六杯目 当然だろ? 〜最終話〜
陽が完全に沈んだ。
公園のライトがついて、下手したら昼間より明るく感じる。
だけど、勿論違う。
太陽とライトでは、決定的に何かが違う。
同じように僕等を照らしているが、太陽とライトじゃ、何かが違う。
まぁ、そんな事は当たり前なんだけども。
「いい加減・・・、帰るかな・・・」
もうそろそろ、いい時間だった。
朝からずっと握り締めていたコーヒー。
もう買った時の温もりは消えて、すっかり冷たくなっている。
僕はそれを一気に飲み干して、
「はぁ・・・」
白い息を吐き出した。
白い息が僕の前に現れて、スゥ、と消えていった。
何故か、その中に“アイツ”が浮かんだ気がして、僕は無意識に笑ってた。
ああ、そうだよ・・・。と、暗くなった空を見上げる。
アイツはコーヒーが好きなんだ。
本当は、気付いてるんだろうな・・・。
そう思う。
こんな一日の話を、きっと、笑って聞いてくれるんだろうな。
こんな僕の単純な重いなんて、お見通しなんだろうな。
結局。
格好つけて、強がって、そんな毎日を繰り返してきた。
それでもその実、全然駄目で、本当にまいるな・・・。
ふと、ライトの光を何かがさえぎって、僕に影が被った。
一瞬で暗くなった視界に、僕は驚いて影を見る。
僕を照らすライトは僕の後ろにあった。
だから、影は後ろに何かがあって成り立つ。
後ろに、誰かが立っていた。
「ショウちゃん」
声がする。
いつもの、いつも僕の隣に居てくれる、アイツの声。
「ああ、ナオミ・・・」
僕は安心して、後ろを振り返った。
ナオミが、笑顔で立っていた。
コーヒーを二つかって、一つを彼女に渡して、僕達はベンチに座った。
「ずっとここにいて、退屈じゃなかった?」
ふと、ナオミが言った。
僕は口に含んだコーヒーを噴射しそうになったのを堪えて、何とか飲み込む。
「ずっと見てたのか!?」
「え?あ・・・、えへへ・・・」
ナオミは照れるような、複雑な顔をしてコーヒーを一口。
それ以上、ナオミは何も聞いてこなかった。
何も、聞いてこなかった。
ここに居た理由も、何も。
いつもの顔でコーヒーを飲むナオミ。
こんな所に一日中いたら、僕が“どうなった”かなんて、見当がつきそうなもんなのに、ナオミは何も聞かず、ただ笑ってた。
ふと、目が合って、ナオミは一層笑顔になる。
僕もニッコリと、微笑んだ。
今度は上手く、笑えたと思う。
「いつものショウちゃんだね」
ナオミも、にっこりと笑った。
可愛い、綺麗な、真っ白な微笑み。
いつものナオミ。
いつもの顔でコーヒーを飲むお前と、
いつもの顔で、いつものように全然駄目な僕。
これからどうするか。
ずっと悩んでいた。
ベンチに座って、色んなものを見ながら、ずっと。
で、答えは出た。
でもその答えは、まだ言わないで置こう。
明日でいい。
そう思う。
いや、別に、逃げてる、とかじゃないんだ。
ただ、今はこのままでいい。
このまま、今はナオミと笑っていたい。
だから、このままでいい。
あのサラリーマンは、会社に間に合っただろうか?
あのボクサーは、今でも練習を続けているだろうか?
あの少年は、あの少女に思いのたけをぶつけただろうか?
何。大丈夫さ。
落ち込むこと、悩むことがあったら、ベンチに座ってゆっくりコーヒーを飲むといい。
大事な人を思って、考えればいい。
何か、大事な何かがきっと思い出せるから。
ほら、僕だって思い出したんだ。
こんな僕だって、ちゃんと見つけ出したんだ。
ん?明日からどうするかって?
夢に向かって進んでみるさ。
勿論、ナオミも一緒だ。
当然だろ?
最終話です。
が、本当は「こういうエンディングでも良いんじゃないか」、と思った最終話をもう一通り考えてあるのです。
なのでもう一話書こうと思っているのですが、それはBUMPメドレーを読んだ人じゃないと解らないと思うので、読みたい方だけ読んでいただければ幸いです。
実質的にはこの話が最後なので、何はトモアレ、楽しんで頂けていたのなら、幸いです。




