8 運命、その後……
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次の日の放課後、雅は直樹の腕を取って、寄り添いあいながら、下校の途についた。
いつもとは違う下校ルートにしてみる。
直樹はこのあと下校中に死ぬはずだった。
「相沢、死の予感は――」
「まだ消えない。でも、大丈夫だから」
言うほど、自信があるわけではない。
学校を出てから、死の予感がする道を避けながら歩いているので、直樹の家は逆にどんどん遠ざかっていく。
いつしか二人は、まったく知らない大通りに出ていた。
通りの脇から、工事中のビルのカンカンと鉄を打つ音が聞こえる。
雅は疲れ果てていた。
死の到来は、いやがおうにも直樹の身に降りかかってくる。
死の予感は、消えない。
雅が死の予見を変えようと、どんな道を選んでも、死の影は付きまとってくる。
だが、この通りなら、車が突っ込んでくることはない。通り魔などの怪しい人影もない。
工事現場の頭上にある、クレーンは稼動していなく、鉄骨が降ってくる心配もない。
しばらくは大丈夫なはずだ。
――しばらくは。
「うん、この道なら大丈夫そう――」
雅が言いかけた時、不意に視界が真っ白に染まった。
轟音が耳の鼓膜を突きさき、衝撃が身体を躍らせた。
何が起こったのか、わからなかった。
衝撃から立ち直って、軽く頭を振りながら身を起こそうとすると、
「相沢、大丈夫か?」
と、心配そうに手を差し出す直樹の声が頭上から聞こえてきた。
「うん、あたしは大丈夫。何が起こったの――?」
「どうやら、ガス爆発らしい。怪我人は他にいるかな?」
直樹の落ち着いた声は、混乱した雅の頭をゆっくりと元に戻していった。
「相馬君、大丈夫だった?」
雅があわてて直樹の身体を確認する。
「ああ、それがな……」
直樹は口ごもった。
「どうやら、大丈夫でもないらしい」
「え――?」
雅が直樹の身体を確認すると、直樹の背中から、金属片がはえているのが見えた。
背の高い体が揺らぎ、直樹は吐血した。
「――相馬君……相馬君!」
雅は混乱の極地で直樹の名前を連呼した。
「救急車! 早く救急車を――! いやぁあああああ!!!」
直樹はがくりとひざをつき、そのまま前のめりに倒れた。
雅が慌てて抱え起こそうとすると、直樹は雅の手をしっかりと握って、
「このまま抱きしめていてくれないか? やけに寒いんだ。おかしいよ。痛くないんだ。寒い……抱きしめて……」
「うん、うん……大丈夫だよ! 私はここにいるからね! 相馬君、死なないで!」
泣きじゃくりながら、直樹の身体を抱きしめる。
「相沢……」
「しゃべらないで。すぐ救急車が来るわ――」
死のヴィジョンが明確になってくる。
直樹は、救急車の到着を待たずして、死ぬ。
それでも、雅は、
「大丈夫だから――」
と、繰り返した。
直樹は、そんな雅の頭を軽くなでつけながら、微笑んで見せた。
「相沢――ばあちゃんの、オルゴールの中だ。その中に――」
言葉は、そこまでで空中に霧散した。
直樹は、顔に微笑を浮かべたまま、雅の胸の中で絶命した。