちゃん、一緒に来てくれる?」


菜穂ちゃんは、ボラ部の中で一番おとなしい女の子。

肩下まで伸ばしている髪を、夏になってからは2本の三つ編みにしている。


本当は雪見さんと1対1で話したいけれど、図書室には誰かがいるだろうから無駄だ。

それに、二人で行った方が正式な感じがする、というのも事実。

大事なことは、警戒されずに、雪見さんと親しくなるということなのだ。


図書室と被服室は中庭をはさんで反対側の校舎にある。

図書室は2階で被服室は1階。

被服室の廊下に出ると、向かい側に図書室の窓が見える。


「夏休みって、図書室に勉強しに来る人もいるのかな?」


菜穂ちゃんが図書室の窓を見上げてつぶやいた。

わたしも見上げてみるけれど、日差しを遮る白いカーテンがかかっていて中は見えない。


「いるんじゃないかな? 冷房が入ってるしね。最近、放課後も3年生が増えてたよ。」


2階に上がり、隣の棟の職員室の前を通って右に曲がる ――― と。

図書室の廊下にバラバラと生徒が立っている。ざっと10人くらい。


「もしかして、開くのを待ってるのかな……?」


何時からだっけ? と思いながら腕時計を見ると、9時。

その瞬間、ガラリと戸が開く音がして、雪見さんの声が。


「おはよう。お待たせしました。」


(ああ、この声……。)


ゆったりした優しい声が廊下に響いて、胸が熱くなる。

今日はこの声で絵本を読んでもらえるのだ。


廊下にたまっていた生徒がぞろぞろと図書室に入って行く。

その後ろについて行き、戸の内側で生徒を出迎えていた雪見さんの前で立ち止まった。


「雪見さん、おはようございます。」


「おはよう。まだ約束の時間には早いけど・・・?」


約束をちゃんと覚えていてくれたというだけのことが嬉しい。


「はい。念のため、雪見さんの都合を確認しようと思って。」


「ははは、僕が忘れてないか心配だったわけか。大丈夫だよ、練習もしてきたから。11時から被服室でいいんだよね?」


「はい。よろしくお願いします。」


(そのあとも、楽しみにしています。)


心の中で付け足して、顔は落ち着いてにっこり。


菜穂ちゃんと頭を下げて、二人で参考図書と絵本を探そうと誘って奥へ。

勉強熱心なところをアピールしなくちゃ。


好感度アップのためなら、多少の手間は惜しんでいられない!







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