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1 相沢雅

                


                 ―1―


 また、雨が降った。


 

今月に入って何度目の雨だろう? 季節も晩秋、冬の到来が間近に控えている11月にしては、雨の日が多すぎる。

 鈍色の重く立ち込めた雲から吐き出された銀色の糸が天と地を繋ぐ。

 相沢雅は、教室の窓から少し苛立たしげに憂鬱な雨を見ていた。


 ――いやな雨。早くやめばいいのに。


 心の中で毒づくと、雨足はいっそう激しいものとなった。

 ため息をついて、何とはなしに教室を見回す。


 ――まだ、いる。


 雅の視線は一人の男子生徒を確認していた。

 視線の先の男子生徒は、長身で細身、顔は怜悧さを感じさせるようにきりっと引き締まっており、クラスでも五本の指に入る、いわゆるイケてる男の子らしい。

 らしい、というのは、クラスメイトが「クラスでイケてる男は誰か?」と歓談しているのを小耳に挟んだからだ。ルックスはまあいいし、性格は明るいわけではないが、落ち着いていて、彼は周りには不思議と人が集まってきていた。また、どことなく飄々としていてそれが逆にポイントになっているとのことだった。

 名前は相馬直樹。

 2週間前に、この学校に転校してきてから、その名前は雅の頭に深く刻み込まれた。

 意識しないようにすればするほど、直樹の存在は雅の中で大きくなっていった。

 一言も言葉を交わしたことはないけれど。

 直樹のことは意識せざるをえない。


――相馬君は、私のことをどう思っているだろう?


 単純な問いかけをしてみる。

 転校してきてから、クラスメイトとなじもうとせず、むしろ周囲に近づきがたい雰囲気を放っている、無口で暗い奴。

 たいていのクラスメイトと同じように、評価はそんなものだろう。


――別にいいけどね。


 そう、それはどうでもいいことだった。彼の中で、自分がどう評価されていることか、など。むしろ、直樹の中に、自分という存在が残ることに、恐怖を覚えていた。

 もう傷つきたくないから。

 深く関わってしまったら、今度こそ、立ち直れないくらいの傷を負ってしまうことがわかっていたから。

もともと、雅は恋心で直樹に興味を持っているわけではない。

しかし、相馬直樹は雅の心の中に深く入り込んでいる。

 まったく接したことのない人間に?

 そう、一方通行的に、雅は直樹のことを思わずにいれなかった。

無関心でいられるわけがなかった。


――相馬直樹君、か。


まぁいい。

よくはないのだけれど、必死に自分にそう言い聞かせた。

どうせ、あと3日だ。





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