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裏六杯目 三人で

BUMP OF CHICKENメドレーを読んでない人はいまいち意味が解らないと思うので、お引き換えしください。

この話は読まなくても支障はありませんが、どうしても内容が気になる方は、BUMPメドレーをお読みになった後にお読みください。

図々しくて申し訳ありません。

陽が完全に沈んだ。

公園のライトがついて、下手したら昼間より明るく感じる。

だけど、勿論違う。

太陽とライトでは、決定的に何かが違う。

同じように僕等を照らしているが、太陽とライトじゃ、何かが違う。

まぁ、そんな事は当たり前なんだけども。

「いい加減・・・、帰るかな・・・」

もうそろそろ、いい時間だった。

朝からずっと握り締めていたコーヒー。

もう買った時の温もりは消えて、すっかり冷たくなっている。

僕はそれを一気に飲み干して、

「はぁ・・・」

白い息を吐き出した。

白い息が僕の前に現れて、スゥ、と消えていった。

何故か、その中に“アイツ”が浮かんだ気がして、僕は無意識に笑ってた。

ああ、そうだよ・・・。と、暗くなった空を見上げる。

アイツはコーヒーが好きなんだ。


本当は、気付いてるんだろうな・・・。


そう思う。

こんな一日の話を、きっと、笑って聞いてくれるんだろうな。

こんな僕の単純な重いなんて、お見通しなんだろうな。

結局。


格好つけて、強がって、そんな毎日を繰り返してきた。

それでもその実、全然駄目で、本当にまいるな・・・。


ふと、ライトの光を何かがさえぎって、僕に影が被った。

一瞬で暗くなった視界に、僕は驚いて影を見る。

僕を照らすライトは僕の後ろにあった。

だから、影は後ろに何かがあって成り立つ。

後ろに、誰かが立っていた。


「ショウちゃん」


僕はハッ、とした。

この声。

忘れるハズも無かった。

昔、まだ夢を持っていた頃、よく聞いていた、大切な思い出の中の声。

聞いた瞬間、自然と涙腺が緩んでいた。

「アイカ・・・」

振り返る。

そこには、遠いあの日に死んだはずの、前の彼女が笑顔で立っていた。



二つコーヒーを買って、一つをアイカに渡して、僕はアイカと隣り合ってベンチに座った。

死んだはずのアイカはあの日、最後に別れた日のままの姿で、僕の隣に居た。

だから、これが現実であるはずは無かった。

でも、僕は特に何も考えずに、アイカの隣に座っていた。

「久しぶりだね」

アイカが言った。

「久しぶり、だな・・・」

アイカが死んで、もう三年になる。

だからアイカと会わなくなって、四年が経ったということになる。

「元気?」

コーヒーから口を離して、アイカはこっちを見て言った。

「元気・・・、かな・・・」

どうだろう?

元気ではないかもしれなかった。

が、僕は答えを訂正することも無く、コーヒーを一口啜った。

「懐かしいね。この公園で、よくキャッチボールしたね」

アイカの目線を辿って、昔よくキャッチボールをした場所を見る。

「ああ、お前いつも全然届きもしない方向にボール投げるから、苦労したよ」

「でも、ちゃんと捕ってくれたでしょ?」

そうだな・・・。とは、口から出てこなかった。

違う。

本当に受け止めたかったのは、ボールなんかじゃなかった。

結局、本当に受け止めたかったものは、僕の手から零れ落ちてしまっている。

夢も、アイカも・・・。

「ゴメンね・・・」

突然、アイカが謝った。

僕は驚いて、アイカの方を見る。

「約束したのにね・・・。いつか又会おう、って・・・」

言うアイカの目に、涙が溜まっているのが見えた。

「約束、守れなくて、ゴメンね・・・」

顔を両手で覆うアイカの隣で、僕は彼女に何もすることが出来なかった。

ただ座って、心配そうにアイカを見ていた。

でも、

口は、勝手に動いてた。

「僕・・・、今彼女が居るんだ・・・」

「・・・・」

アイカは何も言わなかった。

僕は続ける。

「一緒に暮らしててさ・・・、結婚はしてないけど、でも多分いつかすると思う。彼女は働いてなくて、小さな部屋で僕の給料で暮らしてるんだ」

こんな事を言っても、逆にアイカを傷つけるだけかもしれなかった。

でも、口は止まらなかった。

「でも、僕、リストラしちゃってさ・・・。彼女に、それ、言えなくて・・・。今日ここで、ずっと座ってて・・・、ずっと、考えてて・・・」

ああ、駄目だ・・・。

どんどん目頭が熱くなっていく。

これ以上喋っちゃ駄目だ、と解っていたのに、何故だろう、やっぱり続けてしまう。

「昔の・・・、お前と一緒に居た頃のさ・・・、夢・・・、思い出してさ・・・。何で、忘れたんだろう・・・、って・・・。何で、ずっと思い出さないようにしてたのかな・・・、って・・・」

泣いた。

涙が出てきた。

それでも、僕は喋り続ける。

「多分、僕は・・・、お前が死んじゃった事を理由にして・・・、夢を諦めてたんだ・・・。無理だって・・・、アイツが死んだから、もう出来ない、って・・・、そうやって逃げてただけだったんだ・・・。謝るのは、僕の方なんだ・・・。僕は・・・、何で・・・」

うっ・・・うっ・・・、と嗚咽が混じってくる。

こうなると、もう呂律が回らない。

僕はしばらくそうして泣き続けて、

気付くと、アイカは僕の目の前に立っていた。

「ショウちゃん」

僕を呼ぶ声はとても優しく、アイカは、笑っていた。

僕は涙を流したまま、アイカを見上げた。

「知ってたよ・・・」

と、アイカは言った。

「バンド、私のために活動休止しててくれたんだよね?ショウちゃんは隠そうとしてたみたいだけど、私知ってたんだ・・・」

そうだった。

僕はアイカの病気を知ってから、バンドを一旦休止して、彼女に付き添うようになっていた。

「ショウちゃんは、優しいから・・・」

優しいから・・・、と、アイカは繰り返した。

「ちゃんと解ってたよ。だから、あんまり自分を責めないで」

と、アイカは言った。

「今、幸せでしょ?」と。

僕は何も言えずに、涙でくしゃくしゃになった顔で頷いた。

「しあわせ・・・、だよ・・・」と、小さく答える。

「それなら、大丈夫」

そう言うアイカの声が、徐々に小さくなっていった。

僕はアイカを見つめた。

アイカのからだは少しずつ薄くなっていき、闇に消えようとしていた。

「大丈夫だよ」と、アイカは言う。

「ショウちゃんなら、きっと夢を掴めるから」

だって、と、アイカは笑った。

頬に、涙が一筋伝う。


「だって、私が好きだった人だもん」


アイカの実体が、もう見えなくなっていく。

僕は最後、涙を飲み込んで、嗚咽をかみ殺して叫んだ。

「幸せだけど!お前の事は、絶対忘れないから!いつまでも!ずっと、ずっと忘れないから!!」

と。それから、

「必ず、いつの日か、また会おう!」

あの日の約束を。

いつか、又会おう。と。


また、会おうね  


そんな声が、聞こえた気がした。



僕はミュージシャンの道を進み始めた。

決して順調ではないけれど、何とか彼女と二人で暮らしていけている。

彼女はこの暮らしを受け入れてくれて、結婚も受け入れてくれた。

そして何と、妻は今子供をお腹に身篭ってくれている。

で、僕はその出産日に、今まさに遅れようとしていた。

簡単なTVの収録で遠くに行っている間に、子供が産まれそうだと連絡が入った。

当然収録をスッポかして、ダッシュで病院に向かった。何度か赤信号も無視したが、そんな事は気にしてられない。

廊下を走らないで!という看護士さんの忠告も無視して、分娩室に向かう。

と、


オギャー オギャー オギャー ・・・


頃合を見計らったかのように、中から声がした。

扉が開いて、看護士さんが赤ちゃんを抱いて出てくる。

「旦那さん、元気な女の子ですよ」

と、看護士さんが差し出されて、僕はひったくるようにその子を抱きしめた。

眺めて、はた、と、思い出したように妻の元へ小走りで寄る。

「ほら!可愛い!女の子だって!女の子ッ!」

「解ってるわよ・・・。落ち着いて・・・。ほら、赤ちゃんびっくりしてるでしょう・・・?」

妻に諭されて、「ああ、そうだな・・・」と息を整える。

「ああ、可愛いわね・・・」

妻に赤ちゃんを見せてやると、そう言って微かに涙を流した。

「可愛いな」

僕も頷く。

「ね、名前、なんにするの・・・?」

妻が聞いた。

だから僕は前々から決めていた名前を堂々と言った。

「ああ、愛に華って書いて、“愛華あいか”ってどうかな?」

と。

「うん、いい名前・・・」

妻は頷いた。

「よし、お前は今日から愛華だ」

僕は高々と愛華を掲げた。

高く高く、

掲げた。


これから僕は、何度も困難に悩まされるだろう。

だけど、大丈夫。

どんな時でも、隣に居てくれる人が居るから。

だから僕はこれからも三人で歩み続ける。

ずっと、ずっと。

読む人によって解釈が異なる結末だと思います。

が、ソレは人それぞれということで、その人の中でバッドエンドなのかハッピーエンドなのかを決定してください。

トモアレ、これで完璧に最後です。

楽しんで頂ければ幸いです。

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